2013年06月20日

新しい中原図書館(その2)

 尻切れトンボ状態で(その1)を終え、昨日は続きを書く余裕もなく、というか昨日は定時間退社というやつで、いつもの事だが、嫁さんとの取り決めどおり寄り道する事なく早く家路について、緩みまくってテレビを見ているであろう息子の相手をしなければならない。誠に「共働きはつらいよ」状態なのだが、それども密やかな楽しみとして、中原の図書館に詣でて図書を返却して、予約棚に取り置かれた本を新たに借りに最小限の寄り道をしている。昨夜も当然してきた。「工学部ヒラノ教授と七人の天才」なる怪しげな本を請け出してきた。

 さて、5Fまで山を駆け上がるかのようにエスカレーターで登り切ると、ひっそりとしたエレベーターのある通路を奥まで進むと、ようやく川崎市立図書館の中原図書館にたどり着く。昔のように亀が顔をのぞかせる池などはもちろんない。家電量販店やレンタル店でおなじみのおおげさなゲートを通り抜けると、広々とした空間が広がり、右手には本の返却カウンターが目につくのだが、とにかく誰も並んでいない。そこからしてもう度肝を抜かれる。以前は朝一番、あるいは夕方終了間際に行くと、カウンターには貸し出しのための行列ができていたし、返却カウンターの前には本が山積みになっているのが、旧中原図書館のおなじみの光景だったはずだ。それが全くない。

 左手を見ると、書架と閲覧席が整然と並べられ、閲覧室では学生やら会社員やらが真剣に思い思いの読書あるいは学習・仕事などをやっていて、それはある意味異様な光景とも思われ、こちらとしても落ち着いて書架を眺めるという気になかなかなれない。そういえば、昔予備校生時代に通い詰めた小石川図書館でも、入るときには荷物をロッカーに預けるなどの厳格な規則があり、入ると学習室ではみだりに物音を立ててはならず、ましてや不用意に馬鹿話に興ずる事もできないというぴりぴりとした雰囲気が全館を張り詰めていた。まさにそんな感じだ。

 以前の中原図書館は、児童書エリアは小うるさい子供たちの声にあふれ(子供はうるさくて当たり前)、書架の方は雑然と詰め込まれた図書を思い思いに見て回る僕ら愛読者たちによって、静かながらも適度にざわついていた。旧館では学習室は別館になっていたので書架のある建屋とは緊張感が断絶されていたのだと思うが、今は一つにまとまった事で、それはそれは近代的な雰囲気に統一されて、きれいで静かで物音一つするにも遠慮されるかのような威厳に満ちた空間が見事に提供されている。それはそれで読書環境としては最良のものに変わったと喜んでいい事なのだろうが、やはり僕にはのんびり泳ぐ亀がいて、それを見てのんびりできた旧館の雑然とした穏やかなたたずまいが懐かしい。

 いや、感傷に浸るまえに予約本の貸し出しだ。さて、あれほどの行列が見当たらなくなって、いったいどこに消えたのかと言えば、そこがこの新しい図書館の見どころだ。行列はなくなった代わりに、奥の方にある、これまた違ったゲートが設えられた狭い入り口に人々が三々五々吸い込まれては出てくる。入り口脇にはおばさん風の職員が待ち受けていて、なにやら新システムを導入した大手病院の診察券受付機周辺での気遣い同様に僕のように途方にくれた表情丸出しの人々をカモにしようと(失礼、手助けしようと)待ち受けている様子だ。これまた、かなり緊張してきた。いったい、何が始まるんだろうか。

 あのぉと声をかける暇もあたえず、係の人は僕に「予約された本の貸し出しですか?」と聞いたと思う。そうだと答えると、端末機の前につれていかれた。そして図書館カードを出してくださいと言う。あわてて取り出すと、それを端末機のバーコードリーダーに読み取らせろと言う。そんな事言うくらいならば、スーパーのレジよろしくカードを受け取って読み取らせてくれればいいのにと思った人は、僕以外にも大勢いたに違いない。とにかくリーダーの光の真下にカードをくぐらすのに、嫌な汗をかきながらピッと音がすると、端末につながったプリンターからレシートがはき出させる。それには棚番号が順に「46−1、46−2,47−1」などと書かれた3枚綴りのレシートだった。

 少し落ち着いてきた僕に向かって係の人が説明するには、それは棚の番号であって、46番はこちらですと案内してくれる。その棚の上から下の仕切りごとにサブ番号がついていて、46−1というのは貸し出し図書が置かれた棚の仕切り内の一角を表している。僕が借りたかった本は3冊あって、それは一カ所に並んでいるのかと思ったらそうではなく、1冊につき1枚のレシートに打ち出させた番号の棚の前に移動しなければならず、まあ今のところそんなに困惑させられることもないのだが、「あれっ3冊目が見当たらないぞ」などと係員に聞こうかと思ってレシートを見直すと、最後の一冊は隣の本棚を見なければならなかったと気づいたりする。うーむ、セルフサービスの良さを味わうまでには、まだまだ冷や汗をかかねばならないようだ。

