2008年04月04日

探偵ガリレオ 東野圭吾(2008/3/26読了)

 東野圭吾の直木賞受賞作「容疑者Xの献身」は図書館の予約待ちに耐えられず、古本ショップで半額で売られていた際に買ってすぐに読んだ。スペースの関係で読んだら速攻で捨てるつもりだったが、つい積みっぱなしになっていた。

 昨年、福山雅治と柴咲コウが主演の「ガリレオ」がフジテレビで放映され、さらにはドラマの好評を受けて「容疑者Xの献身」が二人をそのまま主役に据えて映画化されると書店の本の帯で知った。そうか、福山雅治は例の〈容疑者X〉役かな。すると柴咲コウはXに助けられる女性役かな。それにしては柴咲は子持ちの女性には見えないぞ、などと馬鹿な事を考えていた。「容疑者Xの献身」が探偵ガリレオ・シリーズの第3弾だったとは、読んでいながら全然気づかなかった。

 そうと知って「ああ、捨てなくてよかったな」とつくづく思った。ドラマを欠かさず見終わって、原作の「探偵ガリレオ」「予知夢」そして「容疑者Xの献身」を順に読もうと決めたからだ。そう決めてからも、「容疑者X…」がガリレオ・シリーズだったとはいまだに信じられない。確かにそれらしき天才探偵が終盤に出てきたのは覚えているが、テレビドラマで福山が演じたガリレオのイメージとはあまりにかけ離れている。探偵は一言で言って地味な印象しかない。地味だから記憶に残らなかったと言っていい。

 今回本書を読んで、なるほど記憶に残らなかった理由がわかった。本書からして探偵ガリレオの印象は地味だ。帝都大学の学究の徒である湯川助教授のところに、ドラマでは北村一輝演じる草薙刑事がたびたび訪れて物理学者向きの不可解な事件を持ち込む。湯川と草薙はどちらも帝都大を卒業し、大学時代からの友人の間柄だ。柴咲コウ扮する女刑事は原作には出てこない。当然ながら二人のほのかなラブストーリーなどもそもそも原作のテイストではない。

 きれいに洗われもしないカップにうまくもないインスタント珈琲を入れて出す湯川に草薙はうんざりするが、難事件を解決する特殊な才能は買っている。学生時代の友人と言っても何故気が合うのかよくわからないが、二人の関係は同じバトミントン部であったというだけの腐れ縁のように描かれる。非常に淡々としていてクールなつきあいであって、要するに地味な関係だ。

 だからどちらかと言うと、かつてはエンジニアを生業としていた著者が「奇妙な事件を科学的な根拠で解決する」というアイディアに興味があって、探偵の人物造形は二の次と考えていたのではないかと思う。何故なら、この手の不可能犯罪を題材にしたミステリーではシャーロック・ホームズのように派手な探偵に謎を解かせることも可能だったはずだからだ。でも原作の湯川助教授は事件そのものの印象に水を差さないようにいたって控えめだ。

 もうひとつびっくりした事がある。たとえばドラマでも原作でも第一作は「燃える」だ。閑静な住宅街にある小公園にたむろしていた若者の一人が突然自然発火して頭が焼けこげてしまうという事件だ。〈どうやって〉被害者を殺害したかの謎については原作どおりだが、動機や犯人の性格などはまったく違う。いや、ドラマで唐沢寿明が演じた犯人の執念深さは原作には影も形もない。

 殺害方法は非常に確度が低いために何度も何度も繰り返さなければ成功しない。つまりは犯人は成功するまで何十回も執念深く未遂を繰り返していた。明確な殺意をもったきわめて残酷な人間だと湯川が喝破するシーンは、お約束のお手軽なミステリーを深みのある人間ドラマに変えている。そのせいか、ドラマを見てから本書を読むと肩すかしを食わされた気分になる。

 その一方で、このシンプルな短編をあそこまで見応えのあるドラマに仕立て上げた脚本と演出の手腕に感心してしまった。もちろん福山雅治の演技の大胆さにも。

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posted by アスラン at 03:17| Comment(2) | TrackBack(2) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 こんにちは。 
私は常に「映像は原作を超えられない」と思っているので、テレビは見ませんでした。
でもアスランさんの感想を読んで、やっぱり見ればよかった・・・って思いましたよ。

 私はblogが2つ、最近始めたミクシィで一つと名前が3つありました。
それで、今回名前を3つ統一する事にしました。
今後は「snoopy3号」という名前でお邪魔することになると思います。
今後とも、よろしくお願いします。
Posted by とも子 at 2008年04月05日 14:22
とも子さん、コメント毎度ありがとう。

 持論ですが「映像は原作を超えられない」のではなくて、「互いが互いを超えることはありえない」のだと思っています。つまり比較する事がナンセンスなんですね。

 ただ小説を原作にして安易に映画やTVドラマが作られることが多いのは事実です。ストーリーをなぞっただけではいい映画やドラマになるわけではありません。

 一方で小説のファンも原作のイメージを損なわないで映画が簡単にできるものだと思いこんでるんじゃないでしょうか。僕に言わせれば「ないものねだり」です。映画やドラマを作るのは原作者ではなくて監督やディレクターという新たな創造者だということを理解してもらわないと。

「ガリレオ」は少なくとも原作を超えたのではなく、原作を元にして新たなミステリーの魅力を作りだしたと言えるような気がします。それは次回作「予知夢」でもいくつか思い当たりましたので、また書いてみたいです。

 ところでsnoopy3号の件、了解しました。今後もよろしく。
Posted by アスラン at 2008年04月07日 14:38
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