2010年06月15日

笹塚日記 ご隠居篇 目黒考二(2010/3/3読了)


 最近店頭にならんだ「本の雑誌」を手にとってみて、なんとなく買おうかな買うのやめようかなと悩んで、表紙に書かれた見出しを読んでは、やっぱり買わないと棚に戻す事が多い。なんとなくだが、目黒さんが一線を退いて隠居してから魅力が薄れた気がしてしまうからだ。

 まず吉野朔実のマンガと笹塚日記の二本立てがあると「買おうか」という気がおきる。マンガは2ヶ月に1度の連載だから、ないと買わない。二本立てで買おうかと悩み、あとは特集などの記事の内容で興味がもてれば「買い」ということになる。そのまえに、もちろん財布に相談なのは当然のことだ。

 笹塚日記なきあとは坪内祐三の読書日記があるにはあるが、これはそもそも彼の本業であって、目黒さんの笹塚日記のような余技ではない。僕はそういう余技がみたい。読みたいのだ。

 いずれ椎名(誠)さんも年老いて雑誌から手を引くときがくるだろう。そうした場合、「本の雑誌」というメディアは成り立っていくのだろうか?例えば、雑誌「ぴあ」の凋落は、僕らぴあ愛好世代からは目に余るものがあるが、若い世代の映画や音楽に対する鑑賞法がずいぶんと変わった以上、従来型の情報誌は用無しになってしまうのは致し方ない。いまだに映画館(シネコンではない)に通いつめるには「ぴあ」は最高最適なお伴であることは間違いないのだが…。

 本の雑誌はもちろん大丈夫だろう。すでに目黒さんが熱く語り、椎名さんが戯れ言を言い、キムラ弁護士がかみついて、沢野さんのイラストが余白を埋めるという、梁山泊の男どもが奏でるぐうたらさと、友情あふれるオジさん臭は、残念ながら徐々に薄まりつつある。そうして雑誌が若返っていくときのポイントは、やはりどれだけ女性にアピールできるかにかかっているように思う。すでに女性向けに誌面がシフトし出していると言ってもいい。

 もちろん気にくわないのではないが、僕からすると物足りない。できれば、あるときふと手にとって中味をみると「帰ってきた笹塚日記」などという連載が戻ってきてはいないだろうかと、ワクワクしながら目次を見渡すのだ。いやはやなんとも哀愁に満ちた行為だ。

 さて4冊目で完結の本書だが、日記のスタイルはどこをどう切っても変わらないので、もう感想としては書きつくしたといっていい。ただし、時の流れをまとめておくのも無駄ではないだろう。そもそも本誌の記事の穴を埋めるために「何か書け」と言われた著者が、「では日記でも」とまとめて書き上げたのが始まりだ。思った以上に好評だったので、そのまま連載になった。それから7年。著者は仕事のあいまに本を読むというより、本を読むあいまに仕事をする。つまり読書は著者にとって趣味とも仕事とも言える。区切りがあるわけではなく、一体化しているのだ。そのため、週末以外は笹塚にある「本の雑誌社」社屋に寝泊まりする。

 編集から退いてからも、寝泊まりの場所を上階の一室を占拠して変わらぬ生活を続ける。一日に新刊本を2〜3冊読むという驚異的なペース。色は店屋物に終始し、面倒くさいからと、飽きるまで同じ物を食べ続ける。近所のそば屋の名物「冷やしおばけそば」(たぬきときつねが合体したもの)が日記に何度も何度もあらわれる。

 その不健康な生活も、大病を患ってから一変する。なんと社屋の一室で自炊を始めるからだ。と言っても手間がかかるものはNG。簡単で美味しいレシピをもとめて新刊さがしのついでに料理本を買いまくる著者。日記も読書日記というより料理日記の様相を呈してくる。

 その間にも、週末は地方の競馬場に出かける習慣は欠かさない。強いて言えば、最初の頃は麻雀仲間からお誘いがあると、メンツを探し日程を調整する役をかって出るマメさを発揮する。当然ながら「徹マンをやった」という記述がたびたび出てきたが、中盤以降は目立たなくなったような気がする。

 本書では、一番下の余白に解説やら対談などが載るので「一粒で二度美味しい」ならぬ「一冊で二度おいしい」仕掛けになっているのであるが、最終刊の「ご隠居篇」では著者をよく知る人たち(競馬仲間、麻雀仲間なども含む)の歓送の言葉がうまる。気分としては同窓会・送別会の「送る言葉」なのだ。

 特に、忘れもしない目黒さんの料理熱がピークに達し、弁当箱を買ってしまうが使う機会がない。ならば作ってしまえと、競馬場に行く日に合わせて仲間達に豪勢な弁当を用意して食べさせるという場面が、いずれかの巻であるのだが、その弁当を食べた当人の思い出が載ってる。「びっくりしたが、あまりにおいしいので忘れがたい思い出となった」と書かれていて、この日記全四巻を読んできた僕としては感無量だった。

 なんと今回、笹塚の社屋から町田の自宅に隠居を決め込む著者は、最終刊の日記で料理熱が冷めた事を告白し、ふたたび外食を始めた。もちろん自炊もするが、外食の回数が増えている。「江戸屋のとんかつ定食がおいしい」とか「牡蠣定食がいつ始まるか」で一喜一憂するところも面白いが、料理を作るのも隠居するまでのことだとすると(隠居後は自宅で食べるから)、月日の移り変わりとはなんとも無情だなぁと思えてくる。まあ、目黒さんが健康でいて本を読み続けてくれれば、僕らファンは満足なんですけどね。

 最後に著者に御礼を言わせてほしい。

 こんな幸せな気分にさせてくれた日記が終わってしまうことが、あらためて残念でなりません。ぜひぜひ帰ってきてください。僕ら「目黒スタイル」を敬愛する読書好き、B級グルメ好きに、もう一度夢を見させてください。とりあえず、いままでありがとうございます。
posted by アスラン at 19:30| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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