カテゴリ記事リスト
発見!角川文庫2013(07/22)
ナツイチ(2013年)(07/16)
新潮文庫の100冊(2013年)(07/02)
「新潮文庫の100冊(2011年)」VS.「新潮文庫の100冊(2010年)」(再掲載)(07/03)
「ナツイチPASSPORT(2011)」VS「ナツイチ2010」(再掲載)(07/02)
「発見!角川文庫2011」VS「発見!角川文庫2010」(再掲載)(06/29)
2011年「新潮文庫の100冊VSナツイチVS発見!角川文庫」(再掲載)(06/26)
2010年「新潮文庫の100冊VSナツイチVS発見!角川文庫」(08/05)
「ナツイチ2010」VS「ナツイチ2009」(07/20)
「発見!角川文庫2010」VS「発見。角川文庫 夏の100冊2009」(07/12)
「新潮文庫の100冊(2010年)」VS「新潮文庫の100冊(2009年)」(07/06)
2009年「新潮文庫の100冊VSナツイチVS発見。角川文庫 夏の100冊」(07/20)
「新潮文庫の100冊2009年」VS「新潮文庫の100冊2008年」(07/13)
「ナツイチ2009」VS「ナツイチ2008」(07/12)
「発見。角川文庫 夏の100冊(2009)」VS「発見。角川文庫 夏の100冊(2008)」(07/07)
2008年「『新潮文庫の100冊』VS『ナツイチ』VS『発見。角川文庫 夏の100冊 角川文庫』」(08/15)
「新潮文庫の100冊2008」VS「新潮文庫の100冊2007」(07/27)
「ナツイチ2008」VS「ナツイチ2007」(07/20)
『発見。角川文庫 夏の100冊(2008年)』VS『発見。夏の百冊 角川文庫(2007年)』(07/13)
2007年「『新潮文庫の100冊』VS『ナツイチ』VS『発見。夏の百冊 角川文庫』」(07/29)

2013年07月22日

発見!角川文庫2013

 角川文庫の貪欲さには、ほんとに感心させられる。いよいよ「新潮文庫の100冊」が大きく変わり老舗の余裕をかなぐり捨てた夏に、ナツイチがナツイチらしさを放棄してまでAKBという千載一遇のキャラクターと心中しようと決めた暑い夏に、唯一残された角川文庫は、いわば王道を往く道を選んだ。

 表紙には「名作大漁」の大書とともに、いつもの「ハッケンくん」が鼻のビックリマークを強調させてドドーンと真ん中に居座っている。最初の見開きにはハッケンくんの旅が今年も変わりなく続くことが語られるのだが、いったいナツイチのように不思議ちゃんキャラの文学少女が、背伸びしてまだ見ぬ世界を見すえる言葉が綴られるわけでもなく、およそ意図というものが感じられない、たんなるお約束のページに見えない事もない。だが、最大のライバルだったYonda!はいなくなった。避暑地のハチも影が薄くなったようだ。いまや、ハッケンくんは何をやってもゆるされる愛されキャラへと育った。ストラップでは、貞子になり、ケロロになり、そして犬神家のスケキヨになって逆立ちまでしてしまった。天晴れとしか言いようがない。

 スペシャルカバーと言えば、まずは新潮文庫のスタイリッシュなカバーが思い浮かぶが、それも今年は無くなってしまい、新潮に追従した角川文庫の「てぬぐいかまわぬカバー」が、レトロでモダンなスタイルをつらぬく事になった。さらには有名漫画家とのコラボカバーに力をそそいだナツイチも、今年は一休み。やはりナツイチに追従したはずの角川は、今年はジブリの近藤勝也氏を起用して「海がきこえる」を彷彿させるような見事に情感にあふれたイラストを、名作3作品に提供してくれた。

 そう、今年の角川の目玉はジブリだ。公開前から妙に評判のいい宮崎駿監督の新作「風立ちぬ」をフィーチャーした文庫フェア企画は最強の布陣だ。<堀越二郎と堀辰雄に敬意を表して>生み出された宮崎監督渾身の一作に寄り添うように、一冊の短編集と一冊のドキュメントがラインナップされている。角川お得意のメディアミックス戦略と簡単には言えないくらい、完璧な三角形だ。それに比べれば、原作有川浩映像化作品と題した「図書館戦争」と「県庁おもてなし課」は、角川のあざといメディア戦略の鑑ともいえる企画だ。

 ナツイチは、AKBによる感想文イベントをお台場合衆国に持ち込んでいるが、まだまだ甘い。角川文庫は昨年からniconicoと手を組んで、スペシャルコラボ「角川の夜 ニコニコ超夏祭り2013」なるものを開催(開祭)している。このイベントでは批評バトルが暑く繰り広げられる。なんだか面白そうだ。それに感想文についてもPOP感想文と、ちょっとひねった形式で中高校生に受け入れてもらおうとしている。

 このなんでもありの姿勢は本来ならば「垢抜けない」と苦言を言いたくなるところだが、今年に関しては新潮もナツイチも「らしさ」を捨ててチャレンジしてきた事もあって、「発見!角川文庫2013」だけが本来の「らしさ」を徹底した結果、掲げたキャッチコピーにもあるように「大漁」と言いたくなるような賑わいだ。
posted by アスラン at 19:36 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月16日

ナツイチ(2013年)

 すでに昨年から、恒例だった「夏の文庫フェア比較」の企画をやめてしまった。手間がかかるうえに、毎年毎年、前年の内容と見比べて詳細な比較記事を書くことがだんだん面白くなくなってしまったからだ。決してフェアの内容が代わり映えしなくなったというわけではない。ナツイチも「発見!角川文庫」もそれなりに意欲的に夏恒例の企画に取り組み、少しでも飽きさせない努力を重ねているのだろう。ただし、それは人生の特別な時期を過ごす事になる中高生に対してアピールする企画という事であって、僕のようなすれっからしのおじさんにとっては、そういった工夫を素直に受け止めるというよりは、ついつい「今年の工夫のセンスや意図」の妥当性を検討してみたり、アイディアを絞った編集部あるいは出版社の思惑が透けてみえるようなあざとい小細工に対しては、いたずらに邪推してみたりしてしまう。

 そんなに「夏の文庫フェア」にあれこれ口を出しているくせに、肝心の読書という点ではわざわざ購入して読もうとした事が最近の記憶ではほとんどない。いくら読書感想文が義務づけられていない気楽な身の上とはいえ、これではあまりにも「文庫フェア」を斜に受け止めているのではないか。まあ、そういった反省が出てくるのも、比較記事をやめてしまった余裕から出ているにちがいない。今年はナツイチから1冊買って読むことにしよう。

 なんてことを、さも殊勝な心持ちで言っているように書いているが、正直言えば、今年のイメージキャラクターがAKBだからに過ぎない。ついにやったかぁ。AKBとナツイチ、これまでのメインキャラの選び方からすれば、今現在、最強のアイドルグループであるAKBに登場ねがうのは、そう間違っているわけではない。グラビア的な効果、ういういしく瑞々しい夏のイメージにはぴったりのキャラだろう。

 なので、ブックカバー(それも大島優子がイチオシな僕としては、当然のように彼女と高橋みなみが並んでいるカバーを選択)を手に入れるために、枡野浩一「石川くん」を購入。カバーを入手する事が何よりも優先されるので、なるべく安い本、そしてそれなりに楽しめる本を探した。以前から読みたかった本なので、ちょうどよかった。

 今年のナツイチの目玉は「AKB48」、これに尽きる。彼女たちの中から85人が選抜され(今回の選抜は、感想文を書くことにたじろがない国語力の持ち主を集めたのだろうか)、ナツイチの85冊の文庫から課題とされた作品をそれぞれが読み、感想文を書く。もう中高生たちの悩みをガチに受け止めた企画だ。だから、AKBの誰が、どの作品を課題著書にしているかに関心を寄せ、好きなメンバーの課題図書を自分も読んでみようかなどと、少々浮ついた動機からでも、この夏の感想文苦行にアプローチしてみるのも決して悪くはないだろう。適材適所を旨に課題図書が割り当てられているのを一つ一つ確認しながらも、やはり大島優子には、あの芥川賞受賞記者会見で度肝をぬいた田中慎弥氏の「共喰い」が当てられていて、どれだけ彼女はアイドルとしての、一女優としての度量を試されている事に平然としていられるんだろうなぁと、改めて感心してしまった。

 ただし残念と言えば、そういうガチなイベントとは無関係な従来からのナツイチファンにとっては、AKBという祝祭的キャラが全面に押し出された今年のナツイチに、「なんだかねぇ」という感想をもってしまうかもしれない。これは単なる邪推に過ぎないと前もってことわっておくが、ナツイチはそろそろ大きく変わる時なのかもしれない。つまり、潮時を迎えているのかも。ナツイチと言えば、軽井沢を思わせるような夏の避暑地感が売り。そこにうまく当てはまる不思議ちゃんキャラの女の子と、夢見るようなポエムが同居する。そこには遊び心も満載で、次に何を読めばいいかを先読みした「次はコレ」ナビや、ナツイチの名物ともなった「文豪×有名漫画家コラボ」のスペシャルカバーが楽しかった。
 
 有名漫画家のスペシャルカバーが画期的だった事はまちがいないが、最近の集英社文庫の装丁は非常にデザインが活き活きとしていて見ばえがするものばかりになった。あえてスペシャル感を強調しようとしても埋もれてしまうくらい、ティーンズ向けやOL向けのデザインが増えてしまった。いまさらスペシャルを掲げる必然性が感じられない。

 そこへきてAKBだ。もちろん今年だけの企画ではないかとも思うのだが、ひょっとしてAKBが感想文を書き、それを「お台場合衆国特設ブース」でお披露目するというイベントが中高生に好評であれば、今後も続く可能性も考えられる。ただし、いっきに「ナツイチ感」が希薄になった事だけは確かだ。

[追記(2013/07/22)]
 先日、立川南口のオリオン書房アレアレア店に行って何気なく文庫フェアの平積みを見て回って驚いた。集英社文庫、つまりナツイチの文庫フェアラインナップがすべてラッピングされている。なんじゃこれは!で、すぐに思いついた。ナツイチの文庫のオビには、それぞれ感想文の課題図書としている85人のAKBメンバーの顔写真が印刷されている。推しメンが多いファンは出費がかさむ事だろうが、それより何より、そのせいでオビの万引きが絶えないのかもしれない。結果としてラッピングしてしまうのは書店の防衛策だから致し方ないが、毎年文庫フェアを楽しみにしている読書好きや、今年の感想文に悩む中高生が中身を確かめられないなんて本末転倒だ。もし来年も続く企画ならば、改善を求む!
posted by アスラン at 12:41 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月02日

新潮文庫の100冊(2013年)

結婚する前の事だ。仕事は自分の思い通りに充実感を伴いながら忙しくなっていき、だが一方で仕事だけでは満たされない日常を解決するために、週末は映画館のハシゴにいっそうの拍車がかかっていった。ハシゴして映画を見る時間は確実に孤独であり、寂しさが癒える事などないのだが、何にもかえがたい時間が僕の中に蓄積されていった。

 そんな時、神保町の書肆アクセスという地方出版物の専門店で栃折久美子という製本工芸(ルリユール)を生業とされている方の「ワープロで私家版づくり」という本に出会って、みようみまねで素人の手帖作りの日々が始まった。本の装丁を目指すというより、毎年面白みのない会社用の黒手帳を購入するのではなく、自分の好きなレイアウトのスケジュール手帳を作る事が年末年始の恒例行事となった。

 ある年のテーマとして、12ヶ月分のお気に入りの本を選定して、その中から自分の心をわしづかみにした一節を抜き出して、見開きに一月単位のスケジュールの欄外に刷り込んだ。自分の楽しみでもあったし、誰かに見てもらって、その誰かとその言葉を共有することで、少しでも自らの身勝手な孤独を和らげたいという下心もあった。といってもそんな手帳に関心を示してくれる人など、そう多くはいなかったのだが。

 だから、今年から始まった「ワタシの一行」という企画を見て、とってもうらやましく感じた。そう、まさしくかつての僕がやりたかった事が本格的な規模で形になっている。それも、数々の本好きの人たちが、それぞれに魅力的な言葉を紡いで、一冊のかけがえのない本を推している。もちろん、ついに引退した松井秀喜が「甲子園が割れた日」を推して、5連続敬遠の「あの夏」を振り返る言葉にも感動したが、それ以外にも女優(北川景子や栗山千明)や歌手(JUJU)、アイドル(中川翔子)といったアーティストたちが、テレビで見せる素の姿とは違って一冊の本に対して饒舌ですばらしい言葉を用意している事も楽しい。

 でも、なによりも僕にとって僥倖だと思えたのは、講談社からお引っ越しを決め込んだ小野不由美の出世作「十二国記」シリーズの中から、評論家の北上次郎さんが「月の影 影の海」を選んでとびきりにイカす言葉を添えてくれた事だろう。雑誌「本の雑誌」で同シリーズの「図南の翼」を推しまくった北上さんも、まさか本シリーズが、巡り巡ってラノベから出世しまくって新潮文庫に仰々しくも収まる事を予想してはいなかっただろう。感無量などとはいわない。代わりに「胸打たれた言葉」として北上さんが選んだ言葉が「−許す。」だ。北上さんの言葉を信じて「図南の翼」から始めてずっと北上さんの言葉の赴くままに読み継いできた僕としては、もう何も言うことはない。

 そうそう。今回の大幅な変わりようは徹底していて、例の新潮文庫ならではのスタイリッシュな限定カバーも姿を変えた。今度はみずみずしい夏をイメージしたフォトデザインがプリントされたカバーに変わったのだ。これも相当に驚かされた。スイカの瑞々しい赤に何粒もの黒い種がはまり込む写真などは、他の花火やトウモロコシや金魚やかき氷などと並べば、なんということもない夏の風物詩だが、「江戸川乱歩傑作選」を当ててきたところに、何かしらエロティックな隠喩を想像せずにはいられない。何度も読んだ文庫なのに、また欲しくなってしまった。

 表紙からついに黄色とパンダキャラが消えたということは、いつ何時にもこの十年以上も変わる事なく動く事のなかった大きな山が、向こうから降りてきたという事でもある。新潮文庫が久々に本気になったという事だろう。これで、ナツイチや角川文庫とのガチンコ勝負が始まりそうだ。また夏の楽しみが増えた。
posted by アスラン at 20:18 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月03日

「新潮文庫の100冊(2011年)」VS.「新潮文庫の100冊(2010年)」(再掲載)

 台風が2つも日本に同時に居座って、まだまだ残暑が厳しい9月も半ばを過ぎた。店頭から、「夏の文庫フェア」の展示も消えたというのに、いまだ恒例の「夏の文庫フェア」比較が終わらないというていたらくをどうしよう。どうたって、やるしかないじゃないか。来年も続けたければ。イチローの11年目の200本安打は残念ながら厳しくなってしまったが、イチローとて「だからあきらめます」などと言うはずもない。僕も淡々とゴールに向かうだけだ。さて、今年の「新潮文庫の100冊」は?

[表紙]
 マスコットのパンダ(Yonda?くん)は、微笑むこともあるんだな。例年の印象だと、読者に媚びることなく飄々として、時にほうけたような表情をうかべて、読書に没頭するイラストが多かった。今年の表紙の彼(彼女?)は確かに笑っている。笑うだけではない。「名作」のジャンルに挿入されたイラストでは、涙まで浮かべている。一瞬、これまでの作者(100%ORANGE)から新たな作家にバトンタッチしたのかと思ったのだが、それにしては作風があまり変わっていない。果たしていかに?
新潮文庫表紙2011年.jpg 表紙2010(新潮).jpg


[スペシャルカバー]

(2011年)8冊
吾輩は猫である 夏目漱石
人間失格 太宰治
注文の多い料理店 宮沢賢治
未来いそっぷ 星新一
夜のミッキー・マウス 谷川俊太郎
きらきらひかる 江國香織
ティファニーで朝食を カポーティ
赤毛のアン モンゴメリ

(2010年)10冊
こころ 夏目漱石
雪国 川端康成
羅生門・鼻 芥川龍之介
人間失格 太宰治
金閣寺 三島由紀夫
橋ものがたり 藤沢周平
江戸川乱歩傑作選
夏の庭 湯本香樹実
キッチン 吉本ばなな
老人と海 ヘミングウェイ


 昨年の10冊から今年は2冊減って8冊になった。相変わらず「新潮100冊」のスペシャルは、角川のように〈がっつく〉ところを感じさせない。あるいはナツイチのように「ひきつづきスペシャル継続します」みたいな〈安易さ〉の微塵も感じさせない。隙がないのだ。

 昨年から引き続いてスペシャルカバーを採用したのは、たったの一冊。それは「人間失格」のみだ。「こころ」「金閣寺」「江戸川乱歩傑作選」「夏の庭」「老人と海」の5冊は今年もラインナップされているが、あっさりといつもの表紙に戻している。「期間限定」は掛け値なしに今夏限定なのだ。

[ラインナップ]
新しく入った本56冊(2010年は44冊)
今年消えた本53冊(2010年は**冊)
全体109冊(2010年は106冊)

33->44->56

これは、この3年間で「新しく入った本」の冊数の推移を表している。これは「新潮100冊」史上驚くべき異変なのだ。僕がこの企画を初めてから早いもので10年になるが、「新潮100冊」は愚鈍と言われてもいたしかたないほどぶれなかった。かたくなに老舗としての自信を崩すことなく、毎回判で押したように100冊中入れ替えるのは30冊前後だった。コピーには手を入れてきたが、解説は変わらない。レイアウトもまったくと言っていいほど変えない(レイアウトは、今年も変わっていない)。

 これほど動きのない文庫フェアもないなぁ、よっぽどの自信があるんだなぁと思ったのだが、昨年ついに動き出した。今年もその流れは止まらない。ついに半分が入れ替わるという大変動が起きているのだ。

[躍進した作家]

神永学(0->2)
宮沢賢治(1->2)
宮部みゆき(1->2)
米澤穂信(1->2)


 神永学。僕にとっては無名に等しい作家が、今年の新潮文庫のイチオシのようだ。「天命探偵 真理省吾」シリーズから2冊が一気にライクイン。この破格な待遇も、これまでの「新潮100冊」にはなかったことだ。そもそもイチオシなどという姿勢はかつてなかった。なにしろ先年の「太宰治生誕100年」だったかに、太宰の作品を増やすことなく、徹底的に記念年を無視してきたのが、この出版社だったのだ。

 もちろん、ようやく他社並みに読者に媚びを売るようになったのかと言うつもりはさらさらない。もし、そう言いたい人がいるとするならば、あのお堅いNHKの最近の変わりようを見ればいい。時代に迎合することも、また大衆向けのメディアの宿命なのだ。

[後退した作家]
三島由紀夫(2->1)


 そもそも、これまでの新潮の方針では2冊入る作家は文豪か、多作の超売れっ子作家しかいない。今年、宮沢賢治が2冊入ったので、帳尻をあわせたとも考えられるが、三島由紀夫の後退は、神永や米澤といった「今が旬」の作家の躍進の割を食ったと考えた方がよさそうだ。

 新しく入った作家27人(2010年は28人)
 今年消えた作家31人(2010年は28人)

[キャッチコピー・解説]

 今年の特徴的な点は「コピーは短めに。太字でくっきりと」「解説はぐっと削って、分かりやすく」の2点だろう。なんというか、文字通りキャッチコピーでひきつけておいて、必ず解説まで読んでもらおうという戦略だ。せっかくコピーに立ち止まってもらっても、長々とした解説の文字の多さに挫折してしまう中高生が多いという心遣いではないだろうか。


こころ 夏目漱石
(2011年コピー)恋か。それとも友情か。あなたはどちらを選びますか?
(2010年コピー)友情と恋の、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか……。

コピー・解説ともに、昨年のを引継ぎながら、よりコンパクトにまとめてきた。解説の冒頭で「鎌倉の海岸で、学生だった私は一人の男性と出会い、”先生”と呼んで慕っていた。」というまとめ方は簡潔だ。昨年は「…出会った。不思議な魅力を持つその人は、”先生”と呼んで慕う私になかなか心を開いてくれず…」と長々と説明が続く後半をばっさりとまとめてしまった。

吾輩は猫である 夏目漱石
(2011年コピー)日本一有名なネコの可笑しな人間観察日記

 今年から入った作品。「可笑い(おかしい)」とは言うが「可笑しな(おかしな)」って書くだろうか。ちょっと違和感がある表記だ。いやいや、それはまだ許そう。解説の「吾が輩の飼い主の書斎には、今日も一癖ありそうな友人たちや、近所の奥さん、ついでに泥棒までもが次々と襲撃中。」って、そんな騒がしい小説でしたっけ?なんか若い世代をひきつけたいあまりに、ずいぶん格調を下げた感じがする。

砂の女 安部公房
(2011年コピー)来る日も来る日も砂。私たちの日常も……。
(2010年コピー)来る日も来る日も砂、砂、砂。

 なんというか、作品を読んだことがある人は、昨年までのコピーのシュールさ、不条理さが納得できるだろう。だが、残念ながら今の世代には、書かれた社会状況も含めて意味不明になってしまう。現実との接点を確保しないと、新しい読者は獲得できないということか。

塩狩峠 三浦綾子
(2011年コピー)誰だって、他人のために死にたくない。…そうだろうか本当に?
(2010年コピー)他人の犠牲になんてなりたかない、誰だってそうさ−そうだろうか、本当に?

 ああそうか。今年のコピーになって初めて、昨年までのコピーがおかしいことに気づいた。「他人の犠牲」になったわけではない。そもそも事故の犠牲になっただけだ。「他人のために」自らを犠牲にする。それが今年のコピーだ。ところで解説の導入部が大きく書き改められた。「たまたま自分の乗った列車が、事故で暴走し始めたら…。さらに自分が犠牲を払えば、大勢が助かるかもしれなかったら…。」なんとなく何かににてないだろうか?そう、きっとこの解説を書き直した担当者は、あのサンデル教授の「白熱教室」のファンだったにちがいない。

さがしもの 角田光代
(2011年コピー)本の魔法はページを閉じてから始まる。
(2010年コピー)ページを閉じてから始まる本の魔法。

 昨年までは「偶然出会ったことばの魔法はあなたの人生を変えるかも。」という解説の一文があったが、今年はそこから「かも。」がとれた。この本を読んだことがある人ならわかるだろうが、「ことばの魔法」は確かに存在するのだ。昨年までの解説者は控えめすぎたか、あるいはわかってなかったの「かも」。

砂漠 伊坂幸太郎

 今年の解説は「センセイの鞄」といい、この「砂漠」といい、字数を減らした上に、とてもよくまとまっている。今年の解説を読んだあとでは、昨年のくだくだしい文章は読む気がしない。とくに最期の決め言葉。「二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く爽快感100%の長編小説」(2011年)は、「洒落た会話を交えて軽やかに描く」(2010年)とくらべると、伊坂の文体の特徴をよく捉えている。

風が強く吹いている 三浦しをん
(2011年コピー)過去や評判が走るんじゃない いまのきみ自身が走るんだ。
(2010年コピー)「俺は知りたいんだ。走るってどういうことなのか」

 解説が全然違うんだなぁ、昨年と。「箱根駅伝を走りたい−そんな灰二の想いが、天才ランナー走(かける)と出会って動き出す」(2010年)が、「走ることに見放されかけていた天才ランナーの灰二と走。」(2011年)に変わった。あれ?灰二も天才ランナーだったのかい!昨年までの解説は、ただ「駅伝って何?」という点に焦点を当てていたけれど、今年はもっと具体的なおもしろさを読者に伝えようとしていて、グッドだ。

老人と海 ヘミングウェイ
(2011年コピー)男は死ぬまで闘いだ。人生は闘いそのものだ。
(2010年コピー)男は死ぬまで闘いだ。こんな薄い本でそれを悟れる君は幸福とだけ言っておく。

 後半の文をごそっとけずった。2010年のコピーはそれなりによかったと思うが、中高生相手には少し気取りすぎだろう。もう少し、直接的に訴えるコピーが好ましいということか。

罪と罰 ドストエフスキー
(2011年コピー)なぜ殺してはいけないのか?人生で一度は読みたい世界的巨編
(2010年コピー)世のため人のために殺ったはずだった。これほどの恐怖のオマケつきとは…。

 昨年とはセールスポイントがまったく違ってしまった。昨年までは「モーソー満載の饒舌体。推理小説と恋愛小説、青春小説の要素がすべて楽しめる!」などと熱く売り込んでいたが、今年の解説では「人間の業とは何か、強く深く考えさせる歴史的大作」と書かれた。うーむ。言いたいことはわかるが「大作」に「巨編」は積み上げすぎなんではないか。

ゲーテ格言集 ゲーテ
(2011年コピー)なんて贅沢な人生相談!悩みの答えがきっとある。
(2010年コピー)「地上のあらゆる所有の中で、自分のハートが最も貴重なものである」。ゲーテは、あたたかい人だったんだ。

 今年変わったコピーの中で、もっともいいと思った。昨年までのも決して悪くはない。けれど解説を読むと、格言すべてが「あたたかい人」のそれだとは思えない。もっと冷静に物事をながめ、隠された真理を突いてくるゲーテの明晰さに読者は引かれるのではないだろうか。

十五少年漂流記 ヴェルヌ
(2011年コピー)必要なものは、勇気と知恵、そして仲間
(2010年コピー)しなやかさとしたたかさ、そして仲間。子どもだけの力で、どこまでやれるか。

 なるほど、後半をけずった方がコピーとしては切れ味がいい。

シャーロック・ホームズの冒険 コナン・ドイル
(2011年コピー)赤髪組合?まだらの紐?イギリスを名探偵と駆け巡れ!
(2010年コピー)赤髪組合?まだらの紐?謎だらけのイギリスを名探偵と駆けめぐろう!
 これは改悪のパターンだ。たんに「イギリス」ではなく、ホームズがいるからこそ「謎だらけの」という形容詞が活きてくる。とってしまったら面白くない。でも、よくよく考えたら「イギリス」ではなく「謎だらけのロンドン」にすべきではないか。

フェルマーの最終定理 サイモン・シン
(2011年コピー)数学者たちが生涯を賭けて求めた恐ろしくも美しい一行の真理。
(2010年コピー)恐ろしくも美しい数学の魅力。数学者たちが生涯を賭けて求めた一行の真理。
 うまい!昨年までのコピーをきりっとしまった一文にまとめた。

赤毛のアン モンゴメリ
(2011年コピー)美人じゃないけど最高にカワイイ!アンは女の子の永遠の憧れです。
(2010年コピー)美人じゃなくても こんなに元気、こんなに幸せ。アンは女の子の永遠の憧れです。

 「元気で幸せな人」。これこそ「カワイイ」の定義です。「カワイイ!」一語の破壊力が抜群だ。グッドです。

[今年新たに入った本(56冊)]

きみの友だち 重松清
コールドゲーム 荻原浩
ティファニーで朝食を カポーティ
伊豆の踊子 川端康成
黄色い目の魚 佐藤多佳子
火車 宮部みゆき
山椒大夫・高瀬舟 森鴎外
走れメロス 太宰治
太陽の塔 森見登美彦
痴人の愛 谷崎潤一郎
蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介
鳥人計画 東野圭吾
沈黙 遠藤周作
白州正子自伝 白州正子
不思議の国のアリス ルイス・キャロル
片眼の猿 道雄秀介
魔性の子 小野不由美
恋せども、愛せども 唯川恵
悪人正機 吉本隆明・糸井重里
暗渠の宿 西村賢太
うそうそ 畠中惠
うらおもて人生録 色川武大
エンキョリレンアイ 小手鞠るい
風の男 白州次郎 青柳恵介
きらきらひかる 江國香織
甲子園が割れた日 中村計
孤高の人 新田次郎
心に龍をちりばめて 白石一文
狐笛のかなた 上橋菜穂子
ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎
さよなら渓谷 吉田修一
シズコさん 佐野洋子
忍びの国 和田竜
しゃぼん玉 乃南アサ
女子中学生の小さな大発見 清邦彦
Story Seller 新潮社ストーリーセラー編集部・編
スナイパーズ・アイ 神永学
青年のための読書クラブ 桜庭一樹
せんせい。 重松清
タイム・ラッシュ 神永学
旅のラゴス 筒井康隆
注文の多い料理店 宮沢賢治
東京島 桐野夏生
トリツカレ男 いしいしんじ
なんくるない よしもとばなな
人間の建設 岡潔、小林秀雄
儚い羊たちの祝宴 米澤穂信
花宵道中 宮木あや子
パーマネント野ばら 西原理恵子
僕はいかにして指揮者になったのか 佐渡裕
無言歌 赤川次郎
夕映え天使 浅田次郎
夜のミッキー・マウス 谷川俊太郎
龍は眠る 宮部みゆき
吾輩は猫である 夏目漱石
ワーキングガール・ウォーズ 柴田よしき


[今年消えた本(53冊)]
「さよなら」が知ってるたくさんのこと 唯川恵
5万4千円でアジア大横断 下川裕治
ヴィヨンの妻 太宰治
エイジ 重松清
ガンに生かされて 飯島夏樹
キッチン 吉本ばなな
きつねのはなし 森見登美彦
こころの処方箋 河合隼雄
サマータイム 佐藤多佳子
しゃばけ 畠中恵
つめたいよるに 江國香織
ナイン・ストーリーズ サリンジャー
一億円もらったら 赤川次郎
一夢庵風流記 隆慶一郎
押入れのちよ 荻原浩
仮面の告白 三島由紀夫
海と毒薬 遠藤周作
海馬 池谷裕二・糸井重里
絵のない絵本 アンデルセン
蟹工船・党生活者 小林多喜二
散るぞ悲しき 梯久美子
屍鬼 小野不由美
思い出トランプ 向田邦子
七つの怖い扉 阿刀田高、小池真理子、鈴木光司、高橋克彦、乃南アサ、宮部みゆき、夢枕獏
重力ピエロ 伊坂幸太郎
春琴抄 谷崎潤一郎
深夜特急1 沢木耕太郎
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹
精霊の守り人 上橋菜穂子
青い鳥 重松清
点と線 松本清張
凍える牙 乃南アサ
東京湾景 吉田修一
白川静さんに学ぶ漢字は楽しい 小山鉄郎
にごりえ・たけくらべ 樋口一葉
橋ものがたり 藤沢周平
二十四の瞳 壺井栄
八甲田山死の彷徨 新田次郎
キッドナップ・ツアー 角田光代
ひとがた流し 北村薫
ビルマの竪琴 竹山道雄
マイマイ新子 高樹のぶ子
レベル7 宮部みゆき
向日葵の咲かない夏 道尾秀介
放浪記 林芙美子
坊っちゃん 夏目漱石
僕僕先生 仁木英之
友情 武者小路実篤
羅生門・鼻 芥川龍之介
流転の海 宮本輝
恋愛脳 黒川伊保子
朗読者 ベルンハルト・シュリンク
老子と少年 南直哉

(2011/9/17初出)
posted by アスラン at 06:20 | 東京 ☔ | Comment(4) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月02日

「ナツイチPASSPORT(2011)」VS「ナツイチ2010」(再掲載)

[表紙]
 昨年までは、イメージキャラクターが表紙を飾ってきた。宮崎あおい、蒼井優、岡田将生・山下リオ、そして2009年、2010年連続で多部未華子だった。ところが今年はぐっとスタイリッシュなパスポート風のデザインを採用してきた。表紙をめくると、旅券であることを示す身分証明書の体裁がなされて、今年のナツイチは「読書人を本への旅に誘う」という趣向を貫こうという編集部の意気込みが感じられる。さらにイメージキャラクターは、好奇心旺盛な笑顔が魅力的な武井咲に変わった。
ナツイチ表紙2011年.jpg 表紙2010(ナツイチ).jpg


[スペシャルカバー]

(A)文豪の名作 人気漫画家スペシャルカバー 4冊
(2011年)
 怪盗ルパン 奇巌城 ルブラン
 遠野物語 柳田国男
 舞姫 森鴎外
 夢十夜・草枕 夏目漱石
(2010年)
 銀河鉄道の夜 宮沢賢治(2011年も継続)
 シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル
 人間失格 太宰治
 汚れつちまつた悲しみに 中原中也(2011年も継続)
 こころ 夏目漱石(2011年も継続)

(B)はちイラスト スペシャルカバー


 昨年、フェアのキャラである「はち」が描かれたメルヘン調のスペシャルカバーが7冊あった。今年はとくに「スペシャル」とことわることなく、昨年と同様の「はち」カバーが採用されてそのままラインナップされた。ただし「遠野物語」だけは、人気漫画家イラストに差し替えられた。つまり冊数からすると。昨年のカバーに文豪の名作4冊が増えた勘定になる。このままいくと、かなりライトな表紙が増え続けて、ますますナツイチは若者向けの文庫というイメージが強調されてしまいそうだ。

[ラインナップ]
 今年のラインナップは全部で92冊(昨年は101冊)。新しく入った本が66冊(昨年は78冊)、消えた本が72冊(昨年は64冊)だ。全体が昨年より9冊も減っているのが特徴だ。実は、この後に紹介する「新潮文庫の100冊」でも冊数は前年より増えているので、減らしてきたのはナツイチだけということになる。理由の一つには、作家へのアンケートページを復活させた事が挙げられるのだが、果たしてそれだけが理由だろうか?

