2010年06月30日

ロスト・シンボル ダン・ブラウン(2010/5/14読了)

 「ダヴィンチ・コード」では500年以上前の謎を、あるいはキリスト教創生期にまでさかのぼる謎を、いま現実に起こっている殺人を解決するために、どちらの謎も一挙に解くハメになる。眉に唾をたっぷりつける。もう、ひたひた状態だ。一方、「天使と悪魔」では、バチカン市国の書庫に眠るガリレオの残したメモを頼りに400年前の謎を、いままさに目の前で起きようとしているサイバーテロを阻止するために、こちらも一挙に解決するハメになる。セルンという国際的な物理学研究機関が、この小説では得体の知れない利益団体にされてしまっている。やはり、眉に唾をつけないと読めない。やや、ひたひた状態だ。
 
 そして宗教象徴学を専門とする大学教授ロバート・ラングドンが、三たび遭遇する宗教的テロリストが本書で追い求めるものは、有名なフリーメイソンだ。Wikiによると、フリーメイソンの起源には諸説あり、14世紀のイギリスの石工職人のギルドから始まるとする説や、古くは、かのテンプル騎士団の残党に遡るとする説、あげくはエジプトのピラミッドの建造に携わった石工職人を起源とするものまであり、はっきりとはしない。

 しかし、本書で描かれている謎の起源は、そんなに古いものではない。アメリカ合衆国建国当時の権力者たちが、いずれもフリーメイソンリー(フリーメイソンに所属する者たち)であり、国の礎(いしずえ)を堅固なものにするために、ワシントン市内にあるいくつかの建造物に、フリーメイソンの理念を象徴するイコンを組み込んだ。時を経るとともに、あからさまな遺物は目の前から取り除かれたり隠されたりしたが、いまだに議事堂や国会図書館などの地下には、フリーメイソンに係わる秘密が眠っている(らしい)。

 たしか「12番目のカード」で、ジェフリー・ディーヴァーもニューヨークの地層に眠る、かつてのオールド・ニューヨークの歴史を探り当てるという歴史ミステリーをたっぷりと味わわせてくれたが、本書で著者ダン・ブラウンがやろうとしていることは、日本に舞台を移し替えたとするならば、荒俣宏が書いた「帝都物語」や「陰陽師」に似ている。もちろん、荒俣さんの小説はストーリーそのものはフィクションであり、SFだったりするわけだが、そのベースは、歴史の堆積を取り除いたあとに今なお残る聖遺物にフォーカスする、まさに歴史ミステリーと言える。

 こういうものは、近くではNHKで放映した「ブラタモリ」のように、街が近代的な相貌になればなるほど、わずかに残されていまは誰にも顧みられなくなった遺物へのいとおしさがひときわ募るようになる。その点で、いままでのダン・ブラウンの作品の中でも、もっとも読みごたえがある小説だった。

 当然ながら日本人にとってフリーメイソンはそれほど知名度が高いというわけではない。未知の団体ではあるが、ウンチクばやりの昨今、「アメリカの1ドル札にはフリーメイソンのシンボルが刷り込まれている」ことぐらいは、僕ですら知っている。本作でもそのあまりにも知られたウンチクを逆手にとった1ドル紙幣の使い方をしていて、読者を楽しませてくれる。

 ダン・ブラウンが主宰する「歴史ミステリー」ツアーに強制参加させられる趣向は前2作と変わらないが、たかだか200年前の建国時の謎であれば僕らにでも手が届きそうな現実味が感じられる。
posted by アスラン at 17:10| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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