あとに残された興味は、ジュブナイルではなくて原作そのものがどのように描かれているかだったが、それも岩波文庫の「アルプスの小屋の娘」を読んで一通り満たされてしまった。原作では、より宗教色が強いことと、ハイジとペーター、そしてクララの関係が、アニメのような対等で心温まるものではなかった事に驚かされた。こんな話だっけ?そう、こんな話ではなかったはずだ、児童書では。ジュブナイルでは、いわば日本の子どもたちにとっておいしいところを選択してまとめられていたので、安心して読めたのではなかったか。
原作はそうではない。未解決な問題として、フランクフルトで交流があった「お医者さま」をささえるハイジのその後の人生がどうなるのか。これは原作者自身が描かなかった。続編を書きたくなかったのかと思いきや、実は「ハイジ」自体、アルムの山での生活までが第一作だったと初めて知った。あまりに好評だったために「フランクフルトに連れていかれる話」を続編として書いたのだそうだ。そして第一作は女性作家への偏見を慮って匿名にしたが、続編からは正式に作家としてデビューした。しかし、続編も好評であったからには、第三話以降書き継いでもよかったのにと思わずにはいられない。
この図説では、原作の名場面を紹介しながら、原作の舞台スイスの田舎町マイエンフェルト周辺と、作品を生みだした背景や当時の歴史を要約し、後半では原作者シュピリの人生について詳しく解説している。個人的にはシュピリその人についてはあまり関心がもてなかった。作品も日本ではハイジ以外は馴染みが薄く、やはりハイジの原作者という点をおさえておけば十分のような気がした。ただ、当初想像していた以上にシュピリはアルムの土地柄を現地に取材してから書いたので、登場する地名はすべて現実に存在していることに、作者の誠実さが感じられた。写真を見ると、いまでもハイジの世界が立ち上ってくるかのように感じられる。
「ハイジの盗作疑惑」という話題のトピックにもちゃんと目配せしているところに、著者たちのハイジへの入れ込みようが伝わってくる。囲みのコラムには、例の「アデレード」のあらすじが引用されていて、一目瞭然、まったくハイジらしからぬ内容であることがわかる。どうやら盗作うんぬんは、読者の関心を煽った記者の勇み足ではないかと、著者たちは分析している。
また、日本で翻訳されたハイジの書籍一覧や、アニメやTVドラマ、映画などもリストアップされていて、「ハイジ」の一級資料と言える。僕は岩波文庫版を読んで満足していたのだが、どうやら野上百合子訳は、著者が「敬意と批判をこめて」と言及しているように、今やベストな選択ではないようだ。岩波少年文庫の「ハイジ」には旧訳と新訳があり、そのどちらもオススメらしい。さっそく読んでみないと。
こんにちは。
このたび、eCrowdMedia Inc.(電子書籍出版社readmoo.com)は、自社のプロジェクトの一つである『X相乗シリーズ』から出版される電子書籍の出版前レビュアーを募集しています。書籍が正式に出版される前に、お好きな本を一冊お選びいただき、その本を読んだレビュー(感想やコメント)の寄稿をお願いしたいと思っています。書籍は無料で閲覧できます。
あなたのレビューは、書籍の正式出版後に多くの読者が閲覧する特設ウェブページにてシェアされます。
レビュー参加の締め切りは 2014年5月1日です。ご参加をお待ちしております (^o^)/
■■■■ レビュアー参加方法 ■■■■
【1】読みたい一冊をお選びいただきます。
【2】「レビュアー参加希望」と、こちらの投稿の下にコメントを残して下さい。電子書籍の閲覧用ファイルとレビュー記入シートをお送りします。
【3】 感想を書き終えましたら evelyn@ecrowdmedia.com までお送りください。活動終了日時は 2014年5月1日です。
『X相乗シリーズ』書籍リスト
※以下の本からお好きな本を一冊お選びください。
(3)『時間浪肺(ろうひ)の日々』 楊振誠(台湾)
世界とつながりたい?それならば、まず自分の土地を知ることから始めよう。一年間の台湾WWOOFing(ファームステイ)を通し、作者は自分が生まれ育った大地とその土地の農耕を深く知る。そんな彼の経験をまとめた旅行記。
(4)『サテライト・ライフ』 Chris Tobias クリス・トバイアス(アメリカ)
作者の”アジアと太平洋を跨ぐ自分探しの旅”の記録。作者が世界(社会)とつながっていく過程を綴っている。
(5) 『輝け!カンボジア』Thavry Thon タブリー・トン(カンボジア)
10編のプチストーリー構成で、作者が現地の教育改善、環境保全活動、サイクリング運動などに参加した経験が綴られている。
では、ご連絡をお待ちしております。
よろしくお願いします。
エビリン