2011年06月09日

図書館戦争 有川浩(2006年12月16日読了)

 浩と書いて「ひろ」と読ませる。おそらくペンネームだろうが、男の名前と思わせておいて肩透かしというのは「推理小説」の秦建日子と同じだ。こっちは女と思わせておいて実は男だ。図書館が軍隊のような組織になっていて、文字通り敵との戦争になる。もうちょっと現実の図書館の業務に沿って話が展開するのかと思っていたので、その意味でも肩透かしを食う。

 さらに著者はあとがきで、フジテレビの「月九」のようなドラマにしたと書いているが、どちらかと言うと僕が思い浮かべたのは、ゆうきまさみの「機動警察パトレイバー」だった。主人公が女隊員であること、同僚が優秀なこと、上司もしくは先輩からしごかれる事、いろんな意味でよき理解者が暖かくヒロインを見守っている事などなど。こうして列挙してみるとそっくりに見えてくる。

 ただし、パトレイバーでは、ゆうきまさみの嗜好を反映して「惚れた、はれた」は一切ないし、ヒロイン以下すべての人がマニアックなオタク集団という印象が強い。これ自体ゆうきまさみの嗜好そのものに違いない。「究極超人あーる」の延長線で青春ものとしてスタートしたけれども、やがてハードな路線に比重が移っていった。

 その意味でいうと、本書は「青春もの」の路線に素直にしたがったと言える。ヒロインは夢見る夢子ちゃんのまま、関東図書基地に就職する。しかし単なる可愛いげのある女の子ではなくて体力だけは男並みにあるという、これまたアニメではよくあるヒロイン像だ。そういうときにまわりを固めるのは、やたら厳しい上司や先輩、抜群に優秀で辛辣な同僚、口は悪いが友人の本質だけはちゃんと理解してくれる親友、口には出さないが遠くから確信を持って暖かな眼差しをかけてくれるトップという人物構成。

 ドラマの枠がヒロインの周辺から一歩も出ない事がお約束なので、ヒロインの喜怒哀楽をすき間なくカバーして、ライトノベルスの読者には至れり尽くせりの構成になる。あぁ、そうか。これってまさに「月九」に代表されるTVドラマの世界だったな。惜しむらくは、現実の図書館を描かない限り、「月九」ドラマにはなりえないという点だ。「人間関係と喜怒哀楽さえあれば、設定は添え物」というのが最近のドラマの基本だが、本書には、法令(メディア良化法)の規制によって図書館が従来通りの機能を維持する事が困難になるという架空の近未来を描く点にキモがあるからだ。

 そもそもヒロインが関東図書基地に就職しようとした動機は、高校生の頃に書店で、理不尽にも図書を検閲して問題図書を回収するメディア倫理委員会の査察にいあわせた事に端を発する。どうしても欲しかった本が「乞食」という表現を含むというだけで検閲・回収の対象となることに、一高校生の分際で異議申し立てしようとして手荒い仕打ちを受ける。そこに現れたのが、ヒロイン言うところの「正義の味方」あるいは「白馬の王子」だ。

 関東図書基地の第三等書士(合ってるかな、軍隊じみた階級)が、彼女と彼女が守ろうとした図書を救いだす。それが「見計らい図書」として書店の図書すべてを買い上げるという水戸黄門の印籠にも匹敵する切り札だ。そして去り際に彼女が守ろうとした本一冊を手渡して、正義の味方は去っていった。

 その「白馬の王子」にしびれたヒロインこと笠原郁(いく)は、大学卒業後に関東図書基地に就職を決める事になる。それなのに図書館の現実は大違い。正義の味方とは真反対の指導教官とことあるごとに対立する。ここらへんは映画「愛と青春の旅立ち」のリチャード・ギアと鬼軍曹との確執に似ていなくもない。要は分かりやすい構図だ。

 同期で唯一、郁と一緒に図書特殊部隊に配属される手塚光は、エリート意識の強さから一緒に配属された郁の能力のなさに腹を立てる。しかも郁が、あこがれの教官・堂上篤の手を煩わせる事にも、それを堂上を含め上長らが見過ごしている事にも納得がいかない。しかしある事件を機に、手塚も郁の本領を認めざるをえなくなる。そこも分かりやすい展開だ。

 まあさっきから「分かりやすい、分かりやすい」と連呼してきたが、それがこの作品の魅力であることは間違いない。最初からミエミエの人間関係だが、安心して読める分、先の展開を期待しながら読み継いでいける。正直言えば、図書館組織の軍隊化という設定の目新しさに比べると、「メディア規制」という一点だけで図書館の軍隊を必然化して描くのはちょっと弱い気がするし、現実の図書館が抱える様々な問題をもっと反映したエピソードを描いてくれるといいのになと、不満かつ希望がないではないが、そのへんは続編「図書館内乱」に期待する事にしよう。

 そうそう、最後にこっそり小声で言っておくと、アテネオリンピックで一躍時の人になった柔道の古賀と谷本の師弟コンビが、おそらく本書のモチーフの一つになってるんじゃないかなぁ。
(2006年12月21日初出)


[追記(2011/6/9)]
 などと書評を書いてから、4年半経ってしまった。その間にメディアを一周してしまった観がある本シリーズが文庫化されていなかったことに驚かされる。まだ「有川浩」が男なのか女なのかなどと、名前の読み方から書評を書いていたが、いまや有川浩の作品を書店で見かけない方が難しい。このブログでも毎夏企画している「夏の文庫フェア」の比較記事でも、ここ3年ほどは連続して取り上げられる作品数が増加していて、コンスタントに躍進を続ける作家となった。その事に秘密など何もないだろうが、この図書館戦争シリーズに当時の僕が惹きつけられたように、設定のわかりやすさ、少しあざといくらいに類型的な人物が愚直に、あるいはクールに活躍する群像劇の面白さだろう。
posted by アスラン at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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