
本来なら『災厄の町』の書評に書く事ではないかもしれないが、今回、旧訳(青田勝訳)と新訳(越前敏弥訳)の比較を試みた際に、いままでは出来なかった下調べを生成AIにやってもらったので、エラリー・クイーンに関するその他の疑問についても生成AIの力を借りて、けりを付けようと思う。結論から言うと、『災厄の町』をキッカケにしてクイーンの特徴であるロジックミステリを文学(a novel)に高めようとした事が、現状に繋がったようなのだ。
まずは、エラリー・クイーンが現在、本国アメリカでどの程度読まれているのかをCopilotに聞いてみた。Goodreadsというレビューサイトがあり、特定の本や著者をアメリカ中の読者がどう評価しているかを知るためのデータを提供してくれる。そのGoodreadsで、どの程度クイーンの読者がいるのかを調べた。比較対象としてアガサ・クリスティ、ジョン・ディクスン・カーのデータも使用して、読者数(評価点をつけた件数)、平均評価(5点満点)、分析結果をまとめたものが以下になる。
【3作家の「平均評価」比較】(Goodreadsデータ)
1位:アガサ・クリスティ
・平均評価:4.02(810万件以上の評価)
・代表作は 4.20〜4.27 など非常に高評価帯が多い。
2位:ジョン・ディクスン・カー
・平均評価:4.06(約7万件の評価)
・代表作は 3.79〜3.89 程度で安定して高い。
3位:エラリー・クイーン
・平均評価:3.69(約4万件の評価)
・代表作は 3.54〜3.88 程度で、クリスティ・カーより低め。
何故、この3人を比較するかと言うと、いわゆる「ミステリの黄金時代」に活躍した作家だからだ(加えて、僕の好みも選定の理由に入っている)。クリスティーが1920年デビュー。カーは1930年、クイーンは1929年の一年違いのデビューだ。一目瞭然だが、圧倒的にクリスティーの読者が多く、他の二人を大きく引き離している。しかも平均評価も高い。クイーンはクリスティーの20分の1程度の読者しか獲得できていないし、カーよりも読者数が少ないし、全体的な評価も低くなっている。日本でのクイーン人気と比べると、あまりに低すぎる。
なぜ、このような順位になるのか。Copilotの分析はこうだ。
クリスティ:世界的知名度・読みやすさ・プロットの強さで安定して高評価。
カー:密室トリックの評価が高く、熱心なファンが多い。
クイーン:初期は高評価だが、中期以降で評価が割れやすい。
それぞれに深掘りできそうな分析だが、僕なりに考えると、クリスティーはとにかく読みやすさが第一に挙げられるのではないだろうか。場所といい人といい、取りたてて特別な人は出てこない。一アマチュアからキャリアを始めたお嬢さんが知るかぎりの世間から、海外の名所めぐりなど、現代人にも時代を超えて通じるような舞台と人物と内面とを描きながらも、驚きの結末を用意している。
対してカーは舞台作りが重要で、尋常ならぬスポットを選んでは不可能犯罪に挑んでいる。特に密室トリックは生涯を賭けて取り組んだ最重要テーマだ。魔術や呪いといったダークファンタジーを「怖いもの見たさ」で読みたがる現代人のニーズにもうまくフィットしている。読者を選ぶ作品には違いないが、エンタメ性が際立っているという点ではクイーンよりも読みやすいのか。
そして、クイーン。アメリカでも日本同様、初期の国名シリーズなどを評価する読者は存在するようだ。ただし、「中期以降で評価が分かれる」という事は、おそらく国名シリーズのようにハッキリと演繹推理による解決をとことんまで突き詰める作品から、映画界に進出しようと恋愛要素や都会の洗練さと題材にした中期の作品、さらには文学的な昇華を図ろうとした後期の作品の評価が良くないということか。
そこで、いわゆるアメリカの一般読者にとっての各々の代表作Top10をリストアップしてみた。ここでいう「代表作」とは、評価数(評価点を記入した読者の数)が多いもののうちで平均評価が高い作品という意味だ。簡単に言えば、よく読まれていて、かつ評価が高い作品を指す。
【代表作Top10の比較】(Goodreadsデータ)
アガサ・クリスティ
And Then There Were None(そして誰もいなくなった) − 4.27 (138万件)
Murder on the Orient Express (オリエント急行の殺人)− 4.20 (63.2万件)
The Murder of Roger Ackroyd(アクロイド殺し) − 4.26 (28万件)
