2007年12月05日

モスラの精神史 小野俊太郎(2007年11月21日読了)

 無類のテレビっ子でウルトラマン第一世代だった僕は、おそらく今の我が子と同じように、テレビを見せないと飯もたべない、風呂も入らない、床にもつかないと駄々をこねまくったことだろう。日曜のゴールデンタイムに放映された「ウルトラマン」(今だと〈ファーストウルトラマン〉とでも呼称されるのだろうか)のチャンネルをしっかり確保し、毎週毎週食い入るように見入っていた。

 だから怪獣ものと言えば、まずはウルトラマン・ウルトラQなどで、ゴジラは二の次だった。もちろん映画館での怪獣映画デビューは同時期にしっかりとはたしている。ただし大映の「大魔神」「ガメラ対バルゴン」2本立てが最初で、ゴジラデビューはそれからずっと後になってからだ。東宝チャンピオン祭りの「ゴジラ対ガイガン」がデビューだから、小学生高学年になってからだ。それまでは、ゴジラはテレビで放映されるのを見るしかなかった。

 放映されるたびに繰り返し見ていたから、「ゴジラ」や「ゴジラの逆襲」「ゴジラ対キングコング」「三大怪獣 地球最大の決戦」などはよく記憶に残っている。あのゴジラ不在の「ラドン」でさえ九州の炭坑町を混乱に陥れるシーンをよく覚えている。なのにだ。「モスラ」については非常に印象が希薄だ。

 さすがにダム湖に突然出現したモスラの幼虫が都心に向かってつっばしり、体躯をガタガタいわせながら、都会の建物を押し退け、しまいには東京タワーに寄りかかってへし折り繭を作ってしまうシーンは覚えている。ラストでは、成虫になったモスラが小美人(ザ・ピーナッツ)を連れて穏やかにインファント島まで飛び去るシーンが、かろうじて記憶にあるはずだ。

 はずだと言うのは、その後大学の時に円谷英二特撮作品をあらかた名画座の特集で見直してしまったので、記憶が再生産されてしまったようなのだ。そのときの記憶と少年当時の記憶とを分離することは既に難しい。しかしとにかくゴジラほどにはお気に入りではなかったことは確かだ。どちらかと言えば、〈モスラ〉イコール〈人間と怪獣との橋渡し役・調停者〉というイメージが強い。当時の子供たちだって、当然ながら強いものどうしの戦いにあこがれる。ゴジラしかりキングギドラしかりである。

 今回本書を読んで、「モスラ」という映画が〈原水爆実験の申し子・ゴジラ〉という出自以上に込み入った事情で作られていることがよく分かった。当時新進気鋭の文学者3人が、70年安保闘争という世相を背景した原作を書いていた事も初耳だった。

 本書では原作のテーマをたどることから始めて、映画化で原作が〈どう変容したか或いはしなかったか〉を深読みしていく。例えば、連れ去られた小美人を捜し求めてモスラの幼虫がインファント島から泳いできた際に、なぜ海岸から上陸せずに奥多摩のダム湖に突如として出現するのかという考察は極めて刺激的だ。

 その後都心に向けて一直線にコースを定めて幼虫は突き進むのだが、実は周到にコースが選択されていて、決して皇居を踏みつぶすことはない。さらに原作では国会議事堂を破壊して居座り、繭を作ることになっていた。そこには安保闘争における権力の象徴をたたきつぶすという原作者の社会批評が込められていた。

 それが東京タワーに変わったのは、映画という大衆娯楽が求める当時唯一のランドマークであった事がまず挙げられるが、何よりもできたばかりの巨大なテレビ塔が、映画の未来を脅かすライバルに見えたからにほかならない。

 いろいろと面白い考察だらけだったのは確かだったが、至るところで眉に唾をつけながら話半分にしておくべきだとも感じた。話のつじつまが合わないというか、辻褄を強引に合わせすぎて「本当?」と言いたくなる部分が結構ある。いわゆるシンクロニシティだ。

 たとえば終章で、著者は「モスラ」が90年代に別様に復活を遂げたと分析する。しかも〈モスラ〉というフォルムではなく「風の谷のナウシカ」の王蟲(オーム)というフォルムに変容したというのは、かなりのこじつけだろう。たしかに虫つながりではある。だからフォルムの類似をうんぬんしても意味がない。似ていて当たり前だ。しかし映画「モスラ」とアニメ「風の谷のナウシカ」とが似ている事に「異論はあるまい」と断言するほどには、著者の指摘に賛同する人は多くないだろう。

 もちろん著者の狙いはわからないではない。しかし、いわゆる〈ポストモダンな構え〉がなければ、この2つの映画から著者の言う類似性・類縁性を取り出す事は叶うまい。そしていい加減、僕はごりごりの〈ポストモダン〉的手法に飽き飽きしているのだ。

↓クリックの応援よろしく!
banner_04.gif
人気ブログランキング
posted by アスラン at 13:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/71059736
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。