それより小説の選定という意味では、「新潮文庫の100冊」「ナツイチ」「発見。角川文庫」のそれぞれについて、2005年VS.2006年の比較記事は、ややお役に立てるかもしれない。それにしても比較自体うがった見方しかしていないので、実はどれが読みやすいかとかどれが面白いかとか、それよりも何よりもどれが感想文を書きやすいかなんて情報はこれっぽっちも書かれてないのです。申し訳ありません(何を謝ってるんだか…。)
とっとと本題に移ろう。それぞれの比較記事の最後を飾るのは、3つの文庫キャンペーンの比較だ。といっても元々出版社お抱えの作家がいたり、作家は同じでも出版している作品は別々だったりと、差分を吟味してもきりがないので、この比較記事は3つのキャンペーンで共通な部分をとりあげる。言ってみれば「すっごく定番!」ってことです。うがった言い方をすれば「すっごく月並み!」ってことかもしれない。でも定番であり月並みな小説や作家だからこそ、読めば面白いし、感動を保証してくれるって事でもあるだろう。
今回は一年前の比較記事の内容との差分もとりあげる。つまり2005年のトレンドと2006年のトレンドの違いが分かるってわけだ。
まずは3社共通の作家、2社共通の作家のリストから始めよう。色つきの作品は、ピンクが3社共通作品、青が2社共通作品だ。
[3社共通]
(新潮:新、集英社:ナ、角川:角)
芥川龍之介
羅生門・鼻 新角(角川のみ「羅生門・鼻・芋粥」)
蜘蛛の糸・杜子春 新
地獄変 ナ
江國香織
号泣する準備はできていた 新
神様のボート 新
泳ぐのに、安全でも適切でもありません ナ
薔薇の木、枇杷の木、檸檬の木 ナ
とるにたらないものもの ナ
落下する夕方 角
泣かない子供 角
恩田陸
六番目の小夜子 新
光の帝国 常野物語 ナ
ネバーランド ナ
ねじの回転(上・下) ナ
ドミノ 角
角田光代
キッドナップ・ツアー 新
だれかのことを強く思ってみたかった ナ
幸福な遊戯 角
愛がなんだ 角
小池真理子
恋 新
夜の寝覚め ナ
狂王の庭 角
太宰治
人間失格 新ナ角(角川のみ「人間失格・桜桃」)
走れメロス 新角
夏目漱石
こころ 新ナ角
坊っちゃん 新角
宮部みゆき
火車 新
R.P.G ナ
ブレイブ・ストーリー(上・中・下) 角
今夜は眠れない 角
夢にも思わない 角
あやし 角
[2社共通]
赤川次郎
ふたり 新
神隠し三人娘 怪異名所巡り ナ
石田衣良
4TEEN 新
エンジェル ナ
娼年 ナ
スローグッドバイ ナ
遠藤周作
海と毒薬 新
ほんとうの私をもとめて ナ
大崎善生
九月の四分の一 新
パイロットフィッシュ 角
アジアンタムブルー 角
大沢在昌
ダブル・トラップ ナ
秋に墓標を(上・下) 角
小川洋子
博士の愛した数式 新
偶然の祝福 角
荻原浩
コールドゲーム 新
なかよし小鳩組 ナ
乙一
夏と花火と私の死体 ナ
暗黒童話 ナ
ZOO(1・2) ナ
失はれる物語 角
さみしさの周波数 角
GOTH 夜の章/僕の章 角
さくらももこ
さくらえび 新
あのころ ナ
まる子だった ナ
ももこの話 ナ
重松清
小さき者へ 新
ナイフ 新
疾走(上・下) 角
かっぽん屋 角
司馬遼太郎
燃えよ剣(上・下) 新
司馬遼太郎の日本史探訪 角
筒井康隆
最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作選1 新
時をかける少女 角
壺井栄
二十四の瞳 新角
林真理子
年下の女友だち ナ
聖家族のランチ 角
東野圭吾
怪笑小説 ナ
毒笑小説 ナ
分身 ナ
鳥人計画 角
探偵倶楽部 角
殺人の門 角
星新一
ブランコのむこうで 新
きまぐれロボット 角
三浦綾子
塩狩峠 新
氷点(上・下) 角
三島由紀夫
金閣寺 新
不道徳教育講座 角
宮沢賢治
新編 銀河鉄道の夜 新
注文の多い料理店 角
森絵都
永遠の出口 ナ
アーモンド入りチョコレートのワルツ 角
つきのふね 角
DIVE!!(上・下) 角
唯川恵
ため息の時間 新
愛しても届かない ナ
肩ごしの恋人 ナ
ベター・ハーフ ナ
吉本ばなな(よしもとばなな)
ハゴロモ 新
キッチン 新角
カフカ
変身 新角
ルイス・キャロル
不思議の国のアリス 新ナ(ナツイチは「ふしぎの国のアリス」)
サンテグジュペリ
星の王子さま 新ナ
シェイクスピア
ロミオとジュリエット 新角(角川は「新訳 ロミオとジュリエット」)
新訳 ハムレット 角
ジュール・ヴェルヌ
十五少年漂流記 新角
トルストイ
人生論 新角(角川は「新版 人生論」)
3社共通の作家の顔ぶれは実はさして去年と変わっていない。特徴はと言えば、
・古典的作品を残した文豪(芥川、太宰、漱石)
・流行作家しかも多作(江國、恩田、角田、小池、宮部)
という二種類に分かれるようだ。
最初の古典的作品には読書感想文の素材になりやすいという意味も含まれる。特に「人間失格」と「こころ」は一昨年、昨年と引き続き今年も3社共通作品であり、これ以外には3社共通作品はない。