Death on the Nile(ナイルに死す) − 4.12 (38.3万件)
The A.B.C. Murders(ABC殺人事件) − 4.03 (19.2万件)
The Mysterious Affair at Styles(スタイルズ荘の怪事件) − 4.00 (20万件)
A Murder Is Announced(予告殺人)− 4.01 (8.2万件)
4:50 from Paddington (パディントン発4時50分)− 3.97 (7.3万件)
→ トップ10平均:約 4.09
ジョン・ディクスン・カー
He Who Whispers(囁く影) − 3.89 (1172件)
The Burning Court(火刑法廷 )− 3.86 (899件)
The Hollow Man(三つの棺) − 3.79 (4514件)
The Crooked Hinge(曲った蝶番) − 3.80 (1178件)
Till Death Do Us Part(死が二人をわかつまで) − 3.81 (1161件)
The Problem of the Green Capsule(緑のカプセルの謎) − 3.81 (1422件)
Hag’s Nook(魔女の隠れ家) − 3.64 (1593件)
The Mad Hatter Mystery(帽子収集狂事件) − 3.60 (1146件)
→ トップ10平均:約 3.80
エラリー・クイーン
The Adventures of Ellery Queen(エラリー・クイーンの冒険) − 3.88 (1016件)
Cat of Many Tails(九尾の猫) − 3.86 (1148件)
The French Powder Mystery(フランス白粉の秘密) − 3.79 (1772件)
Calamity Town(災厄の町)― 3.74 (748件)
The Greek Coffin Mystery(ギリシャ棺の秘密) − 3.67 (1943件)
The Chinese Orange Mystery(チャイナ蜜柑の秘密) − 3.64 (1817件)
The Dutch Shoe Mystery(オランダ靴の秘密) − 3.63 (1635件)
The Egyptian Cross Mystery(エジプト十字架の秘密) − 3.75 (1507件)
The Siamese Twin Mystery(シャム双子の秘密)− 3.64 (1505件)
The Roman Hat Mystery(ローマ帽子の秘密)― 3.54(3649件)
→ トップ10平均:約 3.70
クリスティーの代表作Top10に異論がある人は少ないだろう。読者それぞれに好みはあるとしても、映像化されている作品が上位に来ていて、どれも万人受けする内容だし、トリックといい驚きの結末といい、十分に満足させてくれる作品が多い。
変えてカーは多作ゆえにコアなファンにとっても代表作が割れる作家なので、この結果に納得できない人も多いだろう。ただ、Copilotの分析では「密室トリックの評価が高い」「コアなファンからの支持が強い」という、まさにカーらしさを評価する読者が現在も少なくないようだ。
クイーンのTop10(実は評価数が1000以上の作品に限定しているのでTop9だ)を見る限り、日本の読者とは違った傾向があることがわかる。
@第一短編集『エラリー・クイーンの冒険』の評価がかなり高い。
A『災厄の町』以降の1940代後半に書かれた『九尾の猫』の評価がかなり高い。
B初期の国名シリーズはいずれも安定して評価が高い。
Cドルリイ・レーン悲劇四部作が一つもランキングされていない。
この結果には、アメリカ独自の文化や民族としての気質が影響しているようだ。
@短編集の評価がかなり高い アメリカでは長編作家とは別に短編作家を評価する風土がある。O・ヘンリーなどはその代表だろう。『冒険』は初期の国名シリーズのような長編よりも“読みやすさ”と“完成度”が評価されたようだ。日本は逆の傾向があって、まず長編作家が評価され、次に短編作家の評価が準ずるという傾向がある。個人的には『冒険』『新冒険』の完成度は高いし、もっともっとこの完成度の短篇を書くべきだったんじゃないかと思っている(後の短編はショート・ショートのような軽いものが増えてくる)。
