2012年01月30日

本陣殺人事件 横溝正史(2005/05/26読了、電子ブックにて)

 私はこの事件の真相をはじめて聞いたとき、すぐに今まで読んだ小説の中に、これと似た事件はないかと記憶の底を探ってみた。私は先ずルルーの「黄色の部屋」を思いうかべた。(「本陣殺人事件」より引用)

その昔、若き角川春樹が角川書店の社長に就任して、小説、映画、アイドル、歌、CMなどあらゆるメディアを総動員したお祭り騒ぎが始まった。そして『角川映画』というジャンルができた。メディアミックスの先駆けとなった角川スタイルの先鋒に選ばれたのが、横溝正史であり金田一耕助だった。


古くてすでに手垢がついた横溝作品だったはずが、きらびやかで儀式的な連続殺人、荒唐無稽な殺人理由、ケレン味溢れる人間関係、因習から抜け出せない、かつて日本に存在したはずの村、そのどれをとっても、推理小説をミステリーと言い換えるのに必要な条件を満たしていた。そのうえ、凄惨な舞台でありながらどこか楽天的なムードを漂わせる探偵の存在は、お祭り騒ぎを演出するには決定的な要件だったのだ。

 ところで、本当は第何次ブームかに当たる横溝正史シリーズは、市川昆・石坂浩二コンビの生み出す角川映画で始まった訳ではなく、古谷一行演じる飄々とした金田一を配したテレビシリーズが火付け役だった。そのシリーズ第一作が「本陣殺人事件」だった(と思う)。

 かつての本陣であった旧家のはなれで起こる新婚初夜の殺人。

雪に囲まれた密室、庭に突き刺さった凶器の抜き身、庭の木に置き忘れられた鎌。

欄間、琴爪、屏風に残された三本指の血の跡。

糸を切られた琴、竹藪、水車、炭焼き小屋。

 視覚を刺激する小道具をこれでもかと配置した挙句に、宴の後に誰もが寝静まった明け方近く、琴の音が二回、無造作にかき鳴らされる。道具立ても、ここまで細をうがてば見事という他ない。そして極めつけが、被害者のアルバムから見つかった「生涯の究敵」の写真。それがまさしく三本指の男なのだ。

戦前から時代小説を書いてきたストーリーテラー横溝正史は、戦後の時代そのものを軽やかに駆け抜ける探偵を主人公にした物語をここに生み出した。著者が作中ことさらに欧米の本格推理について語り、その作法についてガイダンスするところが、いかにまだ日本の本格推理が未成熟だったかを物語っている。

 横溝は、カーやクイーンやミルンの手際を、見よう見まねで日本の土壌に接ぎ木することで独自のジャンルを開拓しながら、同時に読者まで創造した事になる。
(2005/5/26初出)


本
今回の「本陣」は携帯からサイト「文庫読み放題」にアクセスして少しづつ読んだ。現在、月額料金さえ払えば金田一シリーズの主要作品を読むことができる。
posted by アスラン at 19:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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