2012年07月04日

かけ算には順序があるのか 高橋誠(2012/3/2読了)



「1個30円のリンゴを5個買いました。いくら払えばいいでしょう?」という問題に、
式:30×5=150
答え:150円

と書けば、式・答えともに正解。でも
式:5×30=150
答え:150円

と書くと、答えは正解でも式はバッテンとなる。

 それぞれに得点があるならば、かけ算の式の順序で減点される可能性が生じる。これが今の小学校でのかけ算の教え方だ。はたしてこれは正しい教育といえるのか。正しい技術なのか、正しい理論なのか。そういう話が書かれている本だ。

 実は僕自身、式に順序があるものだと覚えさせられた。問題の文章を正しく読みとくと、
 30(円/1個)×5(個)=150円
という考え方ができる。この順序の式だけに意味があり、逆順は意味をなさない。と思っていた。

 ところが、後に僕らが高校の数学の授業で習うように、現実にはかけ算は交換法則が成り立つので、
 30×5=5×30=150
となり、答えを導出することを主眼におくならば、式に順序があるという「こだわり」はナンセンスだ。

 たとえばこういうふうに考えこともできる。1個25円のリンゴが3個一山で売られていた。4山買ったらいくら払えばいいのだろうか?順序を考慮するならば、

 25(円/1個)×3(個)×4(山)=75×4=300円

だ。しかしだ。かけ算の交換法則が成り立つとわかっていれば、
 (25×4)×3=100×3=300円
と計算した方が、暗算が圧倒的に楽になるし確実になることを誰もが経験的に知っているはずだ。いや算数にしろ数学にしろ、正しい解答(答え)を出すために確実な方法を教えるべきで、過程があたかも一つしかないかのように教えるべきではないのではないだろうか?それなのに、現実の小学校教育の現場では「正しい答え」ではなく「正しい解き方」が優先されると言っていい。

 これは不思議な話ではないだろうか。そして話は式の順序だけに収まらず、九九の問題にまで広がっていく。僕はそんな事にすらうかつにも無知だった事に、初めてこの本で気づかされることとなった。

 かけ算に順序があるならば、九九という技術ではかならず2×3と3×2の両方を覚えなければならない。だから九九は1の段から9の段まで、計9×9=81個の暗算を覚えることになっている。と考えるのは早計で、この81個の九九(全九九と言うそうだ。初めて聞いた)は、全世界共通というわけではない。

 中国では半九九が主流で、一方の方向にしか暗記しない。つまり2×3を覚えたら、3×2は覚えさせない。半九九の教育理念には、かけ算には順序はないという思想が含まれている。しかも、日本でも以前は半九九を採用していた。全九九になったのは戦後からというから、かなり最近だと言える。

 それだけではない。たとえ全九九を教育に採用したからと言って、それで「2×3」と「3×2」のどちらが順序として正しいかという議論がひとつにまとまるわけではない。「にさんがろく」と唱える九九は、果たして「2個のリンゴを3人に配る(2×3)を意味する」のか、あるいは「2人に3個のリンゴを配る(3×2)を意味する」のか、教育の現場で小学生の自信をもって説明する教師ほどには確信できるものではないようだ。

 その証拠に、江戸時代から明治のはじめ頃に使われていたかけ算では、「にさんがろく」と唱えて3×2と書いていた事が文献からわかっているそうだ。ならば伝統的な和算の立場からも、現在のかけ算の式の順序は否定される。ならばいったい「かけ算の順序」に果たしてどんな意味があるのか?

 なんとなく「右へならえ」「右向け右」式の国民的規律に帰着しているだけのような気がする。一概に規律とか慣習を否定しているわけではない。そうだ(慣習だ)と言ってくれればいいだけの話だ。慣習であるならば減点すべき事ではないだろう。そういう順序を意識して式をかけば、「あなた(生徒)が解いた過程が、私たち(先生やほかの生徒)にも分かりやすい」というふうに主張してくれたら、どんなにか話は前向きになるのではないか。

 まあ、そういう議論は専門家にお任せするとして、この本で紹介されている「九九」の種類の話は大変に興味深い。なんとまあ、僕は九九の事を簡単に考えてきたのかと思ってしまう。いったい、あなたは九九の種類がどれだけあるか知っているだろうか。
posted by アスラン at 12:47| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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