A『九尾の猫』の評価がかなり高い アメリカの研究者の間では1940年代後半の作品は、心理や社会を描く事を重視した作品と見なされ評価が高いそうだ。一方、一般読者にとっては「都会の不安」を描く社会派ミステリとして『九尾の猫』の評価が突出しているようだ。僕も久々に新訳版(越前敏弥訳)で読み直した際に、これってその後の連続殺人事件もの、サイコものという都会ならではミステリの嚆矢となる作品ではなかったかと思った。若い頃には初期作品に溺れていたので、そこまでの評価ができなかったのだ。
B初期の国名シリーズはいずれも評価が高い これはまったくその通りで、日本でも変わりはない。ただ、「(国名シリーズは)どれもこれも良い」という事は翻って「これが1番」というような代表作を見つけにくいという事でもある、と数十年前から言われ続けてきた。日本では『エジプト十字架』『ギリシャ棺』などが緻密なロジックで評価が高いが、アメリカでは『フランス白粉』が筆頭で『チャイナ蜜柑』『シャム双子』なども入っていて、日本とは傾向の違いがある。ちなみに『フランス白粉』は僕のお気に入りなので異論はない。
Cドルリイ・レーン四部作がランキングされていない これは、分類上バーナビー・ロスという仮名がアメリカではいまだ生きているからのようだ。ドルリイ・レーン悲劇四部作の著者は「バーナビー・ロス(仮名)とエラリー・クイーン」となっている。ところが、Goodreadsのエラリー・クイーンの著作リストには『レーン最後の事件』しか含まれていない。一方、『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』はすべてバーナビー・ロスの方にリストアップされていた。これは複数の著者の並びが関係しているようだ(『最後の事件』のみEllery Queen, Barnaby Rossの順で、残りの3作はBarnaby Rossが先になっている)。これが影響しているのか、『X』『Y』『Z』はエラリー・クイーンの著作としての認知度が低く、平均評価はかなり高いにもかかわらず評価数(読者数)が1000件未満で伸びない。これは現状のクイーンの評価に少なからず悪影響を与えているように思える。
その点、日本では覆面作家エラリー・クイーンが創り出したもう一人の覆面作家がバーナビー・ロスだと戦後には明かされて、最初からエラリー・クイーンの作品として紹介された。だから、アメリカとは違ってクイーンの代表作の上位に位置する作品となる事ができた。さらには、自らミステリ作家でありながら、海外ミステリの紹介にも尽力した乱歩や横溝がクイーンの作風や個々の作品を評価したことが、日本でクイーン作品がよく読まれる原動力となった。とりわけ『Y』の評価が海外ミステリのオールタイムベストとして君臨してきた時期が続いた。やがては新本格ミステリ作家に分類される次世代の作家たちに引き継がれていったせいで、アメリカでは「忘れられた作家」扱いなのに、日本では「いまだにロジックミステリの源流(お手本)となる作家」という位置を占めている。
ここまでの分析だと、アメリカでは初期の作品群ばかりが評価され、いわゆる中期・後期の心理・社会派ミステリ路線は『災厄の町』『九尾の猫』を除くと評価されていないように見える。だが、アメリカのクイーン研究家・批評家の間では、心理・社会派(1940年代後半〜)の評価が非常に高く、先に挙げた『災厄』『九尾』の他に『十日間の不思議』の評価が高い。
ここまではCopilotが提供するデータと分析に沿って考えてきたが、ここからはGoodreadsのデータを直接加工する事にした。どうやら、最新の数値をうまく抽出できていないので、条件を変える度に抽出できるはずの作品が抜けたり、ある作品の平均評価や評価数が変わったりするからだ。生成AIはここ数年で急速に精度が向上し、あからさまなハルシネーションは起きなくなったと実感しているが、精緻な数値分析を行う際には注意を要するのは変わらない。そこで、以下の2点に基づくランキングを作成する。
・平均評価(average rating)と評価数(ratings)の両方を考慮するために荷重平均を用いる。
・悲劇四部作をすべてエラリー・クイーンの著作リストに含める。
【荷重平均に基づくエラリー・クイーンの著作ランキング(Goodreads 2026/5/4調べ)】
順位 タイトル 平均評価 評価数 荷重平均
1 The Adventures of Ellery Queen(エラリークイーンの冒険) 3.88 1034 3.75
2 The Tragedy of Y(Yの悲劇) 4.01 494 3.75
