2013年11月11日

2013年11月の新刊

ようやく。ホントにようやく涼しくなってきた。もとい。すみません。書き出してからアップするまで時間が掛かりすぎて、涼しいどころか寒いです。寒くなってしまいました。
 今年は猛暑やゲリラ豪雨や台風などに悩まされてきたが、ここに来て読書の進み具合が速くなってきた。なんとなく今だったどこまでもどこまでも読書に集中できるような気がする。僕ら読書好きにとっては、「どんな時に秋を感じるか」というと、いくらでも本を読んでいられるという時期をさすんじゃないだろうか。

では、大洋社のHP「Book Index」調べの新刊チェック。

11/01 言葉の誕生を科学する(河出文庫) 小川洋子 672
11/01 淀川長治の映画ベスト100+アルファ(河出文庫) 淀川長治 693
11/01 新装版 なんとなく、クリスタル(河出文庫) 田中康夫 798
11/06 短歌という爆弾(小学館文庫) 穂村弘 560
11/06 文章心得帖(ちくま学芸文庫) 鶴見俊輔 945
11/06 幾何学の基礎をなす仮説について(ちくま学芸文庫) B・リーマン 1050
11/06 ハッとする!折り紙入門(ちくま文庫) 布施知子 819
11/06 小説 永井荷風(ちくま文庫) 小島政二郎 1155
11/08 エンダーのゲーム〔新訳版〕(上)(ハヤカワ文庫SF) オースン・スコット・カード 777
11/08 エンダーのゲーム〔新訳版〕(下)(ハヤカワ文庫SF) オースン・スコット・カード  777
11/08 ピグマリオン(光文社古典新訳文庫) バーナード・ショー  未定
11/08 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活(文春文庫) 奥泉光  704
11/08 ロードサイド・クロス(上)(文春文庫) ジェフリー・ディーヴァー  777
11/08 ロードサイド・クロス(下)(文春文庫) ジェフリー・ディーヴァー  777
11/08 風の帰る場所〈ロッキングオン〉ナウシカから千尋までの軌跡(文春ジブリ文庫) 宮崎駿  998
11/15 現代語訳 徒然草(岩波現代文庫)  嵐山光三郎  未定
11/20 樽【新訳版】(創元推理文庫) F・W・クロフツ  987
11/28 四色問題(新潮文庫) ロビン・ウィルソン  746
11/28 夜歩く【新訳版】(創元推理文庫) ジョン・ディクスン・カー  777


 まずは「言葉の誕生を科学する」。作家の小川洋子さん単独の著書になっているけれど、学者でもない彼女にしては「らしくない」。種を明かせば、すでに刊行されている文庫を見ると言語学者との対話形式になっていた。目次を読んだけれど、今ひとつ狙いがよくわからない。どういう企画なんだろう。学者は言語起源の研究が専門なんだけれど、それに小川さんが関心を示している拠り所がよく分からない。でも、後半に発達障害をもつ児童の問題が取り上げられていて、少し気になってきた。

 淀川さんが亡くなって久しい。亡くなってからというものの、淀川さんの事を振り返る機会もそう多くはなくなってしまったが、ときおり繰り返しのように「淀川長治の〜」と冠をつけた映画ガイド本が発売されると、もうどんな切り口をしようとも新しい事は何一つないというのに、やはり手にとって淀川さんの映画への熱い思いにあふれた文章に触れる事に快楽を感じてしまう。1996年だったか、まだ僕が熱心に映画館に通い詰めていた頃に、日頃からあまりほめた事にないウッディ・アレンにもかかわらず「世界中がアイ・ラブ・ユー」はほめていたなぁ。あれはエドワード・ノートンがお気に入りだったからだなぁ、などと当時を振り返るのも楽しい。

 「新装版 なんとなく、クリスタル」。個人的には今回の新刊の中では最も興味が湧いている1冊。だって「なんとなくクリスタル」と言えば、80年代当時のファッションや風俗をカタログ的に封じ込めた、かなり異色な小説だったわけで、今「新装版」として売り出すという事は、なにかしら当時の詳細な注を現代版に改訂したのだろうか、などと想像がかき立てられる。それにしても、ほとんどに店が今は残ってないんじゃないかなぁと心配したりする。本当に何か面白い本になっているのだろうか。

 「短歌という爆弾」は先月の紹介した穂村弘のエッセイ。11月にずれ込んだようだ。解説は10月分を見て下さい。

 鶴見俊輔「文章心得帖」。鶴見俊輔さんと言えば、会社員に成り立ての頃に、講談社学術文庫から出た「プラグマティズム」を読んだのが、後にも先にも一番印象に残っている。「プラグマティズム」という実践的な考え方が、なんとなくこれから縛られていく会社員の生活を乗り越えていくための一つの原理的な手段になるんじゃないかなぁと感じた。まあ、それを研修中の課題(新聞作り)に記事として埋め込んだら、「単純だなぁ」と同じ研修グループの奴らにあきれられた。本当に信じていたわけでもないが、何かを嘘でも信じてみる必要は感じていたという事だ。

