アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢から1つ選びなさい。
セルロースは( )と形が違う。
@デンプン Aアミラーゼ Bグルコース C酵素
(正答率:16.3%)
元ネタのYouTubeでは、コメンテーター一同が頭をひねりながら正解を選ぼうとしている姿が面白おかしく映し出されるが、一方でアレクサンドラ構文の発案者は「この(アミラーゼ構文の)文章は教科書から採っていて、(生徒に)分かりやすく伝えようとして書いてある。」として文章の正当性を主張している。しかし、この文章ははたして本当に分かりやすく書かれているだろうか。もちろん、前後の文脈無しで一文の是非を判断するのは正しい姿勢ではないが、機能的非識字を測る物差しとして発案者が採用している文である以上、この一文だけで良し悪しを判断するべきだろう。ただし、教科書の著者の言い分を前もって推し量るとすれば、文字数に制約があるなかで最低限伝えねばならないことを全部盛りこんだ文になっていて、読む側への配慮が行き届いていない事に気づいていないか、あるいはやむを得ないとあきらめたか、いずれかなのだろう。
とりあえず、英文の直訳調のような文章を1つ1つの単文に分けてみよう。特に「グルコースがつながってできたデンプン」や「同じグルコースからできていても、形が違うセルロース」という部分は英語の関係代名詞節を想起させるような連体修飾節になっているので、これらも1つの文章に分解する。要するに英文解釈と同じ手法で日本語の文も構造分析してみる。
アミラーゼという酵素はデンプンを分解する。こうしてみると、この文章が決して「分かりやすく書かれている」とはおよそ言えない事がはっきりしてくる。
デンプンはグルコースがつながってできている。
アミラーゼはセルロースは分解できない。
同じグルコースからできていても、セルロースは形が違う。
・何を言いたいのかが分かりにくい。という事が言える。この文章はそもそも何を言いたいのか。「アミラーゼはデンプンを分解するが、(アミラーゼは)セルロースは分解できない。」という事だろう。最初にそう書けばいいものを、余分な情報(デンプンの形状とセルロースの形状)を同じ文で与えようとするので、言いたい事(主張)が分かりにくくなっている。
・情報を与える順番が正しくないため、余分な情報が読み手の理解を妨げている。
アミラーゼという酵素はデンプンを分解する。
しかし、アミラーゼはセルロースは分解できない。
デンプンはグルコースがつながってできている。
同じグルコースからできていても、セルロースは形が違う。
さらに推敲する。前半の2文は対照の助詞「は」を使ってまとめる事ができる。
(a)アミラーゼという酵素はデンプンは分解するがセルロースは分解できない。対照の「は」は、比較対象である「デンプン」「セルロース」の両方に使うのが基本なので(a)のようになる。ただし、「デンプンは」「セルロースは」の「は」は格助詞「を」を兼務していて、見かけ上は消えてしまう。題目部の「アミラーゼという酵素は」に直接繋がる「デンプンは」は「デンプンを」を指すと分かるだろうが、後半の「セルロースは」の比較対象は「アミラーゼという酵素は」と「デンプンは」のいずれを指すのかがやや曖昧だ。それを避けるためには、(a')のように後半にも題目部の「アミラーゼは」を追加するとよい。
(a’)アミラーゼという酵素はデンプンは分解するが、アミラーゼはセルロースは分解できない。ただし、題目部を同じ文で繰り返すのはかなり冗長で違和感がある。それよりは(b)のように「〜を分解する事ができる/できない」という言い回しをうまく使えば、助詞「を」を残す事が可能になる。
(b)アミラーゼという酵素はデンプンを分解する事はできるが、セルロースを分解する事はできない。
あとは、アミラーゼの働きが違う事を説明をする後半をどう直すかだ。ここまで手を尽くして分析してみても、今ひとつ後半の説明がピンとこない。それは「デンプンはグルコースがつながってできている」と「セルロースは形が違う」との関連がよく分からないからだ。しかも「(セルロースはデンプンと)同じグルコースからできていて」と書かれているのだから、「グルコースがつながってできている」のはセルロースも同じなのではないだろうか。
おそらく、デンプンは「グルコースがつながってできている」という表現が、さきほど僕が書いた「余分な情報」なのだ。何故ならセルロースも「グルコースがつながってできている」からだ。そうとは書かないで、かわりに「同じグルコースからできていて」と書かれているので、説明が曖昧になってしまった。結局「アミラーゼが分解する/しない」の違いは「形が違う」だけなのだ。
アミラーゼという酵素はデンプンを分解できるが、セルロースを分解する事はできない。ここで推敲した文章をよく見てほしい。「AはBとは形が違う」のようにきちんと比較対象を書くべきなので手直しした。おのずと、冒頭の設問「セルロースは( )と形が違う。」の解答が分かってしまった。いや、ポイントはそこではない。そもそも原文に比較対象が書かれていない事が間違いなのだ。つまり、このアミラーゼ構文は「分かりやすく伝えようと書かれてはいない」という事が、設問を解くことでハッキリしたのだ。
デンプンもセルロースも同じグルコースからできているが、セルロースはデンプンとは形が違うからだ。



