7.1.5 One day it occurred to a man named John Gutenberg that if the letters of a text could be made each one separate, they might be used over and over again.とりあえず、7章@のお題としてはIt occured to a man that …の部分をどう考えるかだ。happenとoccurはある意味で互換性があり、「(出来事が)起こる」という使い方ができるが、occur to + 目的語という形式になると語義が変わってくる。
(訳) ある日、ジョン・グーテンベルグという名の人が、テキストの活字をひとつひとつばらばらにできれば、何度も使えると思いついた。
3. 〈考えなどが〉(人の)心に浮かぶ、思い出される、ふと気がつく《to …》この用例を例文と比べてみる限り、例文のitはthat節を前もって示す、いわゆる形式主語のようにも見える。ただ、that節の内容を入れ子にして外側から「〜と思い浮かんだ」を付加すると考えた方が他の様々な動詞の構文と整合するので、やはり形式主語とは見なさない方がよさそうだ。
An idea occurred to me [ or my mind]. ある考えが私の心に浮かんだ。
その上で例文の内容に立ち入ると、訳文には少々不満な点が見受けられる。「グーテンベルグ」と言う以上は、かの活版印刷の父を指すのは間違いない。だとすると姓の方はドイツ語読みにしているのに、名前の方をジョンと読んでいるのはおかしい。そもそもJohannes Gutenbergが正しい表記で、名前はキリスト教の聖人ヨハネから採られている。聖人ヨハネは英語ではJohnなので、あえて英文ではそう表記しているのかもしれないが、ドイツ人として扱うならばヨハネスとすべきだろう。ちなみに姓は「グーテンベルク」が正しいようだ。
さらに「テキストの活字をひとつひとつばらばらに」うんぬんと書かれているが、「活字」と書いた時点で活版印刷を前提としているので辻褄が合わない。ここは、活版印刷以前の書籍がどのように作られていたかを考えなければならない。活版印刷以前には、書写(手書きで原本を写す)か、木版印刷(一枚の版木に文章を彫って印刷する)のいずれかだった。書写は印刷とは言えないので木版印刷で考える。the letters of a textというのは「版木に彫られた文章を形づくる文字全体」を指すはずだ。それを踏まえて訳文を推敲する。
(推敲訳) ある日、ヨハネス・グーテンベルクという男が、印刷する本文を構成する複数の文字を一つ一つ分けておくことができたら、くりかえし使う事ができるかもしれないと思いついた。
さらに日本語らしく推敲する。
(推敲訳) ある時、ヨハネス・グーテンベルクという男がふと思いついた。印刷する文章を文字単位に分けておく事ができたら、それらの文字を何度も使いまわす事ができるかもしれないと。