 毎年のことだが、新旧の入れ替えが多いのが、ナツイチの特徴だ。かといって昨年と変わりばえしないという印象があるのは、やはり集英社定番の作家が多く、彼らの作品だけが新作に変わっていくという実態があるからだろう。つまり作品のラインナップを考えるよりも作家のラインナップの変化のなさが、フェア全体の印象を決めてしまっている。どうしても新潮文庫の作家の層の厚さと比べると、手薄さが際だってしまう。それを補うのが「ナツイチ」という、徹底的に若者にアピールしたコンセプトだったのだが、それも最近は角川にお株をとられた形になっている気がする。

 そこで昨年打ち出したのが、女性作家の比率を上げて女性作家たちが大躍進を遂げた。今年はどうなっただろうか?

(2011年)女24人、男50人
(2010年)女37人、男45人
(2009年)女24人、男57人


なんだ、また一昨年の比率(30%前後)に戻ってしまった。昨年の大躍進はなんだったのだろう。女性作家をフィーチャーしてはみたものの、ラインナップに見劣りがしてしまったので、今年は作品数を減らしてでも少数精鋭の作品群を選んだ結果、例年のような男女比に逆戻りしたという事かもしれない。

[躍進した作家]

夏目漱石(1->3)
逢坂剛(0->2)
北方謙三(0->2)
奥田英朗(1->2)
乙一(1->2)
関口尚(1->2)


[後退した作家]
恩田陸(3->1)
椎名誠(2->1)
浜田祐一(2->1)
三崎亜紀(2->1)
三田誠広(2->1)
宮沢賢治(2->1)
村山由佳(3->2)


躍進組がことごとく男性作家であることに注目しよう。いや、後退組のほとんども男性なのだが、女性の比率を上げるために昨年は1冊入った女性作家が今年大量に消えたという事情が隠れている(躍進・後退の欄には0->1と1->0の作家はわざと抜いてあるので)。後退組の男性陣は、なんとかラインナップにとどまったと考えるべきだろう。それより常連中の常連である恩田陸や村山由佳でさえ、今年は後退せざるを得なかったというところが本当の注目点だろう。

[キャッチコピー・解説]
 今年のナツイチはちょっと地味かなぁと思っていた。作品も減ったし、ラインナップの選び方も例年通りに戻ったし。でもちょっとしたことなんだけれど、表紙の見せ方が際立っているのに気がついた。これまでは、文庫の表紙だけをスキャナで読み取ったような平板な画像に過ぎなかったのが、今年から白い台紙の上に表紙の画像をのせた。しかも、台紙そのものを少し右に傾けているところがニクい! なんとなく書店に平積みに置かれた文庫をながめているかのような存在感が感じられる。これ、すっごくイイです。さすがは”ナツイチ”。

 解説とコピーは、どれもこれも少しずつ手が入っている。目指すところは「よりわかりやすく、より具体的に」ということのようだ。解説の文字数は変わらないのに、説明がより具体的になっていたりする。つまり非常にコンパクトに簡潔な解説を書いて、日頃本を読まない若い世代の関心をそそるように書き改めている。

人間失格 太宰治
 (2010年コピー)自伝であり、遺書でもある太宰治の最高傑作!
 (2011年コピー)人間失格は葉蔵か?太宰治か?

 今年のコピーは「問題提起」した言葉となった。解説もコピーにあわせてミステリアスな冒頭の設定を「三枚の写真とともに渡された男の手記には、その陰惨な半生が綴られていた」のように、うまくまとめられた。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
 (2010年コピー)切ない物語に、心がしんとなる。
 (2011年コピー)切なくて、優しくて、美しい物語。

 どっちがいいという比較をするまでもないが、これはおそらくナツイチの「銀河鉄道の夜」の表紙が、例の「テガミバチ」の漫画家によるイラストなので、これ以上叙情的な言葉を尽くす必要はないという事じゃないかな。そう考えれば、今年のコピーの「やさしさ」がすんなりと頭に入ってくる。

遠野物語 柳田国男
 (2010年コピー)神様や妖怪たちの世界が無性に懐かしい。
 (2011年コピー)遠野は、神や妖怪のワンダーランドだ。

 カバーが、メルヘンな「はち」から「ぬらりひょんの孫」の漫画家の描く老獪な老人の絵にかわったことで、思い切った「言い切り」「のコピーに変わった。

娼年 石田衣良
 (2010年コピー)二十歳の夏−ぼくは『娼夫』となった。
 (2011年コピー)人生もセックスも退屈だった夏。ぼくは娼夫になった。


 「ぼくは娼夫になった」というコピーは変わらないが、前半がより刺激的になった。ただし、それには訳がある。続編にあたる「逝年(せいねん)」という作品が並んで紹介されているからだ。そのコピーが「あなたの、最期の人になる」というきわめて切ない言葉になっている。こちらをひきたてるための「刺激的」なコピーであるのは明らかだろう。

岳物語 椎名誠
 (2010年コピー)”おとう”はいつだって息子を見守っている。
 (2011年コピー)元気いっぱいな坊主頭を父はこんなに楽しんでいる。

 コピーから「おとう」が消えて「父」になった。また、解説でも「シーナ家」が「椎名家」に変わっている。今年の解説やコピーを書いた担当者は、椎名誠の読者ではないことがわかる。あるいは、ターゲットとなる中高年にとって「椎名誠とは何者か?」という時代がやってきたという現実を見据えた担当者配慮なのかもしれない。いずれにしろ、ちょっと寂しい。

東京バンドワゴン
 (2010年コピー)東京下町の古本屋。ワケあり大家族の大騒動。
 (2011年コピー)懐かしくて、温かい下町大家族の春夏秋冬。

 ふーむ。とくに「わかりやすいコピー」に変更しようとしているわけでもないのか。

正義のミカタ 本多孝好
 (2010年コピー)ぼくは負け犬でも、いじめられっ子でもない。
 (2011年コピー)ださい。でも、よかった。それが、僕のやり方だ。

 今年のコピーはもたついて分かりにくくなっているように見える。でも、実は解説文がとってもコンパクトにまとまっていて、それでいて昨年の文章よりも具体的でわかりやすくなった。その分、コピーは煽りが効いた言葉に変わったわけだ。

MOMENT 本多孝好
 (2010年コピー)人は人生の終わりに誰を思い、何を願うのか。
 (2011年コピー)人生最期の願いは復讐? 告白? 愛されること?

 昨年のコピーは観念的すぎる。主人公の具体的な願いを列挙した今年のコピーはわかりやすい。

[今年新たに入った本(61冊)]
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木  江國香織
夢十夜・草枕  夏目漱石
僕は運動おんち  枡野浩一
坊っちゃん  夏目漱石
働く女  群ようこ
水滸伝 (一) 曙光の章  北方謙三
神々の山嶺(上・下)  夢枕獏
真夜中のマーチ  奥田英朗
笑う招き猫  山本幸久
黒笑小説  東野圭吾
荒野へ  ジョン・クラカワー
君に舞い降りる白  関口尚
確かに生きる おちこぼれたら這い上がればいい  野口建
王妃の館(上・下)  浅田次郎
もものかんづめ  さくらももこ
スローグッドバイ  石田衣良
さよならをするために  唯川恵
さくら日和  さくらももこ
あの頃ぼくらはアホでした  東野圭吾
ZOO(1、2)  乙一
瑠璃でもなく、玻璃でもなく  唯川恵
楊令伝(一)玄旗の章  北方謙三
平成大家族  中島京子
風花  川上弘美
舞姫  森鴎外
鳩の栖  長野まゆみ
凍える月(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season V)  村山由佳
池上彰の大衝突 終わらない巨大国家の対立  池上彰
知的な痴的な教養講座  開高健
逝年  石田衣良
精神科ER―鍵のない診察室  備瀬哲弘
生きること学ぶこと  広中平祐
清兵衛と瓢箪・小僧の神様  志賀直哉
人生がラクになる心の「立ち直り」術  斎藤茂太
進学電車〜君と僕の部屋〜  みゆ
新選組 幕末の青嵐  木内昇
消せない告白(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season V)  村山由佳
小説こちら葛飾区亀有公園前派出所  秋本治・原作
十七歳だった  原田宗典
失われた森  レイチェル・カーソン
腰痛探検隊  野秀行
午前0時の忘れもの  赤川次郎
午後の音楽  小池真理子
鼓笛隊の襲来  三崎亜記
九時まで待って  田辺聖子
九つの、物語  橋本紡
奇跡  岡本敏子
怪盗ルパン 奇巌城  ルブラン
科学の扉をノックする  小川洋子
マゾヒズム小説集  谷崎潤一郎
マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン  小路幸也
プリズムの夏  関口尚
ひゃくはち  早見和真
なげださない  鎌田實
しのびよる月  逢坂剛
さよならの微熱  加藤千恵
ぐうたら社会学  遠藤周作
おれたちの街  逢坂剛
おばさん未満  酒井順子
あの空の下で  吉田修一
8年  堂場瞬一


[今年消えた本(73冊)]
明日の約束(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season ll)  村山由佳
本当はちがうんだ日記  穂村弘
聞き屋 与平 江戸夜咄草  宇江佐真理
氷姫  カミラ・レックバリ
美晴さんランナウェイ  山本幸久
白夜行  東野圭吾
白い手  椎名誠
二十億光年の孤独  谷川俊太郎
注文の多い料理店  宮沢賢治
銭売り賽蔵  山本一力
千年樹  荻原浩
昔の恋人  藤堂志津子
青のフェルマータ  村山由佳
精神科ER―緊急救命室  備瀬哲弘
硝子のドレス  北川歩実
少年少女漂流記  古屋x乙一x兎丸
小悪魔A  蝶々・伊東明
女櫛  平岩弓枝
初恋温泉  吉田修一
春日局  杉本苑子
十五少年漂流記  ジュール・ヴェルヌ
蛇行する川のほとり  恩田陸
蛇にピアス  金原ひとみ
失われた町  三崎亜記
光の帝国 常野物語  恩田陸
幻夜  東野圭吾
肩ごしの恋人  唯川恵
君に届け  下川香苗
空をつかむまで  関口尚
空は、今日も、青いか?  石田衣良
救命センターからの手紙  浜辺祐一
機関車先生  伊集院静
漢方小説  中島たい子
海を抱く  村山由佳
回想電車  赤川次郎
夏から夏へ  佐藤多佳子
汚れつちまつた悲しみに……  中原中也
永遠の放課後  三田誠広
映画篇  金城一紀
異国トーキョー漂流記  高野秀行
悪党たちは千里を走る  貫井徳郎
愛してよろしいですか?  田辺聖子
ローマから日本が見える  塩野七生
ももこの話  さくらももこ
マリア様がみてる  今野緒雪
マイナス・ゼロ  広瀬正
ベリーショート  谷村志穂
ハニー ビター ハニー  加藤千恵
ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎噺  田中啓文
はちノート絵日記  集英社文庫編集部編
なつのひかり  江國香織
トラちゃん  群ようこ
となり町戦争  三崎亜記
でかい月だな  水森サトリ
でいごの花の下に  池永陽
チェ・ゲバラの遙かな旅  戸井十月
たけくらべ  樋口一葉
たいのおかしら  さくらももこ
ダーティ・ワーク  絲山秋子
そうだったのか!中国  池上彰
スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン  小路幸也
ショートソング  枡野浩一
シャーロック・ホームズ傑作選  コナン・ドイル
ジャージの二人  長嶋 有
グラビアの夜  林 真理子
くちぶえサンドイッチ  松浦弥太郎
がんばらない  鎌田實
オリガ・モリソヴナの反語法  米原万里
オー・マイ・ガアッ!  浅田次郎
いつか白球は海へ  堂場瞬一
あなたへの日々  唯川恵
1ポンドの悲しみ  石田衣良
「捨てる力」がストレスに勝つ  斎藤茂太

(2011/9/7初出)
posted by アスラン at 12:49 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月29日

「発見!角川文庫2011」VS「発見!角川文庫2010」(再掲載)

[タイトル・表紙]
  今年は、昨年に引き続き「ハッケンくん」のイラストの表紙だ。これまでは新潮文庫に追従することを常とした角川だった。たとえば新潮100冊の「Yonda!「」(パンダのもじり)をパクって「カバのディスくん」(ディスカバーのもじり)という趣向のキャラクターだったのに、昨年突如としてオリジナルの路線に大変革を行い、「夏の文庫」フェアのファンを驚かせた(驚いたのは、ここにいる約1名だけかもしれないが…)。

角川文庫表紙2011年.jpg 表紙2010(角川).jpg

 しかし、今年の「ハッケンくん」は、あまり個性的なコンセプトを抱え込んでいるとは言いがたい。薄いと言ってもいい。何しろ、表紙には大きくシロクマが描かれて、「本屋さんには出会いがある」とのコピーが付されているので、いったいどんな発見が待ち受けているのだろうかと扉をひらくと、そこにはシロクマだけでなくアザラシやペンギン、クジラ、はてはマンモスとの「出会い」があることがわかる。真夏のジリジリとした暑さの中、ヒンヤリとした極地での光景は、僕ら読書人の目を楽しませてくれる。だが、涼しげなときめきは、ここまでだ。どんなにページを繰っても、ハッケンくんとその仲間は二度と姿を現すことはない。

 つまり、ハッケンくんもシロクマくんたちの役目も、ここでおわったのだ。「本屋さんとの出会い」とは、この見開きの絵がすべて物語るのみだ。なぜこういうことになってしまったかといえば、その秘密は今回のフェアのラインナップ自体にあるのだが、それは後回しにしよう。

[スペシャルカバー]
(A)名作×(人気漫画家&イラストレーター) 5冊
赤毛のアン
若き人々への言葉
銀河鉄道の夜
完訳ギリシア・ローマ神話
李陵・山月記

(B)人気てぬぐい店かまわぬ×角川文庫 6冊
伊豆の踊子
兎の眼
二十四の瞳
こころ
海と毒薬
羅生門・鼻・芋粥

(C)タイアップ 4冊
源氏物語 先年の謎
ビギナーズ・クラシックス源氏物語
全訳源氏物語一〜二


(A)は、昨年のハッケンくんイラストから、ナツイチガチンコ対決のスペシャルカバーに変更になった。それにしても趣向がナツイチそのままというだけでなく、「名作」と「人気漫画家(あるいはイラストレーター)」とのコラボというタイトルまで堂々とパクリっているのには、さすがにあきれてしまう。

(B)は、昨年のような「ぶんか社」御用達のアイドル写真がなくなって、てぬぐい店の和柄スペシャルカバーに大変身した。これってテイストは真逆だけれど、「新潮文庫の100冊」同様に、とってもスタイリッシュでおしゃれなカバーに仕上がっている。

(C)のタイアップは今に始まったことではない。角川文庫の本領であるメディアミックス戦略のひとつだ。

[ラインナップ]
  さきほど「ハッケンくん」のコンセプトが薄いという感触を述べたが、その原因の一端はラインナップにあると言った。今年はなんと178冊が紹介されている。昨年が105さつだったので、一気に70冊以上増えている勘定だ。そもそも100冊という仕切りは、フェアのパイオニアである新潮文庫が決めたお約束であって、他の出版社が従う義理などないのだが、なんとなく動かしがたい決まり事と化していたようだ。

 今回、角川がいわばタブーを侵して、いっきに200冊も視野に入れた冊数にラインナップを増やしたことが、果たして吉とでるのか凶となるのかは、来年の他社同行で判断すべきだろう。ただ、あらゆるジャンルで一律に冊数を増やしたりすると、「夏の文庫フェア」としての個性を無くすことになりかねないのも事実だ。100冊というの無意味なタブーではなく、フェア成功の鍵を握る一種のマジックナンバーなのかもしれない。

 ラインナップが倍増したため、当然ながら「今年入った本」は123冊(昨年は58冊)にのぼり、「今年消えた本」は例年並みの50冊(昨年は55冊)にとどまった。

[躍進した作家(17人)]
司馬遼太郎(0->3)
モンゴメリ(0->2)
江國香織(0->2)
黒木亮(0->2)
紫式部(0->2)
松本清張(0->2)
西原理恵子(0->2)
有川浩(3 ->4)
あさのあつこ(1->2)
芥川龍之介(1->2)
貴志祐介(1->2)
宮沢賢治(1->2)
山本文緒(1->2)
森見登美彦(1->2)
太宰治(1->2)
夢野久作(1->2)
柳広司(1->2)


[後退した作家(7人)]
山田悠介(6->3
川島誠(2->0)
神永学(3->2)
石田衣良(3->2)
宮部みゆき(2->1)
寺山修司(2->1)
森絵都(2->1)


 ラインナップ倍増の影響は「躍進した作家」の17人に如実にあらわれている(昨年は8人)。その中でも司馬遼太郎が大躍進した。いや、躍進とはおこがましい。復権がふさわしい。例のNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」の影響か?はたまたTBSドラマ「JIN(仁)」に出てくる魅力的な幕末の人物の中でも特に光彩を放つ坂本龍馬の人気沸騰によるものか?

 さらに注目は、やはり有川浩だ。ずっと言い続けてきたが2008年の初エントリー以後、1->2->3->4と、またまた今年冊数を伸ばした。「図書館戦争」シリーズの文庫刊行によって、まさに頂点を極めた。

 一方、山田悠介と角川文庫との蜜月も、ようやく終わりを告げようとしている。昨年の6冊が、なんとも持ち上げすぎの感が否めなかったが、今年は半分の3冊に減った。それでもまだ3冊もラインナップされているから、決して少なくはない。

 新しく入った作家81人(昨年は29人)
 消えた作家14人(昨年は31人)


 何と言っても81人という数は大きい。そのうちで「躍進した作家」に含まれる7人を除いた76人は一冊ずつしかラインナップされていない。つまり、作家のめんつに特徴があるというより、あらゆるジャンルの作品を満遍なく厚くしたという感じだ。一方で「消えた作家」がいないわけではない。これだけ冊数を増やしたのだから、消えてしまうのはお気の毒というしかない。

[消えた作家(14人)]
鈴木光司
滝本竜彦
大槻ケンヂ
瀬尾まいこ
森博嗣
新堂冬樹
笹生陽子
加納朋子
乙一
阿佐田哲也
ヘルマン・ヘッセ
ジャン・コクトー
川島誠


[キャッチコピー・解説]
銀河鉄道の夜 宮沢賢治
 (2010年コピー)星祭りの夜に銀河を駆ける、勇気を取り戻す旅
 (2011年コピー)悲しい気持ちを抱え、銀河鉄道に乗った少年は?


 ひとことでいうと「わかりやすくなった」。昨年もターゲットの低年齢化への対応はみられたが、今回ははっきりとターゲットにあわせて、コピーも解説も平易な文章に書き改められた。昨年のコピーはそもそも文章がおかしいと指摘したが、それは短いコピーの中で内容を解説しようとしすぎた担当者の気負いから来たものだろう。もっと力をぬいて楽になってしまえば、あとはターゲットである少年少女に丸投げしてしまえばいい。

 というわけで、今年のようななんの変哲もない、しかし彼らの心をくすぐる問いかけとなった。もう一つの指摘をしておくと、「最高の傑作」という無駄な惹句が消えた。たかだか十数年しかこの世に生を受けていないターゲットの少年少女には意味をなさないフレーズだというだけではない。大げさにいえば「歴史(文学史を含む)」に対する倫理(モラル)を問わないということでもある。解説はいつだって目の前にいる読者のためにあるわけだが、同時に多くの作家たちが培ってきた文学の歴史をふまえたものでなくてはならない。それが、おそらくは出版社としての倫理である。それが、これまでの「発見!角川文庫」のコピーや解説をつまらなくさせてきた大きな一因であるが、ターゲットを中高生に絞ったことで「歴史」はひとまず棚に上げて、「本を手にとって読んでもらう」までが、少なくとも夏の文庫フェア編集部の重大な責務だとようやく気づいたということだろう。

 では、そんなにコピーが以前と変わったのか、順を追ってみていこう。たとえば、和柄スペシャルカバーとなった6冊は、すべて2010年のフェアにもラインナップされていたので、すべてを比較してみる。

伊豆の踊子 川端康成
 (2010コピー)ノーベル賞受賞の文豪が描くみずみずしい恋物語
 (2011年コピー)踊子を好きになった高校生の恋の行方はー


 「ノーベル賞」とか「文豪」とか、確かに中高生には無用な形容かもしれないが、旧制高校生の若者を、いっきに今の高校生と同等に扱っていいものか。ここまで変えるかぁというのが正直な感想だ。しかも解説では「生きることがつまらなくて、卑屈な自分が嫌になった彼は伊豆へ一人旅に出かけ、…」とある。これでは格調もへったくれもない。

二十四の瞳 坪井栄
 (2010年コピー)戦争を超えて続く、教師と教え子の温かい交流
 (2011年コピー)みんなを巻き込んだ戦争は不幸と悲しみしか生まない!


 当然のことながら「教師と教え子の温かい交流」が描かれていることは解説を読めばわかる。だから、どうひきつけたいかでコピーはここまで変わるという見本みたいな変わり様だ。ただし、今年の「戦争が不幸と悲しみしか生まない」という、いわば当たり前にことを、当たり前だと思えない世代に伝えることの難しさが、今回のコピーには感じられる。

兎の眼 灰谷健次郎
 (2010年コピー)小学1年生を担任する新米教師の奮闘記
 (2011年コピー)先生はみんなの力を借りて君の心を開いてみたい。


 主人公の新任教師の心のうちに感情移入したコピー。これはコピーとしては強力だ。前年のが悪いというのではないが、「奮闘記」という言葉に心が動かない若い世代に対して届く表現に変えている。ところで、僕はずっと本書の教師とは、熱血青年だと想像していたのだが、今年の解説ではじめて主人公が女性だと気づいた。(「新任教師小谷菜美の悩みのタネは…」)

こころ
 (2010年コピー)「先生」の目を通して、エゴイズムとは何かを問う。
 (2011年コピー)あなただったら恋と友情どちらを選ぶ?


 2009年に初めてキャッチーなコピーになって、次の年には「エゴイズムとは何か?」を描いた小説という従来のコピーに戻ってしまった。残念だなと思っていたら、今年はキャッチーを通り越して、「ぶっちゃけ、どうよ?」みたいなコピーになってしまった。ただし、中高生向けのコピーとしては悪くはない。気に食わないのは解説の方だ。「恋人を手に入れるために親友を裏切り、自殺に追いやった過去が語られていた」という文章を先走りすぎている。親友Kを裏切ったことは確かだが。それがもとで自殺したのかは、今もって意見が分かれるところだ。そう言えれば単純になるが、作者はいろいろな解釈ができるように書いているはずだ。この解説、著者に対してあまりに僭越ではないでしょうか?
(ところで、ホンの些細な指摘だが、今年からようやくタイトルが「こゝろ」から「こころ」に改められた。ちょっと遅すぎるくらいのタイミングだけれど、いいんじゃないんですか。)

海と毒薬 遠藤周作
 (2010年コピー)罪とは何か?罪責意識をあらためて問いかける。
 (2011年コピー)俺のやったことは罪なのだろうか…?


 いやー、やっぱり主人公に感情を移入したコピーというのは強烈だ。しかも、この吐露はちょっとすごい。一言でぐっと胸をわしづかみされたようなコピーだ。

羅生門・鼻・芋粥 芥川竜之介
 (2010年コピー)「今昔物語」を題材にした表題作を含む初期短編集
 (2011年コピー)荒れ果てた羅生門の上で男が見たものはー


 昨年のコピーが中高生には全く意味のない文言だということは、誰でもわかるだろう。「今昔物語」が何かを知るのは、文学好き、古典好きの一部の少女だけだ。では芥川の短編は、作品の元となった古典を知らねば読めない作品だったのか。そうではないはずだ。古典や文学というハードルを乗り越えてでも読む甲斐がある「人間ドラマ」を読ませるのは、まずは今年のようなコピーが必要なのだ。

[今年新たに入った本リスト(121冊)]
図書館革命
図書館危機
図書館戦争
図書館内乱
パーティ
パズル
鳥人計画
夜明けの街で
探偵倶楽部
司馬遼太郎の日本史探訪
新選組血風録
豊臣家の人々 新装版
SPEED
GO
ジョーカー・ゲーム
少女地獄
走れメロス
四畳半神話大系
ファースト・プライオリティ
恋愛中毒
セロ弾きのゴーシェ
黒い家
蜘蛛の糸・地獄変
晩夏のプレイボール
できるかな
この世でいちばん大事な「カネ」の話
蔵の中
松本清張の日本史探訪
全訳 源氏物語一 新装版
全訳 源氏物語二 新装版
巨大投資銀行(上)(下)
トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て
泣く大人
冷静と情熱のあいだ Rosso
青い城
赤毛のアン
DIVE!! (上)(下)
ブレイブ・ストーリー (上)(中)(下)
アジアンタムブルー
地球から来た男
月魚
少女七竈と七人の可愛そうな大人
夜市
幸福な遊戯
ドミノ
ダ・ヴィンチ・コード (上)(中)(下)
フェイク
新耳袋 現代百物語 第一夜/第二夜
嘘つきアーニャの真っ赤な真実
妻は、くノ一
ツ、イ、ラ、ク
動物の値段
私という運命について
天河伝説殺人事件
テロリストのパラソル
旅人 ある物理学者の回想
人生は、だましだまし
冷静と情熱のあいだ Blu
流想十郎胡蝶剣
李陵・山月記 弟子・名人伝
僕の好きな人が、よく眠れますように
不夜城
西郷隆盛
テンペスト 第一巻〜第四巻
グーグーだって猫である!
感傷の街角
不思議の扉 時をかける恋
霧笛荘夜話
長い腕
私はゲゲゲ 神秘家水木しげる伝
神谷美恵子日記
山椒大夫・高瀬舟・阿部一族
価格破壊
万能鑑定士Qの事件簿1
墓地を見おろす家
刺繍する少女
氷川清話 付勝海舟伝
退出ゲーム
わくらば日記
RIKO −女神の永遠−
甲賀忍法帖
ぼくがぼくであること
空気の発見
氷点
町医 北村宗哲
悪果
青年社長
源氏物語 千年の謎
コクリコ坂から
僕とおじいちゃんと魔法の塔 (1)
知識人99人の死に方
人間椅子
遠い海から来たCOO
二人の彼
文庫版 豆腐小僧双六道中ふりだし
オール1の落ちこぼれ、教師になる
脚本 コクリコ坂から
ぼっけえ、きょうてえ
グレートジャーニー 人類5万キロの旅1 嵐の大地パタゴニアからチチカカ湖へ
論語 ビギナーズ・クラシックス
チョコレートコスモス
八つ墓村
雷桜
英傑の日本史 新撰組・幕末編
いつか、虹の向こうへ
心の傷を癒すということ
粘膜蜥蜴
楽しい古事記
怪談・奇談
アフガンの男
若き人々への言葉
新版 人生論
完訳 ギリシア・ローマ神話(上下)
動物農場
星の王子さま
青春とは、心の若さである。
シャーロック・ホームズの冒険
人生は廻る輪のように
脳のなかの幽霊
嵐が丘
徒然草 ビギナーズ・クラシックス


[今年消えた本(46冊)]

クジラの彼
海の底
空の中
さまよう刃
殺人の門
使命と魂のリミット
8.1 Game Land
8.1 Horror Land
オール
スピン
ブレーキ
絶対泣かない
フライ,ダディ,フライ
レヴォリューション No.3
約束
心霊探偵八雲 SECRET FILES 絆
パイロットフィッシュ
きまぐれロボット
ロマンス小説の七日間
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
雷の季節の終わりに
ピンク・バス
ユージニア
天使と悪魔 (上)(中)(下)
アーモンド入りチョコレートのワルツ
つきのふね
書を捨てよ、町へ出よう
今夜は眠れない
夢にも思わない
リング
NHK にようこそ!
グミ・チョコレート・パイン グミ編
温室デイズ
どきどきフェノメノン A phenomenon among students
動物記
楽園のつくりかた
いちばん初めにあった海
失はれる物語
麻雀放浪記 (一) 青春編
車輪の下に
怖るべき子供たち
モーターサイクル・ダイアリーズ
800
夏のこどもたち
古事記 ビギナーズ・クラシックス
万葉集 ビギナーズ・クラシックス

(2011/9/2初出)
posted by アスラン at 12:35 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月26日

2011年「新潮文庫の100冊VSナツイチVS発見!角川文庫」(再掲載)

新潮文庫表紙2011年.jpg ナツイチ表紙2011年.jpg 角川文庫表紙2011年.jpg

 ついに10月半ばになってしまった。機を逸してしまったのは致し方ないが、やっておかないと今年限りで企画自体が終了してしまう。もちろん僕がやるやらないを決めればいいことで、そろそろ惰性と化していることも事実だ。「労多くして功少ない」企画は終わらせるに限るのかもしれない。比べるのもおこがましいのは承知だけれど、イチローの年間200本安打の記録も11年目にしてついえた。ちょうどいいタイミングなのかも。

 グチはこのへんにして、今年限りになるかもしれない「夏の文庫フェア3社比較」を始めよう。毎年言ってきたが、これは3社の「夏の文庫フェア」それぞれについて昨年と今年の違いを比較調査した上で、今年の3社どうしの比較をして締めくくるというものだ。要するに3社比較とは「他のフェアと共通する作家や作品は何か?」を見ていく事が目的だ。

[スペシャルカバー]
新潮 18冊(昨年は11冊)
角川 15冊(昨年は12冊)
ナツイチ 15冊(昨年は16冊)


 「スペシャルカバーの企画は、どこが始めたか」を追求するのは難しい。期間限定カバーで売るという商売は、かなり前からあったように思うからだ。原作が映画化・ドラマ化されるたびに、表紙にワンシーンが刷り込まれる。そういうメディアミックス戦略に乗った限定カバーならばこれまでにもよくあったが、「夏の文庫フェア」とリンクして一斉に統一イメージのカバーを提供しようと考えたのは、やはり「ナツイチ(集英社文庫)」のユニークなアイディアだったと思う。私見では2007年に「文豪の名作×人気漫画家」のコラボレーションカバーが始まった。初年は「人間失格」1冊だけで読者の反応を探り、翌2008年から本格的に冊数を増やしていった。

 「発見!角川文庫」が本腰をいれてナツイチにガチンコ勝負を仕掛けてきたのが、2010年の夏だ。カバのディス君に取って代わったハッケンくんのイラストを配したカバーと、美少女アイドルを配したカバーとを合わせると12冊。オリジナリティではナツイチに勝てないからか、数で勝負してきた。

 「新潮文庫の100冊」は、ナツイチの新風にも角川の物量作戦にも影響されることなく、他社とは全く違ったスタイリッシュで大人受けするデザインのカバーで、老舗のブランド力を見せつけてくれた。それが2008年。翌年から冊数を10冊に増やした上に、毎年順繰りにスペシャルカバーにする作品を入れ替えていく。スペシャルカバーの企画は定番化したが、カバーにする作品そのものへのこだわりはほとんどない。

[3社共通作品(3冊)]
星の王子さま サン=テグジュペリ
人間失格 太宰治
こころ 夏目漱石


 「人間失格」と「こころ」の3社共通作品ランクインの連続記録は、今年も途切れることはなかった。もちろん高校の読書感想文の課題図書とリンクした王座であるからには、各社とも2作をはずすことは当分ないだろう。とすると、3社共通作品の定位置をおびやかす作品は今後も出てきそうにない。今年の「星の王子さま」とて、偶然の一致の賜物に過ぎない。昨年は「十五少年漂流記」、一昨年が「銀河鉄道の夜」だったというわけだ。「十五少年」も「銀河鉄道」も確かその年のスペシャルカバー企画と連動していて、偶然以外の要素も絡んでいた。では今年の「星の王子さま」は、何故に3社共通になれたのでしょう?

