といっても、横暴な君主が残酷な死と引き替えに寝物語を語らせるわけではなく、高等遊民らしい控えめな男が海辺の静養地の一室で、語り女たちに自由気ままに物語を語らせている。
北村薫らしいと言えばそうだけれど、最近の趣味を反映してか、夢かまぼろしのように輪郭が曖昧な小編を揃えた短編集になっている。
僕は、どちらかというと「水を眠る」のような、ファンタスティックで、それでいてどこか日常とリアルな接点をもった作品が好きだ。本作でも、そういうテイストの作品がいくつか紛れ込んでいる。一気に読んでしまってちょっと勿体なかったかな。いずれゆっくりともう一度味わいたいな。
(2005年5月21日初出)