2011年01月30日

よく帰ってきたね、はやぶさ!(その2)

小惑星探査機はやぶさ物語 的川泰宣(2010/11/7読了)
小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅 佐藤真澄(2010/11/20読了)
小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡−挑戦と復活の2592日−  的川泰宣(2010/12読了)
はやぶさ、そうまでして君は−生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話− 川口淳一郎(2011/1/22読了)


 はやぶさが地球に帰還して、その使命を全うして大気圏で燃え尽きた2010年6月13日。その後、「はやぶさ」の事を永遠に忘れる事がないようにと、僕らにはとびきり暑い夏が待ち受けていた。その間にも、はやぶさの奇跡を賞賛する声はひっきりなしに続き、また、はやぶさを一目でも見ようと、はやぶさがそっと地球に送り返したカプセルの特別展示に多くの「にわかはやぶさファン」が足を運んだ。

 そして今、僕らは暑い夏の記憶も鮮やかなままに、とびきり寒い冬を過ごしている。これもまた、はやぶさの事を忘れないために、人知を超えた存在がもたらした〈奇跡〉の一つなのかもしれない。

 はやぶさが地球に帰還する見通しが立ったという新聞記事で、遅ればせながら初めてはやぶさの存在を知った、超にわかはやぶさファンである僕も、この夏から本やムックを読みまくり、人並みのはやぶさフリークになった。はやぶさが成し遂げた科学的・工学的達成の素晴らしさも、文字通り奇跡的としか言いようのない帰還までの7年間の意味も、すでに十二分に知っている。

 だから、はやぶさが戻ってきてカプセルが回収できただけでも感無量であって、たとえサンプルが入っていなかったとしても、はやぶさの栄光がなんら損なわれる事はないと思っていた。「サンプルリターン」のミッションという観点からは、サンプルが手に入らねば「失敗」と言わざるを得ないとしても、僕らにとって「はやぶさの奇跡」はそれだけではない。

 第一に「絶対にあきらめない」という勇気をもらい、第二に「日本の技術、日本人の志も、まだまだ捨てたものではない」という誇りをもらった。これ以上、なにも言う事はないじゃないか。ところが、はやぶさの奇跡は、はやぶさ無き後もとどまる事はなかった。僕らは、まだはやぶさの奇跡を見届けていなかったのだ。

 連日、今か今かとカプセル内部の調査結果の続報を待ち受け、「カプセル内部に目で見える物質はない」という記事にさすがに少しがっかりし、「ナノ単位の極小の物質が多数見つかった」と聞いて、「おっ!」と期待を抱き、ついに「イトカワ由来の物質の存在を確認した」というビッグニュースに、その年最大の喜びを感じた。

 回収したカプセルの2つある部屋のうち、最初の一つの壁面から特殊なヘラでこそげるだけの微粒子をこそぎ落とした後、念のためひっくり返して底を叩いたら、大きめの物質が落ちてきたという記事には、さすがに笑わされた。こんなに愉快な記事はなかった。「なんだよ、最初からそうすればよかったのに」と、日本中のはやぶさファンが笑っただろう。そう、はやぶさの奇跡が僕らに与えてくれたものは、なにより笑顔だったかもしれない。

 つい先日の新聞で、はやぶさがもちかえったイトカワ由来の微粒子の本格調査が始まったと報道された。そう、僕らが一喜一憂していた記事は、小惑星イトカワの構成物質をはやぶさが持ち帰っていたと判明した事を知らせる記事にすぎない。確かな事は、サンプルリターン計画が大成功をおさめたという事だ。

 ならば、そこから僕らが知りたい事は、僕らが引き続き夢見ることは、はやぶさがもたらした奇跡の結晶が、宇宙の謎の解明にどれほど貢献してくれるかという一点だ。僕らには、はやぶさから引き継いだ「夢」を追いかける楽しみが、まだ残されている。

 その一端がプログラムマネージャー川口淳一郎の著書「はやぶさ、そうまでして君は」の巻末で紹介されている。詳細な分析が学会の報告され、一般の人でもわかる学術本がでるのはまだまだ先の事だろう。僕のはやぶさウォッチングは、当分続くことになりそうだ。

 とりあえず、前回の(その1)から引き続き4冊のはやぶさ関連の本を読んだ。

[小惑星探査機はやぶさ物語]



 はやぶさプロジェクトではJAXAの広報担当として裏からスタッフを支え続けた著者・的川泰宣さんが書いた、一般読者向けの「はやぶさ物語」だ。もちろん技術参与という肩書きを持つからには、科学者・工学者のキャリアをもつ著者が、あえて難しい技術課題を説明するよりも、国家的プロジェクトの泥臭い部分の裏話を披露しつつ、スタッフたちの人間味あふれる一面を生き生きと描いている。

