[第三首]百首の中でも屈指の、リズム感にみちた歌だ。子供の頃は意味はそれほどよく分かってなかったが、とにかく山鳥の尾っぽが長く垂れさがっているイメージは「尾」の繰り返しで感じた。そこから「長々し夜を」に一気につながる。今もそうだが「ながながし よを」とは読んでいない。「ながなが しよを」と読んでいる。「『しよ』ってなんだよ」とツッコミをいれながらも「長々(ながなが)」と言う語幹がリズムに乗って心地よい。あとから「長々しい夜(よる)を」という現代訳に、自分の知識がたどり着くのだが、やはりリズムを優先した読み方の魅力には勝てない。
あしびきの山鳥(やまどり)の尾のしだり尾の ながながし夜(よ)を ひとりかも寝(ね)む (柿本人麻呂)
(現代語訳) 山鳥の尾の垂れさがった、あの長い長いその尾よりも、いっそう長いこの秋の夜を、恋しい人とも離れて、たったひとりでさびしく寝ることであろうかなあ。
「あしびきの」とは「山」にかかる枕詞だそうだ。歌留多には「足曳(あしびき)」の漢字が当てられているが、島津忠夫訳注『小倉百人一首』では「足引(あしびき)」を当てている。精選版日本国語辞典では「足引(あしひき)の」の表記と読みを採用していて、枕詞だとしている。
あしひき-の【足引―】難しい書き方をしているが、要するに「山」や「山を含む言葉(例えば、山鳥)」、同様に「峰」などにかかる枕詞だと書かれている。枕詞の特徴でもあるが、語義そのものは「未詳(よく分からない)」と書かれている。そればかりか「かかりかた」もよく分からないとまで言い切っている。
[枕](「あしびきの」とも)
[1]「山」および「山」を含む熟合語、「山」と類義語である「峰(を)」などにかかる。語義、かかりかた未詳。
一方で、旺文社古語辞典には以下のように書かれている。
あしひきの《枕詞》重要な点は2つある。一つは、かつては「あしひきの」と読まれていたが、やがて「あしびきの」と読まれるようになったという点。もう一つは[参考]として書かれているように、枕詞「あしひきの」自体に意味はあったとする説だ。最初の「青繁木(あをしみき)」は何を意味するかははっきりしないが、「青々と葉が茂っている木」つまりは森であり、それは「山」のイメージを引っ張り出す言葉だという事だろうか。2番目、3番目は「あしひき」が「足を引きずる」あるいは「山の裾(足もと)が長く引きずる(続く)」という意味を持っているという事だろう。日国と旺文社古語辞典とではずいぶんと扱いが違うし、まだまだ理解しきれないほどの情報が埋もれている感じがする。そもそも枕詞とは何なのだろう。これについては興味があるが、とりあえずはここまでにしておこう。あらためて「枕詞とは何か」を取りあげる機会は出てくるだろう。
〔上代は「あしひきの」、のち「あしびきの」〕
「山」(み山・山田・山河・山辺・山椿・山橘・山桜花・山吹の花・山郭公・山鳥・山藍・山彦・山中・山颪・大和撫子・山傍)、「峰(を)」(尾の上・八尾)にかかる。(中略)
[参考]語義には「青繁木(あをしみき)」の意、「足を曳きあえぎつつ登る」の意、「山すそを長くひく」の意など種々の説がある。
推敲にとりかかろう。日国によると「しだり尾」とは「長くたれ下がっている尾」の事。「山鳥」は「1.山にすむ鳥の総称」だが、個体としては「2.キジ科の鳥。全長、雄は125cm、雌は55cm前後になる。尾羽が長くキジに似ているが羽色が異なる。…尾羽は黒や褐色の横帯があって竹の節状をなし、長さは90cmにもなる。…日本の特産種で、本州・四国・九州の山間の森林にすむ。」と書かれている。「キジに似ているが」と書かれているが、広辞苑には図や画像が挿入されていて、ほぼキジと言っていいと思う。「山間の森林にすむ」という記述が、さきほど出てきた「青繁木」のイメージと合致する。面白いのは「4.(2の雄雌は夜、峰をへだてて寝るというところから)ひとり寝することをいう語。」という語義もある事だ。つまり、山鳥は「ながながし」だけでなく「ひとりかも寝む」までの全体を統括する言葉だと言える。しかも、現代語訳に「恋しい人と離れて」と書かれている根拠が山鳥の習性にある事が、これで分かった。しかし「山鳥のひとり寝が寂しい」というのは、あまりに感傷的すぎる気がする。もっと山鳥の孤高さをイメージした歌であってもいいのではないのか。
(推敲訳) 木々が繁った山奥にすむ山鳥は、尾をどこまでも長く垂れ下げている。そんな尾にも似てどこまでも続く秋の夜長を、私も山鳥にならって何者にもわずらわされず独りで眠るのだ。



