2012年01月09日

野茂英雄−日米の野球をどう変えたか ロバート・ホワイティング(2012/1/5読了)

 僕はかつて「巨人ファン」だったことがある。おそらく父の影響だろう。そして、一度たりとも「プロ野球ファン」であったことはない。その証拠にセリーグの他のチームにはほとんど関心がなかったし、ましてやパリーグの球団や選手の知識など皆無に近かった。ただ、巨人が日本シリーズを争うときのみ、相手チームに注目するだけだった。だから、長嶋が引退後に監督になり常勝ではなくなった巨人のファンを自認するたびに、日本シリーズの対戦相手となった阪急や西武といった実力派チームの存在に魅了され、かつ何度となく歯がみさせられた。


 そして何がきっかけだったか、突然僕は巨人ファンをやめた。そうだ、思い出した。長嶋監督が解任されたときに、なんだか馬鹿馬鹿しくなったのだ。僕は野球の見方を覚えてきたけれど、本当の楽しさを覚えそこなった。だから野球そのものから目をそむけてしまった。それで特に困ることなどなかった。

 僕が就職したころ、父の甥(僕にとっての大叔父)のつてで東京ドームの日本ハム戦のチケットがただで手に入ったこともあって、父と母と三人で何度か観戦に出かけた。これは楽しかった。野球はもとより「やって楽しいスポーツ」であるが、ついで球場で臨場感を味わい、選手や他の観客との一体感を味わうエンターテイメントだということをしみじみ感じた。

 日本ハムの内野席を陣取るので、当然のごとく日ハムを応援するのだけれど、退屈でつまらない攻撃に終始するときには、すかさず不平をぶつける。最初から最後まで鳴り物とエールで統一された外野席と違って、内野席でゆったりとした気分で見ている僕らの特権だ。そして、そんなつまらない試合ですら、やはり楽しい。それが野球観戦の醍醐味だった。

 そんなとき、近鉄の野茂英雄が大リーグに挑戦するというニュースが世間を賑わせた。僕は野茂がどんな投手で、パリーグでどれほど活躍した選手なのか、実はよく知らなかった。近鉄時代の活躍も、巨人ファンをやめた時期にあたっていたので、よくは知らない。彼が近鉄の鈴木啓示監督と確執があったこと、日本の野球関係者、ファン、マスコミなどあらゆる者を敵にしてまでもメジャーリーグに飛び込んだ事情も、ずいぶんあとになって知った。

 僕としては、せっかくソウルオリンピックのために購入したBS付きのテレビで、はたしてこれから何を見ればいいのかという悩みに、野茂のメジャーリーグ挑戦は格好の答えを与えてくれた事に、とにかく喜んだ。こうして日本にも、アメリカ同様に数多くの「野茂マニア」が誕生したはずだ。

 僕は失われた野球への興味を、野茂という一選手のおかげで取り戻す事ができたのだった。それは不思議な体験だった。野球と言えば(特に巨人ファンだった頃の野球と言えば)、攻撃を見るもので、守備のあいだは退屈な時間を過ごすか、打ち込まれる味方の投手にハラハラさせられるかのいずれだったのが、野茂の試合ではドジャースの攻撃そっちのけで、彼の投球を見るのが、実に爽快で楽しかった。

 野茂の活躍の年も、不調の年も、不死鳥のように復活した年も、故障していくつものチームを渡り歩いて解雇されては次のチームを探し当てる流浪の日々も、ずっとずっと僕は野茂の姿だけを、マウンドの野茂の一挙手一投足を見つめ続けた。ついに彼はアリーグとナリーグでノーヒットノーラン(ノーヒッター)を達成した数少ない投手の一人となった。

 彼が成し遂げた事は、彼自身が一番わかっていると思うが、僕もそれなりに精一杯彼の理解者であり続けたと思ってきた。が、この本を読むと、僕のひととおりの認識をはるかに超えた偉業をやってのけたのだと、つくづく思い知らされる。よく「イチローも松井も野茂に感謝すべきだ」という意見が聞かれるが、その意味の半分も僕はわかっていなかった。

 イチローは確かに野茂を遙かに上回る成績を残し、メジャーリーグで唯一野球殿堂入りが確実な日本人選手だが、彼ですら真の意味でメジャーリーグに適応したとは言えない。野茂はメジャーリーガーたちからプロとして認められ、そして何より野球が好きで好きで、できる限り投げ続けたいと、最後まで闘志を燃やし続けた。そのことを僕は、この一冊に改めて教えられた。

 再び野茂の勇姿が見たい。僕は今、むしょうにそう思っている。NHK−BSで引退記念に放映された特集番組を保存したDVDを引っ張り出す夜が、今から楽しみだ。もちろん、この本を手元に置きながら、じっくりと野茂のパイオニアスピリットに感嘆しようではないか。
posted by アスラン at 14:02| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ありがとう、私も野茂の情報を見たいがために、インターネットを繋ぎ、試合は全部VHSにとってあります。今、プロ野球の中で彼の活躍が見れないのが、くやしくて寂しい一人です。
NOMOクラブには賛同員として、僅かな寄付もさせてもらっております。無口な野茂は、テレビ番組のバラエティにもでませんし、解説員としても登場してくれません。なんとか監督が無理でもコーチでもなんでも、活躍しているところを私たちファンに見せていただきたいものです。あの永遠の野球少年が見たいです。
Posted by のなかけいこ at 2012年11月11日 18:38
のなかけいこさん、コメントありがとうございます。

コメントの内容、いちいち同感に思う事ばかりです。
それとともに、今や野茂、イチローの後に続く投手・野手が絶えない時代となりましたが(これはもちろん、野茂というパイオニアあっての現状です)、現役を引退した後の大リーガーのキャリアの活かしどころを今のプロ野球界がまったく検討もしていない点には幻滅させられますね。
Posted by アスラン at 2012年11月15日 19:13
私は野茂ファンです。アスランさん、
もし野茂の動画を持っていたらぜひ私の手持ち動画と交換を希望します。メールでやり取りしましょう。
Posted by Ryo at 2014年10月13日 11:55
Ryoさん、コメントありがとう。

残念ながら野茂の動画などはほとんど持っていません。当時はリアルタイムで見ることが楽しみで、BS付きテレビ(当時はBS付きでないテレビも多かったので)を買ったのは「野茂の試合を見るためだ」と思ったくらいでした。

でも、記憶の中の彼の勇姿は、いまでもまざまざとよみがえってくるような気がします。
Posted by アスラン at 2014年10月14日 12:42
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