2006年12月15日

不思議の森のアリス リチャード・マシスン

 本当は梶尾真治の「タイムトラベル・ロマンス」で紹介されていた、マシスンの別の作品を読むつもりだったはずだ。「ある日どこかで」だったかな。クリストファー・リーブ主演で、時を越えて出会う青年と女優の物語だ。

 それにしても著者の作品はずいぶん映画化されている。最近ではロビン・ウィリアムズ主演の「奇蹟の輝き」がそうだし、往年のオカルト映画「ヘルハウス」がそうだ。

 そうそう、「ヘルハウス」の原作がマシスンの「地獄の家」だと教えてもらったので、ロマンチックなラブストーリーもホラーも書ける作家に興味がわいたのだった。そして「地獄の家」を読もうと思った。

 すると、ここに一つのシンクロニシティが起こる。予定調和というやつだ。本書が書店に平積みになっていたのだ。キャロル・ルイスの「不思議の国のアリス」をもじったタイトルにまず惹かれたのだが、マシスンの短編集と知ってグッドタイミングとばかりに、その場で携帯から図書館に予約した。

 ただし、訳者の仁賀克雄の序文をよく読めばよかった。この本は「ダークファンタジーコレクション」と銘打った短編集シリーズの中の一冊で、「ホラーを中心としたSF、ファンタジー、ミステリー」から選んだと書いてある。そりゃあ苦手だなぁ。

 単なるファンタジーやミステリーがあって、ホラーめいた話もあるというのならばまだしも、ホラーばかりというのは気が滅いる本ではないか。もちろん、怖いもの好きの読者にはこたえられない面白さなのだろうが。

 案の定だんだんと気が滅いってしまった。もちろん『血の末裔』のように、吸血鬼にあこがれて、人の生血を吸いたいなどと作文に書いてクラスの同級生や担任からどん引きされてしまう少年の話は、不気味だが落ちが効いていて楽しめる。

 しかし『生命体』では、四方十数キロにわたって何もない田舎道をドライブする一組のカップルが、途中で立ち寄ったガソリンスタンドの店主によって檻に閉じ込められ、死を待つしかない。たとえようもなくグロテスクで残虐な話だ。

 また『生存テスト』になると、人口調整のために生存の適者を選抜するテストに、年老いた父親を送り出す話だ。こちらは、あまりに現実を刺激して僕らの不安を拡大する。出社前に読む話ではないと思ったが、ではいつ読めばいいのか。帰宅して子供を寝かしつけて一人読書にふける深夜のキッチンは、決して孤独ではない暖かみに包まれている。そこに『生存テスト』はふさわしくない。

 たまたまキッチンで読み終えたのだが、終盤の短編にどぎついテイストのものが少なかったのはありがたかった。とは言え、いつのまにか体も記憶ものっとられてしまう短編があって、不気味な後味が残った。挙げ句に、最終話では、半年も留守にして帰ると妻が妊娠しているという洒落にならない話である。タイトルが『不法侵入』とくるのだから、結末の薄気味悪さは推して知るべし、だ。

 仕事を終えたサラリーマンが駐車した場所を思いだせず、さらには自宅の場所も忘れて、しまいには名前さえ出てこない恐怖を描く「奇妙な子供」は、荻原浩の「明日の記憶」に出てくる若年性アルツハイマーの主人公を先取りしている。書かれた当時以上に現実味があって怖い。終わり方がちょっとシュールすぎるところが難だが…。

 先ほど、マシスン作品は映画化されやすいと書いたが、本書にもあった。『二万フィートの悪夢』だ。飛行機嫌いのサラリーマンが、気の休まらぬフライトをなんとかやりすごそうとしていると、窓の外に悪夢が実体化したかのようにモンスターが出現する。モンスターは翼の上を歩き回り、エンジンをもぎ取ろうとする。

 これってスピルバーグの「トワイライト・ゾーン」のエピソードの一つじゃないか。映画の落ちがどうだったか思い出せないが、原作は意外にも爽快な気分になれる。たぶんこの短編集の中でも後味の良さは一番だ。ただし、そこに至るまではとびきりの悪夢なのは言うまでもない。

 うわぁ、なんだよぉ。訳者あとがきに並べられた著書リストを見ると「激突!」とある。あのTVドラマ「激突」の原作か?そうだ、違いない。スピルバーグの出世作だ。これが認められて映画に進出したんだ。だから「トワイライト・ゾーン」でも原作を使ったんだな。

 この「激突!」の恐怖のテイストは、冒頭で紹介した『生命体』と共通している。周囲に遮るものひとつない田舎の一本道。訳もわからず、突然ふりかかる恐怖。車、ガソリンスタンド。アメリカの広大さ・雄大さは、そっくりそのまま人の消息がたやすく失われる危うさと隣り合わせなのだ。「激突!」主演のデニス・ウィーバーは恐怖する男を好演したが、彼も今年鬼籍に入ってしまった。

 はて?いくらなんでも映画との関係が多すぎるなぁと調べてみたら、無知とは怖いものだ。著者は、元々映画の脚本家としても名を馳せていたのだ。映画になるのはむしろ当たり前だった。「トワイライト・ゾーン」の四話中の第3話、第4話の脚本を担当。例の『二万フィートの…』は第4話だった。

 さて、今度こそ「地獄の家」にチャレンジだ!
 いや、まて「ある日どこかで」の方が先かぁ。

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posted by アスラン at 12:54| Comment(2) | TrackBack(1) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。くつろぐからきました。
解説がうまいですね。ほんとにすごいと思います。
Posted by 溝の口のかねちょん at 2006年12月15日 13:16
かねちょんさん、コメントありがとう。

おほめいただいてうれしいです。
これからもいろいろ工夫して書いていきますので、また読みに来てくださいね。

返事おそくなり失礼しました。
Posted by アスラン at 2006年12月30日 03:52
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