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    2006年04月10日

    「次郎長三国志」の村上元三さん死去

     またお弔いだ。ただし久世光彦さんや佐々木守さんのように子供の頃見たテレビ番組に非常に影響されたりしたのとは違い、村上元三さんの時代小説を僕は一作を除いてすべて読んでいない。そもそも村上作品だろうがなんだろうが時代小説というジャンルを敬遠しているところがある。今年も昨年も時代小説と名の付くものは読んでない。あぁ「しゃばけ」が唯一そうだったな。

     時代小説が嫌いというわけではなく、いわゆる大衆小説として面白くないわけがないと思っている。だから今すぐ読む事ないんじゃないとたかをくくっているわけだ。老後の愉しみにとっておけばいいじゃないかと手を出さない事にしている。まあ言い訳に過ぎないが、その前に読みたい本は山積みなのでしょうがない。

     時代小説の特徴として一代記物が多い。すると作品は長くなる。村上作品の「水戸黄門」だって全八巻もある。吉川英治など全部読もうとしたらそれこそ大変だ。まあ、これも言い訳だな。

     ところで村上作品で唯一読んでいるのは「次郎長三国志」だ。この作品を読むきっかけは、マキノ雅弘監督の「次郎長三国志」シリーズに一時期はまっていたからだ。映画は東宝版全八本と東映版(リメイク,こちらは何作目まで作ったか記憶がない)の二つあり、東宝版が映画史上名作と名高い。

     本当の映画ファンだと東宝版を語るのだろうが、僕は鶴田浩二主演の東映版の方がなんとなく好きだ。それは鶴田浩二に男としての色気が感じられるからだ。鶴田浩二扮する次郎長は決して頼りがいのある侠客でもなんでもなくて、地元・清水では鼻つまみもののプータローだ。しかし頼りにされると断れない性格で、次第に世の中からあぶれたプータローたちが次郎長の元に吸い寄せられるように集まってくる。

     鶴田浩二には後のテレビドラマ「男たちの旅路」の元特攻隊のガードマン役ににじみ出ていた人間としての誠実さとともに、正しいことを信じて実行することに対する照れが見える。自分は大層な人間じゃないといつでも自らを恥じている。そこに限りない優しさが感じられるのだ。その優しさに男たちは惹きつけられ、そのたよりなさに女はこの人のために尽くそうと思う。

     マキノ雅弘監督の手際が際だつのは、次郎長とお蝶を中心にして描かれる細やかな男女の機微だ。その見せ方がものすごくうまくて関心させられる。桶屋の鬼吉や法印大五郎が飯屋の女中に惚れて互いを出し抜こうとするけれど、女中の方は両方とも眼中になくて二人をいとも簡単に袖にする。よくあるシーンなのに男は男、女は女で違う生き物だと分かりやすく描いている。その上で互いがいなければこの世は成り立たぬと分かり切ったことを分かり切った事として見事に描いてみせるのだ。

     それと較べると、東宝版の次郎長は男らしさが出ていて非常にさっぱりしている。男が男に惚れる。その女性が入り込めない侠気の世界が中心にある。もちろん原作としては東宝版が近い。東宝版では、村上元三は原作だけでなく脚本にも参加しているので、マキノ監督とのコラボレーションでできあがった映画なのだ。その意味では男女の機微が全面に出てくる東映版は、マキノ監督の人情ドラマと言えるかもしれない。

     話がそれたが、村上さんはどちらかというと世の中からの脱落者(アウトロー)を選んで書いていた節がある。次郎長や佐々木小次郎、真田十勇士、新撰組、平賀源内などなど。その中でもこの「三国志」は、アウトローが多数出てきてそれぞれに個性的なドラマを持っている画期的な作品だった。

     例えば大政・小政というと、次郎長の子分の中でも右と左を固める片腕のようなイメージで通常描かれる事が多い。水戸黄門で言うと助さん角さんのような存在だ。ところが原作では、元浪人である大政は事情があって侍を捨て侠客に成り下がった過去があり、小政は腕は立つが心根は暗く誰も嫌って近づかない陰気なやつだと描かれている。

     森の石松には面白いエピソードがある。石松がどもりだったという設定はまさにマキノ監督と村上元三のコラボレーションの結果だった。マキノ監督は東宝版で石松に当時売り出し中の森重久弥を起用した。ところが森重は若くして際だった芸達者で、口がきわめてたった。だか石松は口が立ちすぎては面白みがないと監督は考えた。そこで監督と脚本の村上が一計を案じたのが、どもりの石松という設定だった。役の設定を聞かされて森重はとまどったらしいが、この作品以後の石松は必ずどもりで描かれるくらい、この設定は石松のキャラクターを際だたせることになったのだ。

     面白い映画に面白い原作あり。もう一度「次郎長三国志」を読み直したくなった。そして出世作と言われる「佐々木小次郎」や江戸が生んだ究極のアウトサイダー「平賀源内」も読んでみたくなった。

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    posted by アスラン at 00:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記(電車でカフェ気分) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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