2003年 玉木宏
2004年 玉木宏
2005年 佐藤隆太
2006年 蒼井優
2007年 蒼井優
2008年 蒼井優
2009年 岡田将生×山下リオ
2010年 多部未華子
2011年 武井咲
2012年 剛力彩芽
2013年 AKB48
2014年 佐藤健
2015年 山下健二郎(三代目 J Soul Brothers from EXILE)
2016年 中条あやみ×田辺誠一
(2017年以降はメインとなるタレント起用は終了)
2001年公開の矢口史靖監督「ウォーターボーイズ」で妻夫木聡とともにブレイクした玉木宏が2003年、2004年のメインキャラクターを務めた。翌2005年が佐藤隆太。どちらも夏の海が似合う元気な男子のイメージがある。でも2006年からは蒼井優が起用されて、一転してひと夏を高原や海辺の町で読書して過ごす女の子をイメージした「ナツイチ」に変わっていく。その後も岡田将生、佐藤健、山下健二郎などの男子勢を律儀にはさむけれども、読書好きの女の子にアピールした「夏の文庫フェア」でありつづけた。ただし、2017年に集英社文庫が40周年を迎えたのを機に「よまにゃ」という猫のキャラクターが採用され、今に至っている。
もう一つの特徴は、読者の声を小冊子に盛り込んできた事だ。すでに2003年の「ナツイチ」でも小冊子の掉尾に「この気持ち、伝えたいッ」というページが用意されていた。ラインナップに入った本12冊への読者の感想が掲載されている。読者の年代は15歳〜82歳まで幅広いが、男女比は10:2だ。この当時から圧倒的に女性の読者が多いフェアだったという事だろうか。翌2004年も同じタイトルの読者の感想ページがあるが、やはり男女比9:3の格差。2005年は「ナツイチ応援団!」というタイトルに変わる。男女比7:4。ようやくここまで格差が縮まってきた。だが、蒼井優がメインキャラクターを務める2006年にナツイチの小冊子はデザインをガラッと変えた。本の解説ページに「次はコレ!」というナビゲーションシステムが導入されて次に読む本をオススメしたり、本の内容を☆の数で表現したりと、かなり独自な構成になった。そのあおりを受けたのか、読者の声が割愛されてしまった。この構成は3年続いたが、2009年に☆の数による内容案内をやめて、読者の声を再び盛り込む事にした。しかもすべての本の解説ページに2,3人の感想をコンパクトにまとめて載せるようになった。編集部のお仕着せのチャートではなく、読者の声の方が新たな読者には届きやすいと気づいたからかもしれない。そして2021年の小冊子にも、この趣向はVOICEとして残っている。
[表紙]
18年も経つとこうも変わるかというくらい、表紙のコンセプトが変わってしまった。2003年の表紙は売り出し中の新人・玉木宏を前面に押し立てた。グラビア誌か写真集かと言っていいくらいの趣だ。一方、2021年の表紙は、よまにゃと飼い主との2ショット。表は女性とよまにゃ、裏は男性とよまにゃが一緒に本を読んでいる。カワイイを意図したとも言い切れない不思議なタッチのイラストだ。さきほど飼い主と書いたが、男女は飼い主でもないのかもしれない。一見、平板な表情の猫・男・女という取り合わせは、「今」という時代を切り取った多様性のある社会でのつながりを暗に示唆しているかもしれない。
[小冊子の構成]
キーワードはタレント、作家、そしてメディアミックスだ。2003年、2004年は玉木宏、2005年は佐藤隆太へのスペシャルインタビュー企画があり、佐藤亮太の場合は自らが中学二年の時に書いた読書感想文まで掲載されている。タレントに依存した企画はこれが最後で、2006年以降はイメージキャラクターとしてのみの採用になっていく。
また、2003年時点では作家のスペシャルエッセイが目玉企画だった。2003年は浅田次郎、村山由佳、唯川恵の3人、2004年は石田衣良、2005年は江國香織、のエッセイが掲載されたが、2006年には「作家さん教えてQ&A」というアンケート形式の企画に変わった。作家のエッセイは役割を終えて、2021年に至るまで一切ない。「作家さん教えて」は2006年、2007年、2009年、2011年のみの掲載(2009年は「はじめての集英社文庫」というタイトル)。作家に頼った企画も流行らなくなったのは、若い世代に本離れが進んだからだろうか。作家よりも作品。ネームバリューではなく、作品として面白ければ読む、つまらなければ有名作家の作品であっても読まない。作家個人への関心は昔ほどではなくなったのかもしれない。
