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    2025年06月26日

    英文解釈教室の訳文を書き直す(7.3 例題(2))

    Chapter7. It . . . that . . .「B 強調構文」より。
    7.3 例題(2) The Englishman learns by his mistakes, when once he is convinced of them; but it is only the brutal evidence of hard facts which will convince him,and,until these hard fact hit him in the face, his doggedness will make him hold on. It has been said that the English lose all battles and win all the wars; and it is only after he has lost a certain number of battles that the Englishman changes his tactics.
    (訳) 英国人はいったん自分がまちがっていると納得するとその誤りから学ぶが、英国人を納得させられるのはきびしい現実の過酷な証拠だけである。このきびしい現実に正面衝突するまでは、英国人はかたくなな性質のためやり方を変えようとしない。英国人は戦闘にはすべてやぶれるが、戦争にはすべて勝つと言われてきた。いくつかの戦闘にやぶれた後はじめて英国人は戦術を変えるのである。
     何を言わんとしているかは分かる訳文にはなっているが、翻訳調特有のよそよそしさが感じられて、どこに話のフォーカスが当たっているのかがよく分からない。伊藤先生の解説はとてもよく分かるし、the brutal evidence of hard factsの例えとして「自らの学力にバラ色の幻想を抱いている人」でも「合格者の中に自分の名前がない」事で「自分はやっぱりダメだったのか」と納得させられるものだと書いている。このシニカルなユーモアが訳文に活かされていないのは非常に残念だ。とにかく、まずは適切な日本語に推敲していこう。

     伊藤先生はセミコロンを接続詞相当と見なして一つながりに扱っているので、この例題の文は2つのパートから構成されている事になる。前半のパートではlearns by his mistakesを「誤りから学ぶ」としている。他動詞ならば「…を学ぶ」になるので分かりやすいが自動詞である以上はただ「学ぶ」ではダメだ。誤りを自覚したら次はどうしたらいいのかを「学ばねばならない」だろう。とりあえずはそんな風に推敲しておこう。問題はどうやら「どのようにするか」にはない。「どうなったらイギリス人は自らの誤りに気づくのか」という点にフォーカスが当たっている。それが分かるのは、続く文にでてくる強調構文でだ。

     セミコロンに続く部分は2つの文がandで結ばれており、前半がit is only … which 〜という強調構文になっていて、後半が(until … ) his doggedness will make him hold on.という文になっている。強調構文の方はthe brutal evidence of hard factsという英語特有の名詞句を伊藤先生も名詞句のままに訳している。解説ではあれほど分かりやすく例えたのに。なので日本語らしい述部表現に修正する。後半のuntil these hard fact hit him in the faceの訳「このきびしい現実に正面衝突するまでは」というのは意訳になっているが、日本語の表現としては違和感があるので手を加える。
    (前半の推敲訳) イギリス人は自分が間違っているとひとたび確信すると、どうすればよいかを学ぶようになる。ただし、間違っている事の根拠となる厳しい現実を容赦なく突きつけられて、初めて彼らは間違っていると確信するのであって、そのような厳しい現実に直面しないかぎりは生来の頑固さゆえに自らの信条を変えようとはしない。


     後半はIt has been said that …という形式主語の構文で始まる。thatの中ではthe Englishが主語で、伊藤先生はthe Englishmanと同じ「英国人」と訳している。でも、それならばthe Englishmanと書かれていないと不自然だ。直後の文でもthe Englishmanが使われているので、the Englishには違う意味が込められているはずだ。ほぼ同じ意味でもかたや単数形、もう一方が複数形扱いなので、英国人が集団として行動する事をイメージしてthe Englishが使われているようだ。ランダムハウス英和大辞典では「英軍、(国際試合などの)イギリス勢」という使い方も示している。

     それとbattleとwarが対比される形で使われているが、単に「戦闘」と「戦争」だと違いが分かりにくい。ランダムハウスによるとwarは「(国家間や国内の党派間の)武力衝突、戦争、戦闘」とあり、「戦争中の個々の戦闘はbattle」だと書かれている。一般に「war=戦争」という図式が日本では成り立っているので、battleの方を説明的に訳しておこう。
    (後半の推敲訳) イギリスの軍隊は、戦争中の一つ一つの戦闘にはことごとく敗れるが戦争にはことごとく勝つと、昔から言われてきた。つまり、何度か戦闘に敗れてみないと自らの戦術を変えようとはしないのである。

