2006年07月26日

『ナツイチ2006』VS.『ナツイチ2005』

 夏の文庫キャンペーンの恒例VS.シリーズ。新潮文庫に引き続いては集英社文庫の「ナツイチ」を取り上げよう。

 毎年思うのだが、「新潮文庫の100冊」は作品の充実度に自信があるのかキャンペーン自体は地味でパンフレットにもあまり工夫は見られないし、メディアへの露出度も低い。それに較べると集英社文庫はここぞとばかりに力を入れてくる。書店の店頭でもテレビまで持ち込んで盛んにCM映像を流しているくらいの力のいれようだ。
 
 ところで今年、「ナツイチ」はがらりと模様替えした。メインキャラクターに蒼井優を迎えて同年代の女性にアピールしたキャンペーンになったのだ。

 一昨年の玉木宏、昨年の佐藤隆太のキャラからはどちらかと言うとウォーターボーイズ的な爽やかさと冒険ゴコロがあふれる「夏イコール青春」をイメージさせた。

 しかし今回は蒼井優のナチュラルさと不思議少女感覚が全面に押し出されている。「ハチミツとクローバー」の映画化・アニメ化をフィーチャーしたメディアミックスとあいまって、まばゆいばかりに女のコの気持ちにフィットしたパンフレットに変身している。

 「ナツイチ」とは何か、という問いかけには、一昨年のキャッチコピーでは「ゼロは何倍したって、ゼロしかない。だけどイチには何かがある。可能性がある。…」と答えていた。つまり若さの無限の可能性を謳い上げていたわけだが、今年のパンフの表紙を見る限り、拍子抜けするくらいシンプルなコンセプトにすり替わっている。
 
好きな本を一冊つくろう。ナツイチ2006

 びっくりでしょ。ところが中身の変わりようがこれまた凄い。一つ一つ挙げてみよう。

 まず目次。

 2005年は「フィクション、ノンフィクション、海外作品」といういたって色気のない分類だったが、2006年は「恋愛・青春、感動・泣ける、笑える・バラエティ、ミステリー・サスペンス、発見・リラックス、古典・純文学、Special」というラインナップ。ほら、占いとか心理テストの目次みたいでしょ。

 そして作品紹介。

 例えば「恋愛・青春」のジャンルには、以下の前説(マエセツ)が添えられている。
誰かのことを想いながら読む本が、私にとって特別な一冊になる。
このときめきや、せつなさがこの夏を変えるかもしれない。

 そうして女のコは誰かに恋をするかのように恋愛小説に恋をするのだろう。

 さて、作品の紹介文自体は新潮文庫が昨年からの使いまわしだったのとはうってかわって、どの作品ももう一度書き直してある。一冊を紹介する文字数が減ったからという事もあるが、全くの書き直しも結構あり、今回のキャンペーンへの姿勢がうかがえる。

 紹介文が削られた分工夫がしてあって、本の内容を星の数で表現したアイキャッチャーがついている。例えば石田衣良「エンジェル」は

  衝撃    :★★★★
  結末の意外性:★★★★★
  泣ける   :★★★★★

となる。

 しかし読者が本当に「泣ける」のは、「次はコレ!」というチャートだ。これはどれが一冊読んだ人が次に何を読めばいいかオススメしてくれる仕組み。役に立つかどうかは実際に利用してみないとなんとも言えないが、「もう一冊読んでくださいね」という出版社側の涙ぐましいアピールが感じられて泣けてくる。当然ながら次を読んだらその本に「次はコレ!」が待ち受けているから、次々とチャートに従って読み継いでいく事も可能だ。

 そこでわたくし読書ジャンキーの好奇心がムクムクともたげてきました。知りたい事が二つあります。

 (a)一体何冊までチャートに従って読めるのか?何から始めれば一番長く読み継げるか?
 (b)最後にチャートがたどり着く小説で最も多いのは何か?

