最近になってようやくと言うべきか、文庫化された一冊。僕は1998年8月に国書刊行会から出ている単行本の方を読んでいる。
当時は読書メモ帳にお気に入りのモンブランの万年筆で1ページに1冊の書評を書くことを自らに課していた。その最初のページがカーの「帽子収集狂事件」だ。同じく1998年の2月のことだ。このメモの冒頭に「いつかカーの作品を読み通したいとかねがね思っていた。まずはその手始めがこの作品。」と記している。つまり僕がカーの全作品読破を自分自身に宣言して9年が過ぎてしまったということだ。
おもえばこの時期はまだ気楽な時期だった。週末には映画館のハシゴをして年間150本以上の映画を見た上に、ヒマに飽かせては読書三昧の日々。おかげで最初の数年で書店で入手可能なカー作品はあらかた読めたはずだが、そこからが大変だった。
当時は絶版や入手困難が多くて、かといって大枚をはたいてまで古書を買いあさる趣味もなかったので、気長に再刊や翻訳を待っていた。本書はそういったなかで、なかなか文庫化されそうにない1冊だった。
カーが得意としたいわゆる歴史ミステリーの一冊だが、歴史を背景にしたオリジナルではなくて、現実に起こった事件を描くノンフィクションだ。これだけでも地味でなかなか文庫化されにくいのは理解できるだろう。ミステリーファンなら馴染みやすいであろう伝記「コナン・ドイル」でさえ、単行本とポケミスでしか出版されていなかった。僕はポケミス版を購入して読んだ。
17世紀のイギリスで実際におこった事件を、時代背景や登場人物を生き生きと描くことで、当時最大の謎であった「ゴドフリー卿の死」の真実を暴き出して、独自の解決に読者を導いていく。
正直言って英国では有名な事件・人物でも、日本人の僕には時代背景も人物も耳慣れないので分かりにくい。だからゴドフリー卿を取り巻く当時の世相や政治思想などに興味がもてなければ、この本のおもしろみは半減してしまう。
ただ、中盤から読み進めるにしたがって、国王派と反国王派との抗争の構図がハッキリしてきて、オドロオドロしい議会工作や裁判での陰謀など、サスペンスとスリルを堪能できるようになり、読みやすくなってきた。
結末は取り立てて面白いとは言えない。事実を基にしているから面白い面白くないという評価軸は無意味かもしれない。たいていのカーのフィクションにもトリックの面白さに比して謎解きがヘボだったりする事があるが、今回は意外性のある謎解きは望めない。
しかしそれよりも全体として、歴史上のミステリーを一編の小説に仕上げたカーの筆力が感じられればそれでいいのかもしれない。
ちなみに僕の<カー作品全作読破>の野望だが、残念ながら結婚と同時に失速してしまった。正確に言うならば結婚生活と育児とに阻まれてという事になる。なにしろ最近になって未翻訳だった作品が出版されたり、長らく絶版だった作品が文庫化されたりとカーを読むには良い環境になっているにもかかわらず、積ん読の中に文庫が5,6冊紛れたままだ。昨年出版された新刊の単行本は買い控えてそのままだ。なんたること!
ここらで活をいれない限り、クリスティやクロフツの読破の大望に到底たどり着きやしない。
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2007年03月25日
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