最後がメディアミックスだ。今ではパイオニアの角川文庫を後から追う立場になった集英社文庫だが、2003年には影も形もない。唯一、伊集院静「機関車先生」の解説で、最後の一文が「映画化決定の話題作」となっているけれど、これはメディアミックスとは言えないだろう。2021年になると、今まさに公開中の映画「マスカレード・ナイト」の宣伝に合わせて、東野圭吾の原作シリーズ「マスカレード・ホテル」「マスカレード・イブ」「マスカレード・ナイト」が冒頭で紹介されている。次いで、宇山佳祐「桜のような僕の恋人」はNETFLIX配信予定、池井戸潤「アキラとあきら」は映画化決定、原田マハ「旅屋おかえり」はTVドラマ化決定に合わせて、それぞれ原作本が紹介されている。
[スペシャルカバー]
(2003年)0冊
(2021年)3冊
"よまにゃ"を描いたイラストレーターNoritake 限定カバー
太陽のパスタ、豆のスープ 宮下夏都
清兵衛と瓢箪・小僧の神様 志賀直哉
短編少年 集英社文庫編集部 編
新潮文庫、角川文庫、そして集英社文庫それぞれで名称は異なるが、そもそもいち早くカバーに目を付けたのはナツイチだ。2008年に「文豪の名作×人気漫画家」というコラボで、スペシャルカバーを出した。しかし、実は前年にそのアイディアは太宰治「人間失格」のカバーとして試されていたようだ。読書感想文の課題図書としておなじみの1冊のカバーを、若い年代が取っつきやすいイラストに変えた。「DEATH NOTE」の作者・小畑健氏による書き下ろしだ。このアイディアが売り上げに直結したのだろう、翌年から4冊ものの名作が新たにスペシャルカバーになった。この企画は平積みにしたときに明らかに目立っていて、なるほどなぁと思わせてくれた。しかし、角川文庫の記事でも書いたけれども、10年以上が経って出版事情が大きく変わった。デジタル化の波が広がって文庫の装丁自体がフルカラーのイラストが主流になった。もはやマンガ風のイラストである事が「目立つ」事にはならなくなった。
そして、今年のカバーは、ナツイチのマスコット”よまにゃ”を生み出したNoritakeさんによる限定カバーになった。どれもこれも素朴な味わいのイラストで、3冊とも「よまにゃ」が登場する。いったいNoritakeさんとは、いかなるイラストレーターなのだろう。ちょっとネットで調べても、その答はない。たぶん本人はあまり説明するのが好きではないのだろう。ただ、シンプルではあるが雑ではないイラストレーションの中にこめられた思いみたいなものに、いろいろなクリエーターが共感しているのは確かだ。そして明らかに、フェアの平積みの彩りの中で、逆に目立つ存在となっている。調べると2017年の限定カバーとして夏目漱石の「吾輩は猫である」も担当している。これはこれで文句はないし、いい出来なんだけれど、集英社文庫の漱石と言えば、今は亡き吉野朔美のイラストが思い出深い。あっという間に「こころ」も「坊っちゃん」も「三四郎」も入れ替わってしまったのは、個人的には残念でならない。
[ラインナップ]
2003年のラインナップ94冊
2021年のラインナップ78冊
全168冊
18年間で新しく入った本74冊
18年間で消えていった本90冊
変わらずに残った本4冊
特徴的なのは、ラインナップ数を絞っている点だ。「新潮文庫の100冊」というタイトルが象徴するようにだいたい100冊前後の文庫がラインナップされるのが普通なのだが、他2社と比較しても78冊は少ない。解説ページを比較しても新潮も角川もほぼ1ページ3冊ずつだが、ナツイチは2冊ずつ。書店の平積み効果同様、大きく刷り込んだ表紙を見つけて「解説ページ」に立ち止まってもらおうという戦略かもしれない。そして「変わらずに残った本」はたったの4冊だ。角川でさえ9冊あったというのに。一番攻めているのは、ナツイチかもしれない。
[変わらずに残った本(4冊)]
夏と花火と私の死体 乙一
坊っちゃん 夏目漱石
人間失格 太宰治
R.P.G. 宮部みゆき
漱石が「こころ」ではない事がちょっと驚きだ。18年前も今年も「坊っちゃん」だ。手元にある集計では2007〜2011年はずっと「こころ」だった。「こころ」の冒頭は海水浴から始まるので、夏のイメージがないではないが、全体を通して夏向きでも、そして若年向きでもない。「坊っちゃん」の季節が夏だったかは定かでないが、20代の無鉄砲な青年が四国・松山の波止場に降り立ち、そしてあっという間に東京へ戻っていくイメージは、ひと夏の体験のようで夏向きだし、中高生向きでもある。なんというか、作家や名作に縛られず「夏の文庫フェア」という原点に忠実なラインナップを心がけた結果と言えそうだ。
[作家の移り変わり]