 調べてみました。これすっごく労力がいりました。フ〜。

 (a)のもっとも多く読めるのは東野圭吾「分身」で始めた場合で12冊。ではチャートをたどってみましょう。
東野圭吾「分身」→逢坂剛「百舌の叫ぶ夜」→大沢在昌「ダブル・トラップ」→横山秀夫「第三の時効」→ルイス・パーデュー「ダ・ヴィンチ・レガシー」→真保裕一「誘拐の果実」→宮部みゆき「R.P.G」→桐野夏生「リアル・ワールド」→村上龍「69」→森絵都「永遠の出口」→野中柊「小春日和」→米原万里「オリガ・モリソブナの反語法」→(横山秀夫「第三の時効」)

 ミステリーを総ざらえして行くかと思えば、桐野夏生から村上龍へと高校生つながりでいきなり青春小説へとジャンプしていく。そして少しずつ人間の奥深さへとスライドしていくと、あ〜ら不思議。横山秀夫「第三の時効」にループして終了。

 もっとも短いのは落合ゆかり「ハチミツとクローバー film story」と「ラブ★コン」の各1冊。「次はコレ!」がついてないのだ。なんだ、つまらない。面白いところでは、
金原ひとみ「蛇にピアス」→夏目漱石「こころ」→太宰治「人間失格」→(金原ひとみ「蛇にピアス」)

太宰治「人間失格」→金原ひとみ「蛇にピアス」→夏目漱石「こころ」→(太宰治「人間失格」)

夏目漱石「こころ」→太宰治「人間失格」→金原ひとみ「蛇にピアス」→(夏目漱石「こころ」)

で、各3冊。しかしこの並び。どれから読んでも落ち込んでしまいそうだ。

 (b)のチャートの行き着く先ランキングベスト5は以下の通り。
1.夏目漱石「こころ」    17
2.金原ひとみ「蛇にピアス」 14
3.中島らも「ガダラの豚」  11
4.唯川恵「肩ごしの恋人」  6
5.横山秀夫「第三の時効」  4

 ここでも夏目漱石「こころ」が堂々の一位だが、「蛇にピアス」の二位が光る。「ナツイチ2006」の目玉商品と見たがどうだろう。

 これ以外にも紹介以外に欄外のコラムがいろいろ用意されている。先ほどの目次で挙げたジャンルごとに「読書の達人」というコーナーがあり、どういったシチュエーションで読めばいいか、何を読書のお供に準備すればいいかをナビゲートしてくれる。「恋愛・青春編」ではアロマオイルや紅茶とスイーツ。「笑える・バラエティ編」では、バランスボールにミントキャンディ。「ランチタイムにひとりお弁当を食べながら。」と書かれているとなにやら屋上や公園といった風景まで見えてくるようだ。やっぱり女性向けナツイチだね。

  最後に、いつものように「今年新しく入った本」と「今年消えた本」のリストを挙げる。リストの太字は「今年新しく入った作家」と「今年消えた作家」だ。と言っても今回の「ナツイチ」比較は女性向けナツイチという事で尽きているので、以下は蛇足かもしれない。

[今年新しく入った本(52冊)]

ああ言えばこう食う 阿川佐和子/檀ふみ
愛しても届かない 唯川恵
愛はゆるやかに熱く(上・下) サンドラ・ブラウン
秋の猫 藤堂志津子
あきらめない 鎌田實
あきらめない人生 瀬戸内寂聴
あなた、今、幸せ? 槙村さとる/キム・ミョンガン
あのころ さくらももこ
インドでわしも考えた 椎名誠
海を抱く BAD KIDS 村山由佳
永遠の出口 森絵都
お縫い子テルミー 栗田有起
オリガ・モリソヴナの反語法 米原万里
怪笑小説 東野圭吾
ガダラの豚 中島らも
小春日和 野中柊
湖畔のテラス 赤川次郎
地獄変 芥川龍之介
柴笛と地図 三木卓
消費セラピー 辛酸なめ子
ZOO 乙一
スバラ式世界 原田宗典
第三の時効 横山秀夫
ダブル・トラップ 大沢在昌
だれかのことを強く思ってみたかった 角田光代/佐内正史・写真
知的な病的な教養講座 開高健
注文の多い料理店 宮沢賢治
毒笑小説 東野圭吾
年下の女友だち 林真理子
とるにたらないものもの 江國香織
なかよし小鳩組 荻原浩
夏雲あがれ(上・下)宮本昌孝
ねじの回転 恩田陸
働く女 群ようこ
ハチミツとクローバー 落合ゆかり
ふしぎの国のアリス ルイス・キャロル
プリズムの夏 関口尚
ベター・ハーフ 唯川恵
蛇にピアス 金原ひとみ
星の王子さま サンテグジュペリ
ほんとうの私を求めて 遠藤周作
MOMENT 本多孝好
百舌の叫ぶ夜 逢坂剛
ももこの話 さくらももこ
優しい秘密 おいしいコーヒーのいれ方VIII 村山由佳
誘拐の果実 真保裕一
夜の寝覚め 小池真理子
ラブ★コン ココロ直
リアルワールド 桐野夏生
リトル ターン ブルック・ニューマン
60歳でボケる人80歳でボケない人 フレディ松川
笑う招き猫 山本幸久


