「Chapter14. 共通関係 @文の主要素の共通関係」より。
14.1.9 Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation, and guided her people step by step to prosperity and power.
(訳) エリザベス女王は、国民のためになるいくつかの改革を導入し、国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた。
この訳文についてもいろいろと言いたい事がある。まずは英文解釈としての課題を確認しよう。andで示されている共通関係はどれとどれか。以下に示した2通りの解釈がありうる。
(A)Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation,
└─ guided her people step by step to prosperity and power.
(B)Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation,
└ guided her people step by step to prosperity and power.
(A)は主語Queen Elizabethに対して2つの動詞が共通関係にあるS (V+O)(V+O)の形。(B)はintoroducedの目的語several reformsに対する2つの関係代名詞節が共通関係にあるS+V+O(M+M)の形。伊藤先生は「形からは決められない」として、文の内容から(A)を選択している。でも、本当に形からは決められないのだろうか。例文14.1.9には一箇所だけカンマが打たれている。このカンマの持つ意味を深く追求すれば、この文の解釈は「形から決められる」のではないだろうか。
これについては、そうとも言えるし、やはりそうでないとも言える。「そうとも言える」というのは、やはりカンマには重要な意味があるからだ。以前、Practical English Usage, 3rd edition (by Michael Swan)の句読法(punctuation)の章でカンマ、コロン、セミコロンについて詳しく調べた。そこに書かれていたカンマの用法を抜き出してみよう。
1. 等位節 andやbut、orでつないだ節どうしは大抵の場合はカンマで区切る。ただし節がきわめて短い場合は、この限りではない。以下の2つを比較するように。
― Jane decided to try the home-made steak pie, and Andrew ordered Dover sole with boiled potatoes.
Jane had pie and Andrew had fish.
― She had very little to live on, but she would never have dreamed of taking what was not hers.
She was poor but she was honest.
これを見る限り、等位接続詞andやorで等位節が共通関係にある事を示すためにはandの前にカンマを打つ。つまりさきほどの解釈(A)に該当するのではないか。そう考えるのはまだ早い。実はthatで始まる節が共通関係にある解釈(B)の場合にも等位関係が成立するので、そちらにカンマが役立っている可能性もあるのだ。そこでsevaral reformsを後置修飾する関係代名詞節O+(M+M)の部分をS+(V+O)(V+O)の文表現に変換してみる。
(b1)Several reforms were helpful to the nation, and guided her people step by step to prosperity and power.
(b2)Several reforms were helpful to the nation and guided her people step by step to prosperity and power.
カンマの有無で(b1)(b2)の二通りの文を用意したのは、さきほどのPractical English Usageのルールに対応している。通常、等位接続詞andで2つの節をつなぐ場合にはカンマで区切るが、節が短い場合はカンマを挿入しなくてもいい。この感覚はおそらく日本語の読点にも共通している。一つの節が長くなってまとまりが分かりにくくなった場合には適当(適切)な位置に読点を挿入する必要がでてくる。ただ、このように共通関係(並列関係)の場合に区切るなどというような論理的な読点の使い方を指南する本は極めて少ない。英語は句読法をきっちり教わると聞いたことがあるのだが、「文の長さがどれくらいより長ければカンマで区切る」という厳密なルールはさすがに作れないだろう。
もし前半部分の…were helpful to the nationが長いと思うならば(b1)のようなカンマが必要になる。その場合、例文のカンマが解釈(A)に基づくものか、解釈(B)によるものかの区別が付かなくなる。一方、前半部分は短いので(b2)のようにカンマは不要だと思えるのであれば、例文のカンマは解釈(A)に基づいて挿入されているという事になる。僕の拙い英語の語感から言っても前半部分が長いとは思えないので、(b2)になるだろうなと思う。だから、元の例文も解釈(A)の共通関係の構文とみなせる。ただ、高校生レベルだとpunctuationの詳細は習わないし、長い短いの判断を生徒の求めるのは難しいと考えて、伊藤先生が一足飛びに「形からは決められない」と言い切ってしまうのはやむを得ない。ただ、この例文で使われているカンマは、自ずから一つの解釈を主張している事は確かだ。
一方で「形からは決められない」別の例として、14.1.9に続いて次のような[参考]の例文を挙げている。
[参考] He was left to the care of his grandmather, who was very kind and sent him to school.
(訳) あとに残された彼は、祖母の世話を受けることとなった。祖母は非常にやさしく、彼を学校へやってくれた。
こちらは関係代名詞節が非制限用法になっている。こちらも可能性を考えるのであればHe was left…and sentとwho was kind and sentのいずれかになる。ただ「形から決められない」というよりも「内容からの方が決めやすい」という例だろう。主語のHeをandの後方のsentにつなげてしまうと明らかに意味が通らなくなるからだ。
ただ、この参考の例文も、形から考えれば一つの解釈に行き着く。それは内容から考えた場合とたまたま一致するだけで、カンマの重要性は損なわれてはいない。例えば以下のような文を比較してみよう。
(c1)He was left to the care of his grandmather, who was very kind and sent him to school.
(c2)He was left to the care of his grandmather, who was very kind, and sent him to school.
(c1)は参考の例文そのままで、(c2)はandの前にカンマを加えた文になっている。ここまでの検討で分かるように、一般的にカンマは等位接続詞andやor,butなどよりも区切りとしての優先度は高い。そこの前後で文や節が意味的に切断されるように感じられる。しかし再びカンマが挿入されると、最初のカンマの影響をキャンセルする効果が生まれる。(c2)の場合だと非制限用法の関係代名詞節はwho was very kindで終わるので、それ以降は本流であるHeを主語とした構文に戻るように感じられる。当然ながら(c2)だと解釈すると内容との齟齬が生じるので「あれ?2番目のカンマはタイポかな」と考えて、内容で考える事になるだろうけれど。
そこでもう一度14.1.9の例文に戻る。カンマの効果を考える上で、以下の4つの例文の内容(意味)を「形から」だけで考えてみよう。
(1)Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation, and guided her people step by step to prosperity and power.
