14.1.2 It is, and has been for a long time, the most prized national possessions, the sense of humor.共通関係をどう日本語で表現するかが、この章の僕にとっての課題なのだけれど、この訳文を推敲するにあたっての最大の課題は、Itと末尾のthe sense of humorが同格だという点だ。日本語で同格を「どう書く」か。ダジャレだけど、まさにそこが肝だと思う。伊藤先生は同格の事をあらかじめ指摘しながら、Itを無視して「ユーモアの感覚は」と書きだしているが、正しくはない。正しくは無いけれど、この英文だけの構造を捉まえて意味が分かればとりあえず十分という受験生に向けての「訳」としては間違いではない。
(訳)ユーモアの感覚は、わが国民が持っているものの中で、現在もこれまでの長い時間にも最も尊重されているものである。
Itはもちろん直前までに語られた内容を受けて、「これは」と書き出すところだ。そこで、後ではthe sense of humorだと言い換えられもするItの内容を踏まえるために、いろいろと調べて考えてみた。Wikipedia(eng)で検索するとHumorにリダイレクトされ、そこの中身を読んでもなかなかピンとこないし、ネットに直にググってみても当の「我が国民」と思しきイギリス人がどれほどユーモアを解する人々かという事よりも、変わったユーモア精神の持ち主だというような意見の方が多く見つかってしまう。なかなかthe most prized national possessionsと思えるようなエピソードが見つからないのだ。
それでもニッポニカの「ユーモア」の解説が使えそうな気がした。途中から引用する。
(ニッポニカ)いやあ、これで三分の一ぐらいの引用なのだが、なかなか難しい事を言っている。ここからちょっと何事か言った振りをしてみよう。
ユーモア
…ユーモアは近代イギリスに特徴的な精神性に対応した特質と考えられている。
ユーモアはその対象となる人間等に対する同情、哀れみを含んだ情的寛容的性格を有し、この点で風刺の攻撃性とは対照的であり、またウイットやエスプリのようなもっぱら理知的性格の能力である機知とも異なっている。ユーモアの場合でも、矛盾と不条理に満ちた現実を、鋭い人間観察の目を通して見つめていないのではない。しかしそのことを表に出さず、むしろ不完全な人間に宿命的なものとしてそのまま肯定するような態度で、愚かしきふるまいを本意ならずも演じざるをえない人間の姿を慈しむ心をもったものであり、そこに独特の滑稽さが生まれる。…
(想定する直前の文) 我が愛するイギリス人は、どこぞの国のように愚かな人間を皮肉ったりあざ笑ったりしない。フランス人のように人間観察によって現実の矛盾と不条理に帰着すると言うこともしない。どちらかと言えば人間とは愚かで不完全な存在である事を認め、愚かな姿を肯定し慈しむ事を良しとしてきた。ここで冒頭の英文が来る事を考える。
肝心の共通関係について何事も触れていなかったので、蛇足ながら書いておく。この英文ではS (V+V) Cという形式で二つの時制が違う動詞(動詞自体は同じ)の共通関係となっている。英語の時制の違いは日本語のムードやアスペクトで味付けする事になる。だから訳文のように「現在もこれまでの長い時間にも…尊重されている」という括り方は本来正しくないし違和感が残る。ここはS+V1, (S+)V2のように展開すべきだろう。
(推敲訳)これこそが、今も我がイギリス人が他のなによりも重んじる国民性であり、長きにわたって育んできたものだ。一言で言えばユーモアのセンスである。



