2006年10月24日

タイムトラベル・ロマンス 梶尾真治

 「黄泉がえり」を映画館で見たとき、中学生からOLに至るまで若い女性で一杯だった。それだけでも異常な雰囲気なのに、彼女らが揃いも揃っておしゃべりに夢中ときてるので、館内を揺るがすほどの喧騒に僕はただただ唖然とさせられた。予告編が始まってもおさまらない喧騒が本編でもやまないのではと一人色めきだったがそれは杞憂で、タイトルバックが流れると彼女らはお行儀よくピタッと押し黙った。

 本編を見終わって彼女らのお目当てが様々なイケメン男に分散されている事が分かりむべなるかなと納得したのだった。いやはやジャニーズJr.のメンバーまででてるんだからね。

 それにしてももう一言言わせてもらうと、あの映画は変な映画だった。たぶん原作がそうであるように、それぞれに大きなエピソードを抱えた登場人物が山ほど出てきて、相応な配役が割り当てられている。まるで正月の顔見せ興行のようで賑やかだが、竹内結子と草なぎ剛のエピソードがメインなので他の配役は刺身のツマ程度にしか描かれない。医師役の田中邦衛などは明らかに役不足に見える。

 しかも肝心のドラマのクライマックスで、RUIという名でキャスティングされた歌手・柴咲コウが延々阿蘇のステージで歌い続ける。ドラマそっちのけなのだ。そっちのけのあまりの長さに僕はどんびきしてしまい、ロマンチックも何もなくなってしまった。塩田明彦監督、あんたの演出ヘンだぞ!

 と、言いたい事を言ったので本題にもどる。変なところを除けば映画「黄泉がえり」はハートウォーミングなSF映画で、大甘なところが原作のテイストなのか映画独自のテイストなのかは棚上げすれば、僕の好きなジャンルではあるのだ。

 確かに死者が甦る事だけを考えたらホラーとしかいいようがないが、もしその人に死んだ事の自覚がないならばそれは単にその人が生きていた時間を僕らが遡るのとなんら変わりない。つまり一種のタイムマシン、タイムトラベルなのだと言える。そしてそれこそが著者の好むジャンルでありお得意の物語であるようだ。そして当然ながら僕が好きなのも、まさにこのジャンルなのだ。

 となると先ほどの僕の問いかけは答えが出ているようで、著者・梶尾真治は甘いロマンスが好きで「黄泉がえり」はそういうテイストの小説なのだろう。そして輪を掛けて大甘なのが映画作家・塩田明彦だと断定していいだろう。ならばいずれ原作の方を読んでみなければなるまい。

 本書は、著者が最も好んでいてかつ得意とするジャンルを「タイムトラベル・ロマンス」と名づけて、様々な小説や映画を紹介している。そもそも著者のデビュー作「美亜へ贈る真珠」がこのジャンルなのだそうだから、著者の入れ込みようが知れるというものだ。

 第一部の「タイムトラベル・ロマンス」で紹介されている小説から僕が気になったものを以下に挙げる。

ジャック・フィニイ「愛の手紙」
 フィニイは映画「ボディースナッチャー」の原作を書いたSF作家だそうだ。あのおぞましいエイリアンものとはうってかわって、まさにロマンスそのものといった内容だ。ヴィクトリア朝の古い机の隠し引き出しから、持ち主の女性が誰に宛てたでもない心の鬱屈を告白した手紙を見つけた現代の青年が、彼女宛てにラブレターを送ると再び返事が引き出しに現れる。まさに時空を超えた遠距離文通が始まる。当然ながらなんでこんな事が起こりうるかというSF的根拠は一切ない。いやそんな詮索はロマンスには野暮というもの。だから言われないとこれがSFだとはだれも思わないだろう。

 そういえば映画「オーロラの彼方に」の趣向もまったく同じだった。あれはロマンスではなくて、自分と同じ年齢の頃の父と無線で交信するという父と息子の親子愛の物語であり、幼い頃に亡くなった父と同世代として邂逅する男と男の友情物語でもある。きっと時空を超える交信の元ネタは「愛の手紙」だったのだろう。「オーロラ…」は息子が父に現状を伝える事で、父が既定の過去を変更してしまうというSF色が強いものだったが、ロマンスにはSF色は無用だろう。

リチャード・マシスン「ある日どこかで」
 クリストファー・リーブ主演で映画化されている。現代を生きる若き作家が、泊まったホテルに飾られた女優の肖像画に魅せられ、想いを念じると女優が生きた過去に移動してしまう。タイムマシンとかを使わないのでSF臭がしないし、何より「念ずれば通ず」という趣向が非常にロマンチックだ。ちなみにリチャード・マシスンは、ロビン・ウィリアム主演の映画「奇蹟の輝き」の原作者でもある。


