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    2025年12月10日

    英文解釈教室の訳文を書き直す(15.1.9)

    Chapter15 挿入の諸形式「@語句の挿入――andとif」より。
    15.1.9 My mother felt my father's loss of fortune more keenly than my father himself, and it preyed upon her mind, though rather for my sake than for her own.
    (訳) 父が財産を失ったことを母は父自身より切実に感じ、そのために悩んだが、それは自分のためよりむしろ私のためであった。
     とりあえず、前半の比較構文について考えよう。伊藤先生は本書で「AとBをXについて比較する」ように説いている。
    (A) My mother felt my father's loss of fortune keenly.
    (B) My father felt his own loss of fortune keenly.
     という二文についてX「keenlyの強さ(大きさ)」を比較した結果、(A)のほうがXについて優っているという意味なので、以下のような推敲訳になる。
    (前半の推敲訳) 父が自らの財産を失ったことを切実に感じたのはもちろんであるが、それ以上に母はその事を切実に感じた。
     まだ日本語として問題はあるが、英文解釈から修正した訳としてはとりあえず満足しておくことにする。

     後半はふたたび比較構文で、「CとDをYについて比較する」ことを考える。
    (C) it preyed upon her mind for my sake.
    (D) it preyed upon her mind for her own sake.
     そして比較の対象となるYは「母の心を悩ませた目的」であり、手早くいえば「母の心を悩ませたのは誰のためか」ということだ。比較といっても強さや大きさの優劣を図るのではない。「C(for my sake)もしくはD(for her own sake)」の二択だ。二択からCを選択したので、以下のようにrather … thanを用いた[C>D]という比較構文になる。
    [C>D] it preyed upon her mind rather for my sake than her own.
     [C>D]の訳文は以下のようになる。
    ([C>D]の訳文) 母がそのこと(父が財産を失ったことを父以上に切実に感じたこと)に悩んだのは、母自身のためというよりもどちらかといえばわたしのためだった。
     伊藤先生の解説では「thoughが挿入されているのは、副詞節を導くthough本来の用法とは別のもの」だと書かれている。確かにこの比較構文には〈thoughが導く副詞節〉は存在しないので、"rather…than…"の直前にthoughが突然割りこんできては辻褄があわない。伊藤先生が「主語と動詞を補うという考え方では読めない形である」から、それ以上は構文を掘り返さないほうがよいとする所以だ。
     ただし、受験生にとってはそうでも、この突然姿を現すthoughは「前とは逆接の関係にあること示している」というヒントを伊藤先生は残しておいてくれている。今ならもう少し深掘りはできそうだ。前提として[C<D]となるのが一般的(普通)だという文脈で、[C>D]という結果が現れると逆接関係が顕在化する。その際、母が実際にとった行動(過去形)ではなく、一般的にとるであろう行動(現在形)に置き換えた比較構文「C’とD’をY’について比較する」ことを考える。
    (C') it preys upon her mind for my sake.
    (D') it preys upon her mind for her own sake.
     Y'は「母の心を悩ます理由(目的)」であり、手早くいえば「母の心を悩ますのは誰のためか」ということになる。常識的にも感情的にも「D'(for her own sake)」が選択されるのが普通なので、[C'<D']という比較構文になる。
    [C'<D'] it preys upon her mind rather for her own sake than for my sake.
     そして[C'<D']の訳文は以下のようになる。
    ([C'<D']の訳文) 母がそのことに悩むとすれば、わたしのためではなく(当然ながら)母自身のためだ。

     しかし、現実には「一般的とは逆の理由(目的)」から(C>D)という結果になっている。要するにここで考えるのは
    (a)〈現実とは逆の関係[C'<D']を導くthoughの副詞節〉+《現実の関係[C>D]》
     である。これを実際に構文として表現すると以下のようになる。
    (a) it preyed upon her mind rather for my sake than her own, though it preys upon her mind rather for her own sake than my sake.
     さらにthoughが導く副詞節をrather … thanの直前に挿入し、前提となる文脈に相当する部分をすべて省略すると(a')になる。
    (a)' it preyed upon her mind, though (it preys upon her mind rather for her own sake than my sake,) rather for my sake than her own.
     この構文がまさしく例文そのものである。

     ずいぶん回り道をしたが、結局thoughの存在理由がわかってしまえば、あとは挿入形式の訳を考えるだけだ。この章の例文では一貫して主節を先に訳して、従属節は添加や補足として訳してきた。今回も変わらない。
    (後半の推敲訳) 母がそのことに悩んだのはわたしのためだった。本来は母自身のために悩むところなのに。
     前半と後半をまとめる。
    (推敲訳) 父が自らの財産を失ったことを切実に感じたのはもちろんであるが、それ以上に母はその事を切実に感じた。母がそのことに悩んだのはわたしのためだった。本来は母自身のために悩むところなのに。

     さらに日本語として推敲する。例文の訳ではfeel keenly(切実に感じる)とpreys upon one's mind(悩む)との区別があまり感じられない。feel keenlyは「身に染みる、痛感する、ひどくこたえる」などが妥当な訳のようだ。preyは「苦しめる、悩ます、痛めつける」などがあるが、feel keenlyとなるべく区別がつくような訳を選択する。
    (推敲訳) 自分の財産を失って父はひどくこたえたが、父以上にひどくこたえたのは母だった。母は苦しんだが、それはひとえに私のことを思ってのことだった。本来ならば自分のことを思って苦しむところなのに。
    posted by アスラン at 03:30| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 英文解釈教室を書き直す | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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