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    2025年10月25日

    英文解釈教室の訳文を書き直す(15.1.6)

    Chapter15 挿入の諸形式「@語句の挿入――andとif」より。
    15.1.6 People who were presented to him often felt a certain awkwardness, and that not entirely because they were alarmed by his reputation.
    (訳) 彼に紹介された人々はいくらか気おくれすることが多かった。しかもそれは、必ずしも彼の名声に押されたためばかりではなかった。

     さっそく訳文を手直ししよう。「彼に紹介された人々」という部分が気になる。「彼に」は英文のto himから単純に格助詞「に」を選択しているのだと思うが、これだと助詞「に」が何の格として働いているのかがハッキリしない。
    (a)主催者が人々を彼に紹介した。
    (a-1)人々が彼に(主催者に)紹介された。⇒ 彼に紹介された人々
    (a-2)人々が(主催者に)彼に紹介された。⇒ 彼に紹介された人々
    (a-3)人々が主催者に彼を紹介された。⇒ 彼を紹介された人々
    (a-4)人々が彼に拝謁した。      ⇒ 彼に拝謁した人々
     明示されてはいないが「紹介する」の主格が存在するはずなので、仮に(a)としておく。これを受動態に変換すると、(a-1)(a-2)のように助詞「に」が2つ使われる事になる。一つは能動格(能動態の主格)であり、もう一つは与格(「猫に餌を与える」)になる。さらに「主催者に」の部分を明示しないで連体修飾句に変換すると、どちらも「彼に紹介された人々」になる。こうなると「彼に」が能動格なのか与格なのかは文脈次第で、明確とは言えない。

     例えば「人々」と「彼」が対等な関係であれば、対格と与格は入れ替え可能なので「(a')主催者が彼を人々に紹介した。」と考えた上で受動態にすると(a-3)になる。さらに連体修飾句にすると「彼を紹介された人々」となり、(a-1)(a-2)のような誤解は生じない。ただし、あくまで対等な関係であれば問題はないが、後半の文章を見る限り「彼」の方が目上か、もしくは格が高い存在のようなので、入れ替え表現(a-3)はやや違和感を感じる。

     逆に王族(皇族)のような高貴な存在が相手であれば、「紹介する」ではなく「拝謁する」を使う事ができる。その場合「主催者」のような仲介は不要なので(a-4)のような表現になり、連体修飾句に変換すると「彼に拝謁した人々」になる。しかし、今度は「彼」がそれほど格上ではないのことが問題となる。この例文では「拝謁」は不自然だ。結局、(a-3)と(a-4)の間になるように「紹介」「拝謁」以外の言葉を考えて「引き合わせる」と訳す事にした。この動詞を使えば助詞「に」の重複問題を回避することができる。
    (前半の推敲訳) たいていの人は、彼と引き合わされると多少気おくれがした。

     訳文の「気おくれする」はとても良い表現だが、後半の「彼の名声に押された」は分かりにくい。これはおそらく「彼の名声に押されて気おくれした」という表現を念頭に置いて書かれたものだと思う。新明解国語辞典の「きおくれ【気後れ】」には「相手の気迫に押され―(が)した」という用例が挙げられているが、「名声に押される」という表現は不自然だ。そもそもalarmed by his raputationの訳としてしっくりこない。「彼の評判を聞いて不安になった」ぐらいがよさそうだ。

     最後の最後に挿入形式について考えていく。例文のand thatの代名詞thatは、前半のPeople … awkwardnessまでを表すから以下のような構造になっている。
    (A)People who were presented to him often felt a certain awkwardness,
    and
    (B)people who were presented to him often felt a certain awkwardness not entirely because they were alarmed by his reputation.
     (B)が挿入形式になっているのだが、because節が「Xだけではない」という部分否定になっている事から「Xが理由だが、X以外にも理由がある」という2つの部分に分かれる。それを書き下すと以下のようになる。
    (B-1)People who were presented to him often felt a certain awkwardness because they were alarmed by his reputation.
    (B-2)People who were presented to him often felt a certain awkwardness not entirely because they were alarmed by his reputation.
     このように分析すると(A)、(B-1)、(B-2)の3つの文から構文が出来ているようにみえるが、そうではない。not entirely が出てきた時点で(A)にはbecause節が含意されている事になるので、(A)と(B-1)は同一表現とみなせる。それをあえて構造として記述すると、以下のようになる。
    (A')People who were presented to him often felt a certain awkwardness because they were alarmed by his reputation,
    and
    (B-2)people who were presented to him often felt a certain awkwardness not entirely because they were alarmed by his reputation.
     この構文構造を基にして訳文の後半を推敲する。
    (後半の推敲訳) 彼の評判を聞いて不安になったからでもあるが、それだけではなかった。

     前半と後半の推敲訳をまとめる。
    (推敲訳) たいていの人は、彼と引き合わされると多少気おくれがした。彼の評判を聞いて不安になったからでもあるが、それだけではなかった。

     さらに推敲する。やはり「彼と引き合わされる」では落ち着かない。「彼に」を使った上で与格である事が伝わるように「面と向かって」という状況を追加する事にした。また、係る言葉「たいていの人は」と受ける言葉「気おくれがした」を直結した。それと、訳文では「気おくれ」を量で評価して「いくぶん気おくれする」と訳している。推敲訳でもそれを踏襲してきたが、後半で気おくれの原因が「彼の評判」とそれ以外の事だと主張しているので、量では無く質が取り沙汰されていることがわかる。最終的に以下のように推敲した。
    (推敲訳) 面と向かって彼に引き合わされると、たいていの人はある種の気おくれがした。というのも、あらかじめ彼の評判を聞いていて不安になったからだが、単にそれだけとも言えなかった。

    (参考)
    awkward 落ち着かない、きまずい
    alarm ハラハラする、不安にさせる、心配になる
    present(v.t.)
     5《文語》〈人を〉(ある人に)正式に紹介する、引き合わせる;〈人を〉(目上の人に)拝謁させる、伺候させる《to …》
     She had the honor of eing presented to the Queen. 彼女は名誉にも女王陛下の拝謁を賜った。
    posted by アスラン at 08:30| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 英文解釈教室を書き直す | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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