なぜ2061年という中途半端な西暦を選んだのか。おそらくは前作「2010年宇宙の旅」の続編として登場人物や設定などが共通する物語を書きたかったからだろう。読む前にはそう考えた。それにしても前作で木星探査に向かったレオーノフ号に搭乗したクルーたちは、生きていても年老いているはずだ。ところが驚くべきことに前作の中心人物であったヘイウッド・フロイド博士が今回も中心的な役割を果たす。前作でも結構な歳だったはずだのにだ。
アインシュタインの「双子のパラドックス」では、光速の旅行に出て戻った双子の一人が、地球上で待っていた老いた兄弟と出会う。しかし〈2010年〉にも〈2061年〉でさえも光速度で航行する宇宙船は開発されていない。にも関わらずフロイド博士は長寿を身をもって体現する肉体に変質している。というのも木星探査の行き帰りに人工冬眠を数ヶ月も経験し、地球の重力からも解放された肉体は、地球上でのそれをはるかに超えた寿命を獲得することになった。いきなり突飛な設定を読者に呑み込ませようとするので、さては現実主義者(いや超現実主義者というべきか) の著者も3作目にして宗旨変えしたのかと思った。
人工冬眠や宇宙生活が人間の寿命を今よりも延ばすという設定にどのくらい真実味があるのか根拠は与えられていないが、少なくとも以後の物語が荒唐無稽に終始するわけではないのは確かだ。相変わらず著者クラークは、〈現実に起こりうる近未来〉を描くことに興味を持ち続けている。冒頭の「覚え書き」で、本来はボイジャー計画に引き続き実行されるはずだったガリレオ計画の知見に基づいて本作を書き上げる心づもりだったと書いている。
しかし例の(と言っても、すでにある年齢以上でなければ記憶に残っていないかもしれないが)チャレンジャー号の悲劇によって計画そのものが10年程度遅れることになった。スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げの際に大爆発してしまった事故だ。その結果「(ガリレオ計画を)待たないことに決めた」という名セリフで覚え書きを締めくくった著者は「オデッセイ」シリーズの名前にふさわしく、きわめて詩的な作品を作り上げた。
2061年という中途半端な西暦は、実はすばらしく詩情あふれる設定を実現するために特に選ばれた年なのだ。長生きして月で著名人としての隠居生活を送るフロイド博士は、75年ぶりに再接近するハレー彗星の探査計画に同乗することになる。その再接近の年が2061年なのだ。
宇宙船ユニバース号には科学者やクルー以外に、フロイドをはじめとして数名の著名人が乗船する。音楽家や女優、作家といったたぐいで、彼らはおよそ科学的知識はもたず、もっぱら芸術的なインスピレーションや著名人にありがちな口さがない会話で行きの旅程を埋めていく。ここらへんのストーリー展開が、これまできわめてリアルな〈宇宙の旅〉を描いてきた前作・前々作と比べるとなんだかもどかしい。ひょっとして、著者は書きたいモチーフを見失ってしまったのかと感じてしまった。
ところがハレー彗星に着陸したとたんに、それまでの戯れ言とは決別するかのように俄然話は緊迫してくる。前作で「太陽系はきみたちのものだ。ただしエウロパはのぞく」と地球外生命からの警告を受けたにも関わらず宇宙船ギャラクシー号がエウロパに緊急着陸したために、ユニバース号は救助に向かわねばならなくなるからだ。
さて、次なる舞台は当然ながら木星の衛星エウロパだ。活躍するのは、着陸を強いられたギャラクシー号のクルーにしてフロイド博士の孫であるクリス・フロイドだ。祖父に変わって彼が遭遇するものは何か。これ以上はSFといえどもネタバレにあたるので書きたくないが、前作ですでにエウロパ上で発見されていた巨大モノリス「グレート・ウォール」を別にすれば、きわめて非現実的な物や事象は描かれない。ただし次作「3001年終局の旅」で描かれることになる、未来の地球の姿を決定する〈重要な物質〉が手に入るということだけは言ってもいいだろう。それとフロイド博士がなぜ非現実的な長寿を誇るようになったのか最後の最後に理由を匂わせていることも指摘したら、ちょっとバラし過ぎだろうか。
一言付け加えたいが、本作を〈詩的〉な作品と思いこんだ理由のひとつは、前のシリーズ2作品と違って理路整然としていない記述が目立ち、今一つ言ってることがわかりにくいという印象があったからだ。ところが途中でハタと理解した。訳文がわかりにくいのだ。今回に限り、それまでの伊藤典夫ではなく山高昭が訳している。しかし次作にしてシリーズ最終作の「3001年…」が読みやすい訳文に戻ったのを見ても、今回の訳文のこなれ具合の悪さは指摘しておくべきだろう。
いよいよ次回で長き宇宙の旅が〈終局〉を迎える。
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2008年05月05日
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