 ひょっとして震災があった事と関係してるかな?「こころ」や「人間失格」で人間の奥底にある醜さを真正面で見据えることも大事だけれど、こんな時期こそ「本当に大切なもの」を若い読者に考えてもらいたいという、大人たちの希望なのかも。

 ところで「星の王子さま」を読むならば、どの出版社の翻訳を選ぶべきだろうか。僕ぐらいの歳になると岩波書店の児童書しか選択がなかった。ここはひとつ訳者で選んでみるのが、本書にふさわしい仕草というものだろう。

(新)河野万里子(1959年-)
(角)管啓次郎(1958年-)
(ナ)池澤夏樹(1945年-)

 河野さんは上智大フランス語学科卒。最近では新潮社版フランソワ・サガン「悲しみよこんにちは」の新訳を手がけた。管さんは比較文学者にして詩人という経歴。翻訳業という点では見劣りがするが、エッセーや批評文の書き手としては、若島正や松浦寿輝がほめちぎるほどの達人らしい。池澤さんは言わずとしれた小説家であり詩人。アメリカ文学に造詣が深く、全集も監修してしまう程の力量だ。で、僕自身は管さんの翻訳を試してみたい気がした。もちろん3社の訳すべてを試してみるというのもおもしろそうだ。

[2社共通作品(12冊)]
(新潮・角川)
変身 フランツ・カフカ
不思議の国のアリス ルイス・キャロル
鳥人計画 東野圭吾
蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介
走れメロス 太宰治
赤毛のアン モンゴメリ
十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ
山椒大夫・高瀬舟 森鴎外
伊豆の踊子 川端康成
シャーロック・ホームズの冒険 コナン・ドイル

(ナツイチ・角川)
坊っちゃん 夏目漱石
銀河鉄道の夜 宮沢賢治


 2社共通作品の数も、昨年並みで増減はあまりない。前々から指摘しているが、2社で共通する作品というのは、国内でも海外でもスタンダード(古典)の地位を占めている作品がほとんどだ。現代の作家で複数のフェアを渡り歩いている人はいるが、作品が他社と共通する例は、僕が知る限り「キッチン(吉本ばなな)」しかない。「キッチン」はそもそもが福武書店(現・ベネッセ)から出版され、福武書店が書籍出版の事業から撤退したのを機に、角川と新潮から同時期に再出版されたという事情があった(その「キッチン」も、今年ついに姿を消した。残念だ)。ならば東野圭吾の「鳥人計画」は、どういう理由で出版社の囲い込み戦略をすり抜けたのだろう。すごく不思議だ。

 もう一点、消えていった本について。「人間失格」「こころ」ほど定番とは言えないが、終戦記念日を抱えた夏休みにふさわしい本が、ついに共通作品の地位から滑り落ちた。壺井栄「二十四の瞳」だ。「戦後」の呪縛から解放されたと喜ぶべきなのだろうか。若い世代から「戦争」そのものが風化してしまった事を嘆くべきなのだろうか。もし後者だとしても、もちろん若い世代には何の責任もない。伝えなくてはいけないのは僕ら大人なのだから。

[3社共通作家(16人)]
サン=テグジュペリ
東野圭吾
遠藤周作
江國香織
小川洋子
森鴎外
森絵都
浅田次郎
田辺聖子

伊坂幸太郎
赤川次郎
石田衣良
恩田陸
太宰治
夏目漱石
宮沢賢治
宮部みゆき



 今年3社共通に入った作家を太字にした。と言っても常連ばかりだと言っていい。

[作家ランキング(ラインナップ数)]
夏目漱石 7
東野圭吾 7
石田衣良 6.2
太宰治 5
有川浩 5
恩田陸 4.14
安部公房 4
伊坂幸太郎 4
宮沢賢治 4
宮部みゆき 4
江國香織 4
司馬遼太郎 4
神永学 4


 二年連続でトップだった石田衣良が3位に後退した。夏目漱石が貫禄のトップに躍り出た。漱石は本ランキングの常連だが、当代の流行作家たちをおさえてトップになる事はかつてなかった。単なる「文豪の名作(スタンダード)」というだけでなく、「草枕」という作品に注目が集まった事が、漱石躍進の原因の一つのようだ。僕はよく知らないのだが、人気小説「神様のカルテ」の中で漱石の「草枕」が重要な位置を占めていたらしい。

 東野圭吾は、ミステリー作家としてだけでなく流行作家としての充実期を迎えたようだ。ミステリー以外にいろいろな作品が書ける器用さ・多作さが、このランキングに入る前提ではあるが、やはり誰もが読みたがるミステリー作家であるという点が、東野の真の強みだろう。石田衣良しかり、恩田陸しかり、宮部みゆきしかりだ。

 そんな中でも注目株は、やはり有川浩だ。この人は、ランキングの流行作家の中でもミステリーに軸足を置いていない唯一の作家と言ってもいい。だが、作品のバリエーションはもっとも多い作家かもしれない。石田衣良のような器用さを持ち合わせ、さらにはバリエーションで上回る。今後もランキング上位をねらえる作家だ。

[作家ランキング(スタンダード)]
サン=テグジュペリ 3.00
太宰治 2.50
コナン・ドイル 2.00
ジュール・ヴェルヌ 2.00
フランツ・カフカ 2.00
ルイス・キャロル 2.00
川端康成 2.00
夏目漱石 1.75
モンゴメリ 1.50
芥川龍之介 1.50
森鴎外 1.50


 ラインナップ数を単純に本の数(異なり数)で割ったのが、本ランキングを計る「スタンダード指数」となる。ラインナップ数の多い少ないに関わらず、他社と共通する作品が多く、かつ他社と共通しない作品が少ない作家ほど上位にくる。日本の作家では文豪と言われる作家たちがランキングされるのは言うまでもない。海外の作家を見ると、フェアに入りそうな超有名な作品がたかだか一冊しかない作家がランキングの上位にくる。

 夏目漱石が珍しく低調なのは、今年は「こころ」以外の作品が出版社ごとに割れた事からだ。新潮社は、例年の「坊っちゃん」ではなく「吾輩は猫である」をもってきたし、ナツイチは「坊っちゃん」以外の3冊目として「草枕」を入れてきた。

[キャッチコピー]
 3社共通作品3冊およびのあわせて10冊について、キャッチコピーの比較をしてみよう。

星の王子さま サン=テグジュペリ
(新)心の砂漠がオアシスに変わる。世界中で愛された魔法の1冊
(角)王子の言葉ひとつひとつに気持ちが癒される
(ナ)ぼくの小さな星は きみの友だちになる


 さて、どれが一番いいコピーでしょう?いや、まず一つ脱落させるならばどれでしょう。角川だろうな。ここには読者をひきつける魔法の言葉が一つもないからだ。次はナツイチか。「小さな星が(きみの)友だちになる」という事は、煎じ詰めれば新潮の「オアシスになる」と同義だと思うのだが、やはり表現の飛躍が感じられる。最後に残るのは新潮という事になるのだが、後半の「世界中に愛された…」が余計だろう。

人間失格 太宰治
(新)この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される。
(角)ひとりの人間として人と共に生きるとは?
(ナ)人間失格なのは、葉蔵か?太宰自身か?


新潮のコピーの威力は相変わらずだが、ナツイチのリニューアルコピーはなかなかにセンセーショナルだ。この作品を脱稿した直後に玉川上水で心中をしてこの世を去った太宰一個人の資質が問われるべきなのか、それとも人間そのものの本質が問われるべきなのかを、この本から読み取ってほしいという、ナツイチ編集部の意欲が感じられるのだ。

こころ 夏目漱石
(新)恋か。それとも友情か。あなたはどちらを選びますか?
(角)あなただったら、恋と友情どちらを選ぶ?
(ナ)恋と、友情。選ぶことができますか?


 おお、こりゃびっくりだ。今年は3社そろって「恋か友情か」という二者択一の物語として、この本を読めと言い切っているからだ。本書は「人間のエゴイズム」をテーマにした作品である事は言うまでもないが、キャッチコピーで「エゴイズム」にふれると、どうしても「ぶっちゃけ、恋か友情か」式のコピーに比べて見劣りがしてしまう。だからって、こうまで同じコピーにしちゃうっていうのは、3社ともになんか芸がないなぁ。

変身 フランツ・カフカ
(新)読み始めて「なぜだ?」と思い、読み終えて「なぜだ!」と叫ぶ。
(角)目が覚めたら自分が巨大な毒虫に!?


 新潮のコピーが秀逸なのは以前にふれたが、今年プチ・リニューアルした。昨年までは

 (2010年)読み始めてすぐに「なぜだ?」と思い、読み終えた直後に「なぜだ!」と叫ぶ。

だったのだ。「すぐに」と「直後に」を入れるか入れないかはリズムの問題。なぜ「すぐに」を二度繰り返さなかったのかは、新潮担当者のささやかなこだわりだろう。でも今年は、各社ともにコンパクトに字数を切り詰めて少しでも「読みやすく」を心がけてきた。その結果が今年のコピーだ。もちろん〈リズム〉も〈こだわり〉も重要だと理解した上で、今年の切り詰め方は納得だ。

 一方、角川も切り詰めを行った。昨年のコピーは「目が覚めたら、自分が褐色の巨大な毒虫に!?」で、「褐色の」がリストラされた。なるほど切り詰めようと思えばどんどん切り詰められるものだ。

不思議の国のアリス ルイス・キャロル
(新)日常から逃げたいと思っているあなた。あなたこそがアリスかも。
(角)白ウサギやチェシャーネコが活躍する、不思議の世界


 またまた角川には分が悪い勝負だ。角川のコピーが何一ついいところがないのはおわかりだろうか。作品について「不思議の世界」という一言しか言えていない。白ウサギもチェシャーネコも、一読していなければなんのこっちゃわかりません。新潮のコピーはストレス過多の日常を送っている誰の心にも響くナイスなコピーだ。

鳥人計画 東野圭吾
(新)錯綜した謎が解ける瞬間の爽快感、これぞ東野ミステリーの醍醐味。
(角)容疑者は誰? 驚きの計画が明かされる


 新潮は、これまでほとんど東野圭吾をフィーチャーしてこなかった。そもそも文庫化された本が「超・殺人事件」以外になかったからだ。「鳥人計画」が初めて新潮100冊に入ったのが2009年。一年置いて今年も入り、角川との共通作品となった。新潮のコピーは、東野圭吾の本を紹介できる喜びに満ちている。

「蜘蛛の糸・杜子春(新)」「蜘蛛の糸・地獄変(角)」 芥川龍之介
(新)けっしてふりむいてはいけない、必ず、そんな時がきます……。
(角)地獄から極楽へ続く蜘蛛の糸に、罪人が群がり……


 新潮は「杜子春」、角川は「蜘蛛の糸」についてのコピー。新潮のように「だからどうすべきなのか」と読者に考えさせる一言に、僕らの心は鷲掴みにされる。角川の方は導入部を要領よくまとめて「お代は見てのお帰り」式のオーソドックスな呼び込みだ。引きつけられはするが、グッと胸に迫っては来ない。

走れメロス 太宰治
(新)友情を、青春を、愛を描く。太宰は、21世紀を生きる僕たちの心に迫る。
(角)大切な親友のためなら自分の命をかける!


「走れメロス」ほど表と裏がある作品もそうそうない。「人間失格」というやっかいな遺書を残してさっさとこの世を見限ってしまった作家が、およそ書きそうにない作品だからだ。だからこそ、そこに描き込まれた登場人物たちの「友情」や「青春」や「愛」は、太宰がもっとも「人間を信じたい」と思った頃の切実な叫びだと考えねばならない。そこに思い至らずに「自分の命をかける!」などと軽々しいコピーがどうしてできるのだろうか?

赤毛のアン モンゴメリ
(新)美人じゃないけど最高にカワイイ!アンは女の子の永遠の憧れです。
(角)男の子を引き取ったはずなのに 現れたのは、赤毛でそばかす顔の女の子!?


 「赤毛のアン」は一連の名作アニメの一つとして長くテレビで愛されてきたせいもあって、原作を読まずしてストーリーを見知っている若い世代が多いのかもしれない。それを意識してか、新潮の「最高にカワイイ!」や「女の子の永遠の憧れ」という決め台詞にしびれる女子は多いだろう。角川の方は、相変わらずオーソドックスな呼び込みではあるが、原作のおもしろさの要点をうまく突いている。アンを養子にした夫婦は、働き手となる事を期待して男の子の養子を希望したのに、手違いでアンがやってくる。ダメダメな逆境を乗り越えてしまうところに、読者は「最高にカワイイ」女の子を見いだすはずなのだ。

十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ
(新)必要なものは、勇気と知恵、そして仲間。
(角)無人島に流れついた、15人の少年たちの冒険


 新潮はずいぶんと言葉を切り詰めてきた。昨年後半の「子どもたちだけで、どこまでやれるか」をバサッと切り捨てた結果、物語のエッセンスを言い切ったコピーとなった。角川の方は、コピーの存在意義について考えさせられる好例だ。ふんふん、これってタイトルを読めばわかるんじゃないの?「15人の少年」が「漂流」した物語なんだから。

「山椒大夫・高瀬舟(新)」「山椒大夫・高瀬舟・阿部一族(角)」 森鴎外
(新)「安楽死」はそれでも罪ですか?答えの出ないギリギリの選択。
(角)人間解放や武士の運命……さまざまな生き方を描く


 いやはや、僕って鴎外読んでないんだなぁ。「安楽死」を扱った小説ってどれですか?「山椒大夫」?それとも「高瀬舟」?そんな現代的なテーマだったなんて。個人的には新潮のコピーは「鴎外を読みたい」と素直に思わせてくれた。一方、角川のコピーは…。そうそう、そうなんだ。武士など往時の人々のさまざまな人生を描く。そういうイメージなんだよね、鴎外の作品って。だからなかなか触手が伸びない。このコピーで中高生は読みたいって思うかな?

伊豆の踊子 川端康成
(新)旅の終わりにひとすじの涙……これが孤独なぼくの初恋なんだ。
(角)踊子を好きになった高校生の恋の行方は−


 まずは角川のコピーから吟味しよう。なぜなら僕から言わせれば「このコピー、ありえない!」からだ。「踊子を好きになった?」「高校生?」「恋の行方?」そんないいかげんなコピーで川端作品を読ませようとしたら、あとで必ずしっぺ返しを食うぜ。一度読めばわかるが、幼い踊子が旧制中学のエリート学生に対してほのかな恋慕をいだくというのが物語の始まりだ。主人公の青年が踊子を無視できないのは、自らの出自にまつわる孤独とエリート故の将来への不安などを抱えて旅する彼の沈んだ心を、踊子の無邪気な恋慕が癒してくれたからだ。と同時に、踊子の行く末と自らの将来を比して、社会の矛盾の一端に触れてしまうというモチーフも見落とす事はできない。つまりは角川のコピーはデタラメなのだ。

シャーロック・ホームズの冒険 コナン・ドイル
(新)赤毛連盟? まだらの紐? イギリスを名探偵と駆け巡れ!
(角)ホームズとワトソンが難事件を解決!


 えーと、またまた言ってもいいですか?タイトルと言ってる事おなじなんですけど、角川さん。まあ確かにワトソンとの名コンビで「難事件を解決!」という点は付け加えてるには違いないけど…。なんか他にないのかなぁ。新潮のコピーとの違いを説明するので考えましょうね。

 「赤毛連盟」「まだらの紐」といったタイトルは未読の人には何の意味もない。さきほど「不思議の国のアリス」で角川のコピーがだめだと指摘したのと同じ批判が当てはまりそうだが、今回はそうではない。ホームズのようなミステリーは小学校の図書室に完備しているだろうから、児童文学(ジュブナイル)で読んだ人も多いはずだ。そういう人ほど、大人向けのオリジナルを読んで新たな感銘を受けてほしいのだ。それがイギリスという国を、ロンドンという都会を、改めて知る事にもなる。

坊っちゃん 夏目漱石
(角)江戸っ子の坊っちゃんが四国・松山で大暴れ!
(ナ)時代を超えて愛される無鉄砲教師の痛快物語。


 これはもう何度も言ってるけれど、「坊っちゃん」という作品には「痛快」な場面など一つもない。もしそう感じるとするならば、それはドラマ化されたテレビの影響だ。だが、明らかに「時代を超えて愛される」なにものかを漱石が描いた事は確かだ。父母からは厄介者と疎まれ、江戸っ子の気位だけを抱えて、松山の田舎へと都落ちした次男坊の鬱屈こそが、「自分こそが坊っちゃんだ」と主人公の行動に自らを仮託する読者を今なお生み出している。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
(新)星の空を、ひっそりと見あげたことありますか。そして涙が出ませんでしたか。
(角)悲しい気持ちを抱え、銀河鉄道に乗った少年は?


 「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治が生涯にわたって何度も書き直した作品だ。なので、おそらくは読んだ時期によって作品の印象が変わる作品かもしれない。僕はと言えば、登場人物がすべて猫で描かれる猫十字社作のマンガによって、初期型と改訂版の2つのバージョンを読んでいる。劇場版アニメになったのは後者の方だ。その作品の序盤で、いじめられる自分にも、帰ってこない父や病がちの母との生活に倦んで、ジョバンニは一人ぼっちで丘に横たわり、夜空を見上げる。なんて深く静かで寂しい風景だろう。新潮のコピーは、そんな僕の思いに共鳴する。では、角川のコピーは…。いや、それは言うまい。角川は、ジョバンニが「生きる事」の悲しさを抱えて丘に登って夜空を見上げる、まさにその場面を解説で描ききっているのだ。
(2011/10/18初出)
posted by アスラン at 19:38 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月05日

2010年「新潮文庫の100冊VSナツイチVS発見!角川文庫」

 すでに7月も終わり、ついに8月に入ってしまった。今年は連日の猛暑に当てられて、ほぼ一週間に1件の割合でしか〈夏の文庫フェア〉の比較記事をアップできていない。ようやく最後の3社比較にたどり着いた。例年の確認事項であるが、この3社比較とは「他のフェアと共通する作家や作品は何か?」を見ていく事が目的だ。さっそくスペシャルカバーから見ていこう。

[スペシャルカバー]
新潮 11冊
角川 12冊
ナツイチ 16冊


 ナツイチが先んじて始めた企画は、各社ともに10冊を超えるスペシャルカバーを用意するまでの、重要な差別化ポイントへと育ってきた。今年は一言で言えば「激戦」だ。この夏の「大手牛丼チェーン店3社」の第何次かの値下げ戦争が、ニュース番組で報じられていた。今年の文庫フェアのカバー戦争も似たような様相になった。

 他社に遅れをとった新潮文庫が巻き返しを図るべく、昨年はスペシャルカバーを一気に倍増した。ちょうど老舗の「吉野家」が生き残りを賭けて値下げを決断したかのように、「新潮文庫の100冊」は従来からのこだわりを捨てつつも、スタイリッシュで大人受けしそうなモダンなデザインのスペシャルカバーに統一したところに、老舗のプライドが感じられた。

 一方で、すき家・松屋に比すべきナツイチ・角川文庫陣営は、今年はいずれもスペシャルカバーの冊数を圧倒的に増やして、新潮文庫の数を上回った。さらに2社ともにラインナップを複数用意し、ヴァリエーションを〈売り〉にしてきた。まるで「牛丼ひとすじ」に対して、様々な定食やサービスで〈巨人〉を追い込む振興チェーン店という構図と、これまた酷似しているではないか。

[3社共通作品(4冊)]
人間失格 太宰治
こころ 夏目漱石
銀河鉄道の夜 宮沢賢治
十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ

 リザーブシートが毎年用意される「こころ」「人間失格」は別にして、3社共通作品の常連である「銀河鉄道の夜」が再び戻ってきた。また、目立ったところではヴェルヌの「十五少年漂流記」が3社そろい踏みした。いくつかの要因が考えられるが、まずは集英社がスペシャルカバーの冊数を増やした事、増やすに当たって「文豪×漫画家コラボ」に海外作品として「シャーロック・ホームズ傑作選」と抱き合わせで「十五少年漂流記」が入った事などが影響している。要は偶然か。

[2社共通作品(10冊)]
(角川・新潮)
坊っちゃん 夏目漱石
羅生門・鼻 芥川龍之介
海と毒薬 遠藤周作
二十四の瞳 壺井栄
変身 フランツ・カフカ
車輪の下(に) ヘルマン・ヘッセ

(ナツイチ・新潮)
たけくらべ 樋口一葉
星の王子さま サン・テグジュペリ
シャーロック・ホームズの冒険 コナン・ドイル

(角川・ナツイチ)
遠野物語 柳田国男

 昨年(2009年)が11冊だったので、今年もほぼ昨年並み。特徴としては、ナツイチが今年新たにラインナップすると同時にスペシャルカバーにした作品が、けっこう他社との共通作品になっている。「遠野物語」や「たけくらべ」「シャーロック・ホームズ傑作選」などがそうだ。NHKの朝のテレビ小説で水木しげるの妖怪たちが久々に脚光を浴びている事と「遠野物語」の久々の登場とは関連があると考えるのは、うがちすぎだろうか。「遠野物語」の表紙が「はち」キャラなのはどうかと思うけど…。

 今年の春にハリウッド映画として上映された事もあって、〈シャーロック・ホームズ〉シリーズは新刊ブームに沸いた。たしか角川文庫でも「シャーロック・ホームズの冒険」を新訳で出したはずだから、入れてくれれば3社共通作品となったのに残念だ。でも、そもそもナツイチだって「冒険」ではなく「傑作選」という自社独自短編集なので、本当に共通作品かどうか内容の比較が必要だ。結果は以下の通り。

シャーロック・ホームズの冒険 コナンドイル
ボヘミア王家のスキャンダル(ナ・新)
赤毛連盟(ナ・新)
花婿の正体(ナ・新)
五つぶのオレンジの種(ナ・新)
ゆがんだ唇の男(ナ・新)
まだらの紐(ナ・新)

----------
ボスコム谷の惨劇(新)
青い石榴石(新)
技師の親指(新)
独身の貴族(新)
緑桂石の宝冠(新)
ぶなの木の屋敷の怪(新)

 要するにナツイチの「傑作選」とは、「シャーロック・ホームズの冒険」所収の12の短編から6編をえりすぐったものだった。これは、ほぼ共通とみなす事にして「冒険」を2社共通作品と勝手に認定する。それにしても、ここまで同じならば、いっそのこと丸々一冊翻訳できなかったのだろうか。若い人向きに、読みやすさや買いやすさを重視したということか。

[3社共通作家(12人)]
赤川次郎
伊坂幸太郎
石田衣良
恩田陸
角田光代
太宰治
夏目漱石
宮沢賢治
宮部みゆき
柳田国男
佐藤多佳子
ジュール・ベルヌ

 今年3社共通に入ったのは、赤川次郎、角田光代、宮沢賢治、柳田国男、佐藤多佳子の五名。もっとも角田や佐藤は短編集でラインナップされているフェアもあるからオマケだ。

[作家ランキング(ラインナップ数)]
石田衣良 7.4
山田悠介 6.2
東野圭吾 6.2
恩田陸  5.14
夏目漱石 5.0
宮部みゆき 4.34
有川浩  4.2
伊坂幸太郎 4.0
宮沢賢治 4.0
太宰治  4.0

 石田衣良は昨年に続きランキングトップに輝いた。山田悠介は大躍進だが、石田衣良が3社にまんべんなく小説を書いているのと比べて、山田はもっぱら角川ばかりで優遇された結果なのだ。そういう意味では、有川浩の方が堅実にラインナップ数を増やしている。

[作家ランキング(スタンダード)]
ジュール・ベルヌ 3.0
夏目漱石     2.5
アンデルセン   2.0
コナン・ドイル  2.0
サン・テグジュペリ 2.0
フランツ・カフカ 2.0
ヘルマン・ヘッセ 2.0
遠藤周作     2.0
芥川龍之介    2.0
宮沢賢治     2.0
太宰治      2.0
樋口一葉     2.0
壺井栄      2.0

 ラインナップ数を単純に本の数(異なり数)で割った。これをスタンダード指数とみなす。要するに、ラインナップ数が多くかつ互いに共通する作品が入っている作家ほど、ランキング度が高い。当然ながら、名作家たちがランキングされている。今年はベルヌがダントツでトップだ。
 
[コピー]
 3社共通作品4冊および2社共通作品10冊のあわせて14冊について、キャッチコピーの比較をしてみよう。ただし、「二十四の瞳」「変身」「星の王子さま」の3冊は昨年とラインナップされた組み合わせもキャッチコピーにも変化がないので割愛する。

人間失格 太宰治
(新)この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される。
(角)世代を超えて読みつがれる太宰治の自伝的小説
(ナ)自伝であり、遺書でもある太宰治の最高傑作!

 角川のコピーは、昨年に一時的にキャッチーなものに変わったが、今年は反動で”説明的な”コピーに逆戻りした。そうなると角川もナツイチも似たり寄ったり。本書を太宰個人の「自伝」とみなすか、それとも新潮のように日本人の根っこにある「本質」とみなすか。

こころ 夏目漱石
(新)友情と恋と、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか…。
(角)「先生」の目を通して、エゴイズムとは何かを問う
(ナ)好きになってしまった。親友と同じ人を…。

 角川が昨年のコピーを変えたので、角川「エゴイズムを描く」VSナツイチ・新潮「親友との三角関係を描く」のどちらかを選ぶ構図になった。「発見!角川文庫2010」の比較記事に書いたが、いまさら明治の文章を読むのならば「エゴイズム」を読むより、「友情と恋愛のドラマ」を読むべきなんだろうな。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
(新)星の空を、ひっそりと見あげたことありますか。そして涙が出ませんでしたか。
(角)星祭りの夜に銀河を駆ける、勇気を取り戻す旅
(ナ)切ない物語に、心がしんとなる。

 新潮のコピーはセンチメンタルすぎる。角川は文章が変。ナツイチは説明しすぎないところが良い。おそらくはスペシャルカバーの叙情的な少年のおもかげとで互いを補い合っているような気がする。

十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ
(新)しなやかさとしたたかさ、そして仲間。子どもだけの力で、どこまでやれるか。
(角)冒険小説の元祖とも言うべき、世界的名著
(ナ)無人島で少年たちのサバイバルが始まる!

 角川のコピーは少年少女に不親切。「世界的名著?」文部省推薦図書と書かれているのと変わらない。「冒険小説?」どういうジャンルを指すんだろうか。たとえば「ワンピース」だとか「未来少年コナン」(ごめん、古い?)などの〈源流〉だとでも言えばいいんじゃない。もっと具体的な説明でお願いします。

遠野物語 柳田国男
(角)日本民俗学を開眼させた、貴重な文学作品
(ナ)神様や妖怪たちの世界が無性に懐かしい。

 柳田の偉業をたたえるべきなのか、読みたくなるようなポイントを語るべきか?答えはおのずとはっきりしている。

坊っちゃん 夏目漱石
(新)ヤンクミより、川藤先生より熱いぞ!こんな先生に習ってたら……大変かも。
(角)四国の中学校に赴任した坊っちゃんが大暴れ!

 毎年言ってると思うが、坊っちゃんはけっして「熱血教師」なんかではない。その点ではどっちのコピーも五十歩百歩。

羅生門・鼻(・芋粥) 芥川龍之介
(新)ワルに生きるか、飢え死にするか仕事をクビになった若者は考えた…。
(角)『今昔物語』を題材にした表題作を含む、初期短編集

 コピーは圧倒的に新潮の勝ちだが、昨年までの「ニキビ面の若者」という表現が「クビになった」に差し替えられて、「面白み」というと語弊があるかもしれないが、ユーモアやシニカルさが消えてしまった。

海と毒薬 遠藤周作
(新)アメリカと戦った戦争が、医学も、日本人のこころも汚してしまった。
(角)罪とは何か? 罪責意識をあらためて問いかける

 「罪責意識」とは、また難しい言葉で中高生をまどわすものだ。そもそも「罪とは何か?」という抽象的な問題を考えるための題材だっただろうか?

車輪の下(に) ヘルマン・ヘッセ
(新)いい学校に行くのだけが人生か?傷つきながらも旅立とうとする君、これを読め。
(角)将来を期待された少年を襲う、心の闇と衝撃のラスト

 中高生が、自ら抱えている悩みを主人公のそれと重ねあわせて読むというならば、新潮のコピーは格好の惹句になっている。一方の角川のコピーは、まるでミステリーか何かの宣伝文句のようだ。

にごりえ・たけくらべ 樋口一葉
(ナ)はかない想いがある。無残な恋がある。
(新)五千円札になった女性作家の声に出して読みたい小説。

 ナツイチのコピーは、なかなかの切れ味だ。これも「銀河鉄道の夜」同様に、スペシャルカバーとコピーのワンセットでバランスがとれているように思う。新潮のコピーはというと、「五千円札になった女性作家」というところに、気の利いたことを言いたがる編集者の浅知恵が見え隠れする。

シャーロック・ホームズの冒険(傑作選) コナン・ドイル
(ナ)ホームズを読まずに、ミステリーは語れない!
(新)赤毛連盟? まだらの紐? 謎だらけのイギリスを、名探偵と駆けめぐろう!

 ナツイチのコピーは「もはや、そうとは言えなくなっている」という現在のミステリーの状況を逆説的に語っている。何も古典を読まなくても、技巧的でセンセーショナルで面白いミステリーなんて掃いて捨てるほどあるではないか。だからこそ、中高生はオールドミステリーファンの心意気を読み取ろう!

 一方、新潮のコピーはさすがだ。ホームズを読んだかどうか意識せずとも、「赤毛連盟」や「まだらの紐」は、かならずなんらかの形で摂取しているはずだ。それをオリジナルの文章で読んでみる。それだけの事に、あらたな読書体験が待ち受けているはずなのだ。
posted by アスラン at 20:06 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月20日

「ナツイチ2010」VS「ナツイチ2009」

[表紙]
 メインキャラが、昨年の岡田将生・山下リオのコンビから多部未華子にバトンタッチ。なんとなく「ナツイチ」ブランドになってからというもの、同系統の女性が起用されているように思う。蒼井優・山下リオ・多部未華子。正統的な美少女、あるいは文学少女。なぜ「多部未華子」かというと、そこには単なるナツイチらしさという以外に「したたかな理由」があるが、それは後で触れよう。

表紙2010(ナツイチ).jpg ナツイチ2009.jpg

 テーマは「世界をめくろう。」だ。昨年は「はじまり。」だった。
(2006年)好きなほんんを一冊つくろう。
(2007年)ただ言葉がならんでいるだけなのに
(2008年)世界を変えよう。
(2009年)はじまり。
(2010年)世界をめくろう。

 カタカナの「ナツイチ」になってからというもの、表紙のキャッチフレーズは、一年おきに「〜ろう」「〜よう」「〜ろう」と、前向きさ・ひたむきさを追い求める。「本をよむこと」が、世界につながる〈入り口〉であり〈はじまり〉だと、終始僕らに問いかけている。永遠なるマンネリではあるが、本はティーンエイジャーを人へ、モノへ、社会へ、世界へ、と誘うツールなのだ。

[スペシャルカバー(16冊)]

(ラインナップA)
注文の多い料理店 宮沢賢治
遠野物語 柳田国男
回想電車 赤川次郎
機関車先生 伊集院静
行動することが生きることである 宇野千代
岳物語 椎名誠
幸福論 アラン
はちノート絵日記

(ラインナップB)
銀河鉄道の夜 宮沢賢治
シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル
人間失格 太宰治
汚れつちまった悲しみに 中原中也
こころ 夏目漱石
たけくらべ 樋口一葉
十五少年漂流記 ジュール・ベルヌ

(ラインナップC)
マリア様がみてる


 スペシャルカバーは昨年の7冊から一気に16冊へと倍増した。昨年はナツイチ恒例となった「文豪の名作×人気漫画家コラボ」の表紙が6冊、残り一冊が岡田将生のグラビア表紙の「生れ出ずる悩み」だった。今年も人気漫画家の手になる表紙は7冊。昨年からの持ち越しは「こころ」と「人間失格」、それに「十五少年漂流記」だ。

 あれ?「十五少年漂流記」は昨年からすでに今の表紙だったのに、なんでスペシャルカバーじゃなかったのかな。遅ればせながら今年は堂々と「ZETMAN」の桂正和×ジュール・ベルヌのコラボだと宣伝している。昨年までは国内の「文豪の名作」だったのqを、今年から「シャーロック・ホームズ傑作選」も含めて外国の「文豪の名作」を2冊増やしましたと言いたいのかもしれない。

 ラインナップAは、マスコットの「はち」たちのイラストだ。蜂は夏のリゾート地の花や木や草原をイメージさせる。夏休みの象徴と言っていい。特にコンセプトが見えるデザインではないが、とにかくほのぼのとして癒される。あれ?こうなると、角川文庫のスペシャルカバー戦略との関係が気になるなあ。こういう企画ってどこでもダブりやすいもんなんでしょうか。それとも事前に他社の企画情報が耳に入ってきて、牽制しあうものなんでしょうか?

