2006年05月25日

ブレイブ・ストーリー 宮部みゆき(加筆・修正の上、再掲載)

 読み始めはちょっと辛かった。「模倣犯」のえらく長い中盤でもそば屋のあんちゃんが犯人扱いされる部分が辛くて辛くて「早く話が展開してくれぇ」などと思ったんだけど今回もそれに似た感触があった。

 子供向けにしては辛すぎる話。いや逆に大人が読むと生々しくて辛いのかもしれない。この現実なんとかしてくれぇと思った。だけど、現実世界から幻界へと舞台が変わってからは先を争うように読めた。

 で、気づいたんだけど、これは明らかに子供のためのファンタジーではない。大人のためのファンタジーなんだ。だからファンタジーとしては少々回りくどいくらいに冒頭で現実を書き込んである。それが幻界のストーリーの伏線になっているし、ファンタジーである以上に少年小説・成長物語になっている。そしていつしか忘れかけた少年・少女の心が、現実を生きる僕ら大人を勇気づけてくれるわけだ。

 ところで作中でてくる「ロマンシングストーン・サーガ」は架空のゲーム。
「ロマンシング・サーガ」というのは確かにあったけど。その他に、出てくる魔道士やら杖やら剣はRPGおきまりのキャラやアイテムだけど、現実のRPGと一番違うのは、ワタルが最後まで未熟のままな事だ。その点、ミツルの方がRPGゲームの主人公を体現していると言える。

 ゲームの中ではどんな事をしてもプレイヤーの勝手だし、強い魔法や武器を手に入れれば思うがままの事ができる。でも試されているのは「それが本当の勇気か否か」という点なんじゃないか。そこに宮部なりのRPG批評が入っているような気がする。

 ただ、確かに本書にはRPGの文法を知っているとより楽しめるという要素はあるので、ゲーム好きでない人、RPGの作法を知らない人がとまどう部分はあるかもしれない。

 さらに言えばゲーム感覚で何事も無批判に受け入れたり行動してしまうミツルに、今の子供たちの心象風景の殺伐さを見てしまう人もいるかもしれない。そういう読者はRPGうんぬんよりもゲームに批判的であったりするので、結果的にゲーム世界をモチーフにしたこの手の作品が楽しめないかもしれない。

 現に僕の同僚はこの作品を読んだ際に「現実をゲームとしか思えない子供がいるかと思うと、どこで見かけても子供達の目の色が違って見えてならない」とぼやいていた。実はそれについてはあんまり心配していない。なぜならあの「徒然草」の作者・兼好法師も「最近の日本語(日本人)はけしからん」みたいな事を言っているからだ。つまり昔も今も人間は同じ事を言い続けているのだ。

 一番の問題は、今現在、自分が暮らしてる時代は非常に特殊な時代だと思いたいという個人のエゴではないかと思う。自分が生きてるからには自分が守ってきた世界なり信念は崩れて欲しくないと考えるのが個人のエゴだ。しかし信念も世界も絶えず時代とともに変わっていく。

 何が言いたいかというと、今、目の色が変わっているようにみえる子供達には、僕らのように過去を振り返る視点がない。一目散に前だけを未来だけを見ている。怖いものなどない。僕らは怖い。自分たちの生きてきた証が消されていくのが怖い。だから子供たちが怖いのだ。

 でも、彼らもいつかは学ぶ。彼らもいつかは振り返る。彼らの使う言葉も概念も必ず古びる。そのとき彼らが振り返らずにずっと前を見ていられたら、賞賛の拍手をしたいものだ。しかし、それでは現実を生きていくことはできないだろう。そう、ミツルのように。

 ちなみにテレビゲームに夢中になって挨拶もろくに出来ず「うん、うん」
しか相づちが打てなかった甥っ子も、中学に通ってテニス部でしごかれる当たり前の生活の中で、めでたく普通の男の子になりました。

 ところでゲームに話を戻すと、未熟な方が勝つという変わったRPGがある。たとえば「Moon」というゲームがそうで、勇者(本来のRPGでの主人公)が倒したモンスターたちを助けて「ラブ」を集めるというもの。アンチRPGというアイディアが斬新だった。

 その後「ICO」という「ブレイブ・ストーリー」さながらの少年と少女の勇気を題材にしたゲームが人気を博し、それにはまった著者は世界観に基づいた小説を書いてしまった。いわば「続ブレイブ・ストーリー」という事になるのだろうか。残念ながらゲームそのものを購入して僕自身もはまってしまい、ゲーム終了するまでは小説は封印してしまったので内容については無責任な事しか言えない。(やっぱり読んでしまうべきかなぁ。)

 最近本書は上中下3巻の文庫になった。店頭で見ると懐かしい単行本の装丁そのままを使っているが、はて?上巻の装丁・下巻の装丁をそのまま文庫の上巻、下巻に使っている。では中巻はどの装丁を使っているのだろうか?今度店頭でしっかと確かめてみよう。
(2003年5月15日読了)


(注)本書評は2005年06月14日の記事「ブレイブ・ストーリー 宮部みゆき」の再掲で、大幅加筆・修正をしました。

(注2)文庫版の装丁については書店で確かめてきました。単行本の上巻、下巻の装丁がそのまま文庫本の上巻と下巻に使われています。問題は文庫の中巻ですが、どうやら同じ表紙デザイナーに依頼して新しく描いてもらったようです。

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posted by アスラン at 12:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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