ロバート・ネイサン「ジェニーの肖像」
 
 画家の青年が出会った少女ジェニーは次に出会ったときには美しい女性に成長していた。時の流れが違う世界がつかのま交差する間に出会った一組の男女のロマンスを描いている。昔からこの小説のタイトルだけは知っていたが、こういう甘い内容だとはよく分かっていなかった。たぶん「ジョニーは戦場に行った」のジョニーと、本作のジェニーとを頭の中でなんとなく混同していたらしい。混同は中学生の頃から始まっているから、本書を読まなかったらずっと無知のまま読まずじまいだったかもしれない。

フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」

 今回の紹介本でもっとも気持ちがそそられたのが本書で、児童書に分類されるようだ。主人公の少年トムは親戚の家で退屈な日々を過ごすが、ある夜に時計が13回打ったのが気になって、部屋を抜け出し誘われるかのように外へ通じるドアをあけると、昼間にはなかったヴィクトリア朝時代の庭に通じていて、そこで少女と出会う。またしてもヴィクトリア朝だ。英国人にはよっぽどロマンチックな気分を呼び覚まされる時代だとみえる。

レイ・ブラッドベリ「雷のような音」

 最近映画化された。タイトルは原作の英語名で「サウンド・オブ・サンダー」だった。それにしてもこれは「私の記憶が確かならば」、米国のTVドラマ「トワイライトゾーン」の一本にあったはずだ。深夜に再放送されていたのをたまたま見て衝撃を受けたのを覚えている。

 未来ではタイムマシンを商売にする会社がある。恐竜を狩猟させる会社だ。やり方は至って簡単。タイムマシンであらかじめ死ぬ事が分かっている恐竜の死の間際に客を連れて行って狩猟してもらう。ただし未来に影響がでないように他の生物一切には手を触れさせないし、持ち帰らせない。ところがある客がうかつにもタイムマシンから一歩外に足を踏み出した時に蝶を一羽踏みつぶしてしまう。戻ってきた未来は様子が一変している。政治体制が自由主義から独裁主義へと変わっていてタイムマシンは封印させられてしまうという恐ろしいエンディングだった。

ロバート・A・ハインライン「夏への扉」「時の門」「輪廻の蛇」

 「夏への扉」他2編はいずれもタイムトラベルものだそうだ。だそうだとはまた無知をさらけ出すようだが、SFの大家ハインラインの著作を一冊も読んでいない。「夏への扉」のあらすじを読んでもロマンスなのかどうかよく分からないし、あらすじだけでは面白さが伝わってこないのだが、とにかく長編SFのベストテンを選ぶとなると必ず入ってくる作品だから、面白いのは間違いないのだろう。
 
ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」
 梶尾さんの解説を読んだときは面白そうと思ってリストアップしておいたのだが、内容を失念してしまった。図書館で検索してもあらすじはでてこなかったのでした。残念。

 本書の第二部は『プチ入門「センス・オブ・ワンダー」』と題して、初心者に向けてSFの面白さを簡単に紹介している。SFとは何かという問いに著者は「センス・オブ・ワンダー」だと答えている。つまりは不思議な事に対する驚きを表現するのがSFだという事だ。そして以下、さまざまなジャンルを説明していくのだが、以下のように見本市のように見通しのよい紹介になっているのが門外漢にはうれしい。

時間テーマ(時間旅行、タイム・パラドックス)
侵略もの
ファースト・コンタクトテーマ
ロボットもの
サイボーグもの
パラレルワールド、多元宇宙テーマ
超能力もの


第二部で紹介された本で気になったのは以下の本だった。こちらはいずれもSFとしては世に知られた名作ばかり(らしい)。なのでタイトルだけ挙げて解説は省略する。

ジャック・フィニイ「盗まれた街」
ジョン・ウィンダム「呪われた村」
カレル・チャペック「ロボット(R.U.R)」
フィリップ・K・ディック「高い城の男」
レイ・ブラッドベリ「夜の邂逅」クリフトン・ファディマン編「第四次元の小説」
フレドリック・ブラウン「火星人ゴーホーム」
A・C・クラーク「太陽系最後の日」


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posted by アスラン at 03:30| Comment(4) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フィニィ『ゲイルズバーグの春を愛す』は幻想小説のうちでの白眉だと、勝手に考えています。あの優しい雰囲気が好きなんです。
同作家の『ふりだしに戻る』『フロム・タイム・トゥ・タイム』(いずれも角川文庫)はマシスン『ある日どこかで』に通ずるものがあります。フィニィ節が好きでしたら、きっと気に入られるのではないでしょうか。
マシスンはホラーも書いていて、『地獄の家』(ハヤカワ文庫)はなかなか怖い話でした。『ヘルハウス』という映画にもなっているようですけど、こちらは観たことがありません。
『地獄の家』つながりで思い出しましたが、シャーリー・ジャクスン『たたり』(創元推理文庫)は『地獄の家』の設定に近似していますから、読み比べてみるのも一興と思います。こちらも映画になっているようですが、やはり観たことはありません。
ヤングの「たんぽぽ娘」は読んだことがあるような気もしますが、内容はすっかり忘れてしまいました。『ジョナサンと宇宙クジラ』に収録されていたのなら、読んだはずなのですけど。この方の作品も優しさに溢れた雰囲気で、フィニィが好きであればきっと気に入られると思います。
Posted by nixamark at 2006年10月24日 07:21
nixamarkさん、初コメントどうもありがとう。

