2007年02月02日

墨攻 酒見賢一

 アンディ・ラウ主演で同名の映画のCMが盛んにテレビで流れている。そう言えば酒見賢一の小説を読んだよなあと当時のノートをひもといてみた。十年以上も前に文庫で読んでいる。

 タイトルが同じなのは日本の配給会社がパクッたんだろうと思って調べたら、なんと原作だった。いや正確には本書を原作にした漫画(森秀樹)が原作だそうだ。あ〜ややこしい。

 漫画は、小説の登場人物にオリジナルの人物を加えてストーリーを発展させているようだ。映画は日中韓の合作で、日本が原作と資金集め、ロケ地と役者が中国、監督が韓国という大まかな分担だろうか。

 ちなみに「墨攻」とは、原作者である酒見賢一が墨子の戦術や哲学の根本にある「墨守」(絶対に守る)という語からインスピレーションを得て作った造語だ。実際にどういう意味を込めてタイトルに使ったかは本書を読めばわかるはずだ。

 読んだくせにひとごとみたいだが、実はほとんど内容を覚えていないのだ。たった一つ記憶に残っているとすれば墨子という人間もその教団もある時期を境に忽然と歴史の表舞台からすがたを消したという驚くべき事実だけだ。

 記憶をたぐりよせることができないので、読書当時の感想を以下に掲載しておこう。

−−−−−−−−−−
 本書は、諸子百家の中でも後世に謎の多い哲学を伝え残している墨子とその教団を描いている。もちろん歴史小説ではない。「墨子」という書物と、わずかに残された歴史的記述から著者が創造した物語である。

 戦術論や人民・諸侯をたばねる治世論が哲学者に求められた戦国の世に、墨子教団は徹底的な非攻の哲学を説いた。「弱小国の小城を強大な攻め手からいかに守るか」という魅力ある題材を選んだ時点で、この本の成功は3分の2程度約束されている。あとはどう描くかだ。

 この小説を魅力的にしているポイントを挙げてみる。

(1)墨子自身を描かず、その哲学が引き継がれた教団の一人・革離が小城に派遣されて、墨子の戦術を実践する姿を徹底的に描いている。

(2)「墨子自身を描かない」という点に関連するが、筆者と読者との間には、墨子という人物とその哲学が既に世の中に流布された一種の権威として存在している。

(3)登場人物は、主人公の革離を含めてきわめて紋切り型(タイプキャラクター)として描かれている。


 これらのポイントは、いずれも数少ない資料の中にしか存在しない墨子という人物について無味乾燥な哲学を披露したり、いいかげんな人物像を立ち上げたりする事を著者が選択しなかったことを意味する。

 著者は読者にただストーリーだけを楽しんでもらうための工夫をしている。余計な蘊蓄や思想を語るより、分かりやすいキャラクターに墨子の哲学や戦術を体現させる方が墨子の思想のエッセンスを読者に感じてもらえるという配慮だ。

 文庫では異例なほど長いあとがきで、著者は「想像を絶するもの」を書きたかったと、くどいくらい繰り返し語っている。また「面白い小説」の方が「面白くない小説」よりも好みに合っているとも語っている。確かに、そういった著者の欲求に沿って本書は書き上げられている。

 だからこの小説で著者が書きたかった事(主題)は何ですかと問う事は野暮なことだろう。結末が物足りなくて「なぜこれほどに強大な力を持った教団が秦の時代には忽然と消えてしまったか」についての説明に納得がいかなかったとしても、そんなものなのかと突っ込まないのがファンタジーの礼儀というものだ。
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 非常にもってまわった言い回しで感想を閉じているのが今の僕から見ると気になる。が、十年前の僕は少しきどった物言いをしてみたかったようだ。致し方ない。

 要するに、3分の2程度は面白かったわけだ。たぶん、結末の物足りなさを除けば満足いく小説だったのだろう。墨子自身を描かず、フィクションとして架空の人物・革離を描いた時点で、歴史から姿を消した教団としての謎は棚上げしたも同然だ。

 そのことに文句をつけても仕方ないが、やはりそこに歴史ミステリーとして僕らが惹き付けられる核心があるので、どうしても著者の描いた結末がつじつまあわせのように感じられてしまうのかもしれない。

 それを知りたければ、もうちょっと「墨子」そのものを、あるいは「墨守」という哲学を、当時の歴史に照らし合わせて<にわか勉強>しないといけないようだ。とりあえずはもう一度、本書を再読するところから始めようか。それとも漫画にするか、映画にするか。

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posted by アスラン at 12:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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