 今年のラインナップは全部で101冊。新しく入った本が78冊、消えた本が64冊だ。全体の8割が入れ替えというのはほぼ昨年なみだ。毎度のことながら非常に高い入れ替え率だ。

[躍進した作家(3人)]
本多孝好(1->2)
三田誠弘(1->2)
村山由佳(1->2)


[後退した作家(4人)]
乙一(2->1)
関口尚(2->1)
太宰治(2->1)
林真理子(2->1)


 躍進した作家、後退した作家、あるいは「今年入った作家(36人)」「今年消えた作家(31人)」。どれをとってみても、特に何か言うべきことばが見あたらない。いつものようにたくさん作品も作家も入れ替えがあって、しかも満遍なく配分されている。文豪の割り当てが極端に増減することもなければ、作家の傾向が若向きになったかと言われれば、そういう気がしないでもない。何か切り口があるはずだが…。

 いや、「入った作家」「消えた作家」を比べてみると、なんとなく見えてきた。田辺聖子・杉本苑子・宇野千代が入り、池波正太郎・遠藤周作・開高健・吉行淳之介などが消え去っている。昭和以降のベテラン勢の入れ替えかなぁ。いや、今年は女性作家が増えているんだ。うん、間違いない。

(2010年) 女37人(45%  男45人(55%)
(2009年) 女24人(30%) 男57人(70%)


 なんと昨年の30%から45%へと、女性作家が大幅躍進だ。参院選の大小政党の群雄割拠とくらべると、男性作家党と女性作家党はいつでも二大政党の綱引きになる。どうしても男性作家の比率が高いのは、歴史的・社会的経緯があるのでいたしかたない。それを乗り越えて女性作家党が大躍進した今年は、いわゆるポリティカルコレクトな革新をねらったのだろうか。だとすると、意図的に「作品本位」を妥協しなければならかったはずだ。それが成功しているかどうかは、ナツイチどまんなかのティーンや女性読者に聴いてみなければわからない。

[コピー・解説]
 今年のナツイチは今ひとつ面白みに欠ける。たぶん、それは僕の勝手な思い込みからだ。スペシャルカバー戦略に力が入った分、肝心のキャッチコピーや本文の部分に工夫が見られなかったのだ。正確にはレイアウトの点で工夫は感じられる。昨年から導入された「読者の感想」だ。それまでの出版社側からのお仕着せのオススメポイントよりも「読者の声」の方が説得力があるし、素人っぽい感想でも読んでみようという気にさせてくれる。このアイディアが功を奏したのかもしれない。今年は「VOICE」とタイトルが付き、薄茶の背景色に黒色のフォントで、解説以上に目に入ってくる。

 一方で解説自体は少し控えめになった。少ないながらも3割ある昨年から持ち越しの作品では、ほぼコピーも解説も変更はない。ただしVOICEを際だたせるために、解説の文字数を減らす工夫を行った。それがなんとも「コンビニエンス推敲」とでも言いたくなる手際なのだ。

岳物語 椎名誠
 (2010年)シーナ家の長男・岳は、坊主頭でプロレス好き、釣り好き。…
 (2009年)「さん」をつけるほど偉くないから『おとう』で十分だ。シーナ家の長男・岳は…

娼年 石田衣良
 (2010年)…、ふとしたきっかけでボーイズクラブで働くことになる。魅惑的な大人の女性に出会い、さまざまな「性」のあり方に翻弄されながらも、年齢や見た目ではわからない女性の愛らしさ、欲望の哀しさを見出していく。
 (2009年)…、ふとしたきっかけでボーイズクラブで働く事になる。さまざまな「性」のあり方に翻弄されながらも、女性の愛らしさ、欲望の哀しさを見出していく。


 おわかりだろうか。本の解説にほとんど手を入れることなく、フレーズを削ったり、短い単語に置き換えたりするだけなのだ。

白夜行 東野圭吾
 (2010年)1973年、大阪で中年の質屋が殺されるが、…その後の人生に浮かび上がる数々の犯罪。2人の心理描写を排した、痛いほどの悲壮感が漂う…
 (2009年)1973年、大阪の廃墟ビルで中年の質屋が殺されるが、…その後の人生に浮かび上がる数々の証拠なき不審犯罪。主人公2人の心理描写を一切排した、痛いほどの悲壮感が漂う…


マイナス・ゼロ 広瀬正
 (2010年)…昭和38年の約束の日、彼が目にしたのは、銀色に輝くタイムマシンだった。わずか47歳でこの夜を去った天才SF作家の代表作。
 (2009年)…そしてその日、大人になった彼が目にしたのは、昔のままの苦く美しい"啓子さん"と、銀色に輝くタイムマシンだった。失われた昭和が鮮やかに蘇る、夭折した天才SF作家の代表作。


 こんな事(文字数の削減)ができちゃうのを目の当たりにしてしまうと、そもそも無くてはならない言葉がちゃんと書かれていたのだろうかと心配になってくる。他の本でも多数見られるのだが、同じような削り方なのでもういいだろう。

 コピーはレイアウト的な制約がなかったせいか、ほぼ手が入っていない。一冊だけ明らかに変わったのは「君に届け」だ。

君に届け 下川香苗(原作・椎名軽穂)
 (2010年コピー)この秋、実写映画化!大ヒットコミックの小説版!
 (2009年コピー)2009年秋からTVアニメ化!大ヒットコミックの小説版!

 これも「コンビニエンス推敲」と言えない事もない。いずれも感嘆符で締めくくる2フレーズからなる。いくらなんでも強調しすぎだって!昨年は原作のマンガがアニメ化され、同時にノベライズがナツイチに入った。本来ならば企画ものなので昨年限りで消えてゆくパターンの本だ。ところが、TVアニメから実写映画が作られ、秋に公開されるようだ。少なくともひと夏は越したわけだ。

 この実写映画の主役こそが、我らが多部未華子だ。表紙の項で触れた出版社の「したたかな戦略」とはまさにこれの事だ。多部さんをメインキャラに抜擢したのには、わかりやすい理由があったわけだ。さて、来年も引き続きナツイチのキャラクターをつとめるかは、この際不透明だと言っていい。

[今年新たに入った本(68冊)]

硝子のドレス 北川歩実
本当はちがうんだ日記 穂村弘
オリガ・モリソヴナの反語法 米原万里
女櫛 平岩弓枝
たけくらべ 樋口一葉
いつか白球は海へ 堂場瞬一
昔の恋人 藤堂志津子
愛してよろしいですか? 田辺聖子
ベリーショート 谷村志穂
春日局 杉本苑子
でかい月だな 水森サトリ
くちぶえサンドイッチ 松浦弥太郎
銭売り賽蔵 山本一力
夏から夏へ 佐藤多佳子
マリア様がみてる 今野緒雪
映画篇 金城一紀
ハニー ビター ハニー 加藤千恵
聞き屋 与平 江戸夜咄草 宇江佐真理
機関車先生 伊集院静
シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル
氷姫 カミラ・レックバリ
行動することが生きることである 生き方についての343の知恵 宇野千代
ダーティ・ワーク 絲山秋子
ショートソング 枡野浩一
グラビアの夜 林 真理子
あなたへの日々 唯川恵
遠野物語 柳田国男
正義のミカタ 本多孝好
救命センターからの手紙 浜辺祐一
分身 東野圭吾
鈍感力 渡辺淳一
ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎噺 田中啓文
白い手 椎名誠
ジャージの二人 長嶋 有
小悪魔A 蝶々・伊東明
汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也
そうだったのか!中国 池上彰
でいごの花の下に 池永陽
明日の約束(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season ll) 村山由佳
青のフェルマータ 村山由佳
海を抱く 村山由佳
オー・マイ・ガアッ! 浅田次郎
回想電車 赤川次郎
恋のトビラ 好き、やっぱり好き。 石田衣良 角田光代 島本理生 嶽本野ばら 森絵都
空は、今日も、青いか? 石田衣良
1ポンドの悲しみ 石田衣良
寂聴仏教塾 瀬戸内寂聴
スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン 小路幸也
はちノート絵日記 集英社文庫編集部編
美晴さんランナウェイ 山本幸久
永遠の放課後 三田誠広
失われた町 三崎亜記
「捨てる力」がストレスに勝つ 斎藤茂太
異国トーキョー漂流記 高野秀行
なつのひかり 江國香織
チェ・ゲバラの遙かな旅 戸井十月
少年少女漂流記 古屋x乙一x兎丸
トラちゃん 群ようこ
注文の多い料理店 宮沢賢治
銀河鉄道の夜 宮沢賢治
がんばらない 鎌田實
蛇行する川のほとり 恩田陸
ネバーランド 恩田陸
千年樹 荻原浩
家日和 奥田英朗
ももこの話 さくらももこ
たいのおかしら さくらももこ
幸福論 アラン


[今年消えた本(64冊)]
僕は運動おんち 枡野浩一
年下の女友だち 林真理子
トーキョー国盗り物語 林真理子
生れ出づる悩み 有島武郎
彼女の嫌いな彼女 唯川恵
漫画版 世界の歴史1 本村凌二
水滸伝 (一) 曙光の章 北方謙三
船乗りクプクプの冒険 北杜夫
救命センター当直日誌 浜辺祐一
はるがいったら 飛鳥井千砂
おれは非情勤 東野圭吾
あふれた愛 天童荒太
続・岳物語 椎名誠
男をトリコにする 恋セオリー39 蝶々・伊東明
幕末遊撃隊 池波正太郎
そうだったのか!日本現代史 池上彰
コンビニ・ララバイ 池永陽
走れメロス 太宰治
蜂蜜色の瞳おいしいコーヒーのいれ方Second Season Ι 村山由佳
天使の卵エンジェルス・エッグ 村山由佳
王妃の館(上・下) 浅田次郎
翼はいつまでも 川上健一
グリーンライン 赤川次郎
イチローイズム 石田雄太
スローグッドバイ 石田衣良
エンジェル 石田衣良
わたしの源氏物語 瀬戸内寂聴
シー・ラブズ・ユー東京バンドワゴン 小路幸也
無伴奏 小池真理子
犬のしっぽを撫でながら 小川洋子
桜さがし 柴田よしき
落花流水 山本文緒
笑う招き猫 山本幸久
雷神の筒 山本兼一
バスジャック 三崎亜記
堕落論 坂口安吾
「心の掃除」の上手い人 下手な人 斎藤茂太
王妃の離婚 佐藤賢一
泳ぐのに、安全でも適切でもありません 江國香織
姉の結婚 群ようこ
オテル モル 栗田有起
漂泊の牙 熊谷達也
焚火の終わり(上・下) 宮本輝
子供の領分 吉行淳之介
それでも やっぱり がんばらない 鎌田實
オーパ! 開高健
地獄変 芥川龍之介
蒲公英草紙 常野物語 恩田陸
エンド・ゲーム 常野物語 恩田陸
ZOO(1、2) 乙一
さよならバースディ 荻原浩
漫画版 日本の歴史1 岡村道雄
東京物語 奥田英朗
父親 遠藤周作
ベーコン 井上荒野
存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ
荒野へ ジョン・クラカワー
バスルームから気合いを込めて ジャネット・イヴァノヴィッチ
ジェイン・エア シャーロット・ブロンテ
狼王ロボ シートン動物記 シートン
もものかんづめ さくらももこ
まる子だった さくらももこ
蠅の王 ウィリアム・ゴールディング
日はまた昇る アーネスト・ヘミングウェイ
posted by アスラン at 20:25 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月12日

「発見!角川文庫2010」VS「発見。角川文庫 夏の100冊2009」

[タイトル・表紙]
 またやってくれた。昨年落ち着いたと思ったタイトルが、再び変わったのだ。ほら、よく見て。「発見」の後ろが句点から感嘆符に変わったでしょ。「夏の100冊」も消えたし。「発見 角川文庫」という語呂さえ崩さなければ、あとは何でもいいのかもしれない。さすが角川文庫、こだわりのなさはピカイチだ。でも、これでタイトルの迷走もいよいよ終結、か?
表紙2010(角川).jpg 角川文庫2009.jpg

 「発見!」の感嘆符と呼応するように、マスコットが代わった。カバの「ディスくん」(発見=ディスカバーのダジャレ)から、黒犬の「ハッケンくん」にバトンタッチ。こんどはダジャレでなくひねりのない「ハッケン」だが、ポイントは鼻の頭に乗せた赤い感嘆符だ。感嘆符の丸が「ハッケンくん」の赤い鼻の頭になっている。つまり、この「ハッケンくん」はどこに行っても何と出会っても、すべてに驚いている。世界は発見すべき〈驚き〉に満ちていると言いたいわけだ。

 昨年・一昨年と、2年連続してメインキャラが松山ケンイチだった。大人っぽいムードを醸しながら「自分探しの旅」を演出していたが、今年はずいぶんとメルヘンチックに様変わりした。ナツイチのマスコット(蜂)のコンセプトをいただいたような気もするが、ナツイチが相変わらず美少女をメインに据えているのとは違い、今年の「発見!角川文庫」は新マスコット「ハッケンくん」のメルヘンで勝負をかけてきた。なかなかのチャレンジだ。ただし、スペシャルカバーに隠し球が用意されている。実は二股をかけているのだ。

[スペシャルカバー]
(ラインナップA)
絵のない絵本 アンデルセン
ピンク・バス 角田光代
こゝろ 夏目漱石
銀河鉄道の夜 宮沢賢治
絶対泣かない 山本文緒
最後の一葉 O・ヘンリー

(ラインナップB)
伊豆の踊子 川端康成
三毛猫ホームズの名推理 赤川次郎
不道徳教育講座 三島由紀夫
銀の匙 中勘助
葡萄が目にしみる 林真理子
車輪の下に ヘルマン・ヘッセ


 2009年のスペシャルカバーは「銀河鉄道の夜」「変身」「恐るべき子供たち」の3冊だと、昨年書いた。いずれも松山ケンイチのワイルドなグラビアを表紙にもってきた。忘れていたのだが、実はもう一冊スペシャルカバーが紛れこんでいた。「太宰治生誕百年」を記念した「梅千代×祖父江慎」コラボの「人間失格」の表紙がそうだった。計4冊だ。今年は2系統のスペシャルカバーで全部で12冊になった。ラインナップAは、新しいマスコット「ハッケンくん」が登場する絵本のようなイラストに統一された。漱石の「こころ」は、昨年から涼しげな表紙に変わったばかりなので、ちょっと残念だ。

 ラインナップBの表紙が、先ほどちょっと触れた「隠し球」だ。やはり新マスコットだけで押していくのは弱いと思ったのだろう。知名度は高くないが定番の美少女(早見あかり)を表紙に配したラインナップを用意した。ただ、これって昨年までと違って、フェア全体のコンセプトに合わせた起用ではない事は容易に分かる。だって、ぶんか社が出している一連の名作文庫の装丁そっくりじゃないですか。なりふりかまわないのは角川文庫のいつもの事だが、あれもこれもと欲張りすぎて統一感には欠ける。

 さて、今年のラインナップは全105冊。新たに入った本は58冊で、消えた本は55冊だ。入れ替えの割合は昨年とほぼ変わらない。

[躍進した作家(8人)]
山田悠介(3->6)
石田衣良(1->3)
神永学(1->3)
有川浩(2->3)
東野圭吾(2->3)
川島誠(1->2)
寺山修司(1->2)
畠中恵(1->2)


[後退した作家(8人)]
武光誠(2->0)
三浦綾子(2->0)
恩田陸(2->1)
太宰治(2->1)
筒井康隆(2->1)
宮沢賢治(2->1)
森見登美彦(2->1)
パウロ・コエーリョ(2->1)


 躍進組の筆頭は山田悠介だ。あれ?なんかこのフレーズにデジャブを感じる。なんと昨年も同じ事を書いた。昨年は1冊から3冊へとステップアップして、今年はジャンプアップの6冊!いまだかつて一度に6冊も入った作家は、僕がこの比較記事を書くようになってからはいない。何か山田悠介が特別扱いされる理由があっただろうか?特にひも付きでないとしたら、角川にしては珍しいな。石田衣良は「美丘(みおか)」がテレビドラマ化されるので1冊増えた。有川浩は2008年に初めてエントリーされてからというもの、0->1->2->3と着実に地歩を固めてきた。

 後退組では武光さんの定番「知っておきたい日本の神様」「知っておきたい日本の名字と家紋」が消えた。その穴を埋めたのが柳田翁の「遠野物語」だ。たんなるウンチク本とちがって重厚な民俗学の名著なだけに、中高生が読んでくれたらいいよね。いや、それより僕自身が未読だった。読まねば…(汗)。三浦綾子は、昨年「氷点」と「母」の2冊が入った。ただし「母」は「蟹工船」の作者・小林多喜二の生涯を描いた小説だったから、多喜二ブームを当て込んだ出版社の〈抱き合わせ〉戦略だった。今年は「蟹工船」ともども、静かな退場となった。なんと短いブームだったことか。

 新しく入った作家29人(2009年は28人)
 消えた作家31人(2009年は24人)

[新しく入った作家(注目)]
阿佐田哲也
内田樹


[消えた作家(注目)]
浅田次郎
江國香織
小川洋子
京極夏彦


 「入った方」は横ばいだが、「消えた方」は多い。新しい顔ぶれをざっと見渡しても、特に目新しさを感じない。強いて言うと、阿佐田哲也「麻雀放浪記」が、昨今の麻雀マンガブームを受けて再登場したり、気鋭の評論家・内田樹の人生論が入ったりというところか。逆に、消えた作家を見ると、大御所や中堅の名前がずらっと並ぶのにはびっくりした。おそらくは、山田悠介など特定の作家をプッシュしたり、知名度はないが10〜20代には人気のある作家を集めてきたという事だろう。また〈十代のための新名作〉と銘打った「きみが見つける物語」という短編集が5冊も入っているなど、中高生をターゲットに絞った戦略が名だたる作家の出番をせばめた原因の一つらしい。

[角川文庫以外の文庫]
リング 鈴木光司
ブレーキ 山田悠介


 昨年めだった角川文庫以外のレーベルからの〈入閣〉が激減した。ラノベ(電撃文庫、ファミ通文庫など)は駆逐され、古典の「角川ソフィア文庫」を除くと、唯一「角川ホラー文庫」から
2冊入っているだけだ。山田は角川文庫から5冊入っている。そのうえで、角川ホラー文庫からも調達する必要があったのだろうか。

[キャッチコピー・解説]
 それほど大きな変更はないが、微妙に変わっている。要点を尽くすと、
 ・「中高生にもわかりやすく」の配慮から、文章やキャッチコピーをやさしい表現に変更
 ・昨年のコピーから一昨年のコピーへと戻した
 ・意図不明の改稿
と言ったところだろうか。

こころ 夏目漱石
 (2009年コピー)親友と同じ人を好きになったことがありますか?
 (2010年コピー)「先生」の目を通して、エゴイズムとは何かを問う


 それまで説明的だったコピーが、昨年から印象批評的な、いわゆる「キャッチー」なコピーに変わったのだが、今年は早々と差し戻しになった感じだ。この二つのコピーのせめぎ合いにはちょっと考えさせられる。たしかに「こころ」には、人間の本質に深く刻まれるエゴをとことん突き詰めざるをえないような物語のすごみがある。だが、そこだけを読むならば「こころ」のような古典をあえて今読む必要があるだろうか。一方で、今も昔も「友人にあの娘をとられたくない」という〈滑稽だが悩ましい問題〉ひとつ、現代人は解決できていないではないか。そこを指摘せずに、作者になりかわって偉そうに〈エゴの本質〉を問う今年のコピーは、やはりイケてない。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
 (2009年コピー)せつない気持ちを抱え、少年は宇宙を旅する
 (2010年コピー)星祭りの夜に銀河を駆ける、勇気を取り戻す旅


 ふーん。おかしいね、今年のコピーは。「銀河を駆ける」は当然「旅」に係るわけだが、そこに「勇気を取り戻す」という修飾句が入るとなんとなく流れがよくない。その上「勇気を取り戻す」というまとめ方も変だ。エンディングでたち現れるのは、親友カムパネルラとの友情の再確認と、「自分を勘定に入れずに」他人のさいわいをどこまでも追い求めていく著者独特の宗教感だったはずだ。そこに僕らはたじろがされる。今年のコピーを考えた人は、本書を読んでもう一度出直しなさい。

夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦
 (2009年コピー)「黒髪の乙女」と「先輩」の摩訶不思議な恋模様
 (2010年コピー)「黒髪の乙女」と「先輩」の奇想天外な恋模様

 「摩訶不思議」じゃいまどきの中高生には伝わらない?いや「摩訶」が読めないのか!

クローズド・ノート滴井修介
 (2009年解説)読み終えた後も暖かい余韻がいつまでも醒めない、極上の感動作。
 (2010年解説)読み終えた後も暖かい余韻がいつまでも冷めない、極上の感動作。

 「さめない」の解釈が変わってる。確かに「暖かい余韻」が「冷めない」という方が理にかなっているのかもしれないが、夢見心地の読後の「余韻」から「醒めない」という解釈もできる。昨年まで解説はそう主張していたのではないだろうか。

グラスホッパー 伊坂幸太郎
 (2009年解説)リリカルで思弁的な殺し屋たち…。妻の復讐をもくろむ…
 (2010年解説)殺された妻の復讐をもくろむ…

 本書からの引用だったのだろうか。それにしても「リリカル」も「思弁的」も確かに中高生には難しい。

ゆめつげ 畠中恵
 (2009年コピー)幕末の江戸で起こった不思議な騒動の顛末は?
 (2010年コピー)幕末の江戸で起こった不思議な騒動のてんまつは?

 「顛末」だめですか?近頃の常用漢字の改定で「語彙」の「彙」のような難しい漢字も入ったというのに。社会状況と逆行していないでしょうか。

空の中 有川浩
 (2009年解説)第10回電撃小説大賞大賞受賞作家有川浩待望の第2作
 (2010年解説) 『図書館戦争』の有川浩がおくるスーパーエンタテインメント!!

 昨年まではすごく変な売り文句だった。というか、こうでも書かないと売りようがないくらい、有川浩は無名の作家だったわけだ。今や彼女は「あの『図書館戦争』の」と言えば事足りるくらいブレイクした。

「海の底(有川浩)」「変身(フランツ・カフカ)」は解説文を全面改稿。

人間失格 太宰治
 (2009年コピー)世間とは、人間とは何かを問う
 (2010年コピー)世代を超えて読みつがれる太宰治の自伝的小説

 コピーが説明的なフレーズに先祖帰りしただけではない。解説文がそっくりそのまま一昨年(2008年)のものに差し戻された。その違いと是非については、昨年の記事を読んでほしい。僕としては、太宰が自殺する直前に「人間失格」を脱稿した事だけが重要だと思うので、昨年の解説を支持したんだけれど…。

数学物語 矢野健太郎
 (2009年コピー)数字と数学に、おもしろいほど興味がわいてくる!
 (2010年コピー)数学の権威が数学の歴史をわかりやすく解説

 この本も、コピーや解説が落ちつかない。本文は「私たち人類の祖先はどんなふうに数を数えたのだろうか?」が「人類が数を使うことを覚えた時、手足の指はどんな役割を果たしたのだろうか」に変わった。昨年のまとめ方は一応妥当なような気がするが、あえて「手足の指の役割」にこだわったからには、数学のなりたちに「手足を使った数え方」が重要な役割を担ったという記述が本書の山場の一つとなっているのだろうか?それよりなにより、ひょっとしたら、この本の真の価値を読みとれる人間が「発見!角川文庫」のスタッフにはいないのかもしれない。

[6月の新刊より]

 ちょっとびっくりしたのは、フェアの対象文庫以外に新刊の紹介ページが見開きで用意されている点だ。体裁はフェアの文庫とあまり変わらないので、何故目次にでてないのか不思議だった。「これってアリ?」。最後まで角川のしたたかな戦略にしてやられた。

[今年新たに入った本リスト(58冊)]
アーモンド入りチョコレートのワルツ 森絵都
伊豆の踊子 川端康成
いちばん初めにあった海 加納朋子
失はれる物語 乙一
NHK にようこそ! 滝本竜彦
絵のない絵本 アンデルセン 訳:川崎芳隆
オール 山田悠介
温室デイズ 瀬尾まいこ
雷の季節の終わりに 恒川光太郎
鴨川ホルモー 万城目学
きまぐれロボット 星新一
きみが見つける物語 十代のための新名作 放課後編
きみが見つける物語 十代のための新名作 友情編
きみが見つける物語 十代のための新名作 恋愛編
銀の匙 中勘助
クジラの彼 有川浩
グミ・チョコレート・パイン グミ編 大槻ケンヂ
5年 3組リョウタ組 石田衣良
コンダクター 神永学
最後の一葉 オー・ヘンリー傑作集1 オー・ヘンリー
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 桜庭一樹
サマーウォーズ 岩井恭平
疾走 重松清
使命と魂のリミット 東野圭吾
車輪の下に ルマン・ヘッセ
十五少年漂流記 ヴェルヌ
心霊探偵八雲 SECRET FILES 絆 神永学
スピン 山田悠介
世界の終わり、あるいは始まり 歌野晶午
絶対泣かない 山本文緒
閃光 永瀬隼介
疲れすぎて眠れぬ夜のために 内田樹
つきのふね 森絵都
つくもがみ貸します 畠中恵
天使と悪魔 ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
電池が切れるまで 子ども病院からのメッセージ すずらんの会
動物記 新堂冬樹
新版 遠野物語 付・遠野物語拾遺 柳田国男
トーキョー・プリズン 柳広司
どきどきフェノメノン A phenomenon among students 森博嗣
パイロットフィッシュ 大崎善生
8.1 Horror Land 山田悠介
8.1 Game Land 山田悠介
800 川島誠
ピンク・バス 角田光代
不思議の国のアリス ルイス・キャロル 訳:河合祥一郎
葡萄が目にしみる 林真理子
フライ,ダディ,フライ 金城一紀
ブレーキ 山田悠介
僕と先輩のマジカル・ライフ はやみねかおる
ポケットに名言を 寺山修司
麻雀放浪記 (一) 青春編 阿佐田哲也
美丘 石田衣良
三毛猫ホームズの推理 赤川次郎
モーターサイクル・ダイアリーズ エルネスト・チェ・ゲバラ 訳:棚橋 加奈江
楽園のつくりかた 笹生陽子
リング 鈴木光司
ロマンス小説の七日間 三浦しをん


[今年消えた本(55冊)]

或る「小倉日記」伝 松本清張
嘘つきアーニャの真っ赤な真実 米原万里
狼と香辛料
おくのほそ道
怪談・奇談
海底二万海里
蟹工船・党生活者
巨大投資銀行
霧が晴れた時 自選恐怖小説集
偶然の祝福
月魚
GO
GOTH 夜の章/僕の章
知っておきたい日本の神様 武光誠
知っておきたい日本の名字と家紋 武光誠
症例A
ジョゼと虎と魚たち
新選組血風録
スイッチを押すとき
涼宮ハルヒの憂鬱
青春の逆説
生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録1
青年社長
DIVE!! (上)(下) 森絵都
旅人 ある物理学者の回想
ちぐはぐな部品
注文の多い料理店
償いの椅子
罪と罰
道三掘のさくら
ドミノ
七つの人形の恋物語
日本以外全部沈没パニック短編集
ネガティブハッピーチェーンソーエッヂ
眠たい奴ら
覘き小平次
走れメロス
パズル

氷点
”文学少女”と死にたがりの道化
ペギー・スー
ベロニカは死ぬことにした
ぼくは悪党になりたい
三日月が円くなるまで 小十郎始末記
水の時計
みぞれ
霧笛荘夜話
夜市
四畳半神話体系
落下する夕方
リズム
恋愛中毒
私という運命について
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2010年07月06日

「新潮文庫の100冊(2010年)」VS「新潮文庫の100冊(2009年)」

 今年は「新潮100冊」から夏の文庫フェアのVSシリーズを始めようと思う。久しぶりに内容に動きがあったからだ。例年、「ナツイチ」や「発見。角川文庫」とくらべて、入れ替えがきわめて少ないという印象がある「新潮100冊」だが、今年は全106冊中44冊が「新しく入った本」だった。あいかわらず少ないじゃないかと思うかもしれないが、昨年は全104冊中、たったの33冊だった事を思えば、かなり今年は攻めてきた。キャッチコピーにも変化をつけてきたところをみると、新たに若いスタッフによる見直しがあったのかもしれない。

[表紙]

 昨年はマスコットのYonda!が七色の本と戯れるカラフルな表紙だったが、今回は再びシックな色づかいにもどって黄色い背景に青い船と白黒のYonda!という取り合わせだ。ただし扉をめくると青や緑や赤の原色をいかしたモード的な色づかいのイラストが目を引く。このイラストは記念グッズのバンダナにも採用されているので、バンダナにしやすい配色だったのかもしれない。

表紙2010(新潮).jpg 新潮100冊2009.jpg

[躍進した作家]
 伊坂幸太郎(1->2)
 太宰治(1->2)
 村上春樹(1->2)


[後退した作家]
芥川龍之介(2->1)


 2009年は太宰治生誕100年という年だったのに、新潮では太宰は2冊から1冊に後退した。それくらい「新潮100冊」は商売気がないなぁと驚いた。一転して今年は色気を出しまくっている。太宰は遅ればせながら2冊に戻し、「1Q84」現象で昨年の出版界を活性化し続けた村上春樹を2冊入れてきた。そして、重松清や江國香織や石田衣良たちがベテランとなってしまった今、新鮮さと読みごたえを一手に引き受けているのが伊坂幸太郎だろう。

 後退組は大正の文豪・芥川龍之介一人だが、この後見ていく「今年新たに入った作家」「今年消えた作家」でも、文豪たちの積極的な入れ替えが見てとれる。

新しく入った作家28人(昨年は18人)
消えた作家28人(昨年は15人)

[今年新たに入った作家(注目)]
井上ひさし
海堂尊
北村薫
津原泰水
仁木英之



[今年消えた作家(注目]

小澤征爾
岩合光昭
東野圭吾


 作家の入れ替えが昨年と比べると格段に多い。井上ひさしは亡くなったばかりなので、追悼の意味合いが大きいだろう。なんと「ブンとフン」は彼の処女作だ。かつては「新潮100冊」に長くラインナップされていた輝かしき歴史がある。今でも古さを感じずに楽しく読める井上文学の原点だ。海堂尊は東野圭吾の席を押しのけて入ってきた。北村薫はもちろん直木賞作品をひっさげての出戻りだ。

 消えた作家には小澤さんや岩合さんがいる。もちろん、それぞれの分野で第一線を突っ走ってきた人たちだが、そろそろ引退してもらう時期なのかもしれない。東野圭吾はなんといっても当代きっての売れっ子ミステリー作家ではあるが、新潮系の作家ではないということだろう。

 さらに、伊藤左千夫・小川未明・坂口安吾・高村光太郎・中島敦・森鴎外の6人の作家が姿を消している。彼らは名の通った文豪というだけでなく、ラインナップされる作品名すら容易に想像できる超常連のはずだが、思い切って退場してもらっている。その代わりに、今年は竹山道雄・林芙美子・武者小路実篤・樋口一葉の4人が入った。この中では林芙美子(「放浪記」)が久々の再登場ではないだろうか。やや文豪の数が減り、古典の数が減ることで、若い作家に門戸を開いたと言える。

[スペシャルカバー]
こころ 夏目漱石
雪国 川端康成
羅生門・鼻
人間失格 太宰治
金閣寺 三島由紀夫
橋ものがたり 藤沢周平
江戸川乱歩傑作選
東京タワー リリー・フランキー
夏の庭 湯本香樹実
キッチン 吉本ばなな
老人と海 アーネスト・ヘミングウェイ

 昨年から10冊に一気に増えたスペシャルカバーだが、今年も全11冊と健在。例年別格の「こころ」と「人間失格」をのぞくと、残りはすべて昨年から総入れ替えだ。

[コピー・解説]
 フェアの小冊子の筆頭で紹介されるのは、夏目漱石の「坊っちゃん」というのが、最近の定番だ。その「坊っちゃん」のコピーに、今年の動きを象徴する変更があった!

坊っちゃん 夏目漱石
 (2009年)金八先生より熱いぞ。昔はこんな人、いたんだなあ…。
 (2010年)ヤンクミより、川藤先生より熱いぞ!こんな先生に習ってたら…大変かも。

 ついに「金八先生」から「ヤンクミ」に。時代は変わった。しかも先生に対するスタンスも微妙に変化した。「いたんだなぁ…」という敬愛ではなく「(こんな先生じゃ)エライことになるぞ」という醒めたまなざしが感じられる。

羅生門・鼻 芥川龍之介
 (2009年)ニキビ面の若者は考えた…。
 (2010年)仕事をクビになった若者は考えた。

 派遣切り・フリーター切りの世相を反映した?いえいえ、容姿の美醜を取り沙汰する事は、もはや「不適切な」時代となったんです。それにしても杜子春ってニキビづらだったっけ?
檸檬 梶井基次郎
 (2009年)どうにもならない気持ちを、今は誰にもいいたくない。けれど誰かに分ってほしい。
 (2010年)こんな世の中、こんな自分 みんな爆破してしまいたい。

 自らの肉体と内面とのずれをもてあました梶井は、確かに孤独だったが、「分ってほしい」という弱さを紡錘形の「檸檬」に込めたとは思えない。2009年のコピーは回りくどい上に的外れだ。もちろん2010年のコピーがそれなりに的を外しているとしても、昨年のよりは良い。

金閣寺 三島由紀夫
 (2009年)炎に包まれた金閣寺の美しさ―。その妄想が、一人の青年を狂わせた。
 (2010年)美しいものを汚したい。これを狂気と言いきれますか?

 今年のコピーは、思い切ったなぁ。

キッチン 吉本ばなな
 (2009年解説)〈吉本ばなな〉のすべてはここから始まった。
 (2010年解説)〈よしもとばなな〉のすべてはここから始まった。

 今年も全体的に解説文には手がほとんど入っていない。例外が「キッチン」と「海辺のカフカ」の2冊だ。「キッチン」は、吉本ばなな名義の処女作にして代表作。しかし、今は「よしもとばなな」に変名して落ち着いた事を受けて、コピーだけでなく解説文も手直しした。当然ながら二字増えたので、別の箇所の「読みつがれる」を「読まれる」につづめた。

海辺のカフカ 村上春樹
 (2009年)15歳の夏いちばんのおすすめ! ウチの猫にも読んであげたい!
 (2010年)「僕は世界で最もタフな15歳になる」 NYタイムズが選んだ年間ベスト小説!