 例えばプロジェクトマネージャーの川口淳一郎は情に流されず、常に冷静にあらゆる事態に対処してきたが、はやぶさが大気圏に突入する間際に「最後にはやぶさくんに地球を見せてやりたい」と言って周囲を驚かせる。著者曰く、そういう事を言わないのが川口プロマネだったからだ。万感の思いが込められた一言だったからこそ、著者は感慨深く、あるワンシーンを思い出す。

 はやぶさがイトカワへ接近しサンプル回収を試みた1回目。いつまでたっても着陸のサインは出ず、川口は緊急離脱の指令を出す。その後の分析で、はやぶさはイトカワに着陸して機体を傾けたまま1時間以上も地上に居座り続けた。著者が「世界初の着陸・離陸をまがいなりにも果たしたのだから、記者会見しよう」と言うと、川口は嫌だと言う。いつの間にか着陸していたというのが科学者としては不完全なミッションだからだ。著者は「気持ちはわかったけれど、後でばれたらマスコミからいろいろと言われるよ」と言われ、しぶしぶ記者会見する事になった。人間・川口プロマネを垣間見る事ができる。

 著者の裏方ぶりは、ロケット打ち上げの際の地元漁業関係者との交渉に顕著にあらわれる。はやぶさを搭載したロケットの打ち上げが予定をずれ込んで、内之浦の漁の最盛期に重なる事がわかってからは、漁業関係者との折衝になんども足を運ぶ。著者曰く、この役割は自分のように「酒が大好きで、人とすぐ仲良くなれる」人柄でなければ勤まらず、交渉をうまく進めるには「飲んでも乱れず、あらぬことを口走らない」資質がなけらばならない。豪快さと細心さが同居する著者のような人物でなければ、このような組織の広報はつとまらないのかもしれない。

[小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅]

 この本は、数多ある〈はやぶさ関連本〉の中でも数少ない児童向けの本だ。最初見たときは、児童向けと書かれているわけでもないので、最初は誰が読むのだろうと疑問に思った。どうやら子供からお年寄りを含めて、気軽に読めて分かりやすい「はやぶさ物語」を提供するための本だとしれた。

 思うに、博物館やプラネタリウムのような施設で販売する事を目的とした出版物のようだ。これも独立法人としてJAXAを見たときに、不思議な予算の使い方に該当するだろう。だって、巻末の参考資料を見ると、前回の(その1)で僕が読んだ〈はやぶさ関連本〉数冊が含まれているのだ。あの『現代萌衛星図鑑』まで含まれているのだ。

 これだけの本からエッセンスをいただいているならば、さぞかしまとめるのは楽だったに違いない。それにしても「現代萌衛星図鑑」を参考にしていながら、はやぶさを「はやぶさくん」と呼びかけるのはどうしたことだろう。はやぶさは、か弱い女の子ではなかったか。この本が置かれるグッズコーナーには、はやぶさを模した女の子のフィギュアが売られているはずだろうに。

[小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡−挑戦と復活の2592日−]

 「小惑星探査機はやぶさ物語」と同じく的川さんの著書。正直、同じ著者の同時期の書籍なので、目新しいところはなにもない。ただし、『はやぶさ物語』が一般人向けであるのと比べて、こちらはミッションの詳細をきちんと説明しているところが違っている。説明が専門に偏る分だけ、文章が退屈になってしまっている。取り柄と言えば、はやぶさが撮影して送ってきた地球やイトカワなどの画像がたくさん掲載されている点だろうか。






[はやぶさ、そうまでして君は−生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話−]

 ついに待望の川口プロジェクトマネージャー本人の想いが綴られた本がでてきた。すでにいろいろな本でインタビューにこたえているし、的川さんの著書でも川口さんの思いを代弁した文から推し量られる内容が多いが、やはり「はやぶさの奇跡」に立ち会い、その「奇跡」を作り出したともいえる責任者の文章はたいへんに興味深い。

 宇宙開発の巨人NASAを出し抜いて「世界初のミッション」を成功させるために、著者らは涙ぐましいほどの交渉を繰り返す。はやぶさを24時間追尾するにはNASAの設備が是非とも必要だからだ。プロジェクトマネージャーは技術的な課題をクリアするだけでなく、様々な障害を除いていかなければならない。はやぶさが消息を絶った際にも、対外的には「一年以内に60〜70%の確率で復旧する見込みがある」と著者は公言したが、これも駆け引きの一つだった。本来ならば「復旧の必要条件が整う(通信が回復する)確率が70%程度あるだろうが、地球への帰還がかなう確率は数パーセント」と踏んでいた。しかし、正直に言えば来年度以降のはやぶさ捜索の予算が打ち切られるかもしれない。

 本書には、はやぶさのプロジェクトマネージャーだからこそ書ける、ミッションの成果に対する冷静な評価と、「7年間に徐々に変化してきた」と自ら語る、プロマネらしからぬ「はやぶさ」への愛情があまさず書き尽くされている。
posted by アスラン at 03:37| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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