3 Cat of Many Tails(九尾の猫) 3.85 1172 3.74
4 The French Powder Mystery(フランス白粉の秘密) 3.79 1806 3.73
5 The Tragedy of X(Xの悲劇) 3.87 680 3.72
6 The Egyptian Cross Mystery(エジプト十字架の秘密) 3.75 1537 3.70
7 The New Adventures of Ellery Queen(エラリークイーンの新冒険) 3.91 350 3.70
8 Inspector Queen's Own Case(クイーン警視自身の事件) 3.90 322 3.69
9 The Spanish Cape Mystery(スペイン岬の秘密) 3.75 988 3.69
10 Calendar of Crime: Stories(犯罪カレンダー) 3.89 299 3.68
11 The Dragon's Teeth(ドラゴンの歯) 3.80 523 3.68
12 Ten Days' Wonder(十日間の不思議) 3.77 609 3.68
13 Queens Full(クイーンのフルハウス) 3.88 272 3.68
14 Halfway House(中途の家) 3.77 555 3.67
15 Calamity Town(災厄の町) 3.74 775 3.67
16 The Finishing Stroke(最後の一撃) 3.76 576 3.67
17 Drury Lane's Last Case(レーン最後の事件) 3.86 253 3.67
18 Queen's Bureau of Investigation(クイーン検察局) 3.84 267 3.67
19 Q.E.D. Queen's Experiments in Detection(クイーン犯罪実験室) 3.84 206 3.66
20 A Study in Terror(恐怖の研究) 3.71 687 3.66
21 The Greek Coffin Mystery(ギリシャ棺の秘密) 3.67 1972 3.65
22 Double Double(ダブル・ダブル) 3.71 558 3.65
23 The Origin of Evil(悪の起源) 3.72 418 3.65
24 The Murderer is a Fox(フォックス家の殺人) 3.70 485 3.65
25 The Four of Hearts(ハートの4) 3.67 413 3.64
26 The Chinese Orange Mystery(チャイナ蜜柑の秘密) 3.64 1858 3.63
27 The Door Between(境界の扉―ニッポン樫鳥の秘密) 3.66 426 3.63
28 There Was an Old Woman(靴に棲む老婆) 3.64 457 3.63
29 The Tragedy of Z(Zの悲劇) 3.65 226 3.63
30 The Siamese Twin Mystery(シャム双子の秘密) 3.63 1526 3.63
31 The Glass Village(ガラスの日) 3.64 217 3.63
32 The Player on the Other Side(盤面の敵) 3.62 467 3.62
33 The Dutch Shoe Mystery(オランダ靴の秘密) 3.62 1684 3.62
34 The Fourth Side of the Triangle(三角形の第四辺) 3.60 373 3.62
35 Face to Face(顔) 3.58 382 3.61
36 And on the Eighth Day(第八の日) 3.58 472 3.61
37 A Fine and Private Place(心地よく秘密めいた場所) 3.55 316 3.60
38 The House of Brass(真鍮の家) 3.55 371 3.60
39 The King is Dead(帝王死す) 3.56 642 3.60
40 The Devil to Pay(悪魔の報酬) 3.53 389 3.60
41 The Scarlet Letters(緋文字) 3.51 347 3.59
42 The Last Woman in His Life(最後の女) 3.45 347 3.58
