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    2024年09月16日

    ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編/ ぎんなみ商店街の事件簿 SISTER編 井上真偽(小学館)

     出版時期がちょうど一年前。おそらくオリオン書房の新刊本コーナーで平積みになっていた記憶がある。
    BROTHER編
    四人兄弟が、愛する地元のぎんなみ商店街で起きた不穏な事件に迫る。同じ事件、同じ手がかりを見ているのに、三姉妹とはまったく違う推理の展開に…? パラレルミステリ。SISTER編も同時刊行。

    SISTER編
    焼き鳥店「串真佐」の三姉妹が、愛する地元のぎんなみ商店街で起きた不穏な事件に迫る。同じ事件、同じ手がかりを見ているのに、四兄弟とはまったく違う推理の展開に…? パラレルミステリ。BROTHER編も同時刊行。
     まあ、ミステリを愛読する人なら「そそられる趣向」ではあるが、二冊同時に購入しないとその趣向を堪能することができないという意味では、あざとい趣向だなとは感じた。という事で図書館で予約して9ヶ月ほど待って両方同時に借りられたところで読んだのだから「あざとい」ですませるのは著者に申し訳ない話ではある。

     著者の井上真偽さんの作品を読んだのはこれが初めてで、作風はまったく知らなかった。今ちょっと著作リストを見ていたらTVドラマ化された『探偵が早すぎる』の著者だと知った。なるほど、趣向にこだわる作風なのだなと得心がいったが、本作を読んだ感想を率直に言えば「何が面白いのかよく分からなかった」。同じ事件、同じ手がかりを見ているのに違う展開になるというのは少々言い過ぎで、同じ事件ではあるが、探偵役の四兄弟側と四姉妹側とでは「見ているもの」が違う。微妙に違った手がかりを元に思考回路が違う人間が考えるのだから、推理の展開が違って当たり前だろう。だから、何が面白いと言えば、展開が変わってくるというところにあるわけで、さらに言えば男だけの四兄弟と女だけの四姉妹という、性別の違い、兄弟と姉妹という環境の違いがどう物語に影響するのかという点にあるはずだ。

     でも、この作品はBROTHER編とSISTER編に分冊してしまった事で、肝心の面白さを読者に伝え損ねているように感じた。この2冊の本をどう読んだらいいかについて小説の前書きに書かれていたように思う。どちらからという順番の後先はないが、丸々片方を読んでからもう一方を読むのも良し、事件ごと(章ごと)に互いの本を読むのも良し、自由に読み比べて欲しいという事が書かれてた。僕のオススメは当然ながら事件ごとに比較する読み方だ。そうしないと、やはり先ほど述べたように「見る人、見る環境、見る状況」によって事件の本質が変わってくるという事の面白さが十分に堪能できないと思うからだ。例の『ミステリと言う勿れ』で主人公・久能整くんが「真実は一つなんかじゃない。人の数だけあるんです。」と言うように、まさにそこが読みどころなのに、あらかじめ読みどころを封じてしまっているのが、この2冊だという事になる。

     そう言えば森博嗣さんのS&Mシリーズに、こういった趣向に近いものがあったような気がするなぁと思い出した。『幻惑の死と使途』と『夏のレプリカ』だ。正確には、同時に起こった別の事件を奇数章と偶数章に分けて描き、それを一冊ではなく連作として別々に出版してある。だから同じ趣向とは言えないが、著者にそういったものに挑戦したいという野心があったのだろうか。と思ったら、Wikipediaには著者・井上真偽さんが森博嗣を敬愛していると書かれていて合点がいった。森さんの場合は、あれを一冊にまとめたら京極夏彦の箱本に匹敵する作品になってしまい、かえって分かりにくくなってしまう可能性があるから二冊に分けるのは致し方ない(そもそも別の事件だし)。

     何故2冊に分けてしまったのかなと不満を言いたいだけなのだが、分冊して売らないと話題にならないという出版社側の事情があるのかもしれない。正直言うとどちらか片方を読んだだけではミステリとしての面白さが伝わってこない。例えば最初の事件では、ぎんなみ商店街で老夫婦が経営する店の前で交通事故が発生して死者が出るのだが、そこにいきなり事故現場の見取り図が出てきてかなり興ざめになる。文章で状況を読ませるのではなく、今流行りの参加型謎解きゲームのストーリーを読まされている感じがしたのだ。そこがモヤモヤしたポイントではあるが、逆に考えれば謎解きゲームが好きな人にとっても、こういう趣向の読書の方が楽しめるという事かもしれない。僕が楽しめなかったのは、もし分冊にしないで交互に一冊にまとめた上で、1,2、3,4…の順に読むか、2,1,4,3…の順に読むかによって読後の味わいに違いが出るとか、あるいは交互に読んでいって最後には四兄弟の物語と四姉妹の物語が交差するというか融合するというところまで書かれていたら面白かっただろうなと思ったのだ。実際には交差(クロス)するところまでは描かれているので、もしかするとこの「ぎんなみ商店街」の物語は続編を書き継いでいくつもりがあるのかもしれない。その際はぜひ分冊ではなく一冊にまとめてほしいものだ。
    posted by アスラン at 05:10| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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