 「幾何学の基礎をなす仮説について」は数学者のリーマンの著作。これって、いわゆるリーマン幾何学について説明した論文だろう。これを元にしてアインシュタインは一般相対性理論の原理的証明にたどり着く事ができた。だからって数学者でもない僕が読む事ができるわけでもない。でも、ちょびっとだけ関心があるとだけは言っておこう。

 「ハッとする!折り紙入門」。えーと、昔ながらの定番の折り紙ではなく、いわゆる創作折り紙と言われる、画期的で斬新な折り紙が好きで、例の綾辻行人が「館シリーズ」で登場させた若き探偵が織り上げる「5本指の悪魔」みたいにハッとさせられる折り紙を紹介してくれるのだろうか。女性の折り紙作家なので、ちょっと期待しているのとは違う作風なのかもしれないが、とにかく一読してみたい。

 小島政二郎「小説 永井荷風」。著者はまったく存じ上げません。Wikipediaを読んでも小説家としての作品は読んだことがないどころか、タイトルも知らない。でも、この作品は当時雑誌連絡を本にして出版しようとしたら、永井荷風の遺族からクレームがついてお蔵入りしたといういわく付きの小説らしい。僕は単純に永井荷風の伝記なのかなと思って興味をもっただけです。

 「エンダーのゲーム〔新訳版〕」。へー、エンダーシリーズはいっぱいあるけれど、今後も次々と新訳になって出版されるんだろうか。何故いまごろ「エンダーのゲーム」が突然新訳なんだろうと思った。オーソン・スコット・カードは、例の「消えた子供たち」で一躍注目されたSF小説の大家。僕自身は本の雑誌の年間ランキングで目黒考二さんが絶賛していたからこそ読んで驚いて、そしてそこからカードの著作を読みあさった。そこまで経てようやくカードって、すでにすごい作家だったんだなぁと実感した。「消えた子供たち」という作品は、大成した作家の作品という感じがしなくて、力のある新人作家が見事に感動的なドラマを作りあげたなぁという感じで読んでいた。読み継いだ作品の中には「ピアノ・ソナタ」のような、なんというか単純な善悪で色分けできない孤高の存在としての「人間」が描かれていて、一体この著者の心の拠り所ってどこらへんにあるんだろうかと非常に考えさせられた。人間、いや人類の怖さを描き続けた書き手と言っていいだろう。

 もちろん「エンダーのゲーム」にもそういうところは表れているが、でもやはりこのシリーズのおもしろさは、「エンダー」という少年の成長物語とその後に続く過酷な運命に対する尽きせぬ興味にある。内容的にはわかりやすい。元々同名の短編があったはずだ。初心者はそちらから読む方が取っつきがいい。長編はただ長くしただけでなく、結末が変わっていたと記憶する。ちなみに「エンダーのゲーム」が突然新訳になる理由は、ハリウッド映画として近々ロードショーされるからだそうだ。書棚で眠っている「消えた子供たち」も含めて、この秋に久々に「エンダーのゲーム」読んでみようかな。

 「ピグマリオン」とくると、必ず映画「マイ・フェア・レディ」の原作だと紋切り型の応答が浮かんでくる。所詮バーナード・ショーの作品の一つとして読んだ事のない人間にとっては、無意味なうんちくに過ぎない。もちろん僕も一作として読んでないから同類だ。同類であるけれど、やはりこの「うんちく」は口についてしまう。あるいは頭の中に浮かぶのを止められない。ならばいっそ「ピグマリオン」を読んでしまえばいいのだ。当然ながら「ピグマリオン」と「マイ・フェア・レディ」がそっくりそのままというわけではないので、あのミュージカル同様の感慨が得られる小説ではない。という事も、もちろん「うんちく」の一つとして知っているに過ぎない。

 奥泉光「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」。これはすでに単行本で読んだので、いまさらという気はするのだが、どうにも「桑潟幸一」通称クワコーが助教授から准教授になってからというもの、あまりにお手軽なシリーズものに変化してしまったのが残念だ。シリーズ第一作「モーダルな事象−桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活−」を読んだかぎりの印象では、著者にシリーズ化するつもりは感じられない。おバカな助教授クワコーが、ある無名の詩人の未発表作品に関わることで底の見えない人間の闇の深さにおびえることになる。なんとなく、あまりの衝撃的な結末に読後しばらくは悪夢にとりつかれることになった「フリッカー、あるいは映画の魔」という作品に似た雰囲気を感じた。ところが「准教授」になってシリーズ物として再登場するや、本当にクワコーの人生は「スタイリッシュな生活」になってしまった。これはもしかしたら「謎解きはディナーのあとで」の大当たりに影響されたのかもしれない。