43 Cop Out(孤独の島) 3.26 145 3.57
44 Roman Hat Mystery(ローマ帽子の秘密) 3.53 3737 3.55
45 American Gun Mystery(アメリカ銃の秘密) 3.40 646 3.53
このランキングで、改めてアメリカの一般読者が評価するクイーン作品の傾向を見ていこう。
(A)短編集の評価が高い 短編集は1位『冒険』、7位『新冒険』、10位『カレンダー』、18位『検察局』、19位『実験室』の5作品が入っていて、いずれも評価が高い。特に『冒険』は1000件以上の読者がいるため、ランキングの堂々1位になっている。
(B)ドルリイ・レーン悲劇四部作の評価は高いが、読者数が少ない。 バーナビー・ロス(仮名)と紐づいている四部作は、見かけ上はクイーン作品として評価されていない。日本では国名シリーズと同等あるいはそれ以上に評価されているにもかかわらず、本国アメリカではいずれも読者数は1000未満だ。今回のランキングでは悲劇四部作をクイーン作品の中で評価した。すると、結局は悲劇四部作の評価は高く、2位『Yの悲劇』、5位『Xの悲劇』、17位『最後の事件』、29位『Zの悲劇』というランキングになった。『Z』よりも『最後の事件』が上位に位置するというのは、やはりシェークスピアが題材だからだろうか。
これらは最初からエラリー・クイーンの著作として広く認知されていれば、もっと上位に上がる可能性も考えられ、長編小説では『Y』、『X』が1位、2位ということになっていたかもしれない。しかし現状ではバーナビー・ロスの著作と見なされていて、作家エラリー・クイーンの評価に繋がらないのは大変に残念な事だ。
(C)ライツヴィル期(1942年〜1958年)の作品では、『九尾の猫』がきわめて評価が高い。ついで読者数は少ないが『十日間の不思議』『災厄の町』の評価がかなり高い ライツヴィルものは、12位『十日間』、15位『災厄の日』、16位『最後の一撃』、22位『ダブル・ダブル』、24位『フォックス家の殺人』、39位『帝王死す』という順になる。読者数がいずれも少ないのは一般読者にはA Novel(文学)的趣向が受け入れにくいからだろうが、エラリー・クイーンの研究者や批評家には、特に『十日間』『災厄の日』は心理や社会を描いたNovelとして評価が高い。
ライツヴィルものではない作品は、3位『九尾の猫』、8位『クイーン警視自身の事件』、28位『靴に棲む老婆』、41位『緋文字』がある。前述したように『九尾の猫』は、一般読者受けするような題材(都会の不安、連続殺人、サイコ)をあつかっているのが高評価の理由だろうが、『クイーン警視自身』の方は何故に8位なのかは、かなり気になるところだ。
(D)国名シリーズは読者数が1000件を超える作品が多いが、評価にはバラツキがある これまでは読者数が多い事だけで代表作と見なしてきたが、荷重平均値を用いると国名シリーズの中でも評価が高いもの、低いもののバラツキが意外と大きい事がわかった。4位『フランス白粉』、6位『エジプト十字架』、9位『スペイン岬』、21位『ギリシャ棺』、26位『チャイナ』、30位『シャム双子』、33位『オランダ靴』、44位『ローマ帽子』、45位『アメリカ銃』と続く。日本では『エジプト十字架』『ギリシャ棺』の評価が高いが、アメリカでは『フランス白粉』が2作を抜きん出ていて、『スペイン岬』も『ギリシャ棺』よりも断然評価が高いのは驚きだ。
逆に『ローマ帽子』『アメリカ銃』が極端に低評価だ。『ローマ帽子』は評価数(読者数)が3000件超なだけに平均評価の悪さが際立っている。クイーンのデビュー作であり、国名シリーズの第一作なので「試しに読んでみよう」という物見高い読者が、真っ先に第一作を選んでもおかしくはない。ただし、第二作『オランダ靴』の読者数が1635件に半減しており、国名シリーズのほとんどが2000件未満である事から、第一作で見切りをつけた読者が結構いたという事だろうか。僕の個人的な意見では、『ローマ帽子』はエラリーの緻密な推理が際立つというよりは、エラリーと父クイーン警視とが連携して事件を解決したという体裁になっている。ひょっとすると、著者の一人フレデリック・ダネイが敬愛するシャーロック・ホームズとワトソンのコンビにならって、父子で事件を解決するミステリにこだわったのかもしれない。だが、エラリー自身が解決を父に委ねるようなラストは、いまだにモヤモヤする作品だ。
