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    2025年07月20日

    英文解釈教室の訳文を書き直す(7.3 例題(3))

    Chapter7. It . . . that . . .「B 強調構文」より。
    7.3 例題(3) @It is generally accepted that every intelligent person should know something about the history of the country―and if possible of the world―in which he lives, of the literature which he reads, of the trade or profession which he follows, of the religion he believes in. AWhy not, therefore, of the language which he speaks? BIt is in the belief that there is a real necessity for this, and that one of the most certain ways to ensure an intelligent use of any language is to study it historically, that the present book has been written.
    (訳) 知性を備えた人は誰でも、自分が住んでいる国の、できれば世界の歴史、自分が読む文学の歴史、従事している商売や職業、信奉する宗教の歴史について、ある程度知っているべきだということが一般に認められている。では、自分の話す言語について、なぜそうであってはならないのか。この書物が書かれたのは、言語の歴史について知識を持つことが真に必要であり、言語の知的な使い方ができるようになるための最も確実な方法の1つは、その言語の歴史的研究であると信ずるからである。
     英文解釈の観点から作られた訳文と考えれば、伊藤先生の訳文は解釈の細かい部分までが透けて見えるので、受験生にとっては価値のある文章になっている。しかし、日本語としては非常に回りくどいし、原文では明解なはずの論旨が非常に迂遠な感じがするので手直しが必要だ。

     まずは@の文。It is … thatは形式主語の構文だが、that節に含まれる名詞句がズラズラと並列に並び、その1つ1つに関係代名詞節が付随している。日本語の言い回しとはかなり相容れない構成になっている。おまけにダッシュ(―)で括られた挿入句まで存在するので、特に注意が必要だ。
    It is generally accepted that
    every intelligent person should know something about
       the history of the country (and if possible of the world)
                └─in which he lives
           └─of the literature
                 └─which he reads
           └─ of the trade or profession
                 └─ which he follows
           └─ of the religion
                 └─ he believes in.
     この文の核となるのはthat節に含まれるevery intelligent person should know something about the historyであって、この文のthe historyの詳細をof the …を並列にして展開していく。しかし日本語の場合は述語表現が基本構成になるので「…についてある程度知っておくべきだ」という表現を繰り返す形にしておかないと落ち着かない。原文の文法的構成を変えてでも日本語の構成を優先する事にする。それと同格の挿入節and if possible of the worldの部分も、伊藤先生(だけでなくほとんどの人)は「自分が住んでいる国の、できれば世界の歴史、」のように訳しているが、「自分が住んでいる国の&世界の→歴史」のような係り受け関係と受け止めるにはかなり違和感があり、落ち着かない。とりあえず「自分の国の歴史」と「できれば世界の歴史」とを並列関係として表現する事にする。それと、同格部分を強調するために、この時点でいったん「…についてある程度知っておくべきだ」と述部表現を用い、その後に出てくる「文学」「職業」「宗教」の歴史については、別途述部表現を繰り返す事にした。

     intelligentについてちょっと言っておきたい。ランダムハウス英和大辞典によると「〈人・動物が〉高い知能を持つ、頭のよい、聡明な」を第一義にして、さらに「〈行為・発言が〉理解の早さを示す、頭の良さを示す;理にかなった」などとしている。だが、日本語では「知能」うんぬんを取り沙汰した言い方はあまり馴染まない。よくこういう時の常套文句として「知性と教養を備えた」などと言うので、その線で訳そうかと思ったが、どうやら「教養」の方がshould know something about…に対応しているようなので「知性」に絞った方がよさそうだ。
    (@の推敲文)知性のある人なら誰でも、自分の国の歴史や、可能ならば自分が存在する世界の歴史についてはある程度知っておくべきだし、日頃読んでいる文学や自分が就いている職業、自分が信じている宗教の歴史についても同様に、ある程度知っておくべきだという事を誰もが認めている。
     さらに推敲する。intelligentを「知性のある」としてみたが、やはり気になる。「聡明な」がよいかも知れないが、原文の意図がぼやける気もするので冗長ではあるが「知性を備えた聡明な人間」としてみた。また、「…の歴史」という名詞句を繰り返すのも日本語として熟れていないので、疑問詞を用いた述部表現に変更する。
    (@の推敲文)知性を備えた聡明な人間ならば、自分がどんな国に住んでいるのかとか、可能ならば自分はどんな世界に生きているのかを多少なりとも理解しておくべきだし、さらには自分が日頃読んでいる文学や、自分が就いている職業や、自分が信仰している宗教がどのような経緯で生まれたのかについても、同じように多少は理解しておくべきだという事は誰もが妥当だと思っている。

     AのWhy not…?は反語表現で「何故…であってはならないのか?」という意味で、結局は@の核となる部分「…についても多少は知っておくべきだ」の強調表現になっている。それが分かれば「言語の歴史」を@と同様に述部表現に直せばいい。
    (Aの推敲文)それならば、自分が今話している言語がどのような経緯で生まれてきたかも理解しておくべきではないのか。