[今年消えた本(51冊)]

あなたには帰る家がある 山本文緒
あの頃ぼくらはアホでした 東野圭吾
イブの憂鬱 唯川恵
お父さんのバックドロップ 中島らも
オー・マイ・ガアッ! 浅田次郎
おわらない夏 小澤征良
学校の階段 岡崎弘明
CUTTING リストカットする少女たち スティーブン・レベンクロン
神隠し三人娘 怪異名所巡り 赤川次郎
神の手 望月諒子
がんばらない 鎌田實
機関車先生 伊集院静
きもの365日 群ようこ
虚飾の愛を逃れて サンドラ・ブラウン
斬られ権佐 宇江佐真理
恋する歌音(カノン) こころに効く恋愛短歌50 佐藤真由美
ここまでわかったボケる人ボケない人 フレディ松川
坂の途中 おいしいコーヒーのいれ方 VII 村山由佳
さるのこしかけ さくらももこ
死ぬほど好き 林真理子
シャーロック・ホームズ傑作選 コナン・ドイル
シュガーレス・ラヴ 山本文緒
存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ
たいのおかしら さくらももこ
ダーク・ムーン(上・下) 馳星周
翼はいつまでも 川上健一
天帝妖狐 乙一
どしゃぶりの時代 魂の磨き方 落合信彦
どすこい。 京極夏彦
ナイロビの蜂 上・下 ジョン・ル・カレ
なつのひかり 江國香織
21世紀サバイバル・バイブル 柘植久慶
爆笑問題の今を生きる! 爆笑問題
裸足と貝殻 三木卓
天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両 浅田次郎
反乱のボヤージュ 野沢尚
柩(ひつぎ)の中の猫 小池真理子
白夜行 東野圭吾
漂泊の牙 熊谷達也
不敵雑記 たしなみなし 佐藤愛子
ベリーショート 谷村志穂
マーシーの夏 ドロシー・ギルマン
曼荼羅道(まんだらどう) 坂東眞砂子
みどりの月 角田光代
めまい 唯川恵
ものいふ髑髏(どくろ) 夢枕獏
山背郷 熊谷達也
病む月 唯川恵
夕暮れに抱擁を 上・下 サンドラ・ブラウン
夜明けまで1(ワン)マイル somebody loves you 村山由佳
レックス・ムンディ 荒俣宏


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posted by アスラン at 19:11| Comment(4) | TrackBack(3) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今年のナツイチイメージキャラクターは、蒼井優さんで、すごく良いですね。プライベートでも本が好きそうな彼女の印象が説得力(?)みたいなものがあります。「ハチクロ」ファンが支持するかも!?
Posted by シュウ at 2006年07月28日 22:41
シュウさん、コメントありがとう。

ナツイチのCMでは蒼井優が物思いにふけるかのように本を読む姿に確かに説得力を感じますね。

やはり単にアイドルっぽいキャラを器用するだけでなく、本が好きだというメッセージが伝わってくる人を採用すべきで、その意味でナツイチの蒼井優は大正解だと思います。
Posted by アスラン at 2006年08月06日 01:34
なんかナツイチよくなった?
と思ってました。
納得。
Posted by 野中繭 at 2006年09月28日 21:23
野中繭さん、コメントどうもありがとう。(といっても一月遅れのフォロー、誰が気づくだろうか。)
Posted by アスラン at 2006年10月25日 02:39
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