 「ロードサイド・クロス」。ジェフリー・ディーヴァーが産んだ一番の名探偵は、なんと言ってもリンカーン・ライムだ。しかしその次となると、やはり今一番活きの良い主人公はキャサリーン・ダンスだろう。リンカーン・ライムは究極の安楽椅子探偵であり、シャーロック・ホームズの正当なる継承者とも言える存在。それに伍する事ができるダンスは、女性であり、人間嘘発見器とも称される特殊技能の持ち主だ。対面した人間が見せる仕草や言葉などから、どんな偽りも見抜いてしまう。すばらしい。なら、相手にする犯人はたちどころに捕まえてしまうのではないか。と思うとさにあらず。あの天才的分析家ライムをして、なんども裏をかかれて危うい目にあったように、ディーヴァーは毎回毎回主人公たちを上回るような悪の天才を用意してくる。そのヒヤヒヤ感がたまらない。

 「風の帰る場所〈ロッキングオン〉ナウシカから千尋までの軌跡」。どんな本だったかネットで確認したら見覚えのある表紙。そうだ、宮崎駿さんへのインタビュー集だったな。会社で購入したんだが、すでに廃却してしまったはず。返す返すも惜しいことをした。それにしても文春ジブリ文庫が悩ましい。宮崎駿作品が次々と文庫の中に封じ込められていく。すでにどの作品もストーリーと映像が一体化して頭の中に刷り込まれているからこそ、文庫の中でスライスされた画像でも、あたかも登場人物の声もBGMも動きもすべてが再生されていくかのようだ。できれば全巻揃えたいところだが、今のところ予算が…。では一冊だけ選ぶとしたら、ナウシカでしょうか、それともトトロ? いやいや、本当に好きなのはラピュタでしょ。でも千と千尋も捨てがたい。いやいや、なによりポニョの叙情詩に心を揺さぶられたのではなかったか。えーい、とりあえずポニョまで待とう!

 「現代語訳 徒然草」です。いっこうに読み切った事がない作品だけれど、今回の現代語訳は、あの嵐山光三郎さんです。どんな文豪でさえも、この人の手にかかると格調の高さがなくなってしまい、いわゆる下世話な庶民の目線まで落とされてしまう。漱石しかり鴎外しかり、そしてあの芭蕉しかり。では、著者ともっとも人生が似通っているような兼好法師を、どのように料理しているのだろうか。興味深いです。

 クロフツの「樽」なんだけれど、つい最近(といってももう8年前になるのか)ハヤカワミステリ文庫で新訳になったばかりだ。それが今度は創元推理文庫でようやく新訳が出版される。なぜクロフツが今更注目されるのか。いや今更ではない。警察組織の群像ドラマがもてはやされる今だからこそ、あるいは観光地タイアップのトラベルミステリー全盛の今だからこそ、その先駆け(パイオニア)とも言えるクロフツ作品を再評価する時期に来ているのかもしれない。
 
一時期は確かに脚光を浴びていた「四色問題」。だが、その後300年以上の長い年月に数学者たちを魅了してきた「フェルマーの大定理」が証明され、そして近年、やはり現代数学者にとっての最難問の一つ「ポアンカレ予想」が見事に証明されて、あっという間に「四色問題」は過去のものとなった。何故か。もちろんドラマがないからだ。数学者はともかくとして僕ら素人が引きつけられるのは、設問の分かりやすさ(あるいは美しさ)とともに、それにまつわる人間ドラマだ。だって、どうせどんなにかみ砕いたところで僕ら凡人に分かる解法ではないのだ。その雰囲気をなんとなく味わいながらも、解けるまでに至った数々の挫折や悲劇や意外な運命などに触れたい。それが、「フェルマー」にも「ポアンカレ予想」にもあった。だが、「四色問題」に何があっただろう。設問の分かりやすさは他の難問と比較して群を抜いてわかりやすく、しかも美しい。だが、コンピューターによる証明には人間くささが感じられない。そんな僕ら読者の過ちを諭してくれるような内容を期待したい。あぁ、でも翻訳が茂木健一郎さんなんだ。ちょっと信用がおけないなぁ。

 トリはディクスン・カーの処女作「夜歩く」の新訳だ。一体、この作品、最近だけでの何度読んだ事だろう。ディクスン・カーの全作踏破を目指して、まず再読したけれど、あと長編を7冊ぐらい残したところで、最近の創元推理文庫のカー新訳の動きに従って再び「夜歩く」を読みなおした。そこでなんとなくカーの作品の読み方についてようやく手がかりをつかんだような気がした。長編を60作ぐらい読み終えたにもかかわらず、今更かと言われそうだが、まったくその通り。だから、この新訳版が出たら、もう一度この処女作を解体してカーの秘密を解き明かしたい。
posted by アスラン at 12:57| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | あっ、これ読みたい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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