2003年に登場した作家64人
2021年に登場した作家73人
2003年、2021年いずれかに登場した作家118人
(ただし便宜的に、複数著者の場合は共同名義として1人と数えた。)
2021年には消えた作家45人
2021年に新たに入った作家54人
2003年、2021年のいずれにも登場する作家19人
作家の入れ替わり率70%。角川文庫76%、新潮文庫52%なので、角川文庫についで入れ替わりが激しい。残りつづけた「幸運な作家」19名は以下のとおりだ。
東野圭吾
夏目漱石
太宰治
石田衣良
池上彰
林真理子
北方謙三
赤川次郎
大沢在昌
篠田節子
宮本輝
乙一
宮部みゆき
群ようこ
恩田陸
江國香織
浅田次郎
さくらももこ
村山由佳
[躍進した作家(2名)]
宇山佳佑 0->2
阿部暁子 0->2
「躍進」とは、小冊子で紹介される作品数が18年の間に2冊以上増えた事を指している。角川が11冊、新潮が2冊。こちらは新潮文庫と似通っているが、その意味するところは違う。新潮文庫は愚直なまでに「変わらない」事を継続してきているが、集英社文庫は「変わり続ける」事を継続している。それは、角川文庫でもなしえないほどあっさりと変わり続けているという事かもしれない。宇山さんは「桜のような僕の恋人」「この恋は世界でいちばん美しい雨」を、阿部さんは「パラ・スター」「どこよりも遠い場所にいる君へ」がラインナップに入った。
[凋落した作家(12人)]
唯川恵 5->0
村山由佳 5->1
浅田次郎 4->1
さくらももこ 4->1
山本文緒 3->0
江國香織 3->1
椎名誠 2->0
小池真理子 2->0
浜辺祐一 2->0
原田宗典 2->0
辻仁成 2->0
阿川佐和子・檀ふみ 2->0
この12名の中で最も浮き沈みが激しかった唯川、村山、浅田の3人は、2003年にエッセイが掲載された3人でもある。当時は明らかに集英社文庫の主力作家であったが、状況は大きく変わった。いつからかは分からないけれどもラインナップ数を大きく絞り込んでいる事も影響しているだろう。他2社が相変わらず90冊を超えるラインナップであるのに対して、ナツイチの78冊はかなり少ない。山本、江國、椎名、小池、そして数年前に亡くなったさくらももこなどのベテラン陣の多くが割を食った事になる。
[キャッチコピー]
変わらず残った本4冊のキャッチコピーを比較してみる。その前に、恒例となるが、解説の比較をしてみよう。お題は「夏と花火と私の死体」だ。
(2003年)
ラジオ体操、セミの声、花火。それは、ありふれた夏の一日になるはずだった。「私」が殺されなければ―。平和な田園地帯をおそった、9歳の少女の行方不明事件。死体と小さな殺人者たちの息詰まる4日間を、ユニークな筆致で綴る新感覚ホラー。執筆当時作者は16歳、ホラー界の若き鬼才の出現は出版界の注目を集めた。旧家にまつわる』陰惨な悲劇『優子』を併載。
(2021年)
そうだ、五月ちゃんを隠そう! 友だちを殺してしまった小学生の兄妹は死体隠蔽を画策する。夏祭り前ののどかな村で、純粋で冷酷な子供たちの冒険が始まる。
もちろん、新潮でも角川でもそうだったように、18年前の解説は字数も多く、十分すぎるほどにあらすじを説明しようとしている。しかし、それ以上に目立つのは、「若き鬼才」が書いた異色作を「新感覚ホラー」という言葉で理解してもらおうと懸命になっている解説だという点だ。ホラーが市民権を得た今となっては「新感覚」などという但し書きは雲散霧消してしまった。それは本作品の読者の声(VOICE)にも表れている。「面白いです、本当に。何という着眼点。…」
夏と花火と私の死体 乙一
(2003年)知っていますか?明るい夏の陽射しの下に恐怖が隠れていることを…。
(2021年)9歳の暑い夏の日、"私"は殺された―。
(VOICE)面白いです、本当に。何という着眼点。最後の一ページに訪れる驚きの結末。
坊っちゃん 夏目漱石
(2003年)血の気の多さは誰にも負けない。正義感あふれる坊っちゃんの青春記。
(2021年)漱石作品の中で最も多くの読者に愛された小説。
(VOICE)坊っちゃんの愚直なまでの正義感が愉しい。23才って大人な様で子どもだよなぁ。
人間失格 太宰治
(2003年)そこにあるのは太宰自身の姿。死を思う作家の独白劇。
(2021年)太宰が自死の直前に書き上げた、遺書的作品。
(VOICE)最後の一文に衝撃。一度読むだけではもったいない。何度も繰り返し読みたい。
R.P.G. 宮部みゆき
(2003年)女子大生に続いて「お父さん」が殺された―。2つの事件が迎える衝撃的な結末とは?