返事が遅くなってすみません。らごさんほど遅れてないので、この「すみません」は、ややすみませんの意味にしておきますw

いろいろフォローしていただいてありがとうございます。SF苦手人間で通してきたので、いろいろ読んでない本ばかりなので、どれから手をつければいいのか迷ってましたが、オススメの「ゲイルズバーグ」はさっそく図書館で予約しました。「ジェニーの肖像」は予約しなくても、もより図書館にあったので借りてきて読み出しました。

マシスン原作の「地獄の家」も読んでみようと思います。そうですか「ヘルハウス」の原作なんですね。フィニイといい、どうしてロマンティックな作品とグロテスクな作品が両立するんでしょうね。

「ヘルハウス」は70年代を代表するオカルト映画(この時に初めてオカルトという言葉が一般的に使われるようになりました)の一本で、たぶん「エクソシスト」の次に好きな映画です。といっても、位置づけとしてはA級とB級のボーダーにあって、ドキュメンタリー的な手法がなければ、きわもの趣味で終わっていたかもしれない映画です。原作がどんなテイストになっていたのかぜひ確認しておきたいですね。

「たたり」の方はどうでしょう。そもそもホラー映画が好きなわけではないので、いきなり原作読むにしても心してかからないと。「呪怨」の映画がどうしても見られず、でも怖い物見たさからつい原作を読んでしまい、卒倒しそうになりました。
Posted by エラリー at 2006年10月29日 16:30
そうでした。初書き込みだったのにご挨拶もせず失礼しました(汗)

改めまして、こんにちは。よろしくお願いします^^;

個人的な印象にすぎませんけれど、『地獄の家』は人物同士の絡み合いや出来事が派手、『たたり』は地味だったと覚えています。文体もこういう印象を抱かせることに一役買っているのでしょうね。でも『たたり』を地味と形容しましたが、これが曲者で、読んでいて本当に怖くなります。怖がりたいのでしたらこちらを読まれればよいと思います。

でも『呪怨』の原作を読まれて「卒倒しそうに」なられたということは、推薦文ならぬ、逆推薦文になってしまっているということでしょうか(笑)

ちなみに『たたり』はロバート・ワイズ監督が『たたり』として映画化し、ヤン・デ・ボン監督が『ホーンティング』としてリメイクしているようです。しかし基本的にホラー映画は苦手とするところなので(といいつつ、たまに観に行ってしまうわけですが)、両方とも観たことはありません。

ホラー映画といえば『アザーズ』はいい映画でした。ホラーというジャンルで括られてしまうのは勿体無いと思うほどの、出色の出来栄えです。こういうのがあるから、ホラーを観に行ってしまうんですよねえ。そして後悔するという(笑)けど、なにか話が明後日に行ってしまっています。

『夏への扉』と『高い城の男』は既読ですが、ずいぶん昔なもので、どんな内容だったか覚えていません(汗)個人的にはそれほどツボにはまらなかったのでしょう。

チャペック『ロボット』は粗筋しか知りませんが、『山椒魚戦争』は読みました。けれど、SF苦手人間と自称されるエラリーさんに薦められるかといわれると、ちょっと躊躇してしまいます。エラリーさんが派手なものを好まれるか、地味なものを好まれるか、はたまた普通の小説に近いものがよいのか、SFSFしているのがよいのか、さらには娯楽ものがよいのか思弁的なものがよいのかで、だいぶんチョイスが変わってきてしまいますから。ちなみに『山椒魚戦争』は地味で普通の小説に近いです。なにしろ岩波文庫に入っているくらいです。『高い城の男』も地味だった覚えがあります。『夏への扉』本当に覚えていませんね・・・SFしていたのだけは覚えていますけど。

SFについて書き始めると切りがつかなくなりそうなので、このあたりで止めておきます(笑)
Posted by nixamark at 2006年10月29日 17:44
nixamarkさん、さっそくフォローコメントしてくれてありがとう。

「地獄の家」も「たたり」もどっちも読んでみます。

と言えるとホントにいいんですが、やはり怖いので「地獄の家」限定でいきたいと思います(汗)。

「アザーズ」はいい映画でしたね。あの映画の元ネタはヘンリー・ジェイムスの「ねじの回転」だと思います。

僕がSFが苦手なのは、たぶんスペース・オペラみたいな大風呂敷ひろげるタイプだと思うので、nixamarkさんのいうところの派手なやつがダメなんでしょう、きっと。

どちらかというと地味な方が好みのような気がします。あんまり思弁が過ぎるのも哲学書を読ませられているようで関心しません。

これに懲りずにまたSFの啓蒙をお願いします。
Posted by エラリー at 2006年11月05日 01:41
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