流行作家の方だが、女性ばかりという点で女性流行作家と言い換えた方がよさそうだ。おそらくは女性作家の方が本が売れるという出版社の下心があるのかもしれない。
今年は3社共通にそれぞれのグループから1名ずつ加わった。文豪の芥川龍之介、女流作家の小池真理子だ。2社共通の方は昨年と比べるとだいぶ増えた。では2005年と2006年を比較して、作家の躍進組と後退組についてリストアップしてみよう。
[躍進組]
荻原浩(なし-->2社)
トルストイ(なし-->2社)
芥川龍之介(2社-->3社)
小池真理子(2社-->3社)
石田衣良(1社-->2社)
遠藤周作(1社-->2社)
大崎善生(1社-->2社)
大沢在昌(1社-->2社)
筒井康隆(1社-->2社)
林真理子(1社-->2社)
星新一(1社-->2社)
三浦綾子(1社-->2社)
宮沢賢治(1社-->2社)
森絵都(1社-->2社)
ルイス・キャロル(1社-->2社)
サンテグジュペリ(1社-->2社)
シェイクスピア(1社-->2社)
[後退組]
坂東眞砂子(2社-->なし)
京極夏彦(2社-->1社)
塩野七生(2社-->1社)
辻仁成(2社-->1社)
天童荒太(2社-->1社)
群ようこ(2社-->1社)
山本文緒(2社-->1社)
コナン・ドイル(2社-->1社)
躍進組17人と後退組8人という結果から、2006年は共通する作家が増えているという傾向がわかる。この中でも特に注目は、荻原浩とトルストイだ。2005年にはいずれも掲載されていない作家だったが、今年は2社で掲載されている。
荻原浩は言うまでもなく若年性アルツハイマーにかかった中堅サラリーマンの物語「明日の記憶」や「神様から一言」で人気急上昇の作家だ。といっても今回キャンペーンでの品揃えは、
コールドゲーム(新)
なかよし小鳩組(ナ)
なのでかなり肩すかしだ。「明日の…」も「神様…」もいずれも光文社なので致し方ない。
さてでは一方のトルストイはなんででしょう?トルストイ生誕ほにゃにゃら周年とかイベントがあるのかと思えばさにあらず。単に新潮文庫と角川文庫がそろって取り上げただけだ。それも作品まで同じ。昨年もそうだったが仲のよろしいことで…。
一方、後退組の注目は2社共通から今年は撤退になってしまった坂東眞砂子だ。
13のエロチカ(角)
曼荼羅道(まんだらどう)(ナ)
が昨年のリストだが、どちらも消えた。なんでと言えばいいのか。実は作家も作品も馴染みがないのでなんとも言えないのだが、人間の生と死、エロスを根源的に作品に盛り込む玄人受けする作風が今回避けられたのかもしれない。ナツイチのナチュラル路線からすれば、もっと分かりやすい作品が代わりに入ってしまったというところだろうか。
では先ほどのリストで色づけしたが、3つのキャンペーンの共通作品を取り上げよう。さきほど述べたように3社共通作品は昨年と変わらず。2社共通作品はずいぶんと増えた。以下青字で示してある。なお各社のキャッチコピーも併記した。
[共通作品]
太宰治「人間失格」 新ナ角(角川のみ「人間失格・桜桃」)
新:この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される。
ナ:生命の淵に追いつめられた太宰の、これは自伝であり遺書であった。
角:世代を超えて読みつがれる、太宰の自伝的小説
夏目漱石「こころ」 新ナ角
新:友情と恋の、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか…
ナ:親友を裏切って得た愛の結末は!?人間の心の葛藤を深く鋭く描く。
角:自我の奥深くに巣くっているエゴイズムと罪の意識を追究
芥川龍之介「羅生門・鼻」 新角(角川のみ「羅生門・鼻・芋粥」)
新:ワルに生きるか、飢え死にするかニキビ面の若者は考えた…
角:「今昔物語」が題材の表題作ほか初期短編集
太宰治「走れメロス」 新角
新:友情を、青春を、愛を描く。太宰は、21世紀を生きる僕たちの心に迫る。
角:信頼と友情の尊さ、人間の美しさを描く短編
夏目漱石「坊っちゃん」 新角
新:「金八先生」よりカッコいい。昔はこんな人、いたんだなあ…
角:江戸っ子坊っちゃんが四国・松山で大暴れする痛快ストーリー
壺井栄「二十四の瞳」 新角
新:こんな先生、こんな生徒だったらなぁ。だからこそ、皆に読んでもらいたい。
角:瀬戸内海を舞台に戦争の不幸を訴えた名作
吉本ばなな「キッチン」 新角
新:私の言葉はどこまであなたの孤独にとどくのだろう
角:大切な人の”死”を通して”生”の輝きを伝える
フランツ・カフカ「変身」 新角
新:読み始めてすぐに「何故だ?」と思い、読み終えて直後に「何故だ!」と叫ぶ。
角:非現実的な物語でリアルな悲哀を表現
ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」 新ナ(ナツイチは「ふしぎの国のアリス」)
新:日常生活から逃げたいと願っているあなた、いつか、アリスになれるかも。
ナ:あなたもこの夏休み、アリスとふしぎの国で遊んでみませんか?
