2006年12月13日

ウルトラマン誕生 実相寺昭雄

 先日亡くなられた実相寺さんのお弔い読書だ。そういえば実相寺作品を評価する文章などは読んだ事はあったが、本人の文章を読んだ事はなかったかもしれない。

 著者は、ウルトラマンを生み出した創草期の円谷プロの話を3冊の本にしている。序で述べているように「ウルトラマンの東京」は文庫にもなったが、「ウルトラマンのできるまで」と「ウルトラマンに夢見た男たち」は単行本がそれぞれ出ただけだった。

 今年はウルトラマン生誕40周年という節目の年でもあるので、タイムリーな企画だったのだろう。先の2冊をまとめて一冊の文庫として出版したのが本書である。

 まさか著者自身が鬼籍に入る事を予感していたか、あるいは周囲が知った上でこうした措置をとったか。そんなわけではないとは思うが、タイムリー以上の不思議を感じてしまう。

 2冊がそれぞれ第一部、第二部になるのだが、第一部では著者がTBSに入社して、やがて当時TBSに在籍していた円谷一との繋がりで、TVシリーズ「ウルトラマン」を監督する事になった経緯が描かれる。主に著者本人から見た当時の裏話・表話が中心だ。

 そこでは、まだ未熟だった著者が、親父さん(ゴジラの生みの親、円谷英二のこと)の影響下で集まった梁山泊のような才能ある集団の中で、揉まれて成長した話が、独特の話体で生き生きと語られる。

 語り口が分かりやすいだけではない。語りから再構成される制作現場は、スタッフの一人ひとりや、モノひとつとっても、おろそかにされることなく簡潔に説明される。それでいて十分イメージが行き届いていて、当時の熱い現場の雰囲気が伝わってくる。

 映画やTVの専門書でもないかぎり、タイトルロールやエンドロールに現れる様々な係の名前と役割など顧みられることなどそうそうはないが、本書では素人にも分かりやすく、それでいて細かい作業の流れが分かるように書かれている。この分野を志す人にはバイブルになりそうなくらい、著者の配慮が行き届いた内容と言える。

 現に、豊富に挿入される気の効いた挿絵は、かの「平成ガメラ」で名を馳せた樋口真嗣の手になるものだ。ガメラの映像美や、怪獣に対する彼のドラマチックかつスタイリッシュな演出を見れば、むべなるかなと思う。樋口さんも著者を師と仰いでいるのだ。

 本書を読んで、著者に対する考えを新たにした。前々から、著者の才能は「ウルトラシリーズ」の枠を越えがちで、映画を指向するのは当然だと思っていた。もちろん著者自身、映画界での就職がかなわずTBSに入社しているわけだから、映画こそが最終目標という僕の著者に対する認識は、あながち的はずれではない。しかし本書を読むと、著者自身はクールに「ウルトラマン」を演出していたわけではなかった。

 今でも自分の監督した作品のいたらなさに悔いが残っていて、できるならもう一度取り直したいとさえ著者は考えている。追悼記事で「ウルトラセブンの『第四惑星の悪夢』なんて実相寺さんの才能をもってすればなんということもなかったろう。」などと口を滑らしてしまったが、著者にすれば、悪戦苦闘、着想が活かせない、ゴダールのSF映画「アルファヴィル」のへたくそな模倣ということになる。

 著者の謙遜を割り引いても、とても才能だけで監督がつとまる世界ではなくて、実相寺さんといえども円谷プロという異能集団と、それを支える円谷一や円谷英二という存在があって初めて、あそこまでクリエイティブな作品ができあがったのだという確信が著者にはある。そしてそこに加わって未熟ながら関わってこられた事の幸せが、ひしひしと伝わってくる。こんなにも情熱を表現する人だったのだなぁ、実相寺さんは。

 第二部は、当時の制作現場に携わった各種関係者にインタビューして、自分の監督以外にも、どんな作業があってどんな役割があって、どんな苦労をしてどんな創造がなされたかを丹念に追っておく。これも著者自身が監督という立場を離れて、素人同然に知らなかった事を興味深く聞いてまわるという形式なので、素人の僕ら読者も安心して楽しく読める。

 著者の熱い思いは、次の世代に技術だけが伝達される事を望むだけではない。当時の円谷プロの現場で、みんながそれぞれに一つの作品に向けて精魂を傾けた、その「夢見る」という行為を次世代のクリエイターにぜひ伝えたい、伝わって欲しいと願って作品は終わる。

 なぜか僕の忘れられた少年の心は揺さぶられ、大人になってしまった僕の疲れた顔は、読んでいる間、泣き顔になって仕方がなかった。

(参考)
 実相寺よ、おまえもかっ!
 「ウルトラマン」の脚本家、佐々木守さん死去

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posted by アスラン at 13:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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