2011年12月20日

バムとケロのもりのこや 島田ゆか(2011/11/27読了)

 「バムとケロ」の物語は、子育てに明け暮れていた頃に、子供がお気に入りの絵本に夢中になって、やがてはストンと寝付いてくれることを心より願っている世の父母たちにとっては、福音と言っていい。図書館で山ほどある絵本の中でも、我が子が気に入ってくれる絵本は意外と少ない。アンパンマンのアニメにはまっていたころは、アンパンマンの絵本や紙芝居を借りてくれば事足りたが、それでは読み聞かせする身がもたない。

 「バムとケロ」シリーズは、子供だけでなく大人も楽しめて、かつ癒やされるオールマイティな作品だ。バムという世話好きの犬のお母さんと、彼女が育ててている目の中に入れても痛くないような坊やが、カエルのケロだ。この一風変わった組合せの二人が登場する絵本には、特段の物語はない。ただ読者は、犬は面倒見がよいという印象と、カエルはやんちゃで移り気だというイメージさえ共有できれば、あとはもう「好き勝手にやりたいことをやる」という傍若無人な幼児には、カエルのキャラ以外考えられなくなってしまう。作者の天才的なひらめきには恐れ入るしかない。

 作者のひらめきは、徹底的に描き込まれる細々とした「もの」たちのディテールにも十分すぎるほどに活かされている。バムとケロの使うマグカップには二人の姿がデザインされていたり、差し込まれたストローの形がやはり彼ら自身をかたどっていたりする。その過剰なまでのモノ自体の存在感は、メルヘンとかファンタジーのそれではない。現実の幼児がほしがり、あるいは我々親たちが可能であるならば買いそろえてあげたくなるような、物質社会の理想的な家そのものだ。ここに子供以上に大人が惹きつけられる秘密がある。

著者の過剰なまでのひらめきは小間物だけでは飽き足らない。一見、小間物と区別がつかないくらい小さな犬が何故か同居していて、1ページの中でバムとケロの物語とはまったく別のストーリーをさりげなく紡ぎだしている。さらに、さらに、ムーミンでいえば「ニョロニョロ」のように正体がよくわからない「三つ耳のうさぎ」が、いつのまにかバムとケロについてきて、勝手に一夜の宿にしている。三つ耳うさぎは、メインストーリーと最後まで関わることなく、ただキャラクタのの存在感だけが突出している。

 これは、かつて「のようなもの」「メインテーマ」といった秀作を生み出した映画作家・森田芳光が、画面中央で繰り広げる主役たちのドラマの片隅で、まったく無関係な通りすがりの人物たちが僕ら観客の無意識を刺激したのと、まったく同じ効果を挙げている。メインストーリーとテーマに集中する事を余儀なくされる読者に、作者は「寄り道」の楽しさ・安らぎを提供しているのだ。この寄り道、あるいは「意識と無意識との往還」を繰り返すことで、絵本は単にページを次へ次へと進めていくものではなく、行ったり来たり、とばしたり遡ったりする豊かな空間へと変貌する。

 圧巻は、あひるの「かいちゃん」が森の中の湖に張った氷と一体化して動けなくなってしまったところへ、バムとケロが出くわしたエピソードだ。バムたちは、かいちゃんを助け出して家に連れて帰る。この作品には、どのページにも意識のドラマと無意識のドラマが隅々まで行き渡っていて、僕ら読者を飽きさせない。最後まで何者かわからないまま、バムとケロでさえも存在を徹底的に無視し続ける三つ耳うさぎは、やはり何事もなかったかのように、バムたちの家から去って行く。あひるのかいちゃんはケロのお気に入りとなって、印象的なエンディングとあいまって僕ら読者のかけがえのないキャラクターの一人(一匹)となった。

 さて、前作から2年ぶりに著者・島田ゆかによって生み出されたのが、本作「バムとケロのもりのこや」だ。森の中に、木の上に立派に作られながら見捨てられた小屋がある。何年も主を失って朽ちかけているのは明らかだ。そこで、バムとケロは、この小屋を住み心地のいい「隠れ家」「別荘」にしようと思い付く。そこで、家のリフォームを友人に依頼して、3人で何度も小屋を訪れて、小屋を作り替えていく。

 実はなんとも怖い話でもある。誰の住んでいた家なんだろう。見捨てたにしては、あまりに立派な小屋だ。ひょっとしてできあがった頃に、主が戻ってきて一悶着あるというストーリーだろうか。ドキドキしながら見守っていると、予想を裏切る展開で、いつものように楽しい気分でエンディングを迎えた。ちょっと残念なのは、2年ぶりに満を持して作られた新作には、もう、あの「意識と無意識の往還」のドラマは見られなかった。あれは、一作だけの実験的試みだったのだろうか。それとも、作者には読者の無意識を刺激するなどという作為的な事に関心がなくなったのだろうか。メインストーリーが直線的に進行するところが、僕にはちょっと物足りなくもあった。

 だが、2年ぶりの作品を待ちわびていた僕らファンに期待に応えるかのように、最後にアレが登場する。もう、それだけで十分満足だ。
posted by アスラン at 19:55| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この絵本の紹介で、森田芳光監督の映画的センスと共通する手法が用いられていると書いた。実は構想したのは数日前で、記事としてアップしたのが昨日だった。

その翌日に監督のあまりに早すぎる訃報を聞かされるとは夢にも思わなかった。

森田さん、さようなら。ありがとう。
僕はあなたの映画が好きでした。
Posted by アスラン at 2011年12月21日 12:40
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