     以上、前半と後半をまとめる。
    (推敲訳) イギリス人は自分が間違っているとひとたび確信すると、どうすればよいかを学ぶようになる。ただし、間違っている事の根拠となる厳しい現実を容赦なく突きつけられて、初めて彼らは間違っていると確信するのであって、そのような厳しい現実に直面しないかぎりは生来の頑固さゆえに自らの信条を変えようとはしない。イギリスの軍隊は、戦争中の一つ一つの戦闘にはことごとく敗れるが戦争にはことごとく勝つと、昔から言われてきた。つまり、何度か戦闘に敗れてみないと自らの戦術を変えようとはしないのである。

     さらに日本語を推敲していく。後回しにしておいたが、やはり「learn=学ぶ」では日本語としてピンとこない。要するに「間違いを繰り返さない」という事だろう。前半の「厳しい現実を容赦なく突きつけられ」るという事と「厳しい現実に直面」するというのは同じ事を言っているように感じる。これはthe brutal evidence of hard factsを名詞句から述部表現に変換した際に「突きつけられる」という潜在表現を表に出したせいで、後のthese hard fact hit him in the faceという表現とあまり差が無くなってしまったからだ。要するに「突きつけられる」は書きすぎだったわけだ。「…を…突きつけられる」をもうちょっと控えめな表現にして、hit him in the faceの方をもっと大げさに表現する事にした。

     最後に全体を見直してみる。この文章は強調構文がところどころに挿入されているが、以下の4つの部分を日本語としてどう訳すべきかで、日本語としての文章の調子が変わってしまう。
    (1)The Englishman learns by his mistakes, when once he is convinced of them.
    (2)but it is only the brutal evidence of hard facts which will convince him,
    (3)and, until these hard fact hit him in the face, his doggedness will make him hold on.
    (4)it is only after he has lost a certain number of battles that the Englishman changes his tactics.
     これまで(2)や(4)の強調構文の訳し方を考えてきたが、一般には「…なのは〜だ。」式の訳がテンプレートになっている。しかし日本語としては「〜だからこそ、…なのだ。」のように取り立ての助詞相当を使いつつ訳す方が自然な場合もある。さらに別の問題が(1)や(3)(4)に含まれている。例えば(3)のようにuntilで時間軸を区切るような場合には以下のようなバリエーションが考えられる。
    (a)厳しい現実に直面するまでは生来の頑固さゆえに自らの信条を変えようとはしない。
    (b)厳しい現実に直面しないかぎりは生来の頑固さゆえに自らの信条を変えようとはしない。
    (c)生来の頑固さゆえに、厳しい現実に直面してようやく自らの信条を変える。

    さらには、make him hold onを「信条を変えようとしない」にするのか、「信条を守り続ける」にするのかでバリエーションが増える。
    (a')厳しい現実に直面するまでは生来の頑固さゆえに自らの信条を守り続ける。
    (b')厳しい現実に直面しないかぎりは生来の頑固さゆえに自らの信条を守り続ける。
    (c')生来の頑固さゆえに、厳しい現実に直面してようやく自らの信条を守らなくなる。
     日本語は述部表現が文全体に与える影響が大きいので、否定表現をどこにもってくるかで文章の流れがかなり変わってくる。ここでは(2)を例に取りあげたが、(1)や(4)にも同様のバリエーションが存在するので、最終的にどれを選択するかについては文章(段落)全体を見直す必要がある。さきほどの推敲訳を見ると、「信条を変えようとはしない」「戦術を変えようとはしない(のである)」というように(3)と(4)が繰り返しになっているように感じられる。しかし大事なのは(1)の前提と(4)の結論が呼応した文章にする事だと思われる。その点を考慮して推敲する。
    (推敲訳) イギリス人は自分が間違っているとひとたび確信すると、同じ間違いを二度と繰り返さない。ただし、自分の間違いが疑いようもない事実であるという容赦のない根拠があってこそ確信に至るのであって、そのような現実を突きつけられて一発お見舞いされないかぎりは、生来の頑固さゆえに自らの信条を変えようとはしない。イギリスの軍隊は戦時下に起きる個々の戦闘にはことごとく敗れるとしても戦争自体にはことごとく勝つと、昔から言われてきた。つまりイギリス人は、戦闘に何度も敗れた後になってようやく自らの戦術を見直すのである。
    posted by アスラン at 16:50| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 英文解釈教室を書き直す | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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