2007年03月30日

インスタント・フューチャー 大阪万博、あるいは1970年の白日夢 都築響一・編

インスタント・フューチャー

なるほど、言い得て妙だ。編集者・都築響一が前書きで「空前絶後のクレイジーなお祭り騒ぎ」と書いた大阪万国博を一言で説明するには分かりやすいフレーズだ。

 しかし同じ文章の中で「あの、あまりにきらびやかで、気を失いそうなほどノーテンキで、死ぬほどドリーミーな時空間のことを、いったいいま、どう説明したらわかってもらえるのだろう。」と、かなり前のめりになった言葉を費やした上で、言葉では伝わらないもどかしさを都築さんは感じている。そう、この<言葉では伝わらないもどかしさ>こそが、大阪万博のもっとも端的な特徴なんだな。

 たしかに何から何まで「空前絶後」ではあったが、例えばそれをディズニーランドの何倍もすごかったなどと現在のものさしをあてはめて今の人に理解してもらおうとしても無駄だ。だって洗練された今風の楽しみを与えてくれるディズニーランドのようなものとは全く異質な何かがそこにはあったからだ。そしてそれは同じ博覧会でありながら、その後に開催された科学博や未来博などとも似ていない。ましてや記憶に新しい愛知万博とは、同じ万国博でありながら決定的に異なるイベントだった。それはまさに<時空間>と表現するしかないあの場一回限りのものだった。

 それを僕は目の当たりにした。確かに183日間という会期のわずか数日だけであったがその時空間に立ち、歩き、見上げ、テーマである「人類の進歩と調和」を体現した<未来>を体験したのだ。それが今から見るとインスタントな未来だとしても、当時子供だった僕にとっての未来そのものだった。

 だから僕は白日夢とは言いたくない。人生の後半戦に踏み出すような年齢になった今なお、あれは僕にとっての未来なのだ。例えばの話、大阪万博が見せてくれた未来では、とうの昔にリニアモーターカーが新幹線にとってかわって日本じゅうを駆けめぐり、人類は月地球間を航行し、無機的だがどこか間抜けなデザイン建築のなかでは人間的な「笑い」が満ちており、不格好で人間臭い装置の数々が機能美とは程遠いサイケデリックでポップなアートにくるまれる。その未来は、あの<太陽の塔>のように、見たこともない奇抜さとどこかで見たような懐かしさとが同居している。

 1970年に描かれた未来は確かに〈今とは違っている〉と理解できる。どこかで道を間違えたと、今の世の中をはかなむヨスガにする事もできるかもしれない。しかし期待できる未来をもてた事を、いや、今なおもっている僕は幸せと言わねばならない。

 なぜならば、あの大阪万国博で描かれた未来は科学の善意を信じ人類の進歩を信じて〈先へ、先へ〉とバトンを渡そうとする人間の営為そのものだったのだから。そしてそれは、〈鉄腕アトム〉と暮らせる未来であり〈鉄人28号〉が僕らを守ってくれる未来だった。大阪万博の翌71年に誕生するカップヌードルが象徴するように、まさに〈インスタント〉という言葉は〈新しい〉と同義だった。

 僕の頭と体の中には今になってもあの体験のひとつひとつが刻まれている。いや、そもそも行けるはずの無かった万博のすべてを、まだ開催されてもいないうちからガイドブックや雑誌や新聞やテレビニュースから味わいつくしていたと言っていい。だから到底この本に掲載された〈時空間の断片〉としか言いようのない写真では、その雰囲気も意味も伝わらないのは当たり前だろう。編集者の煽りの効いた前書きを読んだあとでは興味津々だったが、物足りなさが募る思いだった。

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posted by アスラン at 12:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちわ。レビュー読ませていただきました。すばらしいです。
私は当時小学校入学前で、とうとう連れて行ってもらえませんでした。小学校にあがったらね、と言われて、いまだに、来年になれば万博に行けると夢みてます(^^;
Posted by うえだ at 2007年05月23日 11:56
うえださん、コメントありがとう。

小学校入学前ですかぁ。かすってるだけあって残念でしたね。来年またご母堂にお願いしてみてください(苦笑い)

みうらじゅんが「70年代を生きた子供にとって誇れるものは大阪万博しかない」とけだし名言を吐いておりますが、わずかだけですが見る事ができた自分としては、思わずそうかもなぁとつぶやいてしまいます。

 行ってない方から見れば「そうかぁ?」と言われそうですが、そうなんですよね。
Posted by アスラン at 2007年05月25日 12:44
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