2012年06月13日

20世紀少年 浦沢直樹(2012/5/5読了)

 ずっと以前から気になっていたにも関わらずマンガを読む環境にないことから我慢してきたが、ようやくこのたびめでたく全巻を読み終えた。図書館では貸し出ししていないし、マンガ喫茶に行ってゆったりと読むようなことは時間が許さない。そこに例の映画が三部作完結して、さらには地上波で放映されるにいたって、ついに我慢しきれずに映画の方を先に三本ともテレビで観てしまっている。

 映画の作者は、あの堤幸彦監督だ。ただし原作のイメージをそこなわない人物造形を初めとしてストーリー展開の制約も多すぎたのか、いつもの堤節が出し切れていないような感じがした。そもそもがシュールな演出で笑わせたり観客の度肝を抜いたりする監督特有の手際が、今回の作品には向いていないのではないかとも思った。

 もちろん、ストーリー展開そのものだけを追う意味では興味深い映画だと言えるが、「ともだち」の正体を明かすことだけが核心であるかのようなストーリーの運び方では、堤節は間が持たない。これはもう原作を読むしかない。そう思い立ったらブックオフの105円コーナーに続々と落ちてきた「20世紀少年」単行本を片っ端から集めだすこととなった。だが、あと3冊程度を残してほぼ全部集まったのを機に、突然収集熱は冷めた。あとは読むだけという段取りになったとたん、おきまりの停滞。たっぷりと寝かせてしまい、今年のGWがやってきた。

 少し自由になった時間に、自室で手近に転がった単行本の山に手を出すと、これがもう止まらない。3冊抜けているところはやむなくとばした。最終巻(第22巻)を読みきった。なんだ!?終わらないぞ!えぇぇ。

 そうだったか、「21世紀少年(上・下)」という単行本の存在には気づいていたが、てっきり本編が終わった後の外伝だと思って買いびかえてしまった。しかたなく会社近くの大きなブックオフに行く機会を作って、残りの買い損ねをすべて買い足し、再び第一巻に戻って通して読んだ。そうか、こういう話だったのか。

 きっと僕らの子供の頃ならば児童文学の中で出会って、ドキドキしながら読んだんじゃないだろうか。青年誌に掲載されているけれども、子供が読めるくらい間口が広いストーリー展開になっている。もちろんキャラクターや時代設定など、当然のことながら戦後に吹き荒れた学生運動などの社会的なムーブメントを下地にしている。だから、たんなる児童文学として読みたい(読ませたい)人にとっては受け入れにくい側面はあるだろうが、そもそも名だたる作家が書いた児童文学やファンタジーには後年の研究者たちがこぞって取り上げる「隠されたテーマ」というものがつきものだ。この作品も多面的に読むことは可能だろうが、だからといってオモテにあるストーリーが見せかけ(仮の姿)と考えるのは短絡しすぎだろう。

 この、間口の広い「20世紀少年」は子供とその親を引きつけるだけでなく、当然のことのように青年誌のターゲットである20代の若者に向けて、ダークなファンタジーの要素もふんだんに取り入れている。70年代から盛んにメディアで取り上げられてきたオカルトと現代のテクノロジーを結びつけて、何事か世の中に不穏な一撃を加えるという「ともだち」の存在に、彼らは荒唐無稽にひそむ恐怖をかぎとってしまうだろう。

 しかし、この作品にもっとも触発されてしまうのは、小学生の時に1970年を通過してきた、ごくごく限られた人間なのではないだろうか。かつては「うみほたる」と呼ばれた牢獄から抜け出して東京湾をわたりきったオッチョは、自分の目に入ってきた光景におもわず唖然とする。

「なんてことをするんだ。」

 そう、彼にとって、彼ら仲間にとって、あの熱狂的で輝ける未来の象徴だったはずの大阪万博(EXPO'70)のすべてが丸ごと再現されていたからだ。今の若者にとっては、大阪万博の太陽の塔に象徴されるパビリオン群は、どこにもたどり着くことのなかった進化木のどんづまりにしか見えないだろう。今となってはむなしく消えていった中途半端で奇妙な<なり損ね>にすぎない。しかし1970年を少年として通過したオッチョたち、そして僕にとっては、あれは確かに「未来」そのものだった。

 その「僕らの未来」を、あるいは「僕らの夢」を取り戻すために、彼ら20世紀少年たちは戦う。人類のためではなく。なんて、懐かしくて、ダサくて、かっこわるくて、素敵なんだろう。
posted by アスラン at 13:13| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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