(2)Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation and guided her people step by step to prosperity and power.
(3)Queen Elizabeth introduced several reforms, that were helpful to the nation and guided her people step by step to prosperity and power.
(4)Queen Elizabeth introduced several reforms, that were helpful to the nation, and guided her people step by step to prosperity and power.
(1)は14.1.9のままで、さきほど見てきたようにカンマが解釈(A)を支持しているように見える。
(1の訳) エリザベス女王は、国民のためになるいくつかの改革を導入し、国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた。
(2)はカンマが一切使われていないので、解釈(A)になるのか解釈(B)になるのかは形では決められない。ただ、本来はこの程度の長さならばintroducedとguidedの共通関係を際立たせるためにandの前にカンマを挿入しても不思議ではないのに実際にはカンマがない事から、解釈(B)なのではないかと考える。
(2の訳)エリザベス女王は、国民のためになり彼らを一歩一歩繁栄と強国へと導いたいくつかの改革を導入した。
(3)は14.1.9の例文の関係代名詞節を非制限用法にしたものである。カンマ以後は非制限用法の関係代名詞節どうしの共通関係と見なせる。
(3の訳)エリザベス女王はいくつかの改革を導入した。それらは国民のためにと考えて行ったものであり、実際に国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた。
(4)は(3)と同じように関係代名詞節の非制限用法であるが、andの直前のカンマが非制限用法のための最初のカンマをキャンセルする効果が発生する。
(4の訳)エリザベス女王はいくつかの改革を導入したが、それらは国民のためにと考えて行ったものだった。そうして女王は国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた。
面白い事に、と言ってしまったらなんだが、どれも五十歩百歩の違いしかない。「女王が国民を導いた」と考えるのか、「女王が導入した改革が国民を導いた」と考えるのかはレトリックの違いであって、文意に大差はない。また(1)と(2)の違いは何かというと、歴史的な事実を俯瞰して見るレベルが違うだけで、「女王が改革を導入して、結果的に国民を繁栄と強国へと導いた」とみるのか、「結果的には国民を繁栄と強国へと導くことになった改革を、女王が(この時点で)導入した」というニュアンスの違いで、矢張り文意に違いはない。そして、このニュアンスの違いはこの文の直前までの文脈から明らかになるものなので、結局は、この文に関する限り、形で考えようと内容で考えようと、受け手である僕ら次第という事になる。
ちなみに、伊藤先生が「形からは決められない」と言い切った理由の一つには、必ずしも適切な位置にカンマが打たれているとは限らないという現実的な側面も含まれていると思う。これは他人が書いた日本語を読んでいると度々出くわす事なので、よくわかるだろう。「こいつ、こんな事書いてるけど、誤解される書き方してるなぁ。ここに読点をひとつ打っておけば誤解されずに済むのに」なんて事は日常茶飯事だ。いや、自分の文章も、読み返すたびに読点の打ちどころを探したり、あるいは取ってみたりと、考え直している事がしょっちゅうある。英語でもきっとそれが日常的に起きているはずだ。だから「形から考えずに内容で考えろ」と言いたくなるところだが、やはり基本は「形から考える」べきで、そのうえで「内容でも考えていく」しかない。
と言うわけで、言いたい事はほぼ言い尽くしたので、例文の推敲に取りかかろう。
14.1.9 Queen Elizabeth introduced several reforms that were helpful to the nation, and guided her people step by step to prosperity and power.
(訳) エリザベス女王は、国民のためになるいくつかの改革を導入し、国民を一歩一歩繁栄と強国へと導いた。
つい最近テレビで耳にしたが「国は人なり」と言ったのは武田信玄だそうだ。nationというと普通は「国、国家」が出てくるが、筆頭の語義は「国民」だ。君主というものはどこも同じような事を考えるようだ。エリザベス女王とはエリザベス一世の事だろう。西洋史に詳しくはないが、かつてアッテンボロー監督の「エリザベス」を見たときの印象が強いので、「国民のため」なのか「国家のため」なのか、あるいは「自らの権威のため」なのかと考えてしまう。特に、前半はともかくとして、後半の「国民を繁栄と強国へと導いた」というところがしっくりとこない。
マイペディアの「エリザベス1世」の項には「国際紛争にまきこまれることを極力避け」とか「1588年スペインの無敵艦隊の襲撃を退けて国威を高めた」と書かれている。また「内政面では、中産階級を積極的に登用し、困難な社会情勢に多くの立法をもって対処し、〈楽しきイングランド〉と謳歌された」とあるように、体制が安定していた時期は「国民本位」という姿勢があったようだ。ニッポニカには「内政面でも、エリザベス的施策が種々試みられ、1560年グレシャムの提案により銀貨の改鋳を命じ、1563年には『囲い込み取締法』『職人法』『救貧法』を制定、急激な変革を抑えて経済、社会の安定を目指した」とも書かれている。
名君でありつづけたかは怪しいが、この例文に関しては、まさにこれらの辞典に取り上げられている改革を取り入れた時期の事が書かれているようだ。ただし、「国民のため」というお題目で「繁栄」を目指し、「強国」となることで平和を担保したと言い切れるのか。おそらく国民本位の改革と、強国を目指した事とは別だと考えた方がいい。それが分かるような表現に変える。
(推敲訳)女王エリザベス一世は、国民のためを思っていくつかの改革を取り入れた。と同時に、国家が繁栄し強国へと至る道へと国民を導いた。