2006年07月14日

『新潮文庫の100冊(2006年)』VS『新潮文庫の100冊(2005年)』

 今年もまた夏の文庫キャンペーンが始まった。「新潮文庫の100冊」「発見。角川文庫」「ナツイチ」のラインナップが書店の特設コーナーに平積みで並ぶのも例年どおりだ。この平積みがずらっと並ぶと「ああ、夏が来たなぁ」と言う感慨が訪れる。夏の風物詩と言っていいだろう。

 今年もさっそくキャンペーン用小冊子を手に入れる。というかとっくに手に入れていたが中身を読む時間がなく放置していた。自宅には昨年夏から取っておいた小冊子が一年ぶりの眠りから覚めようとしている。今年も昨年同様、前年のラインナップとの比較、キャンペーン自体の比較を行ってみたい。まずはやはり「新潮文庫の100冊」からだ。

 今年の「ナツイチ」は映画『ハチミツとクローバー』をフィーチャーして女優蒼井優を起用している。その華々しさとはうってかわって「新潮文庫の100冊」の淡泊さ・地味さは毎年の事だ。定番の黄色、定番のYonda!パンダのイラスト。全くといっていいほど色気がない。しかし今年の色気のなさは昨年以上なのだ。

 2005年の小冊子には

 ・読者が選んだ新潮文庫BEST20
 ・新潮文庫の100人

というコーナーがあった。特に「新潮文庫の100人」は100冊の本の作家たちのプロフィールが書かれていてとっても親切とっても良心的な企画だった。このいずれもが今年はない。代わりの企画も一切無いから工夫がないと言われても致し方ないだろう。

 さて昨年気づいて驚いたのは「新潮文庫の100冊」は必ずしも100冊のラインナップではないという事だった。これは単なるキャンペーンの総称であって100冊は目安に過ぎない。2004年は103冊だったし、2005年は100人の作家から構成されたラインナップだった。今年はというと、作品名索引の欄外に

 
2006年は100人の作家の作品を自身をもっておすすめします。


と書いてあるからには昨年同様に100人の作家がラインナップされているのだろう。と思ったら今年も新潮社さんは驚かしてくれる。なんと98人しかいない!いくら目安だ総称だとは言え、「100人の作家の作品」と書いている以上は98人しかいないってのはないんじゃないだろうか。

 作品全体は105冊ある。そのうち「今年新しく入った本」が33冊、「今年消えた本」が31冊あったから昨年より入れ替わり数はやや少ない。以下にリストアップする。

 なお、以下のリストで青字は「今年新しく入った作家」「今年消えた作家」のそれぞれ作品である。

 さらに赤字は「昨年消えて今年戻ってきた再入閣本」と、「昨年新しく入ってたった一年で消えていく本」である。

[今年新しく入った本(33冊)]
(青字または太字:今年新しく入った作家の作品、赤字:昨年消えて今年戻ってきた作品)

伊豆の踊子 川端康成
海と毒薬 遠藤周作
スキップ 北村薫
砂の器 松本清張
魔性の子 小野不由美
友情 武者小路実篤
羅生門・鼻 芥川龍之介
坊っちゃん 夏目漱石
ロミオとジュリエット シェイクスピア

阿部一族・舞姫 森鴎外
楽隊のうさぎ 中沢けい
カンバセイション・ピース 保坂和志
菊次郎とさき ビートたけし
九月の四分の一 大崎善生
ゲーテ格言集 ゲーテ
号泣する準備はできていた 江國香織
コールドゲーム 荻原浩
重力ピエロ 伊坂幸太郎
人生論 トルストイ
診察室にきた赤ずきん 大平健
小さき者へ 重松清
東京湾景 吉田修一
敦煌 井上靖
博士の愛した数式 小川洋子
ハゴロモ よしもとばなな
走れメロス 太宰治
八甲田山死の彷徨 新田次郎
ビルマの竪琴 竹山道雄
4TEEN 石田衣良
放浪記 林芙美子
星の王子様 サン=テグジュペリ
ラッシュライフ 伊坂幸太郎
若き数学者のアメリカ 藤原正彦


