2012年01月20日

下山事件(シモヤマ・ケース) 森達也(2004/07/14読了)

 面白かった。と同時に、やはり本当には昭和史の暗部に手が届かない歯がゆさが残った事も確かだ。著者のスタンスは理解できる。「下山事件」を単なる一国鉄総裁の殺人事件として捉えたなら、この事件がその後の日本に与えた重大な意味をつかまえ損ねてしまうという思いである。

 アメリカの占領下にあった日本は、下山事件を含めた一連の事件が契機となって大きくレールを乗り換えていった。そして、いまも僕らは乗り換えた路線を走り続けている(走らされている)。その事への行き場のない怒りを感じている著者は、下山事件の最後の真実に光を当てる事で、日本人が戦争によって失ったアイデンティティの一部をなんとしてでも回収しようという思いを抱いて、作品はとりあえず終わる。

 一方で、僕には「下山事件」が日本を大きく動かしたという実感がない。それほど著者とは遠い位置にいる。僕を含めた戦後生まれの世代が大きな関心を抱くのは、かつて日本がそういう歴史をもった事への大きな驚きと、やはり事件そのものの謎の大きさなのである。それなくして僕らの世代の関心はない。だからこそ本書には、殺人事件そのものの謎解きが背景に押しやられているという事に対する物足りなさを感じた。
(2005/05/18初出)
posted by アスラン at 19:31| Comment(4) | TrackBack(2) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントありがとうございました。すごい読書量ですね。しかも、ジャンルにとらわれず多分野に渡って読まれてるのには感心させられました。最近、本を読む量が減っている私としては、ちょっと焦ります。また遊びに来ます。森達也の他の本も是非読んでみてください。
Posted by つるつる(H) at 2005年05月27日 10:35
コメントありがとう。

森達也の著作、図書館で検索してみましたが意外とありますね。最近「放送禁止歌」を借りたのですが、森さんの著作だと今知りました。
でも時間切れで読まずに返却しちゃいました。
もう一度借りようと思います。
Posted by アスラン at 2005年05月28日 04:10
時代が動くということはそういうものかもしれませんね。私もそれなりに大きな動きの中であがいてきましたが、後から見ると外の人には何もわからないだろうなあ、と思えることが多いです。
Posted by saheizi-inokori at 2005年08月28日 11:21
saheizi-inokoriさん、コメントありがとう。

時代のただ中にいると、自分たちの時代がどういう時代なのか、自分たちはどんな歴史の一証人となるのかという視点はなかなかとらえにくい。
 所詮、歴史というひとくくりにしてしまえば、僕らはとてつもなく戦争や民族紛争に明け暮れた過渡期に生きたと総括されてしまうかもしれません。

 するとたった60年前の時代がひとつの転換点だったという事も歴史というマクロな視点にすぎず、そこで生きた人々の実感というのは手つかずになってしまう。だからこそこの本の意義は大きいとは思いますが、とにかく歯がゆさだけが残りましたね。
Posted by アスラン at 2005年08月29日 00:52
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