 「夏の文庫フェア」の正統なる読者である、人生の中でもマジックナンバーに当たる「15」という年齢をもつ少年少女たちにアピールしたコピーに差し替えられた。同時に解説文にもかなり手が入ったのだが、基本的にはレトリックと暗喩に満ちたハルキワールドを簡単に説明しきれる言葉などない。昨年の文章と今年の文章、どくにどちらがいいというわけではない。

[今年新たに入った本(44冊)]
春琴抄 谷崎潤一郎
ヴィヨンの妻 太宰治
仮面の告白 三島由紀夫
橋ものがたり 藤沢周平
一夢庵風流記 隆慶一郎
ビルマの竪琴 竹山道雄
にごりえ・たけくらべ 樋口一葉
放浪記 林芙美子
海と毒薬 遠藤周作
友情 武者小路実篤
孤独な夜のココア 田辺聖子
点と線 松本清張
流転の海 宮本輝
ブンとフン 井上ひさし
東京タワー リリー・フランキー
ジーン・ワルツ 海堂尊
つめたいよるに 江國香織
マイマイ新子 高樹のぶ子
エイジ 重松清
青い鳥 重松清
センセイの鞄 川上弘美
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹
東京湾景 吉田修一
砂漠 伊坂幸太郎
僕僕先生 仁木英之
ひとがた流し 北村薫
ブラバン 津原泰水
サクリファイス 近藤史恵
凍える牙 乃南アサ
レベル7 宮部みゆき
未来いそっぷ 星新一
屍鬼 小野不由美
「さよなら」が知ってるたくさんのこと 唯川恵
向日葵の咲かない夏 道尾秀介
ボトルネック 米澤穂信
ナイン・ストーリーズ サリンジャー
朗読者 ベルンハルト・シュリンク
海馬 池谷裕二・糸井重里
虫眼とアニ眼 養老孟司・宮崎駿
散るぞ悲しき 梯久美子
老子と少年 南直哉
恋愛脳 黒川伊保子
白川静さんに学ぶ漢字は楽しい 小山鉄郎
一日江戸人 杉浦日向子


[今年消えた本(42冊)] 
あしながおじさん ウェブスター
あの歌がきこえる 重松清
ありがとう大五郎 大谷英之・写真/大谷淳子・文
黄金の羅針盤 フィリップ・プルマン
小川未明童話集
海ちゃん 岩合光昭/岩合日出子
火車 宮部みゆき
片眼の猿 道雄秀介
かもめのジョナサン リチャード・バック
きみの友だち 重松清
蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介
さぶ 山本周五郎
山椒大夫・高瀬舟 森鴎外
潮騒 三島由紀夫
白洲正子自伝
しろばんば 井上靖
人生論 トルストイ
診察室にきた赤ずきん 大平健
すいかの匂い 江國香織
対話篇 金城一紀
ため息の時間 唯川恵
堕落論 坂口安吾
智恵子抄 高村光太郎
痴人の愛 谷崎潤一郎
鳥人計画 東野圭吾
沈黙 遠藤周作
憑神 浅田次郎
繋がれた明日 真保裕一
ティファニーで朝食を カポーティ
ニシノユキヒコの恋と冒険 川上弘美
脳のからくり 竹内薫/茂木健一郎
野菊の墓 伊藤左千夫
破獄 吉村昭
初恋 中原みすず
不思議の国のアリス ルイス・キャロル
ぶらんこ乗り いしいしんじ
ボクの音楽武者修行 小澤征爾
ボクの町 乃南アサ
蛍川・泥の河 宮本輝
ボッコちゃん 星新一
魔性の子 小野不由美
李陵・山月記 中島敦

posted by アスラン at 12:34 | 東京 🌁 | Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月20日

2009年「新潮文庫の100冊VSナツイチVS発見。角川文庫 夏の100冊」

 今年は珍しく、学生のみんなが夏休みに入るタイミングで、すべての比較記事を終えることができた。あらためて言うと、夏の文庫フェアそれぞれについて一年前の内容と比較する〈2008年VS2009年〉記事に加えて、この3社の文庫フェアの比較を行うのが、この記事の趣旨だ。この〈3社比較〉で見るのは、「他のフェアと共通する作家や作品は何か」の一点だ。それではさっそく見ていこう。

[スペシャルカバー]
 一昨年からナツイチがリードしてきたスペシャルカバーだが、昨年になって新潮と角川が参戦してきたために、今年も注目していた。今年になってもスペシャルカバー企画は各社続けているが、一番積極的だったのは意外なことに新潮文庫だった。昨年、独自のソフィストケートされた表紙を導入したが、冊数が圧倒的に増えている。そのスペシャルカバーの色の取り合わせこそが、マスコットのYonda?の傍らに配置された色とりどりの本のデザインだったわけだ。この統一感はさすがだ。

[3社共通作品]
こころ(新・角・ナ)
人間失格(新・角・ナ)


 世に読書感想文の宿題があるかぎり、この2冊が頂点から降りる日はやってきそうにない。3社共通作品については、2007年は4冊、2008年が3冊、そして今年は2冊だけだ。いずれの年も必ず上記2冊は入っていた。またしてもこの2冊をキャッチアップしそうな小説は現れなかった。

[2社共通作品(11冊)]
羅生門・鼻 芥川龍之介(新・角)
星の王子さま サンテグジュペリ(新・ナ)
銀河鉄道の夜 宮沢賢治(新・角)
変身 カフカ(新・角)
二十四の瞳(新・角)
(以下、今年躍進した作品)
走れメロス 太宰治(角・ナ)
坊っちゃん 夏目漱石(新・角)
十五少年漂流記 ヴェルヌ(新・ナ)
堕落論 坂口安吾(新・ナ)
蟹工船・党生活者 小林多喜二(新・角)
罪と罰 ドストエフスキー(新・角)


(以下、今年後退した作品)
絵のない絵本 アンデルセン(新)
不思議の国のアリス ルイス・キャロル(新)
海と毒薬 遠藤周作(角)
キッチン 吉本ばなな(新)
伊豆の踊子 川端康成(無し)
阿部一族・舞姫 森鴎外(無し)


 昨年も11冊だから冊数に変わりはないが、顔ぶれは6冊が入れ替わっている。3社とも毎年どの作家の作品を入れるかを変えてくる。どのフェアでも海外作品は枠が少ないので、実は入れ替わりが激しい。その中でも「星の王子さま」と「変身」はかなり安定した採用率を誇っている。作家本位ではなく作品本位で選ばれているため、一年おきに出たり入ったりすることも少ない。

 今年躍進した作品の中で、特に小林多喜二の「蟹工船」は作品本位で選ばれたと言っていいだろう。昨年までは新潮文庫が他社に先駆けてフェアに入れている。今年になって角川が入れてきたのは、昨今の世界規模の不況が関係している。ワーキングプアと呼ばれる現状は、今に始まった新しい社会状況ではない。時代に鋭敏でありたい新潮と角川はコピーでも同じような主張をしている。

 「蟹工船」の躍進と呼応するかのように、ひっそりと2社共通作品から姿を消したのは、吉本ばななの「キッチン」だ。この比較記事を書き出してから5年になるが、その間に「キッチン」は2社共通作品の座から一度も落ちたことがない。「キッチン」は、いわば「こころ」「人間失格」に準ずる第一シード級の作品だった。

 この2作品の不思議な呼応関係は、実は不思議でもなんでもない。「キッチン」はバブル期が生み出した反動のようなものだった。「癒し」という言葉は、癒しようのないこの時期の狂乱の中から、あだ花のように姿を現した。そして今、あだ花が消えて、人々は耐えがたい現実をしっかりと見据えながらも、社会や権力者を揶揄する作品を求めているということだろうか。

[3社共通作家(13人)]
芥川龍之介
浅田次郎
伊坂幸太郎
石田衣良
江國香織
遠藤周作
小川洋子
恩田陸
太宰治
夏目漱石
東野圭吾
宮部みゆき
ヴェルヌ


 さて、昨年までは3社共通、2社共通の作家をあわせて、作家の特長をあげつらってみたが、結局は「古典的名作を残した文豪+男女の流行作家」という当たり前の分類をして得意になっていたにすぎない。今年は違った切り口で共通作家たちのランキングを提案してみる。ねらいは古い作家も新しい作家も、古典も最新刊も関係なく、トータルな指標で評価してみようということだ。

[人気作家]
恩田陸 6
東野圭吾 6
------------
夏目漱石 5
太宰治 5
石田衣良 5
------------
芥川龍之介 4
宮部みゆき 4


 3社のフェアで紹介されている本の冊数が多い順に並べてみた。同じ本はそれぞれ1冊と数える。すると、2009年現在の人気作家の頂点は、恩田陸と東野圭吾ということになる。こういうフェアだとミステリー作家は重宝な存在だ。この二人を、文章巧者の漱石、太宰、石田衣良が追う展開だ。石田だけフルネームで書かざるを得ないのは象徴的だ。彼はまだ「石田」だけで認知されるビッグネームにはなっていない。しかし人気のほどでは、今現在彼はビッグネームと肩を並べている。

[名作家]
夏目漱石 2.5
太宰治 2.5
---------------
坂口安吾 2.0
小林多喜二 2.0
壺井栄 2.0
ドストエフスキー 2.0
カフカ 2.0
---------------
ヴェルヌ 1.5
宮沢賢治 1.5
---------------
芥川龍之介 1.0


 3社のフェアの本の冊数の合計を、本のタイトル数で割ってみた。これは紹介されている本の濃密さ(密度)を表す指標と理解できよう。例えば、漱石は「こころ(3社共通)」「坊っちゃん(2社共通)」なので、5冊÷2冊=2.5となる。この「本の濃密さ」を手に入れるためには、出版社の思惑を越えた名作を生み出さねばならない。このランキングでは、出版社によってタイトルが囲い込まれている現代作家の出番はないことになる。

[コピー]
 2社共通作品2冊と3社共通作品11冊について、コピーを比べてみよう。これまでは切れ味するどい新潮のコピーの一人勝ちだったが、今回はフェアのターゲットとなる若い読者(特に有名な作品でも未読の読者)の立場に立った分析をしてみた。もちろん私見なので、あまり本気にしないようにご注意を。

人間失格 太宰治
(新)この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される。
(角)世間とは、人間とは何かを問う
(ナ)自伝であり、遺書でもある太宰治の最高傑作!


 まず前提として、新潮のコピーは一度でも「人間失格」を読んだ事のある人でなければ感心しないだろう。二分されたらどうなの?と言われたらオシマイだ。若い読者を想定したコピーとしては角川は魅力に乏しい。ナツイチは分かりやすいが、ずいぶんベタだ。ただし、そもそもタイトルの「人間失格」以上に強烈なコピーなど望めないのかもしれない。

こころ 夏目漱石
(新)友情と恋と、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか…。
(角)親友と同じ人を好きになったことがありますか?
(ナ)好きになってしまった。親友と同じ人を…。


 角川がこれまでのかたぐるしいコピーからそれなりのコピーに変えたせいで、奇しくも似たり寄ったりのコピーになってしまった。ここはシンプルに、心理テストの設問のような角川に軍配!

羅生門・鼻 芥川龍之介
(新)ワルに生きるか、飢え死にするかニキビ面の若者は考えた…。
(角)現実を揺らす、不思議な読み心地(あさのあつこ)


 実は角川のコピーはこれだけ読んだのではよくわからない。今年の「発見。角川文庫」の企画〈作家が選んだ1冊〉があり、本書は「バッテリー」のあさのあつこが選んだ一冊だった。解説(というかオススメの理由)に「後ろを振り向いたら全然違う世界が広がっていた」という感覚を味わったと書かれてある。解説と合わせ技で角川に一票。

走れメロス 太宰治
(角)自分の書く作品に通じるものが(山田悠介)
(ナ)生誕100年。いま再発見したい太宰の魅力。


 おなじく角川は、今年大躍進の山田悠介が選んだ1冊。「命がけで誰かを助ける」ところに自分では決してそうしないけど牽かれるそうだ。「リアル鬼ごっこ」や「パスル」などにメロスの〈必死さ〉を読み込んでもいいかもしれない。ナツイチはこれまたベタ。でもなんでもいいから、若い読者はぜひ太宰を「再発見」してください。

坊っちゃん 夏目漱石
(新)「金八先生」より熱いぞ!昔はこんな人、いたんだなあ…
(角)四国の中学校に赴任した坊っちゃんが大暴れ!

 なんか「熱かったり」、「大暴れ」したりと、どうしても出版社サイドは主人公を熱血教師に仕立てあげたいらしい。くれぐれも言うが、坊ちゃんは熱血でもなんでもない。江戸っ子の、ということは東京の気位ばかり高い無鉄砲な奴だ。しかもその大部分は見栄だ。江戸っ子は見栄で生きているのだ。そこが読めれば、四国の田舎に来てしまって、イヤでイヤで仕方のない坊ちゃんのムシャクシャする気分に合点がいくだろう。そこにピントのあったコピーはでてこないものか。

蟹工船・党生活者 小林多喜二
(新)ワーキングプア。現代は、この恥ずべき「蟹工船」の時代に戻ってしまっているのでは。
(角)時を超えて、いまも労働者の願いは変わらない

 日本は高度成長をとげ、バブルを経験し、一等国のステイタスを手に入れた。そのおかげて過酷な労働は海外の低賃金の労働者の手に追いやった。そして今、未曾有の不況時代に、再び「蟹工船」の描いた労働者の姿が現実感をもって僕らに迫ってくる。そんなタイムリーな本なのにまだ読んでないなんて、それこそ「恥ずべき」だと新潮文庫のコピーに脅されているようだ。

堕落論 坂口安吾
(新)太宰を、靖国を、そして小林秀雄を。アウトロー坂口安吾が斬る!
(ナ)堕ちること以外に、人は救われない。


 こちらも、新潮のコピーは読書の達人向けのコピーだ。著者と同じ時代を生きて、同じく無頼派と呼ばれた「太宰治」と、戦争美化の象徴である「靖國(神社)」と、著者と同じ批評家にして乗り越えがたい知の巨人であった「小林秀雄」を一列に並べたところで、若い読者にはとうてい意図が届きそうにない。ナツイチのコピーは、〈堕落〉という言葉がもつ怪しげな負のエネルギーの本質に迫ってくる。ナツイチに拍手。

二十四の瞳 壷井栄
(新)こんな先生、こんな生徒だったらなぁ。だからこそ、皆に読んでもらいたい。
(角)戦争を超えて続く、教師と教え子の温かい交流


 それはそうなのだけれどなぁ。角川のコピーは正しい、そして間違っている。戦争で切断されてしまった悲しい教え子の記憶も等分に存在するからだ。だからここは、奇跡のような先生と生徒の物語をただひたすら読みたい、と思わせる新潮のコピーを支持しよう。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
(新)星の空を、ひっそりと見あげたことありますか。そして涙が出ませんでしたか。
(角)せつない気持ちを抱え、少年は宇宙を旅する

 角川のコピーを読むと「万感の思いを込めて汽笛が鳴る」という城達也のナレーションが聞こえてきそうだ。「銀河鉄道999」と本作は似て非なるものだ。新潮の女々しさはいい線いってるが、宇宙へと飛翔する世界観が抜け落ちている。私見だが、「少年は友カンパネルラと共に銀河を旅する」に変われば角川の方がいい。

十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ
(新)しなやかさとしたたかさ、そして仲間。子どもだけの力で、どこまでやれるか。
(ナ)無人島で少年たちのサバイバルが始まる!


 よくよく考えると新潮のコピーの前半はへんな表現だ。どうしても「そして」の使い方がおかしい。子どもたちがおのおの持つ〈しなやかさ〉と〈したたかさ〉だけが、後半の「子どもだけの力」に対応するのは確かだ。だが、それだけではなくて15人が助け合う事で「子どもたちの力」が何倍にもなる。それを指して「そして仲間」と言いたいらしいが、ならば「団結」とか「連帯感」あるいは「チームワーク」と言った少年たちの特性で表現すべきだ。「そして仲間」はないだろう。

変身 カフカ
(新)読み始めてすぐに「なぜだ?」と思い、読み終えた直後に「なぜだ!」と叫ぶ。
(角)目が覚めたら、自分が褐色の巨大な毒虫に!?


 作品の不条理感をコンパクトにまとめた新潮のコピーは見事。一方、角川のコピーは禁じ手ではないだろうか。だって誰でも知ってるとおり、一行目から「グレーゴル・ザムザはある朝目ざめると大きな毒虫に変わっていた」で始まるではないか。

罪と罰 ドストエフスキー
(新)世のため人のため殺ったはずだった。これほどの恐怖のオマケつきとは…。
(角)罪とは何か、罰とは何か。殺人犯の苦悩を描く

 角川のコピーは「人間失格」と同じパターンだ。「〜とは何か」式の問いかけは魅力に乏しい。おまけにタイトルの「罪」と「罰」を分けて言い換えただけではないか。たった20文字しか余裕がないコピーなのにムダに字数を費やすなぁ。新潮のコピーは、「えっ、そういう話だったの?」と意表を突かれる。

星の王子さま サンテグジュペリ
(新)世界中の人々が、読んできた。心の砂漠をオアシスに変える魔法の一冊。
(ナ)肝心なことは目で見えない…。


 「星の王子さま」は難しい。おそらくは人によって受け取るものが違うからだ。ハリー・ポッターに出てくる「みぞの鏡」のように自分が望むものを移しだす鏡なのかもしれない。自分をやすやすと理解して欲しくないと思う人ほど、鏡の中の答えはわかりにくくなる。

 だから、決して「オアシスに変える魔法の一冊」などとは、僕には思えない。そう、「みぞの鏡」の謎がまさにそうだったように、目で見えるものだけがすべてではないのだ。ナツイチのコピーにとりあえず共感しよう。
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2009年07月13日

「新潮文庫の100冊2009年」VS「新潮文庫の100冊2008年」

[表紙]
 新潮文庫というと、パンダのyonda?。yonda?とくれば、黄色い表紙をイメージする人が多いと思う。だが、昨年2008年の表紙にはいつもの黄色を背景にして、大きな緑の葉っぱがドカッと中央を覆い、丸い切りかきの上にyonda?君が腰掛けて読書中だった。緑色よりも大きな葉っぱのデザインに目を惹かれた。今年は何より色だ。大きな本に見立てたブロックが茶、ピンク、紫、オレンジ、青、黄緑、白に塗られて並んでいる。こんなカラフルな表紙はyonda?のデザインが採用されてからずっと絶えて久しい。

  新潮100冊2009.jpg  新潮100冊2008.jpg

 今年のラインナップは全104冊、新しく入った本33冊、変わらない本71冊。ナツイチの7割とちがって入れ替え率は3割にすぎない。

[躍進した作家]
乃南アサ(1->1.14)
宮部みゆき(1->1.14)


[後退した作家]
太宰治(2->1)
唯川恵(2->1)
湯本香樹実(2->1)


 入れ替えが少ないし、ひとりの作家が複数冊入る事自体が少ないフェアなので、躍進・後退を取りざたしてもあまり意味がない。強いてこじつけると、乃南アサと宮部みゆきが微増した。タネを明かせば、短編集「七つの怖い扉」に二人の短編が入っているからだ。

 後退組に太宰治がいるのが笑える。角川文庫もナツイチもそれなりに生誕百年を記念した企画を採り入れていると言うのに、新潮文庫は無視を決め込んでいる。しかも、堂々の後退組。この商売に対する色気のなさはなんなんでしょう。

新しく入った作家18人
消えた作家15人

[今年入った作家(注目)]
有川浩
中尾みすず
道尾秀介
新田次郎
松岡圭祐


[今年消えた作家(注目)]
 特になし。

 有川浩は「図書館戦争」シリーズでブレークした作家だが、まだ文庫化されていない。「レインツリーの国」は「図書館…」に登場するカップルを取り持った重要な本。著者は作中の本を実際に書き上げてしまった。ヒロインが文通相手に会いたがらない「ある理由」が分かってしまった。

 中原みすずの小説のタイトルは「初恋」。昨年はツルゲーネフの「はつ恋」。作品索引を見くらべた時は表記が変わったのかと思ったが、違う作品だった。新田次郎は「八甲田山 死の彷徨」。「剣岳 点の記」の映画化に珍しく便乗したか?新潮文庫の事だから偶然かなあ。道尾秀介、誰ですか?

[スペシャルカバー]
坊つちゃん 夏目漱石
こころ 夏目漱石
蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介
人間失格 太宰治
潮騒 三島由紀夫
きみの友だち 重松清
ぼくは勉強ができない 山田詠美
ボッコちゃん 星新一
十五少年漂流記 ヴェルヌ
あしながおじさん ウェブスター


 昨年から始まったスペシャルカバー。ナツイチや角川とちがってキャラクターやマンガは使わず、かなりスタイリッシュで大人向き、かつオシャレなカバーを採用した。好評だったのだろう、昨年の4冊から10冊にまで大幅に増えた。名作ばかりかと思いきや、今年は重松清や山田詠美などが入った。

[解説]
 昨年は少しずつ推敲する新潮文庫編集部の姿勢を評価したが、今年は何も変わっていない。レイアウトも含めて一字一句変わっていない本がほとんどだ。唯一の例外が一冊だけあった。

指揮官たちの特攻 城山三郎
(2008年)終戦を知らずに、8月15日の夜に長官を乗せて飛び立った中津留達雄大尉は…
(2009年)中津留達雄大尉は、8月15日の夜、終戦を知らされないまま、飛び立った。


 解説全体が推敲されている。書かれている内容は変わらないが、第一号となる特攻と終戦日最後の特攻の2例が併置されている事が際立つように表現が改められた。

[コピー]
重力ピエロ 伊坂幸太郎
(2008年)本年度「本屋大賞」受賞作家の代表作。全国書店員さんイチオシの感動の物語。
(2009年)二人でやれば世界も変えられる。不可能に挑んだ兄弟の物語。


 解説は同じ。コピーは新潮にしては昨年は珍しく読者を煽るような表現だった。しかも本屋大賞受賞作品ではないのだ。今年は新潮らしいコピーに落ち着いた。


赤毛のアン モンゴメリー
(2008年)誕生から100年。記念の年を迎えました。アンは永遠にあなたの親友です。
(2009年)美人じゃなくてもこんなに元気、こんなに幸せ。アンは女の子の永遠の憧れです。


 昨年の生誕100年限定コピーからいつものコピーに戻った。あれ?モンゴメリーですら限定コピーで記念していたのに、今年の太宰治の扱いはなにゆえ?

黄金の羅針盤
(2008年)世界中で150万人が感動したあのメガヒット映画の原作。
(2009年)世界中で150万人が感動したあの超ベストセラー・ファンタジー

 さて問題です。150万人が感動したのは原作?それとも映画?私見ですが、ニコール・キッドマンが熱演した映画は、メガヒットとまではいかなかったのではなかったかな。当然ながら、昨年のコピーは「感動した」の後ろに読点を入れるか、あるいは「あのメガヒット映画の原作で、世界中で150万人が感動したファンタジー」とでもすれば分かりやすくなるか。それでも150万人が感動したのが、原作なのか映画なのか、わかりにくい。やっぱり今年のコピーが正解!

[そのほかに気になった点]
雪国 川端康成
(2009年コピー)あんたと離れるのこわいわ。だけどもう早く行っちゃいなさい。


 なんかスゴいコピーじゃないか。

破獄 吉村昭

 解説がとにかく漢字が多い。ひらがながわずか22%しかない。読みにくいよ。

さがしもの 角田光代

 解説を読んで「あっ、これ読んだことある」と気づいた。タイトルが変わったんだ。確か「この本が、世界に存在することに」がオリジナルのタイトルだったはずだ。タイトルが変わって読者層が広がりそうだけれど、あのとがったオーラがなくなってしまった。ちょっと残念だ。

ミッキーマウスの憂鬱 松岡圭祐

 「千里眼」シリーズでない本が書けるんだ、この人。

[本屋大賞]
(2009年)
夜のピクニック 恩田陸(本屋大賞受賞作)
博士の愛した数式 小川洋子(第一回本屋大賞受賞作)

(2008年)
夜のピクニック
博士の愛した数式
重力ピエロ 伊坂幸太郎(本屋大賞受賞作家の代表作)


 昨年の方が冊数は多いが、「重量ピエロ」は受賞作ではないので単に便乗しただけだ(受賞作は「ゴールデンスランバー」)。要するに2冊で変わらずなのだが、新潮文庫にしてはめずらしく色気を出している。なにか本屋大賞にこだわるわけがあるのかな。

[今年新たに入った本(33冊)]

あしながおじさん ウェブスター
あの歌がきこえる 重松清
一億円もらったら 赤川次郎
押入れのちよ 荻原浩
風が強く吹いている 三浦しをん
片眼の猿 道雄秀介
きつねのはなし 森見登美彦
5万4千円でアジア大横断 下川裕治
さがしもの 角田光代
さぶ 山本周五郎
サマータイム 佐藤多佳子
山椒大夫・高瀬舟 森鴎外
しろばんば 井上靖
人生論 トルストイ
すいかの匂い 江國香織
ため息の時間 唯川恵
堕落論 坂口安吾
智恵子抄 高村光太郎
痴人の愛 谷崎潤一郎
鳥人計画 東野圭吾
沈黙 遠藤周作
繋がれた明日 真保裕一
ティファニーで朝食を カポーティ
七つの怖い扉 阿刀田高、小池真理子、鈴木光司、高橋克彦、乃南アサ、宮部みゆき、夢枕獏
野菊の墓 伊藤左千夫
破獄 吉村昭
初恋 中原みすず
八甲田山死の彷徨 新田次郎
ボクの町 乃南アサ
螢川・泥の河 宮本輝
坊っちゃん 夏目漱石
ミッキーマウスの憂鬱 松岡圭祐
レインツリーの国 有川浩


[今年消えた本(33冊)]
愛より速く 斉藤綾子
あすなろ物語 井上靖
阿部一族・舞姫 森鴎外
伊豆の踊子 川端康成
一握の砂・悲しき玩具 石川啄木
海と毒薬 遠藤周作
家族八景 筒井康隆
黄色い目の魚 佐藤多佳子
菊次郎とさき ビートたけし
錦繍 宮本輝
恋 小池真理子
恋せども、愛せども 唯川恵
恋人たちの誤算 唯川恵
号泣する準備はできていた 江國香織
コールドゲーム 荻原浩
凍える牙 乃南アサ
三四郎 夏目漱石
自転車少年記 竹内真
斜陽 太宰治
春琴抄 谷崎潤一郎
太陽の塔 森見登美彦
点と線 松本清張
ナイフ 重松清
ナイン・ストーリーズ サリンジャー
にごりえ・たけくらべ 樋口一葉
はつ恋 ツルゲーネフ
春のオルガン 湯本香樹実
ビルマの竪琴 竹山道雄
ふたり 赤川次郎
放浪記 林芙美子
朗読者 シュリンク
ロリータ ナボコフ
若き数学者のアメリカ 藤原正彦
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2009年07月12日

「ナツイチ2009」VS「ナツイチ2008」

[表紙]
 イメージキャラクターが変わりました、それも思いっきり。蒼井優から少年と少女にバトンタッチ。岡田将生と山下リオの初々しいカップルの誕生だ。これによって、ナツイチのコンセプトが昨年の「世界を変えよう」という大それた意気込みから、一気にスタートラインに引き戻された。今年は「はじまり。」がテーマ。実はなんとなく角川文庫の〈旅〉と呼応している。

「行き先はまだ分からないけれど。」

ほら、やっぱり〈自分探しの旅〉が始まるのだ。夏の文庫フェアの王道だね。
  ナツイチ2009.jpg  ナツイチ2008小冊子.JPG

[目次]
 目次も、昨年のジャンル名から「恋したい」「笑いたい」などのタイづくしに変わった。あれ?なんとなく角川の目次(「楽しむ」「見つける」など)と似てきたね。

[スペシャルカバー]
 スペシャルカバーは今年も健在だ。名作×人気漫画家のコラボという趣向も昨年と同じだが、コラボの顔ぶれが一新された。

(2009年)
地獄変(芥川竜之介×久保帯人)
堕落論(坂口安吾×久保帯人)
走れメロス(太宰治×許斐剛)
人間失格(太宰治×小畑健)
こころ(夏目漱石×小畑健)


(2008年)
地獄変(芥川竜之介×小畑健)
人間失格(太宰治×小畑健)
こころ(夏目漱石×小畑健)
伊豆の踊子(川端康成×荒木飛呂彦)
汚れつちまつた悲しみに…(中原中也×武田弘幸)

 今年のカバーについても、昨年同様あまりコメントすることができない。どの漫画家もなじみがないからだ。久保帯人はアニメでもおなじみの「ブリーチ」を、許斐はやはりアニメで有名な「テニスの王子様」を描いた漫画家だそうだ。なるほど、今年の「メロス」は気持ちを込めて走っている。込めすぎてメロスじゃないみたいだ。とりあえず言えることは、このカバーでは僕は読みたくない。ただしターゲットの10代、20代ならばカバーが名作のハードルを乗り越えさせてくれるかもしれない。

 今年のラインナップだが、全部で97冊、新しく入った本が70冊、昨年と変わらなかった本が27冊だ。いつもながら、ナツイチの入れ替え率は7割を越える。ものすごい変更だ。

[躍進した作家]
太宰治(1->2.5)
関口尚(1->2.5)
三崎亜記(1->2.5)
池上彰(1->2)
小路幸也(1->2)

[後退した作家]
浅田次郎(4->1)
村山由佳(4->2)
唯川恵(3->2)
芥川龍之介(2->1.5)
江國香織(2->1)
乙一(3->2)
蒲田實(2->1)
北方謙三(2->1)


 ナツイチの躍進組筆頭は太宰治だ。もちろん生誕百年を意識して、昨年までの「人間失格」だけでなく「走れメロス」の方も、漫画家によるスペシャルカバーに大変身。スペースも昨年の1.5倍になって半ページを割いている。ただし、角川文庫ほど徹底した企画ではない。「走れメロス」も「人間失格」も記念年でなくてもスペシャルカバーになりそうな作品だとも言えるからだ。

 太宰と並んで躍進を遂げたのは関口尚と三崎亜記。この二人は小説すばる新人賞の第15回と第17回をそれぞれ受賞している。言ってみれば集英社はえぬきのホープだ。ベテラン勢の石田衣良と東野圭吾が3冊からさらに3.5冊へと躍進して、意気盛んなところを見せつけている。

 一方、後退組で目立つのは浅田次郎だ。4冊から1冊への大後退。もっとも昨年の4冊が何故か「闇の花道」という作品の第一巻〜第四巻を一挙掲載という不自然なフィーチャーだったので、今年は例年並みにもどったとも言える。次点が村山由佳だ。昨年は「おいしいコーヒーのいれ方」が完結したのを受けての大盤振る舞いだった。こちらも例年並みにもどった。「おいしいコーヒー…」は第二シーズンに突入。まるで海外ドラマだね。

 それにしても、村山由佳、唯川恵、江國香織など女流恋愛小説の達人たちが、そろって後退の憂き目にあっている。躍進組に女性が一人もいないことと関係があるかもしれない。

 新しく入った作家 33名
 今年消えた作家 28名

[新しく入った作家(注目)]

伊坂幸太郎
吉田修一
天童荒太
開高健
北杜夫
広瀬正


 吉田修一(初恋温泉)や伊坂幸太郎(終末のフール)は初登場だ。ここでも女性作家よりも圧倒的に男性作家が元気だ。躍進組の関口尚、三崎亜記などとあわせると、女性のお株であった恋愛小説を若い男性作家が奪っている現状があるのかもしれない。そのうえ、今年は開高健や北杜夫などのベテラン男性作家による不滅の名作が入っているのも影響しているかもしれない。

[レイアウト]
 イメージキャラクターが入れ替わって、テーマがスタートラインに差し戻されたと書いたが、これが形だけでない証拠に、ターゲットとなる読者層を若返らせる工夫をしてきた。キャッチコピーも解説もほとんど書き改められた。どこがどう変わったのか、なかなかうまく説明できないけれど、たしかに変わっているのだ。 それを小路幸也「東京バンドワゴン」を例にとって、昨年と今年を比較してみよう。表紙の写真サイズが小さくなった。昨年が一昨年よりもひとまわり大きくなったと記憶しているから、元に戻したわけだ。表紙の位置が中央からタイトル脇の右寄りにもどった。コピーは3行から2行に減り、簡潔な表現に変わった。

(2008年)東京下町の古本屋。ちょっとワケあり家族のほのぼの物語
(2009年)東京下町の古本屋。ちょっとワケあり大家族の大騒動

字数をけずったせいで、〈ちょっとワケあり〉なコピーになった。

 解説は、フォントが一まわり小さくなり、16字×8行から17字×8行にやや増えた。そこで文の見直しの要が生じたというわけだ。
(2008年)「伝説のロッカー」で金髪の60歳になる我南人、その息子でフリーライターの紺、もう一人の息子で…旅行添乗員の青
(2009年)60歳にして金髪、伝説のロッカー我南人。画家で未婚の母藍子。年中女性トラブルを抱えている…青。


 2008年の解説がもたついているのは明らかだ。「その息子で」「もう一人の息子で」のように、何が何でも家族構成を説明しようとして、無駄な文字を費やしている。今年は思い切って我南人、母、青の3人に絞っている。主人公と青との関係は見えてこないが、続く文章から「一つ屋根の下」で暮らす家族である事はわかる。

