2012年03月06日

パーク・ライフ 吉田修一(2004年10月31日読了)

 著者の「パレード」を読んだ時、当時放映中の「東京湾景」よりもよっぽどテレビドラマに向いていると思った。文章は読みやすいし、登場する若者の今風な描き方も良かったし、なにより物語の展開の軽さもドラマにピッタリだった。と思ったら、最後にガツンとやられた。テレビじゃ無理か。なかなか侮れない。吉田修一の作品の特徴とも言えると思うが、日常の何気ない風景を切り取って描いているかに見えて、人が、いやひょっとしたら都会という生き物が隠しもってる狂気を、次第に浮かびあがらせていくような仕掛けがあるのだ。

 「パレード」を読んで吉田修一の手口をすっかりわかっていると思っている読者は、本書の表題作でもある「パーク・ライフ」でも、あんな終り方するのかしらと思うかもしれない。なにしろ出だしから、日比谷公園でののどかな風景が描かれる。深刻にならない程度に孤独で、それを楽しんでもいる人々がいる。そこにちょっとだけ変わり者の主人公が、ちょっとだけ好奇心の強い女性と公園で再会する。それが物語の始まりだ。と思って何事か起きるのを期待しているうちに二人の物語は終わってしまう。いやもしかしたら始まってもいない。

 でも、やはり何かが確実に終わりを告げ、そして何かが始まったのだ。それが女性の別れ際のたった一言であり、しかも語り手でもある主人公の青年にも真実を知らされる事のない何かだ。僕らは、そのあっけない一瞬に呆然とするしかない。読み手だけでなく語り手にも秘密のまま著者は作品を終わらせてしまうところが、なんともスゴい。柔らかい文体の体裁とはかけ離れて、きわめて悪意に満ちた一撃だ。それに比べれば、もう一編の「flower」なんて分かりやすいものだ。
(2005年5月20日初出)
posted by アスラン at 19:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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