2006年10月27日

まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん

 森絵都「風に舞いあがるビニールシート」と直木賞を分け合った作品だ。三浦しをんと言うと、先日読んだエッセイ「三四郎はそれから門を出た」が初体験だったので、小説を読むのは今回が始めてだ。

 エッセイを読んだかぎりでは、斎藤美奈子や酒井順子といった、女性ならではの視点からシニカルで毒舌な文体を駆使するタイプのようにみえるが、一方で読書好き・活字好きの嗜好が恩田陸などと相通じるものがあって、引っ掛からずに読めるところと読めないところのムラがある文章を書く作家という印象だった。

 引き合いに出した3人のいずれとも違う著者ならではの特徴と言えば、バイタリティーの低さだろうか。女一人生きていくのに何事か為さんという「負けないぞぉ」みたいな気概は、著者には一切感じられない。悪く言えばものぐさというところか。

 ひきこもりという程ではないが世間に対して一定の距離感が感じられる。そこから生じる突き放すような言い方(書き方)が、著者の嗜虐的な資質によるものなのか、それとも自分をクールに見せたいという単なるポーズなのかは微妙なところだ。いずれでもあると言うのが本当のところではないか。

 そして本書の主人公たちは、まさに著者の持ち味をそのまま受け継いでいる。主人公の多田はある事情でセールスマンをやめてからは、一人きままな生活を求めて便利屋を始めた。自分では認めたがらないけれども十分すぎるほど世話好きでおせっかいで浪花節な性格なので、かかわった人々の事情に必ずといっていいほど巻き込まれる。本音を言えば人恋しいというのが、著者の性格から多田が受け継いだものらしい。

 もう一人の主人公の行天は名前のとおり"仰天"させられる性格のもちぬしで、何事にも無関心で人情はあわせ持たず、クールな反応しかしない。必要とあらば暴力も辞さない合理主義者だ。引きこもり状態の弟のダメなところを、愛憎半ばに徹底してヤリ玉に挙げる著者の冷徹な眼指しを、行天は備えている。

 この二人を結びつけているのは、まほろ市の高校の同級生という一点だけだ。もっと言えば行天の親指にある古傷の原因が多田のちょっとした悪意にあったという事が、多田にとっては長年の負い目になっている。行天にはつけこんでいるつもりはないのだが、行天からは多田への気持ちを話すつもりはない。一方の多田は、お人好しにも時効に等しい高校時代の悪意を償うつもりで行天の居候を受け入れる。

 まほろ市(幻の謂いか?)という架空地方都市で、この凸凹コンビの便利屋の元には、本来なら扱わないような客の無理難題が持ち込まれる。それを解決する手つきが時には名探偵さながらの名推理だったり、時には地方に巣食う裏社会に単身乗り込むハードボイルドな駆け引きだったり、時には金八先生やGTOさながらのヒューマニズムだったり、さらに言えば行き当たりばったりだったりする。

 その言わば臨機応変で無手勝流みたいなやり方が、話に変化を与えていて楽しい。と同時に、とにかく関わるまいと内省するくせに最後には後先を考えずに客の事情優先で突っ走ってしまいがちな多田と、何も考えないで行動してるかのようで実は冷静に物事の真実を見抜いている行天との絶妙な連係が、読む者を笑わせ和ませホロッとさせる。そうか!これは、人情が希薄になってしまったハードな世間を生きる現代人のための「しをん流」人情物語なんだな。

 多田と行天それぞれが抱える事情も客の難題同様一筋縄ではいかず、されど互いに傷をなめあう事をよしとしないのも今風の流儀だろう。それをクールという一言で置き換える事も出来そうだが、この凸凹コンビにはそこからはみ出る部分が確実に存在する。

 ベンチで仔猫と一緒に自ら仔猫のように佇んでいた行天には、多田こそが人生のターニングポイントとなると一目で感じた。惚れ込んだとは気持ち悪いと言われそうだが、行天には多田の生き方に自分が生きていくための大きなヒントが隠されているように感じているのだ。一方で、多田は無意識のうちに行天という仔猫(あぁ気色悪いという声が…)を必要とした。自分の選択した生き方が正しいのかどうなのか、そんなどんな理屈もいらない。ただ見ていてほしいのだ。自分の生き方を、生きている姿を。

 それがまほろ市まほろ町の便利屋「まほろ駅前多田便利軒」の愛すべき凸凹コンビなのだ。

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posted by アスラン at 12:53| Comment(1) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
恥ずかしながら、自分で自分の記事にコメントします。

何故間違えたのか、魔がさしたのか、タイトルを間違えてアップしてしまいました。もうすでに直してしまったので痕跡はウェブ上の検索結果にしか残っていないのではないかと思います。

あと、RSSリーダーを使っている方々のPCにしっかり保存されているかぁ。それからミクシのHPにも痕跡が残ってるなぁ。

とりあえず訂正です。

「まほろ町多田便利軒」ではなく

「まほろ駅前多田便利軒」

でした。
Posted by アスラン at 2006年10月29日 15:58
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