 今年の最大の変更点は、昨年までの「ポイント!」でキーワードを列挙するコーナーをやめて、読者2名の一言感想に変えた点だ。編集部のお仕着せのキーワードよりも、時に素直な、時に意外な読者の一言の方が共感できる。日頃はあまり本を読まない人にも役立つ企画だ。

[解説]

 今年の解説の特徴について、もうちょっと詳しく見ていこう。少し「説明的」になったと同時に、抽象的な表現は「具体的」に分かりやすく書き直している。やはり、ターゲットの年齢層を下げた事からくる配慮だろう。

娼年 石田衣良
 (2008年)魅惑的な大人の女性に出会い、踏み込んだ禁断の世界
 (2009年)ふとしたきっかけでボーイズクラブで働くことになる

泳ぐのに、安全でも適切でもありません 江國香織
 (2008年)どこかに満ち足りない哀しさを抱きつつも、潔く恋に生きる
 (2009年)安全でも適切でもない人生のなかで、でも恋愛にだけはためらわず、強く深く生きた…

蛇にピアス 金原ひとみ
 (2008年)「スプリットタン」に魅せられ、自らも舌にピアスを入れるルイ
 (2009年)蛇のように割れた舌「スプリットタン」。ピアスを入れて舌を割る身体改造の一種である。


[小説すばる]
天使の卵 村山由佳(第6回すばる新人賞)
プリズムの夏 関口尚(第15回すばる新人賞)
笑う招き猫 山本幸也(第16回すばる新人賞)
となり町戦争 三崎亜記(第17回すばる新人賞)
蛇にピアス 金原ひとみ(第27回すばる文学賞)
漢方小説 中島たい子(第28回すばる文学賞)
夏と花火と私の死体 乙一(第6回ジャンプ・小説ノンフィクション大賞)


 小説すばるは集英社が出している文芸誌だ。たいてい賞を取った作品は「○○受賞作」と銘打つ事が多いが、今年は「すばる」の文字が目立つ。 なるほど村上由佳の待遇がいいのは、すばる新人賞作家だったからだ。今年はなんとこのベテラン作家の新人賞受賞作が入った。いったい何年前の作品だろう。息が長い恋愛小説だなあ。また、乙一の作品は「すばる」ではないが、少年マンガ誌ジャンプが主催した賞を取っていた。あわせて6冊。昨年は「蛇にピアス」「となり町戦争」「漢方小説」の三冊だけだったので、今年は倍増した。これが何を意味するのか、僕にはよく分からない。たんなる偶然?そうかも?それとも自社の文芸誌の救済かなぁ。

 よくは分からないけれど、一つ言えるのは、この6冊で一番最近の受賞作だと思われる「漢方小説」の今年のコピーがとってもいい。ベストコピー賞をあげよう。

漢方小説 中島たい子
 (2008年)仕事も、恋愛もなんとなく疲れちゃった。そんなときの処方箋。
 (2009年)みのり、31歳、独身。漢方薬がじわじわ効く。


[今年新たに入った本(67冊)]
グリーンライン 赤川次郎
王妃の館(上・下) 浅田次郎
はるがいったら 飛鳥井千砂
生れ出づる悩み 有島武郎
そうだったのか!日本現代史 池上彰
終末のフール 伊坂幸太郎
幕末遊撃隊 池波正太郎
エンジェル 石田衣良
イチローイズム 石田雄太
ベーコン 井上荒野
父親 遠藤周作
犬のしっぽを撫でながら 小川洋子
東京物語 奥田英朗
ZOO(1、2) 乙一
エンド・ゲーム 常野物語 恩田陸
オーパ! 開高健
翼はいつまでも 川上健一
船乗りクプクプの冒険 北杜夫
漂泊の牙 熊谷達也
無伴奏 小池真理子
「心の掃除」の上手い人 下手な人 斎藤茂太
堕落論 坂口安吾
もものかんづめ さくらももこ
まる子だった さくらももこ
王妃の離婚 佐藤賢一
続・岳物語 椎名誠
ローマから日本が見える 塩野七生
桜さがし 柴田よしき
君に届け 下川香苗
シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン 小路幸也
プリズムの夏 関口尚
空をつかむまで 関口尚
わたしの源氏物語 瀬戸内寂聴
走れメロス 太宰治
男をトリコにする 恋セオリー39 蝶々・伊東明
あふれた愛 天童荒太
夜の朝顔 豊島ミホ
悪党たちは千里を走る 貫井徳郎
こちら救命センター 浜辺祐一
救命センター当直日誌 浜辺祐一
トーキョー国盗り物語 林真理子
おれは非情勤 東野圭吾
幻夜 東野圭吾
精神科ER―緊急救命室 備瀬哲弘
マイナス・ゼロ 広瀬正
僕は運動おんち 枡野浩一
バスジャック 三崎亜記
焚火の終わり(上・下) 宮本輝
蜂蜜色の瞳 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season Ι 村山由佳
天使の卵 エンジェルス・エッグ 村山由佳
姉の結婚 群ようこ
漫画版 世界の歴史1 本村凌二
永遠の出口 森絵都
雷神の筒 山本兼一
落花流水 山本文緒
笑う招き猫 山本幸久
肩ごしの恋人 唯川恵
彼女の嫌いな彼女 唯川恵
初恋温泉 吉田修一
子供の領分 吉行淳之介
バスルームから気合いを込めて ジャネット・イヴァノヴィッチ
十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ
荒野へ ジョン・クラカワー
存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ
蠅の王 ウィリアム・ゴールディング
ジェイン・エア シャーロット・ブロンテ
日はまた昇る アーネスト・ヘミングウェイ


[今年消えた本(68冊)]
秘密のひととき 赤川次郎
河童 芥川龍之介
天切り松 闇がたり第一巻 闇の花道  浅田次郎
天切り松 闇がたり第二巻 残侠  浅田次郎
天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両  浅田次郎
天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝  浅田次郎
愛がいない部屋  石田衣良
桑田真澄 ピッチャーズバイブル  石田雄太
実戦!恋愛倶楽部 一条ゆかり
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木  江國香織
「話して考える」と「書いて考える」  大江健三郎
真夜中のマーチ  奥田英朗
暗黒童話 乙一
平面いぬ 乙一
ネバーランド  恩田陸
がんばらない  鎌田實
うわさの神仏  加門七海
伊豆の踊子  川端康成
危険な夏  北方謙三
オシムの言葉  木村元彦
I'm sorry,mama.  桐野夏生
相剋の森  熊谷達也
瑠璃の森 小池真理子
さくら日和 さくらももこ
のほほん絵日記 さくらももこ
オリンピア ナチスの森で  沢木耕太郎
ハーケンと夏みかん  椎名誠
がばいばあちゃん  島田洋七
花より男子ファイナル  下川香苗
君に舞い降りる白  関口尚
M8 エムエイト 高嶋哲夫
怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道  高野秀行
ハナシがちがう 田中啓文
小悪魔な女になる方法  蝶々
チェ・ゲバラの遙かな旅  戸井十月
ジャージの二人 長嶋有
僕に踏まれた町と僕が踏まれた町  中島らも
汚れちつまつた悲しみに…  中原中也
落ちこぼれてエベレスト 野口健
フレフレ少女  橋本裕志
救命センターからの手紙  浜辺祐一
救命センター部長ファイル  浜辺祐一
葡萄物語  林真理子
黒笑小説  東野圭吾
分身  東野圭吾
ひろさちやのゆうゆう人生論  ひろさちや
いじめの光景  保坂展人
ショートソング 枡野浩一
家、家にあらず  松井今朝子
GO−ONE  松樹剛史
朱夏(上)(下)  宮尾登美子
青のフェルマータ  村山由佳
海を抱く  村山由佳
天使の梯子  村山由佳
夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方X  村山由佳
ショート・トリップ  森絵都
はなうた日和  山本幸久
愛には少し足りない  唯川恵
キスよりもせつなく  唯川恵
今夜 誰のとなりで眠る  唯川恵
第三の時効 横山秀夫
源氏に愛された女たち  渡辺淳一
絵のない絵本  アンデルセン
カスに向かって撃て!  J.イヴァノヴィッチ
おばちゃまは飛び入りスパイ  D.ギルマン
風の影(上)(下)  C.R.サフォン
最後の銃弾  サンドラ・ブラウン
ザ・プレイ  A.ブレナン
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2009年07月07日

「発見。角川文庫 夏の100冊(2009)」VS「発見。角川文庫 夏の100冊(2008)」

[タイトル・表紙]

 今回ようやくタイトルが落ち着いた。昨年と同様に「発見。角川文庫 夏の 100冊」だ。〈百冊〉でもないし、〈発見。夏の100冊〉でもないし、それにキャラも2008年に引き続いて松山ケンイチだ。ただし、昨年の「角川文庫60周年」記念のロゴ〈60th〉がそっと姿を消した。それに合わせるように昨年フィーチャーしていた「絶望」というキーワードの呪縛がなくなった。今年のテーマは「旅」。いや「自分探しの旅」だ。これは、夏の文庫フェアの王道に戻ったと言っていい。
  角川文庫2009.jpg   角川文庫2008.JPG

[目次・スペシャルカバー]
 目次も昨年と変わりない。「学ぶ」が「見つける」に変更されたぐらいだ。スペシャルカバーの他社とのガチンコ対決は今年も続いている。今年の松山ケンイチスペシャルは、
「銀河鉄道の夜」(宮沢賢治)
「変身」(カフカ)
「恐るべき子供たち」(コクトー)
の三冊。

 この三冊に共通するキーワードをあげるとするならば、「無垢」「孤独」「絶望」と言ったところだろうか。やはり松山ケンイチスペシャルだけあって、男っぽいクールさに満ちたラインナップだ。ちなみに昨年2008年のスペシャルカバーは、
 「人間失格・桜桃」(太宰治)
 「走れメロス」(太宰治)

の二冊だった。角川さん、ちょっと一年フライングだったんじゃないかな。だって今年こそが太宰治の記念年なのに…。

[特集:太宰治生誕百年]
 と思ったら、今年の角川は「太宰治生誕百年」にきっちりターゲットを絞ってきました。「日常のなんでもないホゲッとした一瞬」を写してしまう、あの梅佳代が写真担当で、装丁は祖父江慎。(生まれてきて)すみません、彼の装丁がどんなものなのか全然知りません。そして角川文庫太宰作品全十冊のカバーが、この強力タッグによるカバーに差し替えられた。 全十冊の表紙は一応特集ページで見ることができるが、店頭で手にとって見ないとなんとも言えない。最近、名作の表紙をアイドルの写真にして売っている文庫があるが、あれみたいなすっきりとしたイメージになるんだろうか。

 フェアに含まれる「人間失格」の表紙は、悪ガキ小学生たちのワンカット。「走れメロス」はなんとおじさんが自転車に乗って連れ回している子犬の写真だ。写真が横長に配置されているのも文庫のお約束を破っていて驚かされる。二人の対談を読む限り、〈なんでもあり〉というのが方針のようだ。「表紙を隠さないでも太宰が読める」をコンセプトにしたと祖父江さんが語っている。いいんじゃないですか、読んでももらえれば…。

 さて、今年のラインナップを検証していこう。

 今年は全101冊、新たな本52冊(昨年と同じ本49冊)だ。


[躍進した作家]

山田悠介(1->3)
三浦綾子(0->2)
有川浩(1->2)
森見登美彦(1->2)
恩田陸(1->2)
金城一紀(1->2)
筒井康隆(1->2)


[後退した作家]
京極夏彦(3->1)
森絵都(4->2)
相田みつを(2->0)
森鴎外(2->0)
ダン・ブラウン(2->0)
芥川竜之介(2->1)
江國香織(2->1)
寺山修司(2->1)
灰谷健次郎(2->1)
山本文緒(2->1)


 躍進組の筆頭は山田悠介だ。「パズル」や「リアル鬼ごっこ」など、ホラーやミステリーのジャンルで意気盛んなところを見せる流行作家が大躍進。もう一人はベテラン三浦綾子。こちらは小林多喜二の伝記と合わせ技で昨年の0冊から躍進。以上の二人以外に注目したいのは、いままさに上り調子の有川浩と森見登美彦だろう。

 一方の後退組の筆頭は京極夏彦と森絵都だ。ただし、森は昨年が4冊の大台だったので、2冊に減ったのを後退と言ってしまうのは可哀想か。京極は明らかに大躍進の山田悠介に同じジャンルで喰われたと言っていい。そのほかには、相田みつを、森鴎外、ダン・ブラウンが2冊から大きく後退して姿を消した。でも相田みつをは、きっとジェイソンかエイリアンのように何度も何度も甦るだろうから心配はいらない。ダン・ブラウンは夏に入る前に「天使と悪魔」でだいぶ儲けたから、夏のフェアからはご退場願ったようだ。

 躍進・後退とは違った意味で重要なのは、作家の顔ぶれの入れ替えだ。

 新しく入った作家 28名
 消えた作家    24名

 この中には一年おきの常連組もいるから、出入りだけで判断してもあまり意味がない。特に注目株だけを抜き出してみよう。

[新しく入った作家(注目)]

海堂尊
小林多喜二
葵せきな
野村美月
支倉凍砂
はらだみずき


[消えた作家(注目)]
吉本ばなな
ダン・ブラウン


 海堂は「チーム・バチスタの栄光」や「ジェネラル・ルージュの凱旋」(2作とも宝島社)が次々に映画化されるほどの売れっ子ぶりが目立つ。ようやく捉まえた逸材というわけだ。小林多喜二はもちろん時代の寵児だ。派遣切りやリストラが日常化している社会状況をいち早く先取りしたかのような「蟹工船」が、古くて新しい小説としてよみがえった。これはひょっとして〈夏の文庫フェア3社比較〉でも、最重要トピックに挙がるかもしれない。そのほかの顔ぶれは僕らの世代には見慣れない名前だ。これについては、次節で取り上げよう。

 消えた作家の話はそれほど面白いわけではないから簡単にいこう。何と言っても最大にして最重要な作家は吉本ばななだ。これは正直大変な事になったぞ、と思った。吉本ばななが角川のフェアから姿を消した。これは「キッチン」がいよいよ姿を消した事を意味する。これも小林多喜二同様、〈3社比較〉で大きなトピックになることは間違いない。と予告したところで、それ以上は深く突っ込まない事にしよう。

[角川文庫以外の文庫(14冊6レーベル)]

狼と香辛料 支倉凍砂(電撃文庫)
生徒会の一存 葵せきな(富士見ファンタジア文庫)
涼宮ハルヒの憂鬱 谷川流(角川スニーカー文庫)
"文学少女"と死にたがりの道化 野村美月(ファミ通文庫)
夜市 恒川光太郎(角川ホラー文庫)
霧が晴れた時 小松左京(角川ホラー文庫)


 以前から古典が「角川ソフィア文庫」という別レーベルになっている事は気付いていたが、まさか他のレーベルからも入っているとはうかつにも気付かなかった。少なくとも昨年は気付いていない。今年は、さきほど見てきた「新しく入った作家」に見慣れない名前が何人も出くわした。その中で実は野村美月という作家の〈文学少女〉シリーズは、たまたま最近読んだばかりだったので、あれが角川文庫だとはどう考えても思えなかった。そこでようやく、こんなにもラノベ組の作家と作品が進出している事に思い至ったわけだ。それにしても、さすが角川文庫だ。必ずしも角川文庫レーベルでなくても「発見。角川文庫」に採り入れてしまう節操のなさは大したものだ。いや、これ、決してけなしているわけじゃないよ。

 ちなみに2008年は11冊4レーベルだった。11冊と14冊なのでそんなに違わないように思われるかもしれないが、古典を提供している角川ソフィア文庫を除くと3冊から6冊へと2倍になっていることがわかる。6冊のうち4冊がライト・ノベルスだから、ターゲットとなる10〜20歳の若者のニーズにしっかりと応えている事になる。

[キャッチコピー]
 今年の紹介ページの特徴は、キャッチコピーの見直しだ。以前からこの企画で指摘してきたが、角川のキャッチコピーは詰まらない。何故か本文と同様に説明的で、大仰な惹句が多い。その点で、ワンフレーズで僕らの心をグッとつかんでしまう新潮文庫のキャッチコピーに見劣りがしてしまう。今回、そこをがらりと変えてきたのだ。例えば、

月魚 三浦しをん
 (2008年)古書店「無窮堂」を巡るふたりの青年の物語。
 (2009年)夢も、野心も、すべてあの夏の日に生まれた。

 どちらがいいかは一目瞭然だろう。2008年のコピーは解説に書いてあれば十分だろう。キャッチコピーは非常に短い解説文ではないのだ。まずは言葉どおり読者を捕まえなければ意味がない。そこにようやく角川も気づいた。だからだろうか、解説の中の印象的なフレーズをコピーと入れ替えたりしている。

 では〈大仰な惹句〉とは何か。これはあきれ返る程、2008年には溢れていた。
最強傑作(グラスホッパー)
抱腹絶倒(ドミノ)
痛快ストーリー(坊つちゃん)
痛快ファンタジー(ペキー・スー)
歴史的一大奇書(ドグラ・マグラ)
(日本軍の)衝撃の記録(悪魔の飽食)
非日常系ストーリー(涼宮ハルヒの憂鬱)
当代随一(覘き小平次)
感動作(兎の眼)
決定版(知っておきたい日本の神様)

 こんな下手な客引きでは、素直にお代を払ってくれる人は少ない。やもっとグッとくる言葉で迫ってほしい。これらの惹句の代わりにどんな魅力的な言葉に変わったか。この夏に読むには最適な宮沢賢治の童話二冊で、とくと今年のキャッチコピーの妙を味わってみよう。

注文の多い料理店 宮沢賢治
 (2008年)生前に出版された唯一の童話集。
 (2009年)神秘に満ちた、イーハトーブの世界を旅しよう

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
 (2008年)死の直前まで推敲された宮沢賢治の最高傑作
 (2009年)せつない気持ちを抱え、少年は宇宙を旅する


 ほらね。説明的な文章も無駄な表現もなくなって、煽りが効いた表現になってるでしょ。あれっ?でも二冊とも「旅する」んだ。もうちょっと工夫が必要ですね、編集部の方々。

[その他、気になった点]
 キャッチコピーにはずいぶん手が入ったけれど、本の紹介文の方は基本的に大きな変更はない。ただし、太宰治「人間失格」だけは書き直し部分があり、比較すると面白い。

人間失格 太宰治
 (2008年)本書が世間に発表されたのは、1948年。太宰治が玉川上水に入水した後になる。(以下、略)
 (2009年)本書が脱稿したのは、1948年5月。太宰治が玉川上水に入水し、命を絶つ1ヵ月前のことである。(以下、略)


 入水自殺してしまえば原稿は書けない。死後の発表は取り立てて驚く事でもないだろう。発表時期が死ぬ直前ならば価値があるが、直後にはあまりない。しかし脱稿が自殺直前ならば、その小説には作家にとっての重要な意味が込められているだろう。昨年までの解説は、そこらへんの状況を見誤っていたのだ。この変更は当を得たものだが、惜しむらくは「本書が脱稿した」という表現は間違いで、「本書が脱稿された」か「本書を脱稿した」でなくてはならない。残念です。

 最後の最後に、夏目漱石の2冊の表紙が変わった事を指摘しておこう。「坊つちゃん」が〈下駄とイナゴ〉。「こゝろ」が〈金魚と百合〉だ。両方とも同じデザイナーの手によるものだろう。昨年までの装幀と比べると、非常に涼しげでスタイリッシュな表紙になっている。これ、いいなぁ。2冊とも買ってしまいたくなった。

[今年新たに入った本リスト(52冊)]

或る「小倉日記」伝,松本清張
海の底,有川浩
狼と香辛料,支倉凍砂
おくのほそ道(全)ビギナーズ・角川書店
怖るべき子供たち ジャン・コクトー 訳:東郷青児
怪談・奇談 ラフカディオ・ハーン
海底2万海里 (上)(下) ジュール・ベルヌ
蟹工船・党生活者 小林多喜二
きみが見つける物語 スクール編 角川文庫編集部
きみが見つける物語 休日編 角川文庫編集部
巨大投資銀行(上)(下) 黒木亮
霧が晴れた時ー自選恐怖小説集 小松左京
偶然の祝福 小川洋子
クローズド・ノート 雫井脩介
古事記 ビギナーズクラシックス 角川書店 著:角川書店
GOTH夜の章/僕の章 乙一
今夜は眠れない 宮部みゆき
サッカーボーイズ 再会のグラウンド はらだみずき
少女パレアナ ポーター
症例A 多島斗志之
新選組血風録 【新装版】 司馬遼太郎
心霊探偵八雲1赤い瞳は知っている 神永学
スイッチを押すとき 山田悠介
青春の逆説 織田作之助
生徒会の一存 葵せきな
青年社長(上)(下) 高杉良
旅人(ある物理学者の回想) 湯川秀樹
ちぐはぐな部品 星新一
罪と罰 上・下 ドストエフスキー 訳:米川正夫
道三堀のさくら 山本一力
七つの人形の恋物語 ポール・ギャリコ 訳:矢川澄子
日本以外全部沈没 筒井康隆
ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ 滝本竜彦
眠たい奴ら 大沢在昌
母 三浦綾子
氷菓 米澤穂信
氷点(上)(下) 三浦綾子
不道徳教育講座 三島由紀夫
“文学少女”と死にたがりの道化 野村美月
ぼくは悪党になりたい 笹生陽子
万葉集ビギナーズ・クラシックス 角川書店
三日月が円くなるまで 宇江佐真理
みぞれ 重松清
ユージニア 恩田陸
夢にも思わない 宮部みゆき
夜市 恒川光太郎
夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦
ライヴ 山田悠介
螺鈿迷宮 上・下 海堂尊
リズム 森絵都
レヴォリューション No.3 金城一紀
私という運命について 白石一文

[今年消えた本]
アーモンド入りチョコレートのワルツ 森絵都
愛がなんだ 角田光代
あやし 宮部みゆき
ある愛の詩 新堂冬樹
アルケミスト 夢を旅した少年 パウロ・コエーリョ
アルテミス・ファウル妖精の身代 オーエン・コルファー
アンネ・フランクの記憶 小川洋子
生きていてよかった 相田みつを
いつかパラソルの下で 森絵都
失はれる物語 乙一
絵草紙源氏物語 田辺聖子
NHKにようこそ! 滝本竜彦
キッチン 吉本ばなな
きまぐれロボット 星新一
蜘蛛の糸・地獄変 芥川龍之介
巷説百物語 京極夏彦
彩雲国物語 はじまりの風は紅く 雪乃紗衣
山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 森鴎外
疾走 (上)(下) 重松清
小学生日記 華恵
世界の終わり、あるいは始まり 歌野晶午
太陽の子 灰谷健次郎
ダ・ヴィンチ・コード (上)(中)(下) ダン・ブラウン
堕落論  坂口安吾
探偵倶楽部 東野圭吾
ツ、イ、ラ、ク 姫野カオルコ
つきのふね 森絵都
徒然草ビギナーズ・クラシックス 角川書店
天使と悪魔 (上)(中)(下) ダン・ブラウン
天使の爪 (上)(下) 大沢在昌
電池が切れるまで子ども病院から すずらんの会
動物農場 ジョージ・オーウェル
遠い海から来たCOO 景山民夫
新遠野物語付 遠野物語拾遺 柳田国男
新版 にんげんだもの 逢 相田みつを
パイロットフィッシュ 大崎善生
美女入門 林真理子
ファースト・プライオリティ 山本文緒
フェイク 楡周平
不思議の国のアリス ルイス・キャロル
フルメタル・パニック! 戦うボーイ・ミーツ・ガール 賀東招二
ブレイブ・ストーリー (上)(中)(下) 宮部みゆき
ポケットに名言を 寺山修司
舞姫・うたかたの記 森鴎外
枕草子ビギナーズ・クラシックス 角川書店
ミミズクと夜の王 紅玉いづき
村田エフェンディ滞土録 梨木香歩
楽園のつくりかた 笹生陽子
冷静と情熱のあいだ Rosso 江國香織
冷静と情熱のあいだ Blu 辻仁成
論語 ビギナーズ・クラシックス 加地伸行
嗤う伊右衛門 京極夏彦
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2008年08月15日

2008年「『新潮文庫の100冊』VS『ナツイチ』VS『発見。角川文庫 夏の100冊 角川文庫』」

 夏休みも佳境に入った。読書感想文の宿題を終わらせようとウェブに探りを入れる中学生・高校生の動きが、ブログのアクセス解析を通して見えてくる。真剣に感想文を書くには、もう本は読了してなければならない。でも、まだ読む本を決めてもなくてジタバタしている生徒もいそうだ。彼らにして見れば、〈夏の文庫フェア〉はジタバタする本を決めるための格好の対象図書リストを提供してくれるはずだ。

 僕も夏が終わる前に恒例の比較記事にピリオドを打たねばならないので、ジリジリしているところだ。今年の「発見。角川文庫」「ナツイチ」「新潮100冊」についての内容調査記事はすでに書いたが、これら3つの比較記事がまだ残っている。通常ならば夏休み前に一気に片づけているはずなのだが、今年は間があいてしまってモチベーションが下がってしまった。夏休みが終われば〈夏の文庫フェア〉も終わる。その後で記事をアップしても気の抜けたサイダーみたいなものだ。宿題にケリを付けようと気合いを入れている中・高校生たちを見習って、僕もがんばってみよう。

 毎回説明しているが、3つの〈夏の文庫フェア〉比較記事で見ていくのは「他のフェアと共通する作家や作品は何か」という点だ。契約の関係から出版社が異なれば、作家や作品が異なるのは当たり前だからだ。共通の作家や作品を見ると面白い傾向が分かるのではないかという趣旨だ。

 共通する作品から紹介していく前に、今年はスペシャルカバーが3社そろい踏みした事に触れておこう。そもそもナツイチは〈夏の文庫フェア〉にあわせて表紙を差し替えるのを常としてきたが、特に昨年は「こころ」などの古典数冊の表紙を蒼井優の写真に変えたり、「人間失格」に漫画家・小畑健のイラストに差し替えて大胆なアピールを試みた。今年はさらにスペシャル企画として人気漫画家による表紙を増やした。

絵のない絵本.jpg このナツイチの大胆な動きに角川も追従して、今年はイメージキャラクターの松山ケンイチを太宰治の2冊に起用した。ナツイチの蒼井優とまったく同じコンセプトだ。しかし新潮文庫も今年スペシャルカバーを企画した点は大変に興味深い。それだけ活字離れした若い世代に読んでもらうためのナツイチの工夫に、他2社も注目してきたということだろう。

 ただし新潮は角川のようにナツイチと同じ路線はとらない。新潮のカバーは非常にスマートで大人びて垢抜けている。これならちょっとカバー無しでクリアケースに入れてもいいかなぁ、と中・高校生が背伸びしたくなるようなデザインだ。さて、若い読者はどう3社のカバーを受け止めただろうか。 

[作品(3社共通,3冊)]
(以下、新潮:新、ナツイチ:ナ、角川:角)

こころ 夏目漱石 新ナ角
人間失格 太宰治 新ナ角(角川のみ「人間失格・桜桃」)
蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介 新ナ角(ナツイチは「地獄変」,角川は「蜘蛛の糸・地獄変」)


 相変わらず3社共通の作品は増えない。漱石の「こころ」と太宰の「人間失格」は例年通りのリザーブシートに腰掛けている。おそらくは、この世から読書感想文の課題がなくならない限りは半永久的にこの2冊は〈夏の文庫フェア〉に君臨し続けるだろう。そして昨年の宮沢賢治「銀河鉄道の夜」と漱石「坊っちゃん」が後退して、芥川龍之介の短編集が3社共通となった。ちょっと微妙なのは3社とも短編集のタイトルが違うので、3社共通の作品がどれとどれなのかははっきりとは確認できなかった。少なくとも「地獄変」「蜘蛛の糸」は3社の短編集のいずれにも掲載されている事は分かっている。

[作品(2社共通,11冊)]

阿部一族・舞姫 森鴎外 新角(角川は「山椒大夫・高瀬舟・阿部一族」「舞姫・うたかたの記」)
絵のない絵本 アンデルセン 新ナ
変身 カフカ 新角
星の王子さま サンテグジュペリ 新ナ
不思議の国のアリス ルイス・キャロル 新角
海と毒薬 遠藤周作 新角
羅生門・鼻 芥川龍之介 新角
キッチン 吉本ばなな 新角
新編 銀河鉄道の夜 宮沢賢治 新角
伊豆の踊子 川端康成 新ナ
二十四の瞳 壺井栄 新角


 2社共通作品は昨年が10冊で今年は11冊で横ばい。顔ぶれは変わっているが〈古典〉〈名作〉と言われるものばかりなのは例年通りだ。ただし、唯一生きている作家・吉本ばななの「キッチン」が昨年同様に入っている。何故古典ではない「キッチン」が2社共通作品になり得たのかについては2007年の比較記事で詳細に分析したので、今年は省略する。

 次に、昨年から今年にかけて〈躍進した作品〉と〈後退した作品〉を挙げる。
[躍進(作品)]

蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介 (1->3)(ナツイチは「地獄変」,角川は「蜘蛛の糸・地獄変」)
伊豆の踊子 川端康成 (0->2)
阿部一族・舞姫 森鴎外 (1->2)(角川は「山椒大夫・高瀬舟・阿部一族」「舞姫・うたかたの記」)
海と毒薬 遠藤周作 (1->2)
不思議の国のアリス ルイス・キャロル (1->2)
絵のない絵本 アンデルセン 新潮 (1->2)


 芥川、川端、鴎外の作品がそれぞれ躍進している。目立つのは「伊豆の踊子」だ。これはナツイチのスペシャル企画のおかげだろう。カバーを漫画家のイラストに変えた作品に中に「伊豆の踊子」が入っている。アンデルセンの「絵のない絵本」が躍進しているのも、新潮文庫がカバーをフェア用に変えた作品の中の一冊ということが関係していそうだ。

[後退(作品)]

坊っちゃん 夏目漱石 (3->1)
銀河鉄道の夜 宮沢賢治 (3->2)
走れメロス 太宰治 (2->1)
堕落論 坂口安吾 角川 (2->1)
車輪の下 ヘルマン・ヘッセ (2->1)
十五少年漂流記 ヴェルヌ (2->1)


 昨年3社そろい踏みした漱石「坊っちゃん」が大きく後退。青春ものという観点からは「伊豆の踊子」の躍進と呼応しているのかもしれない。同じくファンタジーという観点で「不思議の国のアリス」や「絵のない絵本」の躍進と「銀河鉄道の夜」の後退がセットのような気がする。

 今度は〈共通する作家〉を見ていく。
[作家(3社共通,8名)]

恩田陸
 ネバーランド ナ
 蒲公英草紙 ナ
 光の帝国 ナ
 ドミノ 角
 夜のピクニック 新

夏目漱石
 こころ 新ナ角
 坊っちゃん 角
 三四郎 新

芥川龍之介
 河童 ナ
 地獄変 ナ角(角川は「蜘蛛の糸・地獄変」)
 蜘蛛の糸・杜子春 新角(角川は「蜘蛛の糸・地獄変」)
 羅生門・鼻 新(角川は「羅生門・鼻・芋粥」)

宮部みゆき
 地下街の雨 ナ
 あやし 角
 ブレイブ・ストーリー (上)(中)(下) 角
 火車 新

江國香織
 泳ぐのに、安全でも適切でもありません ナ
 薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木 ナ
 落下する夕方 角
 冷静と情熱のあいだ Rosso 角
 号泣する準備はできていた 新

石田衣良
 スローグッドバイ ナ
 愛がいない部屋 ナ
 娼年 ナ
 約束 角
 4TEEN 新

浅田次郎
 天切り松 闇がたり第一巻 闇の花道 ナ
 天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両 ナ
 天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝 ナ
 天切り松 闇がたり第二巻 残侠 ナ
 霧笛荘夜話 角
 憑神 新

太宰治
 人間失格 新ナ角(角川は「人間失格・桜桃」)
 走れメロス 角
 斜陽 新


 昨年の10名から8名に減った。昨年挙げた特徴別分類は今年も有効のようだ。それは、

 (A)古典的作品を残した文豪(漱石、芥川、太宰)
 (B)多作な女性流行作家(恩田、宮部、江國)
 (C)器用な男性流行作家(石田衣良、浅田次郎)

となる。顔ぶれは(A)から宮沢賢治が抜け、(B)から角田光代が抜け、(C)の赤川次郎が浅田次郎に入れ替わっただけの違いだ。(C)は奇しくも〈次郎つながり〉になった。

