2014年03月03日

知識ゼロからの印象派絵画入門 大橋巨泉(2013/11/16読了)

 昨年の11月の頭に小三の息子をつれて、八王子にある東京富士美術館に印象派展を見に行った。なぜこういうことになったかというと、まず息子が絵を描くのが好きで、おまけにかなりうまいというところから始まっている。次に、たまたま見つけた「ぶらぶら美術館」というBS日テレの番組が思いの外おもしろいことに最近になってようやく気づいて(まあ、かなり遅すぎた発見なのだけれど…)、HDDレコーダーに録画するようになり、それをちょくちょく息子と一緒に見るようになったという経緯があった。

 ああ、順番を間違えた。そもそも小学校に息子を連れていくと、駐輪場の前の建屋の窓ガラスに、モネの「睡蓮」の絵が入ったカレンダーが貼られていて、いつもいつも「モネはいいねぇ」と息子と話し合っていたことが遠因に違いない。そして、偶然にも通学路にある民家の塀に、ルノアールの絵をトリミングした印象派展のポスターが貼られていて、こんな立川の奥まったところにいても、身近に立派な美術館があることを初めて知ったのだった。

 そこで、とある祝日に(そうか、文化の日だった)二人で出かけて鑑賞してきたのだが、あらためて「モネはいいねぇ」「ドガはうまいねぇ、ブーダンって結構やるもんだね、この空と雲はなかなか描けないよなぁ」「ルノアールはやっぱりルノアールだなぁ。セザンヌはすごいねぇ」などと互いに思いつくままに言い合って帰ってきたのだった。そこで、事後学習ではあるけれど、いろいろと図書館で本を仕入れてきた。最寄りの図書館での有りものを集めたので、まずは本書を読むことになった。

 当然、僕自身がド素人なので「知識ゼロからの」というコンセプトはありがたいと思ったのだけれども、あの巨泉さんがこういった入門書を書く資格(資格というのは、ちょっと大げさではあるが)があるのかよくわからなかった。ただ、説得力があると思われたのが、彼が芸能界の第一線を早々と退いて、リタイヤ生活を楽しみ、世界中を夫婦で旅しては有名な画家の作品をかたっぱしから観て歩いたという点である。この、本物を観て回るという体験こそは美術鑑賞にとってなにものにもかえがたい。とにかく絵画だけは本物を目の前にして感じなければダメだ。どんなに再現度の高い映像でも、ましてや美しいグラビアにしたところで、本物の印象はつかめない。その点についてだけは僕のような素人でもわかる。

 あとは入門書や美術書で知ることは絵画の歴史や手法や作家の人生といったものだけだ。僕には、巨泉さんが書いた入門書を読むことに抵抗は感じない。彼には彼の美術に対する思い入れが確かにあり、それは徹底して鑑賞家側、つまりは僕らと同じ側にいるはずなのだから。本書から知識としてわかったのは、印象派とは何かの統一した手法や主義を表す言葉ではなく、既存の伝統的絵画に対する若い作家たちの、ある種の異議申し立てのようなムーブメントを指すという点だ。のちに印象派展と称されることになった絵画展は、当時の批評家から「汚らしい。印象を描いたにすぎない」などと酷評されたことに端を発している。若き創作者たちは、酷評を逆手にとって自らを「印象派」と名乗って大見得をきったのだ。

 それとは別に、確かにモネやルノアールなどは、筆触(筆あとの事?)を消さず、絵の具を混ぜることなくキャンバスに置いてゆく事で、見たままの「印象」をなんとか表現しようと試行錯誤していく。これを「印象主義」というんだそうだ。「だから」と著者は強調するのだが、印象派という言葉でなにかまとまった手法をもった作家群が存在するわけではないのだ。たとえば印象派のくくりで語られる事の多いゴッホやゴーギャンのようないわば「遅れてきた作家」にしても、後期印象派などと言うべきではなくポスト印象派と呼ぶべきなのだと著者は言う。

 いずれにしても僕にわかるのは、「宗教色が強く、構成に遠近法を用いている」という枠に押し込まれていた古典絵画が、印象派の時代を経由する事で現代絵画へと道がひらけていったという事実だ。時代の転換点であったということだろう。ところで、気楽に絵画鑑賞を楽しませようとする著者の意図は十分に理解できるのだが、巨泉さんの絵の好みだけは少々偏っていると思わずにいられない。あるいは既存の権威にとらわれることなく自分の体験を力にして真実を突いているのかもしれないが、どうしても巻末にある印象派作家ランキングに納得する事が、息子ともどもできなかった。

 巨泉さんによると、マネが一番で、次がドガ。いずれも技術が他の画家を抜きんじている。モネは4位に甘んじていて、クールベにいたっては画才がないと断言し、セザンヌは絵が下手だと切り捨てた。ブーダンはうまいけれどちょっと描きすぎだ、などなど。クールベたちはランキングの下から数えた方が早い。これにはちょっとなんだかなぁと思った。だって、印象派展の絵に感動して、ブーダンの〈空と海〉の風景画の絵葉書を買ってしまった僕の立つ瀬がないではないか!!
posted by アスラン at 19:29| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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