2012年02月07日

ストロベリーナイト 誉田哲也(2012/2/2読了)

 満員電車に揺られながら扉わきの壁面に掲げられた広告で、新番組のドラマの出演者がモノクロのモダンな色調の下、横並びになっているのをたまたま見つけた。顔ぶれをながめると、主演の竹内結子は別にしても、その他の俳優はくせ者をそろえたという感じがした。しかも、まあよくもそろえたなぁと一目でわかるくらいに見事なそろいっぷりで、これはもう、かなり濃い群像劇になるのは間違いないなと、期待してしまった。



 難点があるとすれば、やはりヒロインの彼女だ。こういったくせ者たちと渡り合うには、彼女はやや上っ面すぎはしないだろうか、などと余計な詮索をしてしまった。だからいざ本放送が始まり、録画してはみたものの、レコーダーの容量がまったく足らず、明日からの欠かすことのできない番組の予約さえも消化できないとわかった時、冒頭の数分を見ただけで、フジテレビ「ストロベリーナイト」を見続けるのはあきらめた。

 その決断を迫られたときにはすでに、図書館で単行本の本書を借りていたので、まいどおなじみの「読んでから見るか、見てから読むか」の二者択一を決め損なっていたということも、ドラマをあきらめた理由のひとつだった。ドラマの録画をやめたら、とたんに読みびかえていた本書のページが進んでいった。

 今回が誉田作品を読む初めての機会だが、非常に人気の訳はすぐにわかった。警察官であるヒロインをとりまく登場人物ひとりひとりの性格が丁寧に描き分けられている。しかも一見すると複雑な人間関係が形作られているようにみえる。これだけの人間の濃密な利害関係を抱え込みながら、同時にヒロイン自身も心に深い傷を受けて、誰にも分かちがたい闇を隠し持っている。予感としてjは、ヒロインは早晩精神的な崩壊の瀬戸際まで追い込まれるに違いない。そこまで書ききる筆力が、著者にあるのだろうか。お手並み拝見といったところだ。

 ただ、ヒロイン姫川警部補のいわゆる天敵・勝俣という人物が描き込まれていけばいくほど、なんだか武田鉄矢の顔が浮かんでくるようになった。もちろん車内広告の横並びの右端に存在感を顕わにしていたのを覚えていたからだが、同時にNHKで以前放映された「刑事の現場2」の際の、森山未來の若さを受け止める悪徳刑事役の武田鉄矢に、勝俣という役柄がばっちりフォーカスが合ってしまったからだ。なんだ、けっこう心温まる刑事ドラマになりそうではないか。

 しかも、颯爽としたヒロインだと思っていた姫川だが、意外にインスピレーションだけで事件の核心をつかんではみるものの、先走って周囲をかき回すような未熟さをあわせ持つアンバランスな女性である事が分かってくる。結局は凶悪な犯人に裏をかかれて窮地に追い込まれ、武田鉄矢に、いや勝俣に思いっきり助けられる。無様としか言いようがない。ああ、なるほど。姫川=竹内という配役は、まさにぴったりかもしれない。

 そういう、あえて言えば「わかりやすい人間たち」が、一見すると複雑に入り組んだ組織と人間関係の中で互いの利害を主張しながらも、最後まで深みに足を取られることなく、なし崩しに事件は解決を見る。そういう読みやすい警察物と言える。真の犯人が誰なのかも、実はあまり隠されていない。なんとなく最初から「こいつだろうな」と見えてしまう。そんなところまで「わかりやすい」のは、本当を言えばミステリーとしての欠点に違いないのだが、こと刑事ドラマとしては、読み手を選ばない長所の一つに数えていいのだろう。

 さて、とりあえず「ストロベリーナイト」で仕込みは完了した。シリーズ続編まで様子を見てみるとしようか。
posted by アスラン at 12:50| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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