[作家(2社共通,32名)]
アンデルセン
 絵のない絵本 新ナ

カフカ
 変身 新角

さくらももこ
 さくら日和 ナ
 のほほん絵日記 ナ
 さくらえび 新

サンテグジュペリ
 星の王子さま 新ナ

ルイス・キャロル
 不思議の国のアリス 新角

伊坂幸太郎
 グラスホッパー 角
 重力ピエロ 新

遠藤周作
 海と毒薬 新角

奥田英朗
 真夜中のマーチ ナ
 サウスバウンド (上)(下) 角

荻原浩
 さよならバースディ ナ
 コールドゲーム 新

乙一
 暗黒童話 ナ
 夏と花火と私の死体 ナ
 平面いぬ ナ
 失はれる物語 角

角田光代
 愛がなんだ角
 キッドナップ・ツアー新

吉本ばなな
 キッチン 新角

宮沢賢治
 銀河鉄道の夜 新角(新潮は「新編 銀河鉄道の夜」)
 注文の多い料理店 角

金城一紀
 GO 角
 対話篇 新

重松清
 疾走 (上)(下) 角
 きみの友だち 新
 ナイフ 新

小川洋子
 アンネ・フランクの記憶 角
 博士の愛した数式 新

小池真理子
 瑠璃の海 ナ
 恋 新

森鴎外
 山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 新角(新潮は「阿部一族・舞姫」)
 舞姫・うたかたの記 新角(新潮は「阿部一族・舞姫」)

森絵都
 ショート・トリップ ナ
 DIVE!! (上)(下) 角
 アーモンド入りチョコレートのワルツ 角
 いつかパラソルの下で 角
 つきのふね 角

森見登美彦
 四畳半神話大系 角
 太陽の塔 新

星新一
 きまぐれロボット 角
 ボッコちゃん 新

赤川次郎
 秘密のひととき ナ
 ふたり 新

川端康成
 伊豆の踊子 新ナ

沢木耕太郎
 オリンピア ナチスの森で ナ
 深夜特急1 新

東野圭吾
 黒笑小説 ナ
 白夜行 ナ
 分身 ナ
 さまよう刃 角
 殺人の門 角
 探偵倶楽部 角

筒井康隆
 時をかける少女(新装版)角
 家族八景 新

畠中恵
 ゆめつげ 角
 しゃばけ 新

柳田国男
 新遠野物語付 遠野物語拾遺 角
 日本の昔話 新

唯川恵
 キスよりもせつなく ナ
 愛には少し足りない ナ
 今夜 誰のとなりで眠る ナ
 恋せども、愛せども 新
 恋人たちの誤算 新

梨木香歩
 村田エフェンディ滞土録 角
 西の魔女が死んだ 新

林真理子
 年下の女友だち ナ
 葡萄物語 ナ
 美女入門 角

壺井栄
 二十四の瞳 新角


 2社共通の内訳は〈新角18名、新ナ9名、ナ角5名〉だ。新潮と角川が同じ作家で競い合っているのは相変わらずだが、ちょっと注目したいのはナツイチのバランスが昨年の〈新ナ7名、ナ角7名〉から、やや新潮寄りになった。新たに新潮とかぶった作家は
 アンデルセン
 小池真理子
 川端康成
 沢木耕太郎
の4名だ。

 昨年から今年にかけて〈躍進した作家〉と〈後退した作家〉は以下の通りだ。


[躍進(作家)]

浅田次郎 (1->3)
アンデルセン (1->2)
ルイス・キャロル (1->2)
奥田英朗 (1->2)
金城一紀 (1->2)
小池真理子 (1->2)
森鴎外 (1->2)
森見登美彦 (1->2)
川端康成 (1->2)
沢木耕太郎 (1->2)
畠中恵 (1->2)
柳田国男 (1->2)



[後退(作家)]


スティーヴン・キング (2->0)
トルストイ (2->0)
群ようこ (2->0)
角田光代 (3->2)
宮沢賢治 (3->2)
赤川次郎 (3->2)
ヴェルヌ (2->1)
サリンジャー (2->1)
ヘッセ (2->1)
坂口安吾 (2->1)
三浦綾子 (2->1)
三島由紀夫 (2->1)
山本文緒 (2->1)
司馬遼太郎 (2->1)
大沢在昌 (2->1)
本多孝好 (2->1)


 今年はなんといっても浅田次郎の躍進が目立つ。単なる偶然かなぁ。それと新進気鋭の森見登美彦の躍進も注目したい。この人はいずれ3社共通になるかもしれない。一方でスティーブン・キングが一挙に0社に後退したのは驚きだ。こちらも単なる偶然だろうか。また常連組の後退が目立ったのも今年の特徴だ。新しい作家にずいぶん入れ替えが進んだのかもしれない。

 最後に恒例のキャッチコピーの比較をする。と言っても共通作品の顔ぶれも昨年とそれほど変わっていないし、何よりコピーも変わらない作品が多い。そこで、〈今年新たに共通作品となったもの〉と〈コピーが変更になったもの〉を取り上げる。

こころ 夏目漱石
 新:友情と恋の、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか……。
 ナ:親友と同じ人を好きになったら。あなたはどうする?
 角:自我の奥深くに潜むエゴイズムと罪の意識

蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介(ナツイチは「地獄変」,角川は「蜘蛛の糸・地獄変」)
 新:けっしてふりむいてはいけない、必ず一度、そんな時がきます……。
 ナ:燃えさかる炎を前に彼はどんな顔をしていたのだろう。
 角:大正7年に書かれた、小説8編を収録

阿部一族・舞姫 森鴎外(角川は「山椒大夫・高瀬舟・阿部一族」「舞姫・うたかたの記」)
 新:エリートの中のエリート官僚が、薄幸の美少女を愛してしまった!
 角:文豪・森鴎外の後期の代表作品集

絵のない絵本 アンデルセン
 新:世界一物知りなお月さまが教えてくれる不思議な出来事
 ナ:月が聞かせてくれるため息の出るような33夜の美しい物語。

不思議の国のアリス ルイス・キャロル
 新:日常生活から逃げたいと願っているあなた、いつか、アリスになれるかも。
 角:イギリス人特有のユーモアにあふれた一冊

海と毒薬 遠藤周作
 新:アメリカと闘った戦争が、医学も、日本人のこころも汚してしまった。
 角:人間の罪責意識を、あらためて問いかける

伊豆の踊子 川端康成
 新:旅の終りにひとすじの涙……これが孤独なぼくの初恋なんだ。
 ナ:さよならの意味を知って少年少女は大人になっていく…

 扇情的で人を惹きつける新潮文庫のコピーが目立つのはいつものことだが、ナツイチが表紙に漫画家のイラストを採用したと同時に、新潮ばりに〈キャッチー〉なコピーに変えてきた。あっ!「こころ」のコピーは新潮のをパクってるかも。

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2008年07月27日

「新潮文庫の100冊2008」VS「新潮文庫の100冊2007」

 今年も角川、ナツイチ、新潮の順で一番最後になってしまった。ここ数年はナツイチの動向に目が離せなかったし、昨年の角川の「ナツイチ化」を分析するのもなかなか楽しかった。でも昨年からこの企画で一番楽しみにしているのが、実は「新潮文庫の100冊」なのだ。今年も最後になってしまったというよりは、楽しみを最後にとっておいたと言った方が当たっている。

 何が楽しみか。毎年ラインナップの7割が入れ替わることなく、装丁も相変わらずYonda?くんがおとなしげに読書に耽っている。何も変わらないならば、見どころなんてないじゃないか。新しい3割の中身に工夫があるのかしら。いや、その3割にしたって以前に入ったことがある作品も含まれている。本当に新作と言えるのは2割あるかないかだ。では、何が面白いのか。

 それは、かたくなに変化を拒む中にかいま見られる微妙な変更だ。それを僕は「壮大な推敲」と呼んでいる。昨年、アラビア数字を本文から駆逐して漢数字に置き換えた編集方針に、〈日本語をみがく〉ことにこだわる編集部の意気込みを感じた。それは解説やコピーの一字一句にまで行き渡っていた。そして今年も期待に違わず、こだわりを見せつけてくれた。角川やナツイチのナビゲーションチャートを調べるよりもエキサイティングな言葉のせめぎあいが、今年の〈新潮100冊〉にはある。

新潮100冊2008.jpg まずは小冊子表紙のYonda?のイラストに触れておこう。今年はレモン色に近い黄色を背景に、大きな緑の葉っぱが幅を効かせている。葉っぱの切り欠きに腰をかけたYonda?くんがいつものように読書に耽る。そう、このYonda?くんは本を読み耽る。バカンスには本を読むことが当然とばかりに、両手に持った本に顔を埋めるようにして読んでいる。まるで新潮文庫の読書への執着を体現したかのようだ。

 ところが今年のYonda?くんは結構よそ見が多い。こちらの様子が気になるようだ。読書に身が入らないのは、僕らがちゃんと今年も本を読んでくれているか、それが気がかりなのだろうか。今年も僕は読んでますよ。そして学生諸君は定番の「こころ」や「人間失格」を読んでるはずだから心配いらないよ!って、僕の気の回しすぎ?

 さて、今年のラインナップは全105冊。そして著者がちょうど100人。昨年、一昨年とまったく変わらない。この「著者がピッタリ100名」というところは昨年も言及したので、気になる方は自分で調べてみるといい。101名だぞ、と思った方はもう一度よく調べてみましょう。そして今年新たに入った本は35冊。当然ながら消えた本も35冊だ。昨年の入れ替わりは32冊だったから、ほんのちょびっと入れ替えが増えたけれど、ほぼ横ばいだ。

 では、さっそく「壮大なる推敲」の痕跡を見ていこう。今年の注目点は「句点、読点、そしてルビ」だ。

 「…」で文章が終わる時に句点が入るようになった。

こころ 夏目漱石
2007年: 友情と恋の、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか……
2008年: 友情と恋の、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか……

 以下の3冊もまったく同じで、変更は文末に句点が増えただけだ。
羅生門・鼻 芥川龍之介
2008年: ワルに生きるか、飢え死にするかニキビ面の若者は考えた……

蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介
2008年: けっしてふりむいてはいけない、必ず一度、そんな時がきます……

砂の女 安部公房
2008年: 来る日も来る日も砂・砂・砂……


 こうするとどうなるか分かるだろうか。そう、コピーすべての文末が句点もしくは疑問符・感嘆符で終わる。この当たり前の日本語の形式を統一することの難しさが、毎年の「推敲」に映し出される。何故って、編集部の「上手の手から水が漏れて」しまうのだ。それも最後の最後になって…。

ガンに生かされて 飯島夏樹
2008年: ガン宣告を受けても、家族のため、自分のために前向きに生きる。最後の最後まで……


 今年新たに追加された話題作だ。コピーや解説から感動的な内容であることはよく理解できるから、ここで指摘しているのは些末なことだ。でも、今年の編集部は「……」の後に句点が抜けている事を見過ごせないだろう。

 句点の次は読点ひとつの追加だ。

沈黙の春 レイチェル・カーソン
2007年: この告発が環境破壊との人類の戦いの始まりだった。
2008年: この告発が環境破壊との人類の戦いの始まりだった。

 この読点は、「この告発が」の部分が「始まりだった」に掛かることを、もしくは「環境破壊との人類の戦いの始まりだった」に掛かることを明確にする読点だ。本多勝一さんの「日本語の作文技術」からすると、かかる言葉と受ける言葉に曖昧さは生じないので有っても無くてもいい読点だ。だが表現者の「思想のテン」として自由に打ってよいとも説明している。実はこの本のコピーはいわく付きで、昨年大幅な変更をしている。その上での読点だから、ようやく龍に目玉が入った思いがする。

 次はルビだ。

日本の昔話 柳田国男
2007年: 藁が家に変わった!?猿の尾は長かった!?昔話って実はスリリング!
2008年: 藁(わら)が家に変わった!?猿の尾は長かった!?昔話って実はスリリング!


思い出トランプ 向田邦子

2007年: 心に沁みる。泣けてくる。これぞ不滅の恋愛小説。
2008年: 心に沁(し)みる。泣けてくる。これぞ不滅の恋愛小説。


「藁」や「沁みる」が難読かを問うべきではない。漢字を使うかルビを振るか、それともいっそ仮名にしてしまうかは、コピーの発信者と受信者の移り変わりを示す大きな指標なのだ。

黄色い目の魚 佐藤多佳子

2007年: ごまかさない。取り繕わない。マジになるって結構格好いい。
2008年: ごまかさない。とりつくろわない。マジになるって結構格好いい。


変身 カフカ
2007年: 読み始めてすぐに「何故だ?」と思い、読み終えた直後に「何故だ!」と叫ぶ。
2008年: 読み始めてすぐに「なぜだ?」と思い、読み終えた直後に「なぜだ!」と叫ぶ。


それこそ「何故だ!」などと叫んではいけない。漱石や芥川の作品の表紙がマンガになる時代だ。控えめながら読みづらい言葉や硬い言葉を仮名で柔らかくしていくのも、発信者の気配りと言える。

 ならば、次の変更はもはや気配りと言えないだろう。

愛より速く 斎藤綾子
2007年: 女がみんなこんなだなんて、バレたらまずいよ。
2008年: 女の子がみんなこんなだなんて、バレたらまずいよ。

「女」が「女の子」になるだけでずいぶん作品のイメージが変わる。昨年は「マジで」を削除してはすっぱなイメージを払拭したけれど、残った言葉だけからはアブノーマルな性癖を持つ大人の〈女〉限定に思われてしまう。仮名多めのコピーとあわせて、ちょっと若い女性の気を引く表現に微調整したというところか。

 この推敲には編集部の侃々諤々たる議論が見えるような気がして、それを考えるだけでも楽しい。しかし時に笑っていられないほどの大物をつり上げて衝撃を受けることもある。こんなのだ。

老人と海 ヘミングウェイ
2007年: …残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。…
2008年: …残りわずかな餌に想像を絶する巨大なまかじきがかかった。…


 なんで「カジキマグロ」が「まかじき」になるんだよ。中学生の頃に読んだので本文になんて書いてあったかはもちろん記憶にない。でもなんとなくカジキマグロならイメージがわきやすい。いまさら「まかじき」って言われてもなぁ。そこんとこ、どうなんですか、新潮さん。でも確認の意味でも、もう一度読みたくなったなぁ。

 最後に今年新たに入った本の中で、コピーと解説が目新しい一冊を紹介しておこう。「鮮度の高さ」が売りかなぁ。また来年になれば「壮大なる推敲」のまな板にのるのかな。と、ふと確かめてみると2006年のラインナップに、このコピーと解説のまま掲載されていた。「バナナ」どっさりの解説文は編集長のおぼえめでたく推敲されずに残ってるということか。それにしても〈バナナの不条理感〉が夏らしく心地よい。

ナイン・ストーリーズ サリンジャー
コピー: 完成度では『ライ麦畑』より上との声も。ハマることうけあいの、ヤバい短篇集。
解説: バナナがどっさり入っているバナナ穴に行儀よく泳いでいき、中に入ると豚みたいにバナナを食べ散らかすバナナフィッシュ。あんまりバナナを食べ過ぎて、バナナ穴から出られなくなりバナナ熱にかかって死んでしまうバナナフィッシュ…グラース家の長兄、シーモアの謎の自殺を描く「バナナフィッシュにうってつけの日」ほか、九つの傑作からなる自選短篇集。


 さて、最後にいつものように「今年躍進した作家」「今年後退した作家」「今年新たに入った本」「今年消えた本」のリストを挙げておく。

[今年躍進した作家]
三島由紀夫(1->2)
湯本香樹実(1->2)
唯川恵(1->2)


[今年後退した作家]
江國香織(2->1)
星新一(2->1)
梨木香歩(2->1)


 これをざっとながめて思いついた事が二つある。唯川恵というと集英社文庫御用達作家というイメージがあった。恋愛小説家だから、村上由佳と並んでナツイチの顔となる女性作家だ。だが昨年のナツイチで村上由佳が6冊の大躍進だった事を考えあわせると、唯川恵はすでにナツイチの顔ではなく、新潮文庫でも常連となりつつある。恋愛小説家から脱皮したと言えるかも。

 もう一つは、今年後退を余儀なくされた梨木香歩の扱いだ。〈新潮100冊〉にラインナップされた「西の魔女が死んだ」は、この夏に映画化されたというのに、だ。角川文庫ならばメディアミックスで売る絶好の機会を逃さないだろう。別に角川に限らず普通はもっと便乗するはずだろう。なのに便乗しない、宣伝もしない。なにせ解説には一言たりとも「映画」の事は触れてないのだ。伊坂幸太郎「重力ピエロ」のコピーでは「本年度本屋大賞受賞作家の代表作」などと便乗してるし、「赤毛のアン」ですら「誕生から100年、記念の年を迎えました。」と書かれているというのに。梨木さんの今回の無視に近い扱いは、ちょっと異常じゃないだろうか。

[今年新たに入った本(35冊)]
憑神 浅田次郎
ガンに生かされて 飯島夏樹
一握の砂・悲しき玩具 石川啄木
ロリータ ウラジーミル・ナボコフ
魔性の子 小野不由美
対話篇 金城一紀
恋 小池真理子
蟹工船・党生活者 小林多喜二
ナイン・ストーリーズ サリンジャー
脳のからくり 竹内薫・茂木健一郎
自転車少年記 竹内真
ビルマの竪琴 竹山道雄
はつ恋 ツルゲーネフ
流れ星が消えないうちに 橋本治
放浪記 林芙美子
にごりえ・たけくらべ 樋口一葉
黄金の羅針盤 フィリップ・プルマン
友情 武者小路実篤
あすなろ物語 井上靖
海と毒薬 遠藤周作
三四郎 夏目漱石
錦繍 宮本輝
号泣する準備はできていた 江國香織
潮騒 三島由紀夫
きみの友だち 重松清
ナイフ 重松清
指揮官たちの特攻 城山三郎
阿部一族・舞姫 森鴎外
伊豆の踊子 川端康成
斜陽 太宰治
春琴抄 谷崎潤一郎
春のオルガン 湯本香樹実
家族八景 筒井康隆
恋せども、愛せども 唯川恵
恋人たちの誤算 唯川恵


[今年消えた本(35冊)]
天使のみつけかた おーなり由子
悲しみよこんにちは サガン
停電の夜に ジュンパ・ラヒリ
ダーク・タワー I―ガンスリンガー― スティーヴン・キング
自閉症だったわたしへ ドナ・ウィリアムズ
人生論 トルストイ
野菊の墓 伊藤左千夫
風林火山 井上靖
沈黙 遠藤周作
ローマ人の物語1・2 塩野七生
坊っちゃん 夏目漱石
破獄 吉村昭
蛍川・泥の河 宮本輝
雨はコーラがのめない 江國香織
神様のボート 江國香織
智恵子抄 高村光太郎
堕落論 坂口安吾
エイジ 重松清
くちぶえ番長 重松清
天国の本屋 松久淳・田中渉
硫黄島に死す 城山三郎
八甲田山死の彷徨 新田次郎
山椒大夫・高瀬舟 森鴎外
ブランコのむこうで 星新一
雪国 川端康成
走れメロス 太宰治
痴人の愛 谷崎潤一郎
心がだんだん晴れてくる本 中山庸子
できればムカつかずに行きたい 田口ランディ
破戒 島崎藤村
愛のひだりがわ 筒井康隆
ターン 北村薫
真夜中の五分前 本多孝好
ため息の時間 唯川恵
ぐるりのこと 梨木香歩


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2008年07月20日

「ナツイチ2008」VS「ナツイチ2007」

ナツイチ2008小冊子.JPG あれ?今年の蒼井優は少しポッチャリした?なんとなく雰囲気が違ってみえるのは体型の違いなのか、髪型の違いなのか、ファッションの違いのか。単純にカメラマンの撮り方の違いなのかもしれない。とにかくちょびっとだけ違うなぁ、昨年と。ああ、まず髪がかなりロングになって、肩から前側にたらしているので、少し顔の丸みが強調されただけかもしれない。それでも、やはり、少しシャープさが消えておだやかな印象になっている。それは今年のコピーと関係あるのかな、ないのかな。

 今年で3年連続して蒼井優がメインキャラクターに起用された。今のナツイチスタイルに変わってからだから、やはりナツイチと言えば、イコール蒼井優。そしてキャッチコピーも多感な乙女心を反映した言葉にあふれていた。

2006年: 好きな本を一冊つくろう。
2007年: ただ言葉がならんでいるだけなのに。
2008年: 世界を変えよう。


ナツイチ2007小冊子.jpg すべての一行コピーが表紙の「ナツイチ」の上方に置かれている。そして3年連続して句点で終わっているのに改めて注目しよう。すべてが「ナツイチ」イコール蒼井優イコール〈多感な乙女〉のモノローグなのだ。ナツイチは2006年に「自分探し」からはじめて、翌年に「恋する乙女」へと変貌し、そして今年は「世界を変えたい、変えよう」と願うまでになった。本の力を、読書の奇跡を、そして自分の可能性を信じるまでに、乙女は成長したのだ。ひょっとして蒼井優も今年でナツイチ卒業かなぁ。

 目次は今年のコピーに呼応して「新しい世界の扉をひらこう」というタイトルを付して項目が立てられているが、昨年と分類が変わったとは言え、実質的には「世界への扉」へと誘うほどの新しさはない。特徴としては、まず「スペシャル」があって、独自企画として「気になるお仕事を読んでみよう」と「気になる時代を読んでみよう」の二つが用意されている。

 目次の次が、昨年から採用された「著者別インデックス」だ。どの出版社でも著者別の目次は末尾に置かれるが、ナツイチが初めて「好きな作家」で読む楽しさを提案した。〈目からウロコ〉的発想のインデックスは今年さらに進化して、作品タイトルも併記された。そのせいで見開き2ページで収まらなくなった。進化には違いないが、パッと見に「好きな作家」を探しにくくなったデメリットも感じる。また、作品数のカウントに利用してわかったのだが、「漫画版 日本の歴史」の第1〜2巻が抜けている。監修名はあるが著者名がない本なので入れなかったのか。おそらく「入れ損ねた」が正解だろう。

 さて解説ページのレイアウトに変更はないし、解説本文もいじられてはいない。何か変わってないかとよくよく見たら、作品のキャッチコピーと表紙イメージの配置が入れ替わった。これがどんな効果をもたらすかと言うと、表紙が解説枠のほぼ中央にドデンと居座っていて非常に目立つ。「表紙で選んでくださいね」という編集部の心の声が伝わってくる。そして、まさに今年の「スペシャル」が表紙をフィーチャーした企画なのだ。

 「文豪の名作×人気漫画家」のコラボレーション企画は、すでに昨年の太宰治「人間失格」に前例がある。あの「DEATH NOTE」の著者・小畑健による描き下ろしカバーだった。2007年は、「人間失格」のカバーと、蒼井優を表紙にした「こころ」「銀河鉄道の夜」などのカバーが目についた。漫画のカバーの方は「多少抵抗がある」と昨年書いた。理由の第一は「デスノート」を読んでないので小畑健のイラストに面白さを感じないこと。第二はすでに読んだ本なので、どんなイラストでも違和感を感じるだろうこと。この2点だ。

 もちろん「今の若い世代にアピールする」のが最優先であることは理解できる。その姿勢に異論はないので企画自体は「あっぱれ、ナツイチ」と言いたい。ただし、違和感は違和感として検討しておこう。どちらかと言えば、漫画家のカバーだけでは違和感はそれほど大きくない。作品にインスパイアされた漫画家がいかようにイメージを膨らませようと構わない。本の内容とは独立した創作表現として評価は可能だ。ただし、作品の解説までが表紙のイメージに沿った形で変更されるとなると、ちょっと見過ごせなくなる。

 たとえば太宰治「人間失格」のコピーは、

 太宰、没後60年。人間を合格と失格に分けるラインはどこにあるのか?

という、いささかお門違いな問いかけに変わった。〈お門違い〉と言ったのは、どこをどう押しても著者に主人公を普遍的な〈失格人間〉として描こうなどという意図は見えないからだ。だが、まあ、それはいいだろう。

 では、夏目漱石「こころ」はどうだろう。

 親友と同じ人を好きになったら、あなたはどうする?

という分かりのいいコピーは、まさに小畑健の描いた表紙の骸骨に魅入られた「先生」を主人公にした漫画のコピーとしか思えない。

 極めつけは川端康成「伊豆の踊子」だ。「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦が描いた、花びらにまみれて踊る少女は、可愛くない事をのぞけば「あどけなさと女らしさのはざまにいる乙女」をかなりうまく描いている。しかし、それに付されたコピーが、

 さよならの意味を知って少年少女は大人になっていく…

というのは噴飯ものだろう。あそこで描かれる男(私)と女(踊り子)は決して対当の関係にはない。「少年少女」などとひとくくりできるものではない。かたやエリート学生、かたや旅芸人の娘、といういびつな現実を抱え込んでいるというのに、どうしたらこんなお気楽コピーが出てくるのか。解説の出だしでも「自分の殻を打ち破ろうと旅に出た”私”。」とある。うそだろ〜。そんなポジティブなモチーフが”私”にあったとは到底思えない。そもそも川端作品らしくないではないか。

 と、ひとくさりしたところで、今年のラインナップに移ろう。今年は全99冊。うち67冊が新たに入った本で32冊が昨年と変わらず。昨年が全95冊、新60冊だったから、昨年以上に作品が入れ替わったことになる。昨年とのラインナップの違いは例年どおり末尾に掲載する。

 解説には、読ませどころの要点を列挙した「ポイント!」と、次に読むとしたらというナビ「次はコレ!」がついている。それ以外に、今年の面白い工夫としては「試し読み」が用意されている。何冊かにOCRバーコードがついていて試し読みのHPにつながる。ちなみに「試し読み」のバーコードがついている本は以下の5冊だ。

芥川龍之介「地獄変」
木村元彦「オシムの言葉」
シートン「狼王ロボ シートン動物記」
村山由佳「夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方10」
中島たい子「漢方小説」
蝶々「小悪魔な女になる方法」


 さて、恒例の問いを調べてみよう。

 何の本から読み始めると「次はコレ!」を使って最も長く読み継げるか?

 昨年は14冊。一昨年は12冊。チャートの短さはナツイチの良心の現れ、長くなるのは角川のいい加減さの現れと言い続けてきた。今年の「発見。角川文庫」の44冊の長さを「一冊でも多く買わせるための戦略ではないか」と書いてしまった。だが、ここに衝撃的事実を告げなくてはならない。今年のナツイチは99冊全部が一つの輪となってつながるのだ。

 「最も似ている作品」につなげていたら一つの輪には絶対にならないはずだ。だから敢えて並べ方を考えると、最初から大きな円を用意して、どの作品の間が「最もふさわしいか」を考えながら椅子を置いていく。椅子取りゲームならぬ椅子増しゲームでチャートを完成させたのだろう。

 角川文庫でさえ、やらなかった、いや、やれなかった。それをナツイチはアッサリとやってしまった。禁断のワンループは、やはりナツイチの大胆さの現れだ。などと持ち上げてる場合ではなかった。コレって無理ありますよね、ナツイチ編集部さん。例えば、

ザ・プレイ->今夜誰のとなりで眠る
瑠璃の海->こころ
家、家にあらず->第三の時効
M8->危険な夏

のつなげ方って、「ナゼ?」って思いますもん。「次はコレ!]の全チャートは長くなるので最後にまわす。

 最後に、「今年躍進した作家」「今年後退した作家」「今年新たに入った本」「今年消えた本」の一覧を挙げておこう。

[躍進組]

浅田次郎(2->4)
恩田陸(2->3)
芥川龍之介(1->2)
鎌田實(1->2)
北方謙三(1->2)
林真理子(1->2)



[後退組]

村山由佳(6->4)
さくらももこ(3->2)
荻原浩(2->1)
夏目漱石(2->1)
三田誠広(2->1)
谷川俊太郎(2->1)


 浅田次郎が今回4冊に大躍進。と言っても4冊とも「天切り松」シリーズなので躍進度は割り引いて考えた方がいい。その点、昨年の驚異的な6冊から4冊に後退したとは言え、村上由佳への偏りは相変わらずだ。やはり女性をターゲットに据えたナツイチでは、恋愛小説の達人・村上のニーズは高いようだ。

[今年入った本(67冊)]
「話して考える」と「書いて考える」  大江健三郎
GO−ONE  松樹剛史
I'm sorry,mama.  桐野夏生
M8  高橋哲夫
いじめの光景  保坂展人
うわさの神仏  加門七海
オシムの言葉  木村元彦
オテル モル  栗田有起
おばちゃまは飛び入りスパイ  D.ギルマン
オリンピア ナチスの森で  沢木耕太郎
カスに向かって撃て!  J.イヴァノヴィッチ
がばいばあちゃん  島田洋七
キスよりもせつなく  唯川恵
ザ・プレイ  A.ブレナン
さよならバースディ  荻原浩
ショート・トリップ  森絵都
そうだったのか!現代史  池上彰
それでもやっぱりがんばらない  鎌田實
チェ・ゲバラの遙かな旅  戸井十月
ハーケンと夏みかん  椎名誠
はなうた日和  山本幸久
ひろさちやのゆうゆう人生論  ひろさちや
フレフレ少女  橋本裕志
愛がいない部屋  石田衣良
愛には少し足りない  唯川恵
伊豆の踊子  川端康成
泳ぐのに、安全でも適切でもありません  江國香織
汚れちつまつた悲しみに…  中原中也
家、家にあらず  松井今朝子
花より男子ファイナル  下川香苗
怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道  高野秀行
絵のない絵本  アンデルセン
蒲公英草紙  恩田陸
漢方小説  中島たい子
危険な夏  北方謙三
救命センター部長ファイル  浜辺祐一
桑田真澄 ピッチャーズバイブル  石田雄太
君に舞い降りる白  関口尚
源氏に愛された女たち  渡辺淳一
黒笑小説  東野圭吾
最後の銃弾  サンドラ・ブラウン
在日  陷三巡
朱夏(上)(下)  宮尾登美子
娼年  石田衣良
小悪魔な女になる方法  蝶々
真夜中のマーチ  奥田英朗
相剋の森  熊谷達也
地獄変  芥川龍之介
天使の梯子  村山由佳
天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両  浅田次郎
天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝  浅田次郎
天切り松 闇がたり第二巻 残侠  浅田次郎
東京バンドワゴン  小路幸也
二十億光年の孤独  谷川俊太郎
年下の女友だち  林真理子
白夜行  東野圭吾
秘密のひととき  赤川次郎
葡萄物語  林真理子
風の影(上)(下)  C.R.サフォン
分身  東野圭吾
平面いぬ  乙一
僕に踏まれた町と僕が踏まれた町  中島らも
漫画版日本の歴史1  岡村道雄監修
漫画版日本の歴史2  吉村武彦監修
夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方X  村山由佳
狼王ロボ シートン動物記  シートン
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木  江國香織


[今年消えた本(63冊)]

1ポンドの悲しみ  石田衣良
ZOO  乙一
アド・バード  椎名誠
あの頃ぼくらはアホでした  東野圭吾
エンジェル  石田衣良
おむすびの祈り  佐藤初女
オロロ畑でつかまえて  荻原浩
お縫い子テルミー  栗田有起
キスまでの距離 おいしいコーヒーのいれ方I  村山由佳
きみのためにできること  村山由佳
こちら救命センター 病棟こぼれ話  浜辺祐一
こどもの一生  中島らも
サウンドトラック  古川日出男
シュガーレス・ラヴ  山本文緒
すべてのいのちが愛おしい  柳澤桂子
スポーツドクター  松樹剛史
その女の名は魔女  赤川次郎
テニスボーイの憂鬱  村上龍
なかよし小鳩組  荻原浩
なつのひかり  江國香織
ひとりの女  群ようこ
プリズムの夏  関口尚
ボーダーライン  真保裕一
みどりの月  角田光代
もものかんづめ  さくらももこ
ららのいた夏  川上健一
レインレイン・ボウ  加納朋子
ワセダ三畳青春記  高野秀行
愛しても届かない  唯川恵
悪人海岸探偵局  大沢在昌
永遠の出口  森絵都
永遠の放課後  三田誠広
夏雲あがれ  宮本昌孝
怪笑小説  東野圭吾
喜びの涙をあなたと  サンドラ・ブラウン
銀河鉄道の夜  宮沢賢治
九つの物語  サリンジャー
肩ごしの恋人  唯川恵
幻夜  東野圭吾
孔雀狂想曲  北森鴻
行動することが生きることである  宇野千代
作家24人の名作鑑賞 私を変えたこの一冊  集英社文庫編集部編
死ぬほど好き  林真理子
車輪の下  ヘルマン・ヘッセ
呪われた町  スティーヴン・キング
十八歳  谷川俊太郎
小春日和  野中柊
笑う招き猫  山本幸久
神々の山嶺  夢枕獏
青い麦  コレット
谷川俊太郎詩選集1  谷川俊太郎
長距離走者の孤独  アラン・シリトー
鉄道員(ぽっぽや)  浅田次郎
天使の卵  村山由佳
天切り松読本  浅田次郎監修
天然コケッコー  下川香苗
東京物語  奥田英朗
日のあたる白い壁  江國香織
風が吹いたら桶屋がもうかる  井上夢人
聞きたい言葉 おいしいコーヒーのいれ方IX  村山由佳
坊っちゃん  夏目漱石
友情・初恋  武者小路実篤
恋する四字熟語  佐藤真由美