 次にこの3冊の本をもって、さきほど通ってきた狭い入り口を出るには肝心の、そして最大の儀式が待ち受けている。ようやく僕らは手元に自分が借りたい本を手にしたわけだが、それを貸し出してもらうためには自動貸出機に読み取らせる事がどうしても必要なのだ。ここらへんの理屈は、従来の図書館の決まり事が身についた人ほど納得しにくいところだろう。貸し出し業務をセルフでできるのだとしたら、万引きしようとする不定な輩をどうしたら排除できるのだ。なにしろ、この貸出機を通したあとの図書はその場で自分の鞄や手提げ袋に入れる事になる。そんなところ、警備員に見つかって見とがめられはしないのだろうか?などとぐるぐる変な想像を巡らしながら、端末機の前でひたすら途方にくれる。

 もちろん、ここでも係のおばさんがにこやかに声をかけて説明してくれるものだから、こちらは何もわからない機械の苦手な人間に成り下がったような気分になってくる。この後は、とにかく指示されたとおりに訳もわからず言われた事を実行するのだから、まだ未体験の人は以下の動作をよーく飲み込んでいくと、無駄な冷や汗をかくことなく、「僕は駄目な人間じゃありません」といった振りができるはずだ。間違いない。まず…

・自動端末機にある平たい台の上に借りたい本を「すべて」置く。3冊あるならば3冊全部を置くこと。よくはわからないが、全部並べないと無駄なピッ、ピッという警告音と、係員の冷ややかな「全部おいてください」という声を聞くことになる。ちなみに平たい台に図書を重ならないように置くべきなのか、並べて平置きすべきなのか、今もってわからない。なぜなら3冊ぐらいならば並べておけるからだ。こんどぜひ重ねておいてみよう。

・次に、またしても図書館カードを取り出して、レーザービームがバッテンバッテンバッテン…と細かくクロスしているところに差し出して、再びバーコードを読み取らせる。するとモニターに「確認」ボタンが現れ、それを押すと、今度は数字を入力するテンキーがモニターに表示される。

・このテンキーで貸し出しする本の冊数を入力する。ここで、さきほど台においた本の数とが一致しなければ再びピッと警告音がなるのは言うまでもない。3冊と入れて「確認」。するとあーら不思議。貸し出し対象の3冊の本の名前が表示される。その名前に間違いがなければ再び「確認」を押す。するとこちらにもつながれたプリンターから、今度は貸し出し図書の名前が入ったリストがプリントされる。これは旧システムの受付でもいただけるアレなので、驚くことはない。

というわけで「お疲れ様でした、これで終了です」と言われて、その場を追い出されるわけだが、さきほども言ったように、受付カウンターで借り受けてそそくさと鞄などにしまいこむのと違って、まだ図書館の中。自動端末機をくぐらせた本は、まだ自分の手にあるのだ。なんとも落ち着かない。ともかくも早くしまってしまおう。しまったらとにかくこんなところは出てしまうに限る。おそるおそる入り口のゲートを通ったが、何事もなく僕と図書を送り出してくれたわけだ。

 あと、書くべき事は少しだけ。その後、システムの意味を調べてみた。本当は導入した図書館で詳しく説明資料などを掲示してもらえるとありがたいのだが、それは「お役所仕事」なので…(あとは言わない)。どうやら、図書館の蔵書一冊ごとに、ICタグが埋め込まれている。これは自らが何者であるかの番号を発信することが可能なすぐれもので、入り口脇にあったゲートの横に見えた大きなアンテナは、このICゲートから瞬時に情報を取り出すための装置のようだ。つまりこうだ(たぶん)。自動端末機を介して、予約棚にあった本、あるいは書架の本は、図書館カードに記載された番号を持つ利用者(つまり僕)が借りたという証拠がデータサーバーに記録される。そうなればしめたもの。あとはゲートを通過する際に、ゲートキーパー(システム)は、関知したICタグ一つ一つの情報をサーバーに問い合わせ、すでに貸し出し中であれば問題なく通し、未貸し出しの図書であれば、即座に警備員が万引き防止のために駆けつけるという仕組みだ。

 この記事を読んで少しでも関心をもった川崎市立図書館ユーザーは、一度は中原図書館に訪れるといい。まだ当分は遠慮しておくという方は、もちろん最寄りの対面業務の懐かしくてちょっと煩わしい旧システムの図書館に通い続けるといい。でも、いずれは時間の問題なのだ。早く冷や汗をかくのもいいのではないだろうか。
posted by アスラン at 20:34| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 図書館のすべて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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