2012年07月02日

「ナツイチPASSPORT(2011)」VS「ナツイチ2010」(再掲載)

[表紙]
 昨年までは、イメージキャラクターが表紙を飾ってきた。宮崎あおい、蒼井優、岡田将生・山下リオ、そして2009年、2010年連続で多部未華子だった。ところが今年はぐっとスタイリッシュなパスポート風のデザインを採用してきた。表紙をめくると、旅券であることを示す身分証明書の体裁がなされて、今年のナツイチは「読書人を本への旅に誘う」という趣向を貫こうという編集部の意気込みが感じられる。さらにイメージキャラクターは、好奇心旺盛な笑顔が魅力的な武井咲に変わった。
ナツイチ表紙2011年.jpg 表紙2010(ナツイチ).jpg


[スペシャルカバー]

(A)文豪の名作 人気漫画家スペシャルカバー 4冊
(2011年)
 怪盗ルパン 奇巌城 ルブラン
 遠野物語 柳田国男
 舞姫 森鴎外
 夢十夜・草枕 夏目漱石
(2010年)
 銀河鉄道の夜 宮沢賢治(2011年も継続)
 シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル
 人間失格 太宰治
 汚れつちまつた悲しみに 中原中也(2011年も継続)
 こころ 夏目漱石(2011年も継続)

(B)はちイラスト スペシャルカバー


 昨年、フェアのキャラである「はち」が描かれたメルヘン調のスペシャルカバーが7冊あった。今年はとくに「スペシャル」とことわることなく、昨年と同様の「はち」カバーが採用されてそのままラインナップされた。ただし「遠野物語」だけは、人気漫画家イラストに差し替えられた。つまり冊数からすると。昨年のカバーに文豪の名作4冊が増えた勘定になる。このままいくと、かなりライトな表紙が増え続けて、ますますナツイチは若者向けの文庫というイメージが強調されてしまいそうだ。

[ラインナップ]
 今年のラインナップは全部で92冊(昨年は101冊)。新しく入った本が66冊(昨年は78冊)、消えた本が72冊(昨年は64冊)だ。全体が昨年より9冊も減っているのが特徴だ。実は、この後に紹介する「新潮文庫の100冊」でも冊数は前年より増えているので、減らしてきたのはナツイチだけということになる。理由の一つには、作家へのアンケートページを復活させた事が挙げられるのだが、果たしてそれだけが理由だろうか?

 毎年のことだが、新旧の入れ替えが多いのが、ナツイチの特徴だ。かといって昨年と変わりばえしないという印象があるのは、やはり集英社定番の作家が多く、彼らの作品だけが新作に変わっていくという実態があるからだろう。つまり作品のラインナップを考えるよりも作家のラインナップの変化のなさが、フェア全体の印象を決めてしまっている。どうしても新潮文庫の作家の層の厚さと比べると、手薄さが際だってしまう。それを補うのが「ナツイチ」という、徹底的に若者にアピールしたコンセプトだったのだが、それも最近は角川にお株をとられた形になっている気がする。

 そこで昨年打ち出したのが、女性作家の比率を上げて女性作家たちが大躍進を遂げた。今年はどうなっただろうか?

(2011年)女24人、男50人
(2010年)女37人、男45人
(2009年)女24人、男57人


なんだ、また一昨年の比率(30%前後)に戻ってしまった。昨年の大躍進はなんだったのだろう。女性作家をフィーチャーしてはみたものの、ラインナップに見劣りがしてしまったので、今年は作品数を減らしてでも少数精鋭の作品群を選んだ結果、例年のような男女比に逆戻りしたという事かもしれない。

[躍進した作家]

夏目漱石(1->3)
逢坂剛(0->2)
北方謙三(0->2)
奥田英朗(1->2)
乙一(1->2)
関口尚(1->2)


[後退した作家]
恩田陸(3->1)
椎名誠(2->1)
浜田祐一(2->1)
三崎亜紀(2->1)
三田誠広(2->1)
宮沢賢治(2->1)
村山由佳(3->2)


躍進組がことごとく男性作家であることに注目しよう。いや、後退組のほとんども男性なのだが、女性の比率を上げるために昨年は1冊入った女性作家が今年大量に消えたという事情が隠れている(躍進・後退の欄には0->1と1->0の作家はわざと抜いてあるので)。後退組の男性陣は、なんとかラインナップにとどまったと考えるべきだろう。それより常連中の常連である恩田陸や村山由佳でさえ、今年は後退せざるを得なかったというところが本当の注目点だろう。

[キャッチコピー・解説]
 今年のナツイチはちょっと地味かなぁと思っていた。作品も減ったし、ラインナップの選び方も例年通りに戻ったし。でもちょっとしたことなんだけれど、表紙の見せ方が際立っているのに気がついた。これまでは、文庫の表紙だけをスキャナで読み取ったような平板な画像に過ぎなかったのが、今年から白い台紙の上に表紙の画像をのせた。しかも、台紙そのものを少し右に傾けているところがニクい! なんとなく書店に平積みに置かれた文庫をながめているかのような存在感が感じられる。これ、すっごくイイです。さすがは”ナツイチ”。

