2012年01月12日

謎解きはディナーのあとで 東川篤哉(2012/1/4読了)

 本屋大賞の受賞作を並べてみる。

「博士の愛した数式」 小川洋子
「夜のピクニック」 恩田陸
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」 リリー・フランキー
「一瞬の風になれ」 佐藤多佳子
「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎
「告白」 湊かなえ
「天地明察」 うぶかた丁
「謎解きはディナーのあとで」 東川篤哉


 そうそうたる作家と、そうそうたる作品と言っていいだろう。いや、言い過ぎか。正直、僕は「告白」も作者にも言いたいことがある。「ゴールデンスランバー」だけは未読だが、僕は今このときの伊坂幸太郎には絶対の信頼を置いている。きっと面白いだろう。前回の「天地明察」は、まさに巻を置くあたわざる傑作だった。見事なエンターテイメント作品であると同時に人間ドラマでもあった。

 なのに、だ。なぜ本作はそのような作品群の仲間入りを果たしてしまったのだろう。さぞや、軽薄でミーハーな設定の上に全国の書店員をうならせる仕掛けが仕組まれているに違いない。なにしろ彼らは、言うならば本のプロなのだから。

 実は今回は再読だ。前回は図書館で長い待ち行列に並ぶ事なく、タナボタ式に読む機会が与えられたので読んではみたものの、読後感は「なんだ、これは?」だった。この感想は別の本(「飛蝗の農場」)の読後に抱く常套句なのだが、この本にも当てはまるようだ。

 いったい、この本のどこに面白さを感じればいいのだろう。あまりにもツマラナイのはどうしたことだ。本屋大賞への信頼が一挙に崩れた気がした。もしかしたら投票する書店員の年齢層が一気に若返ったのだろうか。それにしても幼稚な作品を選んだものだ。

 さらに次点以下の作品の得票数を調べてみると、今回は票がかなり割れている。どうやらダントツの一位というわけではなく、4位ぐらいまでが300点を越える票を得ているし、なにより2位の「ふがいない僕は空を見た」との投票差があまりに小さい。こちらが大賞を受賞していれば、この賞に対する僕の信頼度はますますアップしていたところだった。返す返すも残念だが、「ふがいない…」は内容が内容だけに幅広い年齢層に支持されにくいという、売る側(書店側)の配慮が微妙に働いたのかもしれない。

 本作は圧倒的な好評の下、TVドラマ化された。初回を見てみたが、特に違和感はなかった。北川景子扮するお嬢様は、まさにハマリ役だし、執事の影山にしては嵐の桜井翔は背が足りないなぁとは思うものの、悪い配役とまでは言えない。そう、あの時間帯(11時台)に放映されるお手軽なドラマとしては、格好の原作だろう。

 さて、そうこうするうちにパート2が出版された。これまた好評な売れ行きで、図書館ではそうそうたやすく借りられそうにない。ところが、またしてもタナボタがおきて読書の機会が回ってきた。それではと第一作から読み返してみた。感想は初読の際とそれほど変わるところはないが、少し気づいた点がある。

 立川在住の僕が初読のときに見過ごしてしまったのは迂闊だったが、著者は国立を含めたJR南武線沿線の描写にイヤにこだわっている。しかも「南武線」という、東京や神奈川という大都市圏にありながら田舎の雰囲気を湛えているローカルな路線にフィーチャーして、沿線住民のコンプレックスをくすぐるかのような記述がそこかしこにみられる。

 たとえば国立というと、中央線沿線の高級でおしゃれな住宅地というイメージがあるが、実は南武線沿線というローカルな地勢も合わせ持つ。しかし国立住民は決して南武線沿線というイメージを露わにすることはない。著者のユーモア感覚に思わず納得の喝采を送ったが、では果たして、このローカルネタの面白さが本当にわかる読者がどれほどいるだろうか。まさか南武線周辺の住人が買いまくったというわけでもあるまい。

 しかし、そこから推して考えれば、こういう絶妙に塩梅されたユーモアが充満した読み物であるからこそ、肩の凝らない読書タイムが約束されているのだ。僕のようにミステリーだと思って読むから不満がでてくるのだ。ミステリー読みの読者にしてみれば、これはミステリーではない。いや、言い過ぎた。ミステリーとして何か期待するような要素はない。しかし、ミステリーという枠組みが、お嬢様の刑事と徹底的に主人を貶める執事兼名探偵という少女マンガ的設定を動かすダシにすぎないと考えれば、もはや目くじらたてるまでもない。

 今やミステリーの大御所である赤川次郎のユーモアミステリーも、まさにこういったミーハー調で事が運んだではないか。今後もおつきあいする作家になるかどうかは疑問ではあるけれども、このシリーズそのものは南武線住民の一人として気にかけていきたい。

…と思う今日この頃である。
posted by アスラン at 13:04| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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