[次はコレ!]
芥川龍之介「地獄変」->
太宰治「人間失格」->
中原中也「汚れちつまつた悲しみに…」->
谷川俊太郎「二十億光年の孤独」->
アンデルセン「絵のない絵本」->
シートン「狼王ロボ シートン動物記」->
サンテグジュペリ「星の王子さま」->
森絵都「ショート・トリップ」->
恩田陸「光の帝国」->
恩田陸「蒲公英草紙」->
山本幸久「はなうた日和」->
栗田有起「オテル モル」->
中島たい子「漢方小説」->
鎌田實「がんばらない」->
鎌田實「それでもやっぱりがんばらない」->
大江健三郎「「話して考える」と「書いて考える」」->
保坂展人「いじめの光景」->
ひろさちや「ひろさちやのゆうゆう人生論」->
浜辺祐一「救命センターからの手紙」->
浜辺祐一「救命センター部長ファイル」->
高橋哲夫「M8」->
北方謙三「危険な夏」->
北方謙三「水滸伝(一)」->
戸井十月「チェ・ゲバラの遙かな旅」->
熊谷達也「相剋の森」->
宮尾登美子「朱夏(上)(下)」->
C.R.サフォン「風の影(上)(下)」->
東野圭吾「白夜行」->
東野圭吾「分身」->
桐野夏生「I'm sorry,mama.」->
松井今朝子「家、家にあらず」->
横山秀夫「第三の時効」->
サンドラ・ブラウン「最後の銃弾」->
A.ブレナン「ザ・プレイ」->
唯川恵「今夜 誰のとなりで眠る」->
唯川恵「キスよりもせつなく」->
唯川恵「愛には少し足りない」->
一条ゆかり「実戦!恋愛倶楽部」->
渡辺淳一「源氏に愛された女たち」->
蝶々「小悪魔な女になる方法」->
江國香織「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」->
江國香織「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」->
林真理子「年下の女友だち」->
林真理子「葡萄物語」->
小池真理子「瑠璃の海」->
夏目漱石「こころ」->
川端康成「伊豆の踊子」->
三田誠広「いちご同盟」->
村山由佳「海を抱く」->
村山由佳「青のフェルマータ」->
村山由佳「天使の梯子」->
村山由佳「夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方X」->
関口尚「君に舞い降りる白」->
本多孝好「MOMENT」->
恩田陸「ネバーランド」->
松樹剛史「GO−ONE」->
橋本裕志「フレフレ少女」->
下川香苗「花より男子ファイナル」->
石田衣良「スローグッドバイ」->
石田衣良「愛がいない部屋」->
池永陽「コンビニ・ララバイ」->
荻原浩「さよならバースディ」->
乙一「夏と花火と私の死体」->
乙一「平面いぬ」->
乙一「暗黒童話」->
赤川次郎「秘密のひととき」->
宮部みゆき「地下街の雨」->
三崎亜記「となり町戦争」->
芥川龍之介「河童」->
加門七海「うわさの神仏」->

高野秀行「怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道」->
枡野浩一「ショートソング」->
田中啓文「ハナシがちがう!」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第一巻 闇の花道」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第二巻 残侠」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝」->
岡村道雄監修「漫画版日本の歴史1」->
吉村武彦監修「漫画版日本の歴史2」->
陷三巡「在日」->
池上彰「そうだったのか!現代史」->
木村元彦「オシムの言葉」->
沢木耕太郎「オリンピア ナチスの森で」->
石田雄太「桑田真澄 ピッチャーズバイブル」->
島田洋七「がばいばあちゃん」->
さくらももこ「のほほん絵日記」->
さくらももこ「さくら日和」->
長嶋有「ジャージの二人」->
奥田英朗「真夜中のマーチ」->
東野圭吾「黒笑小説」->
J.イヴァノヴィッチ「カスに向かって撃て!」->
D.ギルマン「おばちゃまは飛び入りスパイ」->
小路幸也「東京バンドワゴン」->
椎名誠「岳物語」->
椎名誠「ハーケンと夏みかん」->
野口建「落ちこぼれてエベレスト」->
中島らも「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」->
石田衣良「娼年」->
金原ひとみ「蛇にピアス」
(->芥川龍之介「地獄変」)


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2008年07月13日

『発見。角川文庫 夏の100冊(2008年)』VS『発見。夏の百冊 角川文庫(2007年)』

 さっそくだが、角川文庫の〈夏の文庫フェア〉のタイトルから確認していこう。毎年の恒例になってしまったが、またまたまたタイトルが変わっている。

2006年:「発見。夏の100冊 角川文庫」
2007年:「発見。夏の百冊 角川文庫」
2008年:「発見。角川文庫 夏の100冊」


角川文庫2007summer.jpg アレレ?昨年はあっさりとアラビア数字の「100冊」から「百冊」に変えて、こだわりのなさが笑えたのだが、またまたアラビア数字に戻っちゃったよ。しかも〈夏の百冊(100冊)〉と〈角川文庫〉の順番が入れ替わってる。もう、なんでもいいのね、タイトルなんて。で、一年ぶりに2007年の小冊子の表紙をじっくり眺めてようやく得心がいった。

 発見。
 夏の百冊
 角川文庫


 白地に大きめの活字で等間隔に文字が整列している。この一番下の「角川文庫」の四文字と同じ文字数にすることで「夏の百冊」の独特のリズムが立ち上がってくる。そうだったか。いまさらだが、ズシッと安定感のあるレイアウトだったんだな。

角川文庫2008.JPG 今年、元の「100冊」に戻したのは、表紙の重量感のほとんどがタイトルからイメージキャラクターに移動してしまったからだ。真っ黒な背景に男っぽくクールな眼差しの松山ケンイチが僕らを見据えている。昨年の表紙がどこかシンプルであっさりとした印象を感じさせたのは、もちろん狙いが「目指せ!ナツイチ」だったからだ。それは表紙を開いた見開きに「ほんをよむと もっとほんがよみたくなる」などと、蒼井優のキャラクターにかぶせてもおかしくない優しげなコピーが続くことからでもあきらかだった。

 ところが今年は松山ケンイチだ。狙いを変えてきた。それは何か。キーワードは「絶望」だ。昨年は集英社文庫が30周年だったが、今年は角川文庫創刊60周年なのだそうだ。扉を開けると「発見。角川文庫 60th
Anniversary」 とある。さすがに貫禄がある。そうか、表紙のタイトルの順番を変えた理由は、夏の文庫フェアを60周年記念の一つに位置づけたかったからだな。

 そして、創刊以来の文庫をすべて並べたとおぼしき本棚を背景にして、きどったポーズの松山に付されたコピーは、

60年分の愛とか
夢とか
絶望とか


だ。かなり切れ味するどいが「とか、ってなんだよ」と無粋なツッコミを入れたくもなる。答えはP.56の「角川文庫60年の歩み」に書かれていた。

あなたがみつけるその1冊
総刊行点数15000点以上。60年分の愛や、夢や、絶望や、希望が詰まった棚の前で、あなただけの1冊を発見しませんか。

〈絶望〉の次に〈希望〉もあるところに注目してほしい。編集部の意図はいたって明解だ。60年の歩みを読者に味わって欲しい。平凡だが分かりやすい。しかし、「夏の100冊フェア」の売り込み方は一見するとわかりにくいがドキッとさせる。夏なのにヒヤッとさせる。さらに追い討ちをかけるように次の見開きで、

人間をさぼるな


と松山ケンイチが睨みつける。バカンスに浮かれる僕らを躓かせようとする。「おいおい、それでいいのかよ。もっと人間を、自分を、人生を見つめなおせよ。いい機会だろ」と突き放すところがきわめてアンチ・ナツイチっぽい。

 しかも、今年はナツイチに対抗するようにスペシャルカバーを2冊ほどに取り入れた。漱石や太宰の名作の表紙を蒼井優の写真に差し替えたのが昨年のナツイチの大胆さだったが、角川文庫でも松山ケンイチを表紙にもってきた。太宰治の「人間失格・桜桃」「走れメロス」の2冊だ。これをナツイチの真似と見るかアンチ・ナツイチと見るかは意見が分かれるかもしれない。蒼井優の主張しない控えめな表紙と比べると、黒を背負った松山の個性的な写真は、作品よりも自己主張している。なぜ2冊とも太宰なのか。まさに「絶望」が似合う作家だからだろう。

 さて、ここまで書いたら、あとはあまり書くことはない。松山ケンイチをイメージキャラに据えて、創刊60周年を強調したコピーを採用したことをのぞけば、作品のラインナップや小冊子のデザインに昨年以上の工夫は見られない。強いて言えば、昨年30周年だった集英社文庫が古典を〈スタンダード〉と言い換えて、2007年のラインナップに「スタンダード」を多めに入れてきたのとそっくりなやり方を、60周年の角川も採用している。またしてもナツイチの後追いだ。

 簡単に指摘すると、昨年と変わらぬ目次に「学ぶ。」という項目が増えた。ビギナーズ・クラシックシリーズから例年3冊は入るのだが、今年は4冊。「源氏物語」が入っているが、それ以外にも田辺聖子の「絵草子 源氏物語」が入り、柳田国男の「遠野物語」まである。

 では、昨年から採用されたチャート「次に読む本を発見。」について、恒例の問いに答えよう。

何から読むとチャートが最長になるか?

 答えは以下のとおり。
星新一「きまぐれロボット」→
宮部みゆき「あやし」→
武光誠「知っておきたい日本の神様」→
矢野健太郎「数学物語」→
ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード (上)(中)(下)」→
米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」→
森絵都「アーモンド入りチョコレートのワルツ」→
三浦しをん「月魚」→
華恵「小学生日記」→
森絵都「つきのふね」→
石田衣良「約束」→
大崎善生「パイロットフィッシュ」→
夏目漱石「こゝろ」→
夢野久作「ドグラ・マグラ (上)(下)」→
寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」→
寺山修司「ポケットに名言を」→
坂口安吾「堕落論 」→
森鴎外「舞姫・うたかたの記」→
夏目漱石「坊っちゃん」→
灰谷健次郎「兎の眼」→
遠藤周作「海と毒薬」→
ジョージ・オーウェル「動物農場」→
角川書店「ビギナーズ・クラシックス 徒然草」→
加地伸行「ビギナーズ・クラシックス 論語」→
武光誠「知っておきたい日本の名字と家紋」→
田辺聖子「絵草紙源氏物語」→
角川書店「ビギナーズ・クラシックス 源氏物語」→
角川書店「ビギナーズ・クラシックス 枕草子」→
林真理子「美女入門」→
山本文緒「ファースト・プライオリティ」→
江國香織「落下する夕方」→
角田光代「愛がなんだ」→
山本文緒「恋愛中毒」→
江國香織「冷静と情熱のあいだ Rosso」→
辻仁成「冷静と情熱のあいだ Blu」→
姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」→
新堂冬樹「ある愛の詩」→
森絵都「いつかパラソルの下で」→
田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」→
吉本ばなな「キッチン」→
伊坂幸太郎「グラスホッパー」→
金城一紀「GO」→
矢口史靖「ウォーターボーイズ」→
森絵都「DIVE!! (上)(下)」→
乙一「失はれる物語」→
(夏目漱石「こゝろ」)

 星新一「きまぐれロボット」から始めると44冊もなんと読み継げる!昨年が31冊だったので大幅な記録更新だ。昨年もかなり多いと思ったのだが、どうしてこんなに長くつながるのだろう。それは角川のチャートの特徴として、「次に読む本」が他の本と重ならないように割り振っているからだ。こうすると、理屈で言えばすべてのラインナップが一列に並んで大きなループができる事になる。さすがにテイストが似た本が見つからなくなるからだろうか、実際にはループは6つ作られていて、最長が32冊、最短が5冊だ。

 では何故、ナツイチのように〈テイストがもっとも似た本〉へとナビゲートしないのだろうか。おそらくだが、なるべく重ならないようにチャートを割り振る事で1冊でも多く本が売れるように仕組んだのではないだろうか。昨年感じた〈インチキ感〉はこういうところから来ているわけだ。

 続いて恒例の作家・作品の比較だ。まずは作家の躍進組と後退組の一覧を挙げる。括弧内の数字は2007年と2008年で掲載された作品数の推移を示している。(ただし、躍進の0->1と後退の1->0は多数いるので省略する。)

[躍進組]
森絵都(1->4)
東野圭吾(1->3)
森鴎外(0->2)
パウロ・コエーリョ(1->2)
芥川龍之介(1->2)
宮沢賢治(1->2)
江國香織(1->2)
田辺聖子(1->2)
武光誠(1->2)


[後退組]

あさのあつこ(2->1)
乙一(2->1)
山田悠介(2->1)
重松清(2->1)
小川洋子(2->1)
森村誠一(2->1)
星新一(2->1)
滝本竜彦(2->1)
筒井康隆(2->1)


 何に注目すればいいかは一目瞭然だろう。森絵都と東野圭吾の直木賞作家の華々しい返り咲きだ。昨年初めてナツイチスタイルを採用した際に、なにより犠牲になったのがこの二人だった。従来の角川文庫は特定の作家にフィーチャーしたり、映画などとのメディアミックス戦略を強調して、ややいびつな身びいきを紙面に反映していたが、それを一切取りやめたのが昨年の大改革だった。その反動だろうか、今年は従来の路線にやや戻した。

 それにしても森絵都は大躍進だ。これは直木賞作家の金看板に加えて、今夏の「DIVE!」の映画化でメディアミックス戦略にも乗った結果だ。そのあおりを受けたのは誰だろうと後退組をながめてみたが、特に誰が不利益を被ったというわけではない。強いて言えば、昨年久々に返り咲いた星新一と筒井康隆はふたたび各一冊に落ち着いたし、「バッテリー」の映画化・ドラマ化で話題だったあさのあつこも、今年はおとなしく一冊(「バッテリー」1シリーズと言うべきか)におさまった。

 小冊子の解説はそれほど昨年と変わりはないが、面白いと思った箇所を最後にいくつか指摘しておこう。

吉本ばなな「キッチン」
 2007年:「世界25カ国で愛される」
 2008年:「世界28カ国で愛される」
 (コメント)1年で3カ国も新たに翻訳されたのか、ばなな恐るべし!

ルイス・キャロル「不思議な国のアリス」
 2008年:「6歳から60歳までの広範囲にわたる読者層を持つ」
 (コメント)この数字の限定は何?「アリス」って60歳までしか読まれてないの?

森絵都「DIVE!!(上)(下)」
 2007年:「中学2年生の坂井知季、高校2年生の沖津飛沫と富士谷要一」
 2008年:「中学1年生の坂井知季、高校1年生の沖津飛沫と富士谷要一」
 (コメント)なんで一学年ずつ減ってんの?

フランツ・カフカ「変身」
 2007年:「グレゴリー・ザムザは平凡なセールスマン。」
 2008年:「グレゴール・ザムザはごく平凡なセールスマン。」
 (コメント)今年〈新装版〉になったら主人公の名前がちょっと変わった。確か新潮文庫版では「グレーゴル・ザムザ」なんだよね。

矢野健太郎「数学物語」
 2007年:「数学の権威が数の歴史をわかりやすく解説」(コピー)
 2008年:「数学の権威が数学の歴史をわかりやすく解説」(コピー)
 (コメント)「数の歴史」と「数学の歴史」じゃ意味が全然違うじゃん!

 実は最後の「数学物語」は、キャッチコピー部分が変わっただけでなく、解説が全文改訂している。
 2007年:「私達の祖先は、どのように数字の概念を得ていったのか?」
     「現在記録に残る最古の数字はどんなものだったのか?」
     「古代エジプトやバビロニアで生まれた数字が、ギリシャに渡り…」
     「数字の誕生から発展を、クイズ形式でわかりやすく解説。数字嫌いの人も、数字の不思議がどんどんわかる!」
 2008年:「人類の祖先はどのように数の概念を得ていったのか?」
     「最古の数学はどんなものだったのか?」
     「古代エジプトやバビロニアで生まれた数学がギリシアに渡り…」
     「数学の誕生と発展を、数式や図式を盛り込んで、平易な文章で解説。数学嫌いも、この一冊で数学への興味がわいてくる!」

 2007年の解説があまりにひどい。まさに〈数学嫌い〉の人が書いたとしか思えない。ここまで違うと、かえって本を読んでみたくなった。

[今年新しく入った本(46冊)]
アーモンド入りチョコレートのワルツ  森絵都
アルテミス・ファウル妖精の身代  オーエン・コルファー
いつかパラソルの下で  森絵都
サウスバウンド (上)(下)  奥田英朗
さまよう刃  東野圭吾
ジョゼと虎と魚たち  田辺聖子
つきのふね  森絵都
ビギナーズ・クラシックス 枕草子  角川書店
ビギナーズ・クラシックス 論語  加地伸行
ファースト・プライオリティ  山本文緒
フェイク  楡周平
フルメタル・パニック! 戦うボーイ・ミーツ・ガール  賀東招二
ベロニカは死ぬことにした  パウロ・コエーリョ
ミミズクと夜の王  紅玉いづき
ゆめつげ  畠中恵
愛がなんだ  角田光代
遠い海から来たCOO  景山民夫
絵草紙源氏物語  田辺聖子
空の中  有川浩
月魚  三浦しをん
山椒大夫・高瀬舟・阿部一族  森鴎外
四畳半神話大系  森見登美彦
償いの椅子  沢木冬吾
新遠野物語付 遠野物語拾遺  柳田国男
新版 にんげんだもの 逢  相田みつを
水の時計  初野晴
世界の終わり、あるいは始まり  歌野晶午
生きていてよかった  相田みつを
青の炎  貴志祐介
探偵倶楽部  東野圭吾
知っておきたい日本の名字と家紋  武光誠
蜘蛛の糸・地獄変  芥川龍之介
注文の多い料理店  宮沢賢治
天使と悪魔 (上)(中)(下)  ダン・ブラウン
天使の爪 (上)(下)  大沢在昌
電池が切れるまで子ども病院から  すずらんの会
動物農場  ジョージ・オーウェル
美女入門  林真理子
不思議の国のアリス  ルイス・キャロル
舞姫・うたかたの記  森鴎外
霧笛荘夜話  浅田次郎
冷静と情熱のあいだ Blu  辻仁成
冷静と情熱のあいだ Rosso  江國香織
恋愛中毒  山本文緒
嗤う伊右衛門  京極夏彦
覘き小平次  京極夏彦


[今年消えた本(42冊)]

@ベイビーメール  山田悠介
DZ  小笠原慧
GOTH 夜の章/僕の章  乙一
いのちのバトン  相田みつを
きものが欲しい!  群ようこ
セーラー服と機関銃  赤川次郎
そして春風にささやいて  ごとうしのぶ
つれづれノート  銀色夏生
デセプション・ポイント  ダン・ブラウン
ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ  滝本竜彦
ビギナーズ・クラシックス おくのほそ道  松尾芭蕉
ビギナーズ・クラシックス 竹取物語  角川書店=編
みんないってしまう  山本文緒
ロマンス小説の七日間  三浦しをん
哀愁的東京  重松清
宇宙の声  星新一
愚者のエンドロール  米澤穂信
偶然の祝福  小川洋子
犬神家の一族  横溝正史
後巷説百物語  京極夏彦
幸福な遊戯  角田光代
秋に墓標を  大沢有昌
十五少年漂流記  ヴェルヌ
新選組血風録  司馬遼太郎
新装版 人間の証明  森村誠一
新版 いちずに一本道いちずに一ッ事  相田みつを
新版 人生論  トルストイ
新訳 ハムレット  シェイクスピア
人生は、だましだまし  田辺聖子
成りあがり  矢沢永吉
聖家族のランチ  林真理子
青年社長  高杉良
続巷説百物語  京極夏彦
長い腕  川崎草志
日本以外全部沈没 パニック短篇集  筒井康隆
氷菓  米澤穂信
氷点  三浦綾子
不自由な心  白石一文
不道徳教育講座  三島由紀夫
福音の少年  あさのあつこ
眠れるラプンツェル  山本文緒
雷桜  宇江佐真理



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2007年07月29日

2007年「『新潮文庫の100冊』VS『ナツイチ』VS『発見。夏の百冊 角川文庫』」

夏の文庫フェア3社2007.jpg 「発見。」「ナツイチ」「新潮100冊」の順に、毎夏恒例の一年前の同フェアとの内容比較記事を書いてきた。今年はフェア開始当初から珍しく小冊子を全部手に入れて、やる気満々で調査を開始したが、「発見。」が「ナツイチ」のスタイルを大胆に取り入れるという改革を今年から断行したことから、予想外に調査に手間取ってしまった。まあ一言で言えば、僕自身の興が乗ってしまったのだ。

 その反動で「ナツイチ」や「新潮100冊」の調査は手を抜いて簡単な記事ですまそうとも考えたが、何故か「発見。」同様に手間取る事になった。どうも「発見。」の小冊子をなめるように吟味して、ああでもないこうでもないと出版社の意図を深読みしてるうちに、「ナツイチ」や「新潮100冊」でも同じ事をやらないでおくことができなくなったようだ。おかげで例年になく比較記事3つとも長文になってしまった。なので、締めくくりの3社の<夏の文庫フェア>の比較記事はあまり凝らずにそそくさと終えたいと思うのだが、いざ書き出すと長くなる性分なので当てにはならない。

 ともかく検討に入ろう。簡単に説明しておくと、VSシリーズは昨年の同じフェアとの比較で、主な関心は「どこが違っているか」だ。しかし、〈3社比較〉では「どこが違っているか」を見てもあまり意味がない。何故なら、一部の超売れっ子作家を除くとだいたいの作家は出版社と半独占契約を結んでいるからだ。特定の出版社のみにしか作品を提供しない作家もいるし、複数の出版社に提供していても同じ作品は出社していない(出せない)という場合が多い。違って当たり前なのだ。

 そこで、3社比較では「共通する作家や作品は何か」に注目する。まずは各社の文庫フェアのラインナップに共通する作品から紹介していこう。

[作品(3社共通,4冊)]
(以下、新潮:新、ナツイチ:ナ、角川:角)

こころ 夏目漱石 新ナ角
銀河鉄道の夜 宮沢賢治 新ナ角
人間失格 太宰治 新ナ角(角川のみ「人間失格・桜桃」)
坊っちゃん 夏目漱石 新ナ角


 昨年もそうだったが、3社共通の作品はほとんどない。各社の作家囲い込みや作品囲い込みの戦略から、現代作家の作品で3社共通になることは不可能のようだ。当然ながら「名作」(新潮文庫)もしくは「古典・スタンダード」(ナツイチ)と呼ばれる作品の中から、さらに特権的な作品が選ばれる。

 漱石の「こころ」と太宰の「人間失格」は別格だ。夏休みの読書感想文の定番だからだ。そこに今年は「銀河鉄道の夜」と「坊っちゃん」が追加された。これについては後で〈躍進した作品〉のところで取り上げたい。

[作品(2社共通,10冊)]

キッチン 吉本ばなな 新角
車輪の下 ヘッセ 新ナ
十五少年漂流記 ヴェルヌ 新角
星の王子さま サン=テグジュペリ 新ナ
走れメロス 太宰治 新角
堕落論 坂口安吾 新角
二十四の瞳 壺井栄 新角
変身 カフカ 新角
羅生門・鼻 芥川龍之介 新角(角川は「羅生門・鼻・芋粥」)
人生論 トルストイ 新角


 昨年も2社共通作家は11冊だったからほぼ横ばい。顔ぶれはやはり〈名作〉〈スタンダード〉ばかりだが、唯一生きている作家・吉本ばななの名作「キッチン」が入った。これは〈準スタンダード〉とでも言える作品だからだろうか。ちょっと出版履歴を調べてみたら特殊な事情があるようだ。

 「キッチン」は1988年に福武書店から単行本が、1991年に同じく福武書店から文庫が出版された。ところが福武書店はベネッセ・コーポレーションと社名を変更して福武文庫は1998年に終了。同年に角川文庫から出版され、やや遅れて2002年に新潮文庫からも出版された。要は角川・新潮いずれも、タナボタ式に手に入れた作品が「キッチン」というわけだ。めずらしく独占契約のしがらみがないことが、結果的に〈準スタンダード〉の席を勝ち取る事となった。 

 次に昨年から今年にかけて〈躍進した作品〉と〈後退した作品〉を挙げる。

[躍進(作品)]

銀河鉄道の夜 宮沢賢治 (1->3)
坊っちゃん 夏目漱石 (2->3)
堕落論 坂口安吾 (1->2)
車輪の下 ヘッセ (1->2)



[後退(作品)]


不思議の国のアリス ルイス・キャロル (2->1)
ロミオとジュリエット シェイクスピア (2->0)


 先ほども書いたように「こころ」は読書感想文対象図書の筆頭だが、正直言って夏らしい学生もの・青春ものの筆頭は何といっても「坊っちゃん」だろう。ここ2年は次点に甘んじていたが、毎年入ってもおかしくない。

 また「銀河鉄道の夜」も夏の夜空に似合っている。孤独な少年の童話という点では「星の王子さま」と入れ替え可能な位置にいるが、このところの「星の王子さま」の新訳ブームで後退していた。

 「坊っちゃん」も「銀河鉄道の夜」も、ナツイチが今年は〈スタンダード〉に力を入れてきた事で躍進したとも言える。

 今度は〈共通する作家〉を挙げよう。

[作家(3社共通,10名)]

恩田陸
 夜のピクニック 新
 ネバーランド ナ
 光の帝国 ナ
 ドミノ 角

夏目漱石
 こころ 新ナ角
 坊っちゃん 新ナ角

芥川龍之介

 羅生門・鼻 新角(角川は「羅生門・鼻・芋粥」)
 蜘蛛の糸・杜子春 新
 河童 ナ

角田光代

 キッドナップ・ツアー 新
 みどりの月 ナ
 幸福な遊戯 角

宮沢賢治
 銀河鉄道の夜 新ナ角(新潮のみ「新編 銀河鉄道の夜」)

宮部みゆき
 火車 新
 地下街の雨 ナ
 ブレイブ・ストーリー 角
 あやし 角

江國香織
 雨はコーラがのめない 新
 神様のボート 新
 なつのひかり ナ
 日のあたる白い壁 ナ
 落下する夕方 角

石田衣良
 4TEEN 新
 1ポンドの悲しみ ナ
 エンジェル ナ
 スローグッドバイ ナ
 約束 角

赤川次郎

 ふたり 新
 その女の名は魔女 ナ
 セーラー服と機関銃 角

太宰治
 人間失格 新ナ角(角川のみ「人間失格・桜桃 角川」)


 昨年の8名から10名に微増した。特徴別に分類すると、

 (A)古典的作品を残した文豪(漱石、芥川、宮沢、太宰)
 (B)多作な女性流行作家(恩田、角田、宮部、江國)
 (C)器用な男性流行作家(石田衣良、赤川次郎)

となる。昨年見られなかった特徴が(C)の男性流行作家だ。ナツイチが〈女性向け〉にラインナップを組んでいる事を考えると、この位置に来る男性作家は、硬軟とりまぜて幅広く書ける人に限られる。荻原浩や重松清なども近いが、女性もみまごう程のラブロマンスを書ける石田衣良には及ばない。
 また、「セーラー服と機関銃」のTVドラマ化の影響とは言え、赤川次郎の3社揃いぶみは見事だ。ナツイチの作品がちょっと見劣りするが。

[作家(2社共通,30名)]

ヴェルヌ

 十五少年漂流記 新角

カフカ
 変身 新角

さくらももこ
 さくらえび 新
 さくら日和 ナ
 のほほん絵日記 ナ
 もものかんづめ ナ

サン=テグジュペリ
 星の王子さま 新ナ

スティーヴン・キング

 ダーク・タワー I―ガンスリンガー― 新
 呪われた町 ナ

トルストイ

 人生論 新角(角川は「新版 人生論」)

ヘッセ

 車輪の下 新ナ

伊坂幸太郎

 重力ピエロ 新
 グラスホッパー 角

遠藤周作

 沈黙 新
 海と毒薬 角

荻原浩

 コールドゲーム 新
 オロロ畑でつかまえて ナ
 なかよし小鳩組 ナ

乙一
 ZOO ナ
 暗黒童話 ナ
 夏と花火と私の死体 ナ
 GOTH 夜の章/僕の章 角
 失はれる物語 角

吉本ばなな
 キッチン 新角

群ようこ

 ひとりの女 ナ
 きものが欲しい! 角

坂口安吾
 堕落論 新角

三浦綾子
 塩狩峠 新
 氷点 角

三島由紀夫
 金閣寺 新
 不道徳教育講座 角

山本文緒
 みんないってしまう 角
 眠れるラプンツェル 角
 シュガーレス・ラヴ ナ

司馬遼太郎

 新選組血風録 角
 燃えよ剣 新

重松清

 エイジ 新
 くちぶえ番長 新
 哀愁的東京 角
 疾走 角

小川洋子
 博士の愛した数式 新
 アンネ・フランクの記憶 角
 偶然の祝福 角

森絵都
 永遠の出口 ナ
 DIVE!! 角

星新一
 ブランコのむこうで 新
 ボッコちゃん 新
 きまぐれロボット 角
 宇宙の声 角

大沢在昌
 悪人海岸探偵局 ナ
 秋に墓標を 角

東野圭吾

 あの頃ぼくらはアホでした ナ
 怪笑小説 ナ
 幻夜 ナ
 殺人の門 角

筒井康隆
 愛のひだりがわ 新
 時をかける少女 角
 日本以外全部沈没 パニック短篇集 角

本多孝好
 真夜中の五分前 新
 MOMENT ナ

唯川恵
 ため息の時間 新
 愛しても届かない ナ
 肩ごしの恋人 ナ
 今夜 誰のとなりで眠る ナ

梨木香歩
 ぐるりのこと 新
 西の魔女が死んだ 新
 村田エフェンディ滞土録 角

林真理子
 死ぬほど好き ナ
 聖家族のランチ 角

壺井栄

 二十四の瞳 新角


 2社共通の内訳は〈新角16名、新ナ7名、ナ角7名〉だ。これを見ると、新潮と角川は相変わらず文豪から流行作家にいたるまで同じ作家で競い合っている。しかも半分の8名の作家の同タイトルをラインナップに入れていて、ガチンコ対決は健在だ。面白いのはナツイチのバランス感覚だ。新潮・角川両社からほぼ等距離に身を置こうとしているように思える。

 昨年から今年にかけて〈躍進した作家〉と〈後退した作家〉は以下の通りだ。


[躍進(作家)]


群ようこ(0->2)
本多孝好(0->2)
梨木香歩(0->2)
スティーヴン・キング(0->2)
宮沢賢治(2->3)
石田衣良(2->3)
赤川次郎(2->3)
ヘッセ(1->2)
伊坂幸太郎(1->2)
坂口安吾(1->2)
山本文緒(1->2)



[後退(作家)]


小池真理子(3->1)
大崎善生(2->1)
ルイス・キャロル(2->1)
シェイクスピア(2->1)


 今年は特に傾向めいたものは見あたらない。躍進組の本多孝好と梨木香歩は、ちょうど今勢いがある作家という事だろうし、スティーブン・キングは「ダーク・タワー」全7部を新潮文庫が刊行し終えたというタイミングゆえだろう。しかし群ようこの躍進(返り咲きかな?)と小池真理子の後退はなにか意味するところがあるのだろうか。フェアに関心をもつ世代が交代しつつあるのかもしれない。

 最後に昨年もやったキャッチコピーの比較をしておこう。と言っても共通作品の顔ぶれも昨年とそれほど変わっていないし、何よりコピーも変わらない作品が多い。そこで、〈今年新たに共通作品となったもの〉と〈コピーが変更になったもの〉を取り上げる。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
 新:星の空を、ひっそりと見あげたことありますか。そして涙が出ませんでしたか。
 ナ:心のポケットにしのばせて、生涯の友としたい普及の名作。
 角:死の直前まで推敲された宮沢賢治の最高傑作

坊っちゃん 夏目漱石

 新:「金八先生」より熱いぞ!昔はこんな人、いたんだなあ…
 ナ:血の気の多さは誰にも負けない。正義感あふれる坊っちゃんの青春。
 角:江戸っ子坊っちゃんが四国・松山で大暴れする痛快ストーリー

堕落論 坂口安吾
 新:太宰を、靖国を、そして小林秀雄を。アウトロー坂口安吾が斬る!
 角:戦後の若者たちに新たな指標を示したエッセイ集

車輪の下 ヘッセ

 新:いい学校に行くだけが人生か?傷つきながらも旅立とうとする君、これを読め。
 ナ:勉強より大切なことがあるのでは?そんなことを考える一冊。

星の王子さま サン=テグジュペリ
 新:世界中の人々が、読んできた。心の砂漠をオアシスに変える魔法の一冊。
 ナ:肝心なことは目では見えない…。真実を見る「心の目」を失っていませんか?

 相変わらず扇情的で一発で人を惹きつけるのは新潮文庫のコピーだが、オーソドックスゆえに地味な解説とのバランスをとる戦略であることが今年の〈新潮100冊〉の比較でなんとなく分かってきた。とするとコピー単独で優劣を競うのはあまりに他の2社に分が悪いかもしれない。

 ナツイチのコピーは扇情的ではないが分かりやすく共感しやすい。角川のコピーは説明的で面白みがない。例えば「死の直前まで推敲された…」などは魅力的なエピソードではあるが、「戦後の若者たちに新たな指標を示した…」というのはあまりに啓蒙的で、それだけで若い人たちは読みたくなくなりそうだ。

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posted by アスラン at 03:36 | Comment(6) | TrackBack(1) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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