キッスは、ものすごい吸引力なので、イヅミは溺れたひとみたいにあぷあぷしてしまう。もがく。唇がかさかさになってしまい、足の先でドレスを捜し、ポケットからリップクリームをとり出して、そっとつけた。そしてあとは目をずっとつぶった。ベッドのへりにごちんごちんと頭がぶつかる。(富士額)
なんか凄い!世界残酷物語を見ているようだ。相撲取りとのラブシーンも初めてなら、あの太っちょ特有のもあっとした湯気と大量の汗に抱きしめられるところを冷静に描いてるのも珍しい。
なにしろ表題作を含む三篇のヒロインは三人ともに変な相手とばかり仲良くなっちゃう。
「しょっぱい…」は初老の男、「富士額」が駆け出しの相撲取り、「タンポポと流星」が腐れ縁が続く高校の同級生(女性!)。
それもこれも本書のヒロインたちが一種のマイナスエネルギーみたいなのをオーラのように発散しているからなのか、フキダマリのように変わった人々を引き寄せるにちがいない。
それが意外にも不気味ではなくてかえって心地よかったりする。一体何故だろう?
世間で言う「癒し」なんて言葉は癒されたいと思う人々が作った自分勝手なコンセプトに過ぎないし、「癒し」を一方的に配信する「癒し系」なる者が本当に存在するわけでもないだろう。
だけどこの本に出てくる女性たちは好むと好まざるとに関わらず、弱い人間たち自分勝手な人間たちを引き寄せる。そうして自分自身は彼らを受け入れる重荷から時に気弱になったり、いたって不機嫌になったりする。
特に「タンポポと流星」のヒロインは高校で気の強い同級生の鬱憤のハケグチに甘んじていて、彼女から逃れたい一心で上京する。
同級生は彼女の男関係から何からしっかり把握せずにはおられない。しかも彼女の情けない写真をアルバムにまとめていて、実は友情を超えて同性愛的な束縛を迫っている。
それに気づいていないかのようにヒロインは、ただ逃げだして東京での暮らしに安らぐのだが、また一方で新たな人間関係や何やらで寂しくなり、同級生に連絡を取ってしまう。
ここら辺の彼女の思ってる事とやってる事のチグハグさが面白い。
彼女は物語で言えばいわゆる脇役であり他人に利用されて終わるような地味なタイプの典型に見えるのだが、その実、したたかに他人との関係を測っているところが、読者の側からすると健気でもあり微笑ましい。
こういう本来主役にならないキャラクターを物語の主役に据えてしまうところに、この著者の本領がある。
大道珠貴、あなどれない。他の著作も期待したいな。