サンテグジュペリ「星の王子さま」 新ナ
新:世界中の子供が、そして大人が、読んできた。世紀を越えるベストセラー。
ナ:肝心なことは目では見えない…。真実を見る「心の目」を失っていませんか?
シェイクスピア「ロミオとジュリエット」 新角(角川は「新訳 ロミオとジュリエット」)
新:13歳のジュリエットは、悲劇の恋から一歩も引こうとしませんでした。
角:時代を超えて人々に愛される、悲恋の物語
ジュール・ヴェルヌ「十五少年漂流記」 新角
新:しなやかさとしたたかさ、そして仲間。子どもだけの力で、どこまでやれるか。
角:冒険小説の元祖とも言うべき世界的名著
トルストイ「人生論」 新角(角川は「新版 人生論」)
新:「人間の生命は理性によって完成される」。文豪のこの言葉は君のためにある。
角:人間の生命と真の愛を論じた人生教本・初歩編
昨年と比べると2社共通作品は8作品も増えている。そのうち6作品が新潮文庫と角川文庫の共通作品だ。やはりこの二つの出版社は張り合っている。特にさきほど取り上げたトルストイの作品が「人生論」でガチンコになっているのは興味深い。どこから聞きつけてきたんだろう、お互い。
新潮とナツイチが張り合う2作品というのが面白い。いずれも「不思議の国のアリス」と「星の王子さま」というファンタジーで、ナツイチが頑張るのもなるほどと思わせる。特に「星の王子さま」は昨年岩波書店の独占翻訳権が消滅したのを機に、さまざまな版が出たのでここぞとばかり文庫キャンペーンに入れたくなるのはわかる。それまでは新潮文庫だって肝心の「星の王子さま」ではなくて、「夜間飛行」などを入れていたのだから今回は感無量というところではないだろうか。
参考
『発見。角川文庫2005』VS.『発見。角川文庫2006』
『ナツイチ2005』VS.『ナツイチ2006』
『2005年新潮文庫の100冊』VS.『2006年新潮文庫の100冊』
2005年「新潮文庫の100冊VS.ナツイチVS.発見。角川文庫」




宮部みゆきの「理由」まだ読んだ事ないので、今度読んでみます。
これからも、宜しくお願いします。
「理由」をまだ読んでないなんて幸せですね。「火車」同様の楽しい読書体験が待ち受けていますよ、きっと。
こちらこそよろしく。
この企画、とても面白くて、参考になりました。なるほどねー。
フェアのオマケですが、結局一番愛用したのは「Yonda?」のマスコットでした。
ケロロ軍曹のブックカバーは恥ずかしすぎて……。。。。
今年のフェアでは、ケロロ軍曹のブックカバーぜひゲットしてみます。
って、もうケロロじゃないね、きっと。
あくまで個人的な書き込みなのであしからず。。。。
角川の仕事をしているので、角川以外のフェアの状況を知れて興味深かったです。
よくここまで調べましたね。。。
すごい。
これからも、色々と教えてください。
で、宣伝になっちゃいますけど、2冊買うとブックカバーがあたるので、ぜひ応募してみてくださいね。(ま、興味があればですが)
角川でどのような仕事をされているのかは分かりませんが、昨年の記事を「ある編集者」の方も引用されてました。読者だけでなく、編集側の人たちの目に触れているのは意外でした。
教えるなどとは恐れ多いですが、素人なりに感じた事思いついた事はこれからも書いていきたいと思っていますので、御贔屓に。
記事に関連する宣伝ならば時と場合によってはOKです。あまりに本文と関係のない宣伝も少なくないんで…。
ブックカバーをもらうために2冊買わないといけないんですよね。がんばります(笑)。