以上、荷重平均に基づくランキングからは、『災厄の町』(1942年)という作品はクイーンの聖典45作中15位という上位を占め、その後は「成長した探偵エラリー」が悩みながらも自らの本分(演繹的推理による真実究明)を全うしていくという、非常に痛々しい作風へとチェンジしていくきっかけとなった作品として、今も評価されていることがわかった。また、現在の一般読者には、国名シリーズや悲劇四部作のような作風は今なお評価されている一方、中期・後期の作風は受け入れにくいという事が、評価数(読者数)や荷重平均値から分かった。
最後に、話をCopilotの分析に戻す。
アメリカの一般読者(Goodreadsに基づく)の評価傾向は、「読者層の違い」「レビュー文化の特徴」という2点によって説明できるとCopilotは言っている。
【アメリカの一般読者のレビュー文化の特徴】
・率直な批評文化(良い点も悪い点もはっきり書く)
・レビュー本文を重視(星だけで判断しない)
・ネガティブレビューを積極的に読む(82%が悪いレビューを探す)
・レビュー数の多さ・新しさを重視(97%が最近のレビューを考慮)
これは日本の一般読者にも当てはまるような気がしないでもないが、積極的に良いレビューを読み、ネガティブレビューは読みたがらないというのも日本の読者の傾向かもしれない。
ではエラリー・クイーンの作品は、どうレビューされているか。
【エラリー・クイーンのレビュー傾向】
評価が低めになる理由:
・初期は高評価だが、中期以降は “読者を選ぶ” 作風に変化
・アメリカ読者は「テンポの遅さ」「心理描写の重さ」に厳しい
・後期作品で評価が割れ、星3〜3.7帯が多い
・レビュー文化が率直なため、難解さ・冗長さへの批判が目立つ
こういった理由で結果的にクリスティーやカーと比べて読者数や平均評価が低いようだ。
これをさらに具体的な事例(ネガティブレビューの傾向)で見ていく。
【エラリー・クイーンのネガティブレビューの傾向】
主な批判点
・「テンポが遅い」「冗長」「説明が多すぎる」
・「エラリーが嫌味」「上から目線」
・「後期の作風が変わりすぎてついていけない」
・「トリックが不自然」「動機が弱い」
・「心理描写が重い」
特徴
・初期は高評価だが、中期以降で評価が割れ、
・星2〜3のレビューが目立つ
・“読者を選ぶ作家” として扱われる
実は「テンポが遅い」という批判は国名シリーズの頃からあったように思う。『ローマ帽子』などは冒頭で殺人が1件起きたきり、その後は誰一人として死なない。クイーンの作風である”論理的な謎解き”に到達するための証拠をひとつ、またひとつと集めていく事がエラリーの役割だが、クリスティーが新たな謎や意外な事実を次々に提示し、カーが不可思議な事実、怪奇な物語を紡いでいくのに比べると、「テンポが遅い」のみならず「冗長」や「説明が多い」という批判を招くことになる。そこに『災厄の町』以後の心理的・社会的な作風が加わるので、特に後期の作風を「重い」「ついていけない」と感じる読者が増えたのだろう。
ここに年代別の評価の違いを加味していく。
【アメリカのZ世代(〜25歳)の読書傾向】
傾向
・テンポ重視
・キャラクター重視
・SNS(BookTok)で人気作が再評価される
・古典への敬意はあるが、冗長さに厳しい
3作家の評価
・クリスティ:高評価(読みやすい・短い・映像化で馴染みあり)
・カー:中間(密室は好きだが文章が重いと感じる)
・クイーン:低評価(テンポの遅さ・説明の多さが合わない)
【アメリカのミレニアル世代(25〜40歳)の読書傾向】
傾向
・プロットの完成度を重視
・古典ミステリへの理解が深い
・長文にも耐性がある
3作家の評価
・クリスティ:安定して高評価
・カー:高評価(トリックの独創性を評価)
・クイーン:評価が分かれる(初期は高評価、後期は低め)
これらも日米の垣根を越えて共通するところがありそうだ。昨今の越前敏弥さんによる新訳プロジェクトでは、国名シリーズに「生意気な青年エラリー」というキャラクターの輪郭をハッキリさせた翻訳を用意して日本のZ世代にアピールした。『災厄の町』以降のライツヴィル期の作品には重厚な文体を用意して、日本のミレニアル世代からシニア世代までを満足させようとしたのではないだろうか。
そんな事を考えながら、次なるライツヴィルものを読んで、新たなライツヴィルと新たなエラリーに邂逅したいと思う。今年(2026年)出版されるという残りのライツヴィルものも視野に入れながら。(了)