 解説とコピーは、どれもこれも少しずつ手が入っている。目指すところは「よりわかりやすく、より具体的に」ということのようだ。解説の文字数は変わらないのに、説明がより具体的になっていたりする。つまり非常にコンパクトに簡潔な解説を書いて、日頃本を読まない若い世代の関心をそそるように書き改めている。

人間失格 太宰治
 (2010年コピー)自伝であり、遺書でもある太宰治の最高傑作!
 (2011年コピー)人間失格は葉蔵か?太宰治か?

 今年のコピーは「問題提起」した言葉となった。解説もコピーにあわせてミステリアスな冒頭の設定を「三枚の写真とともに渡された男の手記には、その陰惨な半生が綴られていた」のように、うまくまとめられた。

銀河鉄道の夜 宮沢賢治
 (2010年コピー)切ない物語に、心がしんとなる。
 (2011年コピー)切なくて、優しくて、美しい物語。

 どっちがいいという比較をするまでもないが、これはおそらくナツイチの「銀河鉄道の夜」の表紙が、例の「テガミバチ」の漫画家によるイラストなので、これ以上叙情的な言葉を尽くす必要はないという事じゃないかな。そう考えれば、今年のコピーの「やさしさ」がすんなりと頭に入ってくる。

遠野物語 柳田国男
 (2010年コピー)神様や妖怪たちの世界が無性に懐かしい。
 (2011年コピー)遠野は、神や妖怪のワンダーランドだ。

 カバーが、メルヘンな「はち」から「ぬらりひょんの孫」の漫画家の描く老獪な老人の絵にかわったことで、思い切った「言い切り」「のコピーに変わった。

娼年 石田衣良
 (2010年コピー)二十歳の夏−ぼくは『娼夫』となった。
 (2011年コピー)人生もセックスも退屈だった夏。ぼくは娼夫になった。


 「ぼくは娼夫になった」というコピーは変わらないが、前半がより刺激的になった。ただし、それには訳がある。続編にあたる「逝年(せいねん)」という作品が並んで紹介されているからだ。そのコピーが「あなたの、最期の人になる」というきわめて切ない言葉になっている。こちらをひきたてるための「刺激的」なコピーであるのは明らかだろう。

岳物語 椎名誠
 (2010年コピー)”おとう”はいつだって息子を見守っている。
 (2011年コピー)元気いっぱいな坊主頭を父はこんなに楽しんでいる。

 コピーから「おとう」が消えて「父」になった。また、解説でも「シーナ家」が「椎名家」に変わっている。今年の解説やコピーを書いた担当者は、椎名誠の読者ではないことがわかる。あるいは、ターゲットとなる中高年にとって「椎名誠とは何者か?」という時代がやってきたという現実を見据えた担当者配慮なのかもしれない。いずれにしろ、ちょっと寂しい。

東京バンドワゴン
 (2010年コピー)東京下町の古本屋。ワケあり大家族の大騒動。
 (2011年コピー)懐かしくて、温かい下町大家族の春夏秋冬。

 ふーむ。とくに「わかりやすいコピー」に変更しようとしているわけでもないのか。

正義のミカタ 本多孝好
 (2010年コピー)ぼくは負け犬でも、いじめられっ子でもない。
 (2011年コピー)ださい。でも、よかった。それが、僕のやり方だ。

 今年のコピーはもたついて分かりにくくなっているように見える。でも、実は解説文がとってもコンパクトにまとまっていて、それでいて昨年の文章よりも具体的でわかりやすくなった。その分、コピーは煽りが効いた言葉に変わったわけだ。

MOMENT 本多孝好
 (2010年コピー)人は人生の終わりに誰を思い、何を願うのか。
 (2011年コピー)人生最期の願いは復讐? 告白? 愛されること?

