男は映写技師として大都会のど真ん中にひっそりと身を隠している。日々の日記は、猥雑で危うい周囲の喧噪をかわして退屈な人間になりきる事の実践が書き綴られている。やがて何故男は退屈な人間に見られるように自らを律しているかを語り出す。語らずにはいられないかのように饒舌に、ある過去の事件を語ってゆく。
男の実践からすると、こうした日記を書く事自体危険な行為とは言えないか。そんな一読者の素朴な疑問に応えるかのように、男は自ら決めたルールを次第に踏み外していく。
退屈な日常が破滅へとエスカレートしていくまで目が離せない。読む方もエスカレートを強いられる作品だ。
ミステリーとしても読める。使われてるトリックはある有名な映画でおなじみだ。でもタイトルの意味を考えれば最初から著者はモチーフを隠してはいない。「ある主観の投影」といったところか。男が映写技師であるのも隠喩的だ。
(2005年5月28日初出)
[追記(2012/5/23)]
最近ご無沙汰の作家だ。伊坂幸太郎などとまとめて、春樹チルドレンとも呼ばれたのではなかっただろうか。著者自身が映画好きという事もあって、映画的な引用や映像的な描写が目を引く。「シンセミア」がなかなか衝撃的だったし、面白かったのだが、最近はどうしているのだろう。結婚の話題で久々に名前を見かけたのだけれど、相方の方が今や知名度が高いので、へぇーと驚かされた。別に意外というわけではなかった。そろそろ、「シンセミア」以後の作品も読みたい作家だ。