[今年消えた本(31冊)]
(青字または太字:今年消えた作家の作品、赤字:昨年新しく入ってたった一年で消えていく作品)

あすなろ物語 井上靖
嵐が丘 エミリー・ブロンテ
インディヴィジュアル・プロジェクション 阿部和重
オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎
悲しみよ こんにちは フランソワーズ・サガン
きよしこ 重松清
薬指の標本 小川洋子
小僧の神様・城の崎にて 志賀直哉
さぶ 山本周五郎
屍鬼〔一〕 小野不由美
死者の奢り・飼育 大江健三郎
人生は一度だけ。 唯川恵
ターン 北村薫
智恵子抄 高村光太郎
点と線 松本清張
図書室の海 恩田陸
野菊の墓 伊藤左千夫
花埋み 渡辺淳一
パニック・裸の王様 開高健
ハムレット ウィリアム・シェイクスピア
夜間飛行 サン=テグジュペリ
ロックンロールミシン 鈴木清剛
若きウェルテルの悩み ゲーテ

黄金の羅針盤 フィリップ・プルマン
奇跡の人 新保裕一
山椒大夫・高瀬舟 森鴎外
スタンド・バイ・ミー スティーヴン・キング
沈黙 遠藤周作
日蝕 平野啓一郎
幻世の祈り 家族狩り 天童荒太
雪国 川端康成


 以上のリストをどう読み解けばいいかというと、赤字(太字ではない)の作品の多くがほぼ一年おきに入ったりする作品だと思う。作家も共通していて、例えば北村薫が「ターン」と「スキップ」が交互に入ったり、松本清張が「点と線」と「砂の器」を入れ替えたりしている。

 特徴としては「今年新しく入った本」の新しい作家の作品(青字)は、意外と本当に新しい人が少なくて古典的名作の久々の入閣というのが目立つ。林芙美子の「放浪記」や新田次郎「八甲田山死の彷徨」、竹山道雄「ビルマの竪琴」などは、僕の中学高校の時の定番だったような気がするが、これはもしかしたら1年ごとの周期ではなく2,3年ごとの周期で出入りしている作品なのかもしれない。

 なお肝心の本の解説だが、新しく入った本以外はほとんど2005年版の解説と変わらない。なのでちょっとした変更があるとかえって目立つ。それもどうして変えたの?と思われる箇所もあるので、うがった読み方だけれど変更点を以下に列挙する。

斉藤綾子「愛より速く」
[コピー]
 2005年版:忘れない。痛いほど愛しあったこと、そして、傷つけあったこと−。
 2006年版:女がみんなこんなだなんて、バレたらまずいよ。マジで。

[解説]
 2005年版:…肉体を捧げるオスに奉仕し、心を許せる女に嵌っていた−。
 2006年版:…肉体を捧げるオスに奉仕し、心の方は女に嵌っていった−。

 う〜ん。コピーはポップな感じを強調して女性読者向けにしたってことだろうか。解説はたぶん「女が女に嵌る」ってニュアンスがわかりやすい表現に変えたんだな。

沢木耕太郎「深夜特急」1
[コピー]
 2005年版:アジア旅行者はみんな読んでる!バックパッカーのバイブルは、ここから始まる。
 2006年版:バックパッカーはみんな読んでる!若き旅人のバイブルは、「これだ。

 アジア旅行限定から若き旅人限定へ。バックパッカーという言葉の認知度が上がった事も関係あるかもしれない。

小澤征爾「ボクの音楽武者修行」
[コピー]
 2005年版:26歳で「世界のオザワ」と言わしめた中田よりもイチローよりもスゴイ挑戦。
 2006年版:40年前に「世界のオザワ」と言わしめた中田よりもイチローよりもスゴイ挑戦。

 「スゴイ」変更だ。年月が経って世界の小澤も年老いたということだろうか。あの小澤征爾が26歳の時にすでに世界に凄いと認められたというニュアンスから、40年前に小澤征爾という人が世界に凄い認められたんだよというニュアンスにシフト。つまりは今の若き読者は中田やイチローは知ってるけど小澤征爾は知らんのだ。

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posted by アスラン at 13:17| Comment(0) | TrackBack(1) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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