 昨年のコピーは観念的すぎる。主人公の具体的な願いを列挙した今年のコピーはわかりやすい。

[今年新たに入った本(61冊)]
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木  江國香織
夢十夜・草枕  夏目漱石
僕は運動おんち  枡野浩一
坊っちゃん  夏目漱石
働く女  群ようこ
水滸伝 (一) 曙光の章  北方謙三
神々の山嶺(上・下)  夢枕獏
真夜中のマーチ  奥田英朗
笑う招き猫  山本幸久
黒笑小説  東野圭吾
荒野へ  ジョン・クラカワー
君に舞い降りる白  関口尚
確かに生きる おちこぼれたら這い上がればいい  野口建
王妃の館(上・下)  浅田次郎
もものかんづめ  さくらももこ
スローグッドバイ  石田衣良
さよならをするために  唯川恵
さくら日和  さくらももこ
あの頃ぼくらはアホでした  東野圭吾
ZOO(1、2)  乙一
瑠璃でもなく、玻璃でもなく  唯川恵
楊令伝(一)玄旗の章  北方謙三
平成大家族  中島京子
風花  川上弘美
舞姫  森鴎外
鳩の栖  長野まゆみ
凍える月(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season V)  村山由佳
池上彰の大衝突 終わらない巨大国家の対立  池上彰
知的な痴的な教養講座  開高健
逝年  石田衣良
精神科ER―鍵のない診察室  備瀬哲弘
生きること学ぶこと  広中平祐
清兵衛と瓢箪・小僧の神様  志賀直哉
人生がラクになる心の「立ち直り」術  斎藤茂太
進学電車〜君と僕の部屋〜  みゆ
新選組 幕末の青嵐  木内昇
消せない告白(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season V)  村山由佳
小説こちら葛飾区亀有公園前派出所  秋本治・原作
十七歳だった  原田宗典
失われた森  レイチェル・カーソン
腰痛探検隊  野秀行
午前0時の忘れもの  赤川次郎
午後の音楽  小池真理子
鼓笛隊の襲来  三崎亜記
九時まで待って  田辺聖子
九つの、物語  橋本紡
奇跡  岡本敏子
怪盗ルパン 奇巌城  ルブラン
科学の扉をノックする  小川洋子
マゾヒズム小説集  谷崎潤一郎
マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン  小路幸也
プリズムの夏  関口尚
ひゃくはち  早見和真
なげださない  鎌田實
しのびよる月  逢坂剛
さよならの微熱  加藤千恵
ぐうたら社会学  遠藤周作
おれたちの街  逢坂剛
おばさん未満  酒井順子
あの空の下で  吉田修一
8年  堂場瞬一


[今年消えた本(73冊)]
明日の約束(おいしいコーヒーのいれ方 Second Season ll)  村山由佳
本当はちがうんだ日記  穂村弘
聞き屋 与平 江戸夜咄草  宇江佐真理
氷姫  カミラ・レックバリ
美晴さんランナウェイ  山本幸久
白夜行  東野圭吾
白い手  椎名誠
二十億光年の孤独  谷川俊太郎
注文の多い料理店  宮沢賢治
銭売り賽蔵  山本一力
千年樹  荻原浩
昔の恋人  藤堂志津子
青のフェルマータ  村山由佳
精神科ER―緊急救命室  備瀬哲弘
硝子のドレス  北川歩実
少年少女漂流記  古屋x乙一x兎丸
小悪魔A  蝶々・伊東明
女櫛  平岩弓枝
初恋温泉  吉田修一
春日局  杉本苑子
十五少年漂流記  ジュール・ヴェルヌ
蛇行する川のほとり  恩田陸
蛇にピアス  金原ひとみ
失われた町  三崎亜記
光の帝国 常野物語  恩田陸
幻夜  東野圭吾
肩ごしの恋人  唯川恵
君に届け  下川香苗
空をつかむまで  関口尚
空は、今日も、青いか?  石田衣良
救命センターからの手紙  浜辺祐一
機関車先生  伊集院静
漢方小説  中島たい子
海を抱く  村山由佳
回想電車  赤川次郎
夏から夏へ  佐藤多佳子
汚れつちまつた悲しみに……  中原中也
永遠の放課後  三田誠広
映画篇  金城一紀
異国トーキョー漂流記  高野秀行
悪党たちは千里を走る  貫井徳郎
愛してよろしいですか?  田辺聖子
ローマから日本が見える  塩野七生
ももこの話  さくらももこ
マリア様がみてる  今野緒雪
マイナス・ゼロ  広瀬正
ベリーショート  谷村志穂
ハニー ビター ハニー  加藤千恵
ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎噺  田中啓文
はちノート絵日記  集英社文庫編集部編
なつのひかり  江國香織
トラちゃん  群ようこ
となり町戦争  三崎亜記
でかい月だな  水森サトリ
でいごの花の下に  池永陽
チェ・ゲバラの遙かな旅  戸井十月
たけくらべ  樋口一葉
たいのおかしら  さくらももこ
ダーティ・ワーク  絲山秋子
そうだったのか!中国  池上彰
スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン  小路幸也
ショートソング  枡野浩一
シャーロック・ホームズ傑作選  コナン・ドイル
ジャージの二人  長嶋 有
グラビアの夜  林 真理子
くちぶえサンドイッチ  松浦弥太郎
がんばらない  鎌田實
オリガ・モリソヴナの反語法  米原万里
オー・マイ・ガアッ!  浅田次郎
いつか白球は海へ  堂場瞬一
あなたへの日々  唯川恵
1ポンドの悲しみ  石田衣良
「捨てる力」がストレスに勝つ  斎藤茂太

(2011/9/7初出)
posted by アスラン at 12:49| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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