そんなスカした著者が書く「俺たちに明日はない」ならぬ「君たちに明日はない」の君たちとは誰か?いずれあか抜けないあがく人々だと言っておこう。そして実は「君たち」が主役の小説ではない。主役は「君たち」の明日を握る真介(またもや「介」だ)というスカした男だ。もちろん著者の分身と考える事もできそうだが、それは本題ではない。
真介は、リストラを断行する企業から人員整理の調査・面談を請け負う会社の社員だ。今時のご時世だからリストラを外部に委託する企業もあるのかもしれない。リストラをするくらいだから会社の経営が一時的にせよ傾いている。だがそういう会社に限って自浄能力に乏しいとも言えるから、リストラを自前では果たせない。そこで真介の会社の出番になる。
第三者の立場で企業に乗り込み、企業側からリストアップされたリストラ要員の調査・分析を徹底的に行った上で本人と面談する。真介の仕事は、リストラ要員との面談を通じて相手に何故リストラ対象になったのかを納得させてリストラに応じるように誘導する事だ。決してやめろとは言わない。会社側が経営不振を理由に解雇する事は違法だからだ。あくまで双方合意の上で退職希望者を募るというのが建前だ。
だから当然の事ながら抵抗も強い。第三者に、ましてや真介のような若僧に自分の先行きが委ねられたのかと思うと自分の情けなさと会社への憤りがないまぜになって、訪れる社員は思わず舌打ちする。
真介は彼らの表情の変化を見逃さない。彼らの内面など先刻承知というわけだ。そのための抑えとして一対一の面談室に助手としてとびきり若くて愛敬だけはある女性を置物に据える。彼女の存在に男性社員の見栄がくすぐられ、女性社員のプライドが刺激され、感情的な場面が最小限に回避される。
どこか見覚えのあるやり口だ。奥田英朗「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」の太ももをあらわにする看護婦と同じだが、真介が意図的に彼女を据えているところが「デキルが嫌な奴」と読者に思わせている。
ところで、そんな手管を駆使しても想定内で済む場合もあれば想定外の場合もある。想定内というのは、40代後半の課長職の男性に実績から換算した彼個人の損益がいかに会社にとって見合わないものかという試算を突きつけてまんまと追い込んでしまうところだ。
逆に想定外というのは、そんな試算をものともせず自分が通した企画が立ち上がるまでは終われないとかみつく女性キャリアだったり、子供そのままの態度で減給でもいいから開発をやらせてくれと上司に直接直談判しにいく変わり者の技術者だったり、高校時代の同級生だったりと様々だ。
もちろんこの想定外のところが読者には面白い。本来ならリストラを面白いというのは不謹慎なのだが、真介が追い込む社員のほとんどは辞めさせられる理由が誰が見てもわかりやすい。
そして嫌われ者の損な役回りをこなしているにも関わらず、真介は他の同僚以上にリストラする社員の行く末を考えている。その表向きのチャラチャラさ加減と自分だけの信条を隠し持っているところとのギャップがかっこいい。だからなおさら嫌味だ。
そうだ。言ってみれば「あっしには関わりのないことでござんす」と言い続けたヒーロー木枯らし紋次郎同様に、真介はひょうひょうと世の中を渡り歩く才能を持っているくせにあえて「明日がない」人々との関わりを選ぶ。
ヒーローらしくない意匠をまとってはいるが一種のヒロイズムがある。何故リストラ請け負いの仕事にこだわるか理由がないわけではない。本当にやりたい事に人一倍打ち込んだ挙げ句の挫折。今が言わば第二の人生だ。面談に訪れる人々に自分のかつての姿を重ねる事もできる。だからこだわるのか?そう単純ではない。意味なんてない。そうサラッと自分さえも欺くさりげなさがかっこいい。
面談に来て自分をみうしなわなかった年上の女性に惹かれて手管を駆使したが最終的には真介のひとなつっこさが彼女を惹き付ける。高校の同級生と面談する事になりお互い気まずいはずと素知らぬそぶりで通して、そうは言っても見過ごせず同じ同級生の親友に再就職先の斡旋を打診する律儀さ。
こんなにうまくいくわけないだろと突っ込む自分とそれでこそ胸がすくという自分がいる。いずれにしてもリストラする方に気持ちが仮託できて、あり得ない話をあり得ないまま楽しめる作品になっている。特に男性諸氏。こんな男になって手こずりそうな年上の女性をゲットできる人生、さりげなく友情をつなげる人生、再就職先が満足できない男の逆恨みで殴られる人生。そして自分だけの信条でヒーローを貫く人生。選んで見たいですか?
(2005/08/02読了)