     Bの強調構文について。伊藤先生は解説で「Bの最後に出てくるthe present bookは言語の歴史に関する書物で、問題文はその序文の一部らしいと検討がつくようなら、この問題は大丈夫。」と書いている。しかし、それにしては前段の序文にあたる部分に比べると、Bの主張はなんとなく明確さに欠ける。だが、とりあえずは@A同様に名詞句から述部表現に書き替える点に留意して推敲しておく。全体をまとめた際に、あらためて文意の明確さを考慮して推敲する。
    (Bの推敲文)各自が話す言葉が生まれた経緯を知っておく必要が絶対にあるし、言語を的確に使えるようになるのに最も確実なアプローチの1つが、その言語がどのように発展してきたかを分析する事にあると信じるからこそ、今話題にしているこの書籍が書かれてきたのだ。

     全体をまとめると推敲文は次のようになる。
    (推敲文) 知性を備えた聡明な人間ならば、自分がどんな国に住んでいるのかとか、可能ならば自分はどんな世界に生きているのかを多少なりとも理解しておくべきだし、さらには自分が日頃読んでいる文学や、自分が就いている職業や、自分が信仰している宗教がどのような経緯で生まれたのかについても、同じように多少は理解しておくべきだという事は誰もが妥当だと思っている。それならば、自分が今話している言語がどのような経緯で生まれてきたかも理解しておくべきではないのか。各自が話す言葉が生まれた経緯を知っておく必要が絶対にあるし、言語を的確に使えるようになるのに最も確実なアプローチの1つが、その言語がどのように発展してきたかを分析する事にあると信じるからこそ、今話題にしているこの書籍が書かれてきたのだ。

     さらに推敲する。一つは「…の歴史」という名詞句を述部表現に変更したので、どうしても文章が長ったらしくなる点だ。そこで名詞句のパッケージを開いた事を明示するためにかぎ括弧を駆使する。次に同格の挿入句の部分。「A、できればBの歴史」を「Aの歴史、できればBの歴史」さらには「Aはどんな歴史をもつのか、できればBはどんな歴史をもつのか」としたが、名詞句を述部表現に変えた事も影響しているので、「Aはどんな歴史をもつのか知っておくべきだし、できればBはどんな歴史をもつのかも知っておくべきだ」のように書き替える。好みと言われればそれまでだが、英語の同格表現(挿入)は日本語としてはなかなか馴染まない事をよくよく踏まえた上で対処すべきだろう。

     さらにBの文章についてもあらためて、ここで考える。問題はthe present book has been writtenおよびin the reliefについて主体(主語)は誰なのかという点だ。強調構文を元に戻すと
    The present book has been written in the relief that …
    となるので、本(the present book)を書いたのも信念(the relief)を抱いたのも著者という事になる。その点を考慮して推敲する。
    (推敲文A) 知的で聡明な人間ならば「自分がいったいどんな国に住んでいるのか」を多少なりとも理解しておくべきだし、可能ならば「どんな世界に生きているのか」も理解しておくべきだ。さらには「日頃読んでいる文学や、就いている職業、信仰している宗教がどのような経緯で生まれたのか」についても同じように多少は理解しておくべきだ。こういった事は多くの人が妥当だと思っている。ならば「自分が今話している言語がどのような経緯で生まれてきたか」についても理解しておくべきではないのか。今話題にしているこの書物を著者が書きあげたのだって、「言語がいかにして生まれたか」を理解しておく必要が絶対にあると信じているからであろうし、どうすれば言語を的確に使えるようになるかに対する最善の解決策は言語の発展過程を研究する事だと信じているからだろう。

     通常ならこれで推敲完了というところだが、Bについてはもう一つの解釈がある。the present book has been writtenのように受身表現にしたのは、著者うんぬんではなく一般論として(あえていえばこの例文の書き手の意見として)書かれているとも考えられる。そこで一般論としての主張に直した推敲文Bも挙げておく。
    (推敲文B) 知的で聡明な人間ならば「自分がいったいどんな国に住んでいるのか」を多少なりとも理解しておくべきだし、可能ならば「どんな世界に生きているのか」も理解しておくべきだ。さらには「日頃読んでいる文学や、就いている職業、信仰している宗教がどのような経緯で生まれたのか」についても同じように多少は理解しておくべきだ。こういった事は多くの人が妥当だと思っている。ならば「自分が今話している言語がどのような経緯で生まれてきたか」についても理解しておくべきではないのか。今話題にしているこの書物がどうして書かれたのかと言えば、多くの人が「言語がいかにして生まれたか」を理解しておく必要が絶対にあると信じているからであり、どうすれば言語を的確に使えるようになるかに対する最善の解決策は言語の発展過程を研究する事だと信じているからであろう。

    posted by アスラン at 12:50| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 英文解釈教室を書き直す | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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