7.3 例題(1) It is not the rough and stormy sea that is most perilous to the ship. It is the dangerous rock-bound shore. When a ship is safely laden and fully manned, she is as safe on the sea as in a harbour. It is when she leaves the shore on departing and reaches it on returning, that she runs the risk of shipwreck. perish.いよいよ強調構文が身についたかどうかを試す例題だ。この中には4つの文が含まれるが、そのうちIt is … that構文は2つあり、いずれも強調構文である。理由は本書を読めば十分に説明されているので割愛して、訳文の推敲に取りかかろう。第一の文と第二の文は、伊藤先生も説明しているように、焦点部が共通関係になったIt is not A, but B that…の変形 It is not A that…, but Bのbut以下の部分が別の文に分かれたと考えればいいので一緒に扱う。以下3つの部分に分けて推敲しよう。
(訳) 船に最も危険なのは荒れた、嵐の海ではない。岩に囲まれた危険な岸である。船が危険でない程度に荷が積まれ、乗組員が十分に配置されている場合には、船は海上でも港にいるときと同じように安全である。船が難破の危険をおかすのは、出発に際し岸を離れるときと、帰路岸に到着するときである。
第一の文の訳で気になるのは「船に最も危険なのは」という部分。perilous to …のtoが助詞「に」に対応しているように訳されているが、日本語らしくない。「船にとって危険な」あるいは「船が危険である」とすべきところだ。それと読点の位置も気になる。短い文なので誤解はないだろうが、係り受け関係を明確にするならば「船にとって最も危険なのは、荒れた嵐の海ではない。」に変えた方がよい。この結果「荒れた→海」ではなく「荒れた嵐」という係り受け関係が生じてしまうので、「荒れた&嵐の→海」という関係をハッキリさせる為に、あえて並列関係を入れかえて「船にとって最も危険なのは、嵐で荒れた海ではない。」とすると、さらにシックリする。そもそもroughとstormyはどちらも「天候が荒い」「荒天の」という意味だが、船がお題である事を考えれば「嵐」でも良いが「時化(しけ)」で「波が荒い」と考えた方がよさそうだ。
続いて第二の文にはdangerous(危険な)という形容詞が出てくる。第一の文のperilousも「危険な」という意味だが、訳文を見ると「船に(とって)最も危険なのは…岩に囲まれた危険な岸である。」と書かれている。煎じ詰めると「危険な岸が最も危険だ」と、当たり前のような事を言っているようにも感じられる。ランダムハウス英和大辞典ではdangerousは「〈事柄・事情などが〉危険な、危険を伴う、危ない」を意味し、perilousは「〈行動・計画などが〉危険をはらんでいる、危険に満ちた、冒険的な、危うい」などとなっている。dangerousは直接的な危険を表すのに対し、perilousは潜在的な危険の可能性について強調しているように感じられるので、やや違いを持たせた日本語に変えた。また訳文の「岸」は危険な状況が分かりやすいように「浅瀬」に変えた。
(第一、第二の文の推敲訳) 航海中の船にとって最も危険をはらんでいるのは、時化て荒れた海ではない。岩に閉ざされて危険な浅瀬だ。
次は第三の文。a ship is safely laden and fully mannedの部分の訳は「安全に(=危険でない程度に)」「十分に」あたりが翻訳臭が抜けていないので、意図が伝わるような日本語に変更する。
後半は比較構文であるが、以下のように(A)と(B)を比較して同格(同じ程度)である事を(X)のように表現している。
(A)she is safe on the sea.この際に基準となる(B)の一部が省略されることから、訳文の方もそれに従って省略しがちで、「船は海上でも港にいるときと同じように安全である」となっているが、日本語としては翻訳調で違和感が残る。「船は港にいる時は安全だが、海上でも同じように安全だ。」とした方が自然だ。
(B)she is safe in a harbour.
(X) she is as safe on the sea as (she is safe) in a harbour.
(第三の文の推敲訳) 積載量の制限に従って積み荷を載せて必要な乗員を配置していれば、船は港に停泊している時が安全なのはもちろんの事、海上にいても安全である。
第四の文の訳で違和感を感じるのは、船が擬人化されている点だ。「船が難破の危険をおかす」というのは、確かに「she runs the risk of shipwreck.」と書かれているからだが、主語のない日本語では不自然だ。第三の文までの「船は」はもちろん主格の「は」であり、ほとんどは題目の「は」である。ここでは題目はでてこないので「船が〜危険にさらされる」のように受け身の表現に修正する。
(第四の文の推敲訳) 船が難破する危険にさらされるのは、出港に伴い離岸する時と入港に伴い接岸する時である。
以上をまとめて推敲訳とする。
(推敲訳) 航海中の船にとって最も危険をはらんでいるのは、時化て荒れた海ではない。岩に閉ざされて危険な浅瀬だ。積載量の制限に従って積み荷を載せて必要な乗員を配置していれば、船は港に停泊している時が安全なのはもちろんの事、海上にいても安全である。船が難破する危険にさらされるのは、出港に伴い離岸する時と入港に伴い接岸する時である。
さらに日本語として推敲していく。さきほどdangerousとperilousの違いを直接的か、あるいは可能性かで区別するとしたが、さらに調べていくとchat-GPTでは以下のような違いがあると指摘してくれた。
つまりdangerousは「日常的な危険」であり、perilousは「深刻な危険」である。と同時にperilousは文語的で固い表現だという事らしい。英語の違いをすべて満たす事はできないが、perilousの方をレトリックを駆使して大仰な言い方に変えてみた。また、いつものように英語では名詞中心の表現が多用されるが、日本語では述部表現に書き直す。第一の文の「…の海」や「…の浅瀬」は、「海が…の時」「浅瀬が…の時」のように変えた。
例の比較構文だが、基準となる(B)の方は、積み荷や乗組員の件にかかわらず安全は保証されるだろう。なので条件による限定の外側に追い出して、一定の条件下では(A)の方も同じように成立するという日本語に変えた。
最後に、これは英文解釈教室の章立てには含まれていないし、そもそもほとんどの学習書で取りあげられていない点として、文接続詞について一言言っておきたい。この例題でも文接続詞はひとつも使われていないが、日本語ではかえって不自然だろう。いたるところで挿入したくなる欲求に駆られるが、少なくとも第三の文の帰結として第四の文の主張が成立するのは明らかなので「故に」と控えめに挿入しておこう。
(推敲訳) 航海中になによりも増して危険と隣り合わせになるのは、海が時化て荒れている時ではない。浅瀬が岩で閉ざされて危険な状態の時だ。船は港に係留されていれば安全だが、積み荷の積載量を限度内におさめ必要な船員を配置しさえすれば、海上にいても安全である。故に、船が難破する危険にさらされるとしたら、出港に伴って離岸する時か、あるいは入港に伴って接岸する時だという事になる。