(2021年)与えられた家族の役を、演じていただけ
(VOICE)読了した時の衝撃は凄まじかった。ラストのどんでん返しに唸ってしまった。
なんというか、2021年の文章はキャッチコピーと言えるほどの出来ではない。あえて言うと、2021年の文章はお笑いで言う「つかみ」だ。名言や迷言を目指してるわけじゃなく、本当に身もふたもないつかみだ。「"私"は殺された―」とか「与えられた家族の役を、演じていただけ」とか。2013年との比較はもはや意味をなさないので、2021年のVOICE(読者の声)を添えた。前述したように2003年にはVOICEは無かった。読者の声がキャッチコピーの一部をなしていると思えば、2021年のキャッチコピーをつかみにとどめているのは編集部の戦略に違いない。
[消えた作品(90冊)]
最後に2003年から2021年で消えていった作品をリストアップして終わろう。
天使の卵エンジェルス・エッグ 村山由佳
きみのためにできること 村山由佳
BAD KIDS 村山由佳
緑の午後 おいしいコーヒーのいれ方V 村山由佳
雪の降る音 村山由佳
あなたへの日々 唯川恵
イブの憂鬱 唯川恵
めまい 唯川恵
病む月 唯川恵
シングル・ブルー 唯川恵
鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎
活動寫眞の女 浅田次郎
プリズン・ホテル(1) 夏 浅田次郎
プリズン・ホテル(2) 秋 浅田次郎
あの頃ぼくらはアホでした 東野圭吾
白夜行 東野圭吾
おれは非情勤 東野圭吾
もものかんづめ さくらももこ
たいのおかしら さくらももこ
さるのこしかけ さくらももこ
ももこのいきもの図鑑 さくらももこ
エンジェル 石田衣良
これが「週刊こどもニュース」だ 池上彰
葡萄物語 林真理子
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木 江國香織
なつのひかり 江國香織
都の子 江國香織
働く女 群ようこ
でも女 群ようこ
風裂 北方謙三
岳物語 椎名誠
続・岳物語 椎名誠
秘密のひととき 赤川次郎
贅肉 小池真理子
ひぐらし荘の女主人 小池真理子
ネバーランド 恩田陸
光の帝国 常野物語 恩田陸
こちら救命センター 病棟こぼれ話 浜辺祐一
救命センターからの手紙 浜辺祐一
平面いぬ 乙一
楽老抄 田辺聖子
黄龍の耳 大沢在昌
あきらめない人生 瀬戸内寂聴
落花流水 山本文緒
シュガーレス・ラヴ 山本文緒
あなたには帰る家がある 山本文緒
大変結構、結構大変。 原田宗典
はらだしき村 原田宗典
がんばらない 鎌田實
封印された愛の闇を (上・下) サンドラ・ブラウン
黒塚 KUROZUKA 夢枕獏
源氏に愛された女たち 渡辺淳一
千年旅人 辻仁成
ピアニシモ 辻仁成
69 sixty nine 村上龍
女たちのジハード 篠田節子
いちご同盟 三田誠広
焚火の終わり(上・下) 宮本輝
地下街の雨 宮部みゆき
地獄変 芥川龍之介
深川恋物語 宇江佐真理
ああ言えばこう嫁行く 阿川佐和子・檀ふみ
ああ言えばこう食う 阿川佐和子・檀ふみ
17歳のポケット 山田かまち
ここまでわかった ボケる人ボケない人 フレディ松川
シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル
スキャンダル ローラ・V・ウォーマー
チグリスとユーフラテス (上・下) 新井素子
ドクター・ヘリオットの動物物語 ジェイムズ・ヘリオット
プラハの春 (上・下) 春江一也
ボーダーライン 真保裕一
めぐり逢う時はふたたび デボラ・スミス
ラーラはただのデブ シェリー・ベネット
王妃の離婚 佐藤賢一
開国ニッポン 清水義範
機関車先生 伊集院静
血液型健康ダイエット ピーター・J・ダダモ
屍の聲 坂東眞砂子
私のギリシャ神話 阿刀田高
私の天国でまた会いましょうね クリステル&イザベル・ツァヘルト
青雲はるかに (上・下) 宮城谷昌光
昔の恋人 藤堂志津子
竹西寛子の松尾芭蕉集・与謝蕪村集 竹西寛子
天然まんが家 本宮ひろ志
虹の谷の五月 (上・下) 船戸与一
爆笑問題の世紀末ジグソーパズル 爆笑問題
文体とパスの精度 村上龍×中田英寿
砲撃のあとで 三木卓
老残のたしなみ